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次話です。連続投稿です。
おなか、すいたぁ。
私は村に着くとすぐに小さな食堂に入って頼む。
「おじさーん、アルーカ鳥定食1つー!」
「はいよー」
店内は混んでいて、席がない。カウンターまで、いっぱい。この村は小さいから、ここしか食堂がないらしい。お昼時の今はすごく店が混んでいる。まいったなぁ。でももう頼んじゃったし、お腹ぺこぺこだから仕方ない。
私は人でごった返していて狭い通路をすり抜けて、空席があるテーブル席に向かった。
「すみません、相席お願いできませんか?」
被っているフードをちょこっとだけあげて、席についている青年に声をかける。
青年、というにはまだ幼い。少年、と言った方が正しいのかな?少年と青年の間くらい、ちょうど同じ年頃だったから声をかけた。まぁ、他のテーブル席はグループ客ばかりで空席がないっていうのも理由の一つだけども。
相手の少年は既に定食を食べていたけれど、私のかけた声に気付き、返事をしてくれた。
「…構わない。」
あ、愛想はないなぁ…。いやでもお邪魔しているのはこっちだし。仕方ないか。オッケーくれただけでも助かる。私は、「ありがとうございます」と言って、にこっと笑って席に着いた。
さて、混んだ店内。なかなか注文した料理も来ないから、暇でしかたない。
どうするかなぁーそろそろ武器もなくなってきちゃったし、ここらでちょっと大きな町に行きたいなぁ、なんて考えながら正面に座る少年を観察してみる。
さらりとした濃い紺色の短髪で、もくもくとご飯を運ぶ手は白いけれど、鍛えられている感じはする。うつむいてご飯を食べているから、こちらからは長いまつげが見える。少年は冒険者なのか、腰の双方にはマントで隠されているけれど、2本の剣がかけられている。どうやら双剣使いらしい。
と、少年がこちらを見た。
声かけたときは顔見ていなかったけど(というか、相手がこちらを見なかったから見えなかったけど)美少年だ!濃い碧眼に整った鼻梁。線は細い感じの体つきだけど、成長途中の男の子って感じ。海の色よりも濃い、怜悧な目がこちらを向いており、今は美眉がしかめられて中央に寄せられている。もったいない。
「…じろじろ見るな。」
どうやら注視しすぎてしまったらしい。食事中に見知らぬ人間にじろじろ見られたら気になるよね。
「ごめんなさい」
私が素直に謝ると、しかめ面のままではあるものの、少年は食事に戻る。
「ほいよーアルーカ鳥定食1つ!」
「わぁーー!いただきまーす!」
店のおじさんがようやく料理を持ってきてくれたので、食べ始める。香ばしい肉の焼ける香りにお腹は耐えられず、運ばれるとすぐに口に運ぶ。あっという間に半分ほどを食べ終えるくらいには店も少しずつ人が減ってきていた。
「んー!おいしい!ハーブよく効いてるー!」
「褒められるとうれしいねぇ!お、嬢ちゃんだったのか!フード被っているからわからなかったよ。」
店主は皿を片付けるために近くに来ていたのか、私の声を聴いてこっちに声をかける。
「すみません、食事の時はフード外すのがマナーですよねー」
私は、ちょっとためらったが、まぁいいか、とフードを外す。後ろでポニーテールにまとめた黒髪がさらりとフードからこぼれるのを見て、店主が一瞬ひるむ。席に着かせてもらった時以来、一言も声を発しなかった美少年が小さくつぶやく。
「黒髪…」
「忌み色でしょ?食事中の人たちに嫌な思いさせちゃうかなぁって。」
黒髪がいないわけではない。むしろ、北の国の方は黒髪もそれなりにいる。でも、この地方はそれほど黒髪の人がいないから珍しくはある。それに黒は魔を思わせる色だから、人には嫌われることが多い。
「いや、悪かったな、嬢ちゃん。」
「いやいいよ。別に迫害されているっていうわけでもないし、隠すほどのものでもないから。」
私は気にしていない、と手をひらひら振った。しかしおじさんはすまなさそうな顔で謝る。
「俺らは旅人さんたちには干渉しないのが当たり前だし、素性や容姿隠したいやつもいっぱいいるだろうに、無理にさらさせちゃったな。これ、サービスだ。」
置いてくれたのは、ハーブティー。別にフードをかぶっていたのを咎められたわけじゃないし、私が勝手に脱いだだけなんだけど。でもこのお肉によく合いそうだし、遠慮なくいただくことにする。
「え、ラッキー!ありがたくいただくねー」
そう言って、私はハーブティーを飲んだ。
目の前の少年が食事を終え、出て行ったすぐ後、私はハーブティーを堪能していた。美少年ともう少し話してみたかったけれど、残りのお肉はゆっくり味わいたい。アルーカ鳥は肉がぷりぷりしていて美味しいんだもの。そこに突然、旅装の男3人組が下卑た声で私に絡んでくる。
「よぉ、女だったのか。」
「へぇええええ。この辺では見ない上玉だなぁ、なぁ、俺らとちょっと遊ぼうぜ」
「そんな髪色だけど、俺らが遊んでやるよ、な。」
美少年が一人でいなくなり、連れでないと分かったせいか。私は当然無視。いや、こんなザコを相手にしていたら旅なんかできませんから。
「おい、無視すんなよ女。」
一人の男が私のお肉の残った皿をひっくり返した。目の前でソースが跳ねる。がしゃん、といきなり剣呑な音がしたせいか、辺りの人がこちらに注目してひそひそ話を始める。
「…おい、あいつら、この辺では有名なチームじゃねぇか?」
「あれだろ、なんか評判が悪いやつ、弱いやつから金巻き上げたり、人の依頼をかっぱらったりしてるっていう…」
「しっ!声が大きいぞ。」
誰も来ないのは面倒に巻き込まれたくないから。そんなのはどうでもいい。私は、はぁ、とため息をつく。ここで騒ぎは起こしたくなかったんだけどなぁ。
「おい、聞いてんのかっつってんだろ!!!」
「…うるさい」
「は?」
「うるさいって言ってるのよ。私の貴重なご飯がダメになっちゃったじゃないどうしてくれるのよご飯を粗末にしてはいけませんって習わなかった?習ってないよねどう見ても底辺な教えしか受けてないよねそんなやつらに聞いた私がバカだった。」
「なんだと、このアマ!」
私の罵倒に激高したリーダーっぽい男が私につかみかかる。私はその手を避けて立ち上がり、お肉を切るために使っていたお店のナイフとフォークをを男に向かって投げる。
ナイフが男らのいる床のちょうど影が重なった部分の両端に突き刺さる。私は小さな声でつぶやく。
「影縛り」
掴みかかかろうとした男の動きが止まる。男達が脂汗を流して暴れようとしても動かない。
「くそっ、何しやがったっ。おまえ魔術師かっ」
「さぁねー」
ご飯を粗末にするやつは許さないのだ。
いかがでしたでしょうか?楽しんでいただけたら幸いです。誤字等ありましたらお教えください。