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四、戦火

 彼、ミラーの本当の名前は『イド』と言った。

 小さな村に生まれ、子供の頃から狩りが得意で、大人になってからは村一番の狩人だった。優しくて強い。彼は村の人気者だった。 

 やがて妻タルパをめとり、その間に一子を授かった。子は成長し、父と共に山を駆ける。子は父に憧れ、また父は父たらんとして背を貸し続けた。

 彼らは平和で、幸せだった。



 ――だがあの日、彼の故郷は影のように黒い一団に襲われ、滅んだ。

 

 その日は空を雲がおおい、薄暗く、そして雨が降っていた。こんな日に山や森へ入ってしまったら、自然に殺されてしまう。その為、ほとんどの者が自宅でのんびりするか、あるいは友人宅へ集まり酒盛りをして遊んでいた。

 丁度昼過ぎ頃に、一段と雨が強くなった。地面を叩く音がドラのような音へ変わり、川は氾濫寸前だった。まさかここまで強くなるとは思ってなかった村人たちは、総出で緊急工事を行い、氾濫を防ごうとしていた。なんとか土や木材で補強し、雨足も大分弱まってきた頃、既に奴らは雨に隠れてやってきていた。

 初めに炎と爆発が起こり、そして次に雷光が村を貫いた。突然の襲撃に為す術もなく蹂躙されていく村。悲鳴を上げ逃げ惑う人々。混乱の中にありながらも、仲間を守るため果敢に戦う者達。それらを踏みつぶすように、黒い一団は殺戮していった。誰一人として生かす気はないように情けも容赦もない。女子供も構わず殺されていった。

 彼も妻と子を逃がすため、守るために戦った。だが、相手はただの盗賊ではなかったのだ。軍隊のように統率された行動で、次々と歯向かう者を殺していく。賊の攻勢を防ぎながら、イドは妻子を守りながら村外れまで逃れるのが精一杯だった。

 あとちょっとで逃げ切れるというところで、イドの足に矢が突き刺さった。



「グ、アァッ!」



 バランスを崩して転倒してしまった。泥水に倒れ、一緒に逃げていた妻が悲鳴を上げた。

 賊が集まってくる。



「あなた!」



 妻と子が、矢を受けたイドにすがりつき叫んだ。彼は立ち上がろうともがくが、突き刺さった矢がそれを阻害している。追いついてきた賊たちが男を囲み、弓を引き絞る。キリキリと嫌な音だ。毎日聞いている音だったが、今はやけに不快な音に響いた。

 これから起こることを想像して、イドの心臓は早鐘を打つ。そして一瞬一瞬を脳に焼き付けるように、全てがゆっくりと流れていく。



「や……やめろ……」



 懇願するも、声がかすれ震えている。自分の声ではないようだった。



「息子だけは……息子だけは……。た、助けてください……」



 妻は必死に子供の盾になり、夫の盾になり、助けようとしている。

 土下座をする勢いの懇願。誇り高き射手、イドの妻としてのプライドを投げ捨てて、ただただ、愛する息子を助けようと必死なのだ。もう自分の生死など、とっくに度外視しているのだろう。妻のそのような姿に、イドの心はズタズタに引き裂かれた。己のなんと不甲斐ないことか。自分が血濡れになり、地べたに這いつくばるのならまだしも、守るべき愛する妻に、その役割を押し付けているのだ。自分のなんと卑怯なことか!

 黒装束に覆われたその奥で、口元が釣り上がりニヤリと笑ったのが分かった。誰も例外はない。そう言わんばかりに。



「やめろおおおおおおおおおおおおお!!」



 子供を庇うように抱いていた妻が、大量の矢に貫かれた。近寄ってきた黒尽くめの男がまだ息のあった子供に、刃を突き立て息の音を止めた。

 血が勢い良く辺りに飛び散った。刃を引きぬき、子供の服で血を拭う。動作は機械的で、そうすることがさも当然であるように無慈悲だった。

 イドは怒りと憎しみで、目の前が真っ赤になった。



 目が血走り、口元から人のものではない獣のような音が漏れ出る。脳が考えることを拒否している。獣の叫び声とともに、男は立ち上がった。

 自分が、心が、何かに塗り替えられていくような感覚。殺意が彼を戦いに狩り立たせる。


 怒りのままに黒尽くめの男たちを襲った。噛み、砕き、引き裂き、えぐり、ねじ切る。肉の潰れる音、骨が軋む音、恐怖の叫び声、獣の咆哮。

 喜び。例えようもない快感が彼の身体を駆け巡った。それは憎い敵を殺す愉悦。憎しみに身も心も委ねたものだけが得られる真理。だがそれは、人の何かを犠牲にして得られるものである。やがて、この手で敵の命を奪うことが、彼のなかで快感に変わっていった。

 腕を振るえば敵の血肉が飛び散り、ボロ雑巾のように空を舞う。圧倒的暴力が、彼を酔わせた。


 憎しみは心を曇らせ、ひたすら血を求めさせる。それは渇きを知らず、永久に満たされることはない。イドは、最早ヒトではない何かに変わろうとしていた。


 暴虐の限りを尽くしているとき、黒い一団には不似合いな立派な槍をたずさえた黒鉄鎧の人物が現れた。恐らくこの一団の頭目だろう。イドを馬上から見下ろしている。兜の奥で、炯々と鋭い眼差しを光らせている。

 イドは口角を歪に釣り上げた。この狂った軍団を率いている憎い仇。妻と子を奪い、故郷を奪った敵だ。

 喜びにうち震える中で吼えた。力の限り吼えた。血反吐のような叫びだ! だが今度は怒りの咆哮ではない。喜びの咆哮だった。


 二人は意図せずに同時に動いた。イドは空手で地を蹴り、頭目をくびり殺すため、一直線に飛び込んだ。対して頭目はそれを迎え撃つために、槍を寸分違わずイドへ向ける。

 攻勢はイドのほうが早かった。伸びた槍を払い落とそうと、右手で槍の腹を打った。しかし、頭目が槍をくるりと一回転させると、逆にイドを撃ち落としたのだ。攻守が逆転する。

 頭目は即座に槍を一文字に一閃させ、宙にいるまま身動きの取れないイドを切り裂いた。


 まばたき一つする前に決着がついた。息をするのも忘れるほどの速さだった。


 イドは水しぶきを上げて地面に叩きつけられた。もう動いてはいない。異常な筋力に身体が耐え切れず、身体のあちこちに深い裂傷が出来ていた。血が止めどなく流れ落ちる。


 怒れる暴虐の獣はそれ以上暴れること無く沈黙した。

 泥土に身体をひたし、雨が彼の身体を打つ。既に動く人の居なくなったこの場所で、ただひたすら雨に打たれ続けた。






◆◆◇◇◆◆






 ギラギラと怒りの感覚が蘇ってくる。あまりの怒りに目のなかでチカチカと光が明滅している。



「雷光……? 雲なんてどこにも……まさか魔術師もいるのか!」


「親父さん……今までありがとう。そしてすまない。やらなければならないことが出来た」



 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。何がどうなっているのか理解出来ていないようだった。

 彼は返事を待たずして踵を返し、足早に出口へ向かった。それをようやく状況を飲み込んだバフィンが呼び止めた。



「ちょっと待ちな!」



 足が止まる。そのまま言葉を待つがバフィンは何も言ってこない。痺れを切らしたイドは半分だけ振り返り、バフィンの顔を見た。

 イドはまっすぐにバフィンの目を見た。バフィンもイドの目を見返す。



「…………」


「…………」



 二人の間に沈黙が流れる。

 だがそれは僅かな間のことで、ようやくバフィンが口を開いた。



「これ、持って行きな」



 何かを放ってよこした。ずっしりと重い。見てみると、それはバフィンが大切にしていた宝刀だった。

 簡素な作りの鞘に収まり、イドを見返している。



「記憶が、戻ったのか」


「……はい」


「そうか。どうやら戻らないほうがいい記憶だったようだな」


「…………」


「……すまない、失言だったな。外でやんちゃしてる奴らに心当たりがあるようだなが、お前さん空手だろう? 護身用だ、使え」


「しかし……」


「おいおい、別にやるわけじゃねぇよ。終わったらちゃんと返しに来い。そりゃ俺の家宝だからな」



 彼は何も言っていない。それなのに、バフィンは何かを察知して、彼に協力しようとしていた。

 イドが固まっていると、もう一つ背嚢から黒い布の塊を渡してきた。



「あとはこれだ。本当は明日渡すつもりだったんだが……」



 バフィンが取り出したのは、身体をすっぽりと覆えるマントだった。手にとっただけでわかる程の上質の布だった。軽くて丈夫で、大きさもイドにピッタリだった。



「これから行くところは冷えるからな……。娘が選んだんだ。使ってやってくれ」


「お、親父さん……」


「それに黒いからな。はは、夜の闇に紛れることも出来るだろうよ」



 感無量だった。二人の優しさで、その時だけは怒りも憎しみも忘れることが出来た。それでもイドの決意は変わらず、同時に怒りも深かった。宝刀を腰に差し、黒いマントを身にまとう。あつらえたように身体によく馴染んだ。



「ところで、お前さんの本当の名前、聞かせてもらえるかい」


「……イド、だ」


「そうか、いい名だ。イド、引き止めて悪かったな……行きな」



 深く一礼した後、彼は部屋を飛び出した。思いを断ち切るように。



 イドは放たれた矢のように駆けた。そしてまっすぐ南へ進む。既に火の手はかなり広がっている。火消しを行う者、慌てて北へ避難するもので通りはごった返していた。最早可憐な花の街の面影はない。イドは逃げ惑う人たちの間をすり抜けていく。足を止めている余裕はない。



「守備隊は何をしている!!」


「高い税金払ってんだぞ! 早く何とかしろ!!」



 そういった怒りの声があちこちから聞こえてくる。その守備隊は慌てふためき、身に付けた花に火がつかないように必死だ。

 爆音が徐々に近づいてきた。と同時に、剣戟の響きも聞こえはじめる。



(見つけたァッ!!)



 兵隊と賊が交戦していた。記憶に残っている特徴的な黒尽くめの奴らだ。走る速さそのままに、イドは戦いに乱入していった。

 短刀を抜き放ち、すれ違いざまに刃を突き立てた。絶命した敵を蹴り飛ばし、その飛び込んだ勢いを殺すため、地面を転がり停止する。



「み、味方か……!?」



 突然現れた乱入者に仲間の一人をやられて、賊達に動揺が広がっている。イドは足元に転がっていたレンガを無造作に拾い、力任せに投げつけた。レンガは唸りを上げて飛び、あまりの速さに対応できず一人の頭を砕いた。黒尽くめの賊たちは、そこでようやく敵と認識したのか、連隊を組んで攻撃する。それぞれ曲刀を構えてイドに躍りかかった。しかし、その時には既に守備隊側も状況を飲み込み、男を守るように陣を組んでいた。



「今が好機だ! 盛り返せぇぇぇッ!!」



 士気を取り戻した守備隊はにわかに勢い付き、乱入してきた男を中心に敵へ突撃する。イドは縦横無尽に刃を振るい、手当たり次第に敵を斬っていく。バフィンから預かった宝刀の切れ味は抜群で、相手の武器を泥のように斬り、骨肉を容易く断った。

 その場の賊をあらかた殲滅すると、更に奥へ突撃する。どうやら黒い一団は東南にある門を破り侵入したようだ。今は中央広場まで侵攻され、その被害は拡大する一方だった。


 行く手を阻んだ賊は尽く打ち破って進んだ。

 彼があちこちで暴れまくることで、敗色濃厚だった守備隊は体勢を立て直すことに成功した。それでも広がった被害の前に、住民の避難誘導に救助活動、鎮火に鎮圧と人手は不足していた。

 際限なく広がる戦火にイドは訝しむ。



(数があの時の何倍も多い。やはりただの盗賊ではないのか……?)



 占拠された中央広場を単騎で突破し、まだ駆け続ける。



(どこだ! どこにいるッ!)



 イドは苛立っていた。討つべき仇、この一団を率いる鎧の男を見つけられずにいたからだ。


 南へ進めば進むほど、黒い一団の数は多くなっていく。イドの感覚は既に麻痺していたのだろうか。敵を殺すことになんの思いも抱かなくなり、ただ淡々と処理していく。

 足は止まらなかった。たとえ雨のよう矢を射掛けられようとも、行く手を炎が遮ろうとも、足が止まることはなかった。


 四つ目の囲みを突破した時、ついに待ち焦がれた相手を見つけことができた。変わらず馬上から彼を静かに見下ろし、冷徹かつ無慈悲な輝きを持つ目をしている。彼はイドの襲撃に気付き、同時にイドを睨みつけた。

 イドの全身の筋肉が緊張し、身体から何かがほとばしる。血は全身を駆け巡り、こめかみ辺りでドクドクと脈打った。今までにないほど集中している。目で見ていない範囲まで、手に取るように知ることが出来る。相手の一挙手一投足が予知できるようだ。イドの目は一点に釘付けだった。


 敵頭目、黒鉄鎧の男と目があったその瞬間、あらゆる理性をイドは手放した。あの時と同じように。

 

 ――奴を殺せるのならば。妻子の仇を討てるのならば。己の心など、いくらでも砕いてやろう……


 そして、男は一匹の怒れる【獣】へと化した。


 鎧の男は馬上からその様子を見ていた。目を怒りに光らせ、歯をむき出しに叫ぶ様を。

 変貌していくイドを鼻で笑いゆっくりと、そして厳かに槍を構える。絶対の自信が見て取れる。イドは全身をバネにして飛び上がり、馬上の男よりも高く跳んだ。そして、頭上から一気に襲いかかる。

 敵の渾身の一振りだが、即座に対応して槍の腹で受けた。鈍い音が響く。

 


「……チィッ!」



 以前の様に第一撃をいなしてから反撃をする腹づもりだったが、前よりも早く、そして重い打ち込みだった。その為イドの渾身の打を真っ向から受けることになってしまい、あまりの衝撃に腕が痺れる。

 


「――!? その武器は……!」



 すかさず体勢を整えると、槍を押し出してイドを弾き飛ばす。一瞬の攻防だったが、両者ともに殺気全開の必殺の一手の応酬だった。



「宝刀の類いか……何処で手に入れた?」



 イドはその問いに答えず、黒尽くめたちの中に降り立った。縦横無尽に宝刀を振り回して、周りの黒尽くめたちを斬り殺していく。そうして彼らから一本の剣を奪い、それを投げナイフのように鎧の男に投げつけた。唸りを上げて剣が飛んでいく。尋常の膂力ではない程の速さだった。



「フン! 語る言葉も忘れるか」



 槍を巧みに操り、飛んできた剣を槍で絡めとった。槍を剣の勢いと合わせるように動かし、僅かに軌道を変える。そのままコマのように回転させ、そのまま投げ返した。格好こそ不格好だったが、勢いに合わせる『機』、それを可能にした『技術』、そして迫り来る剣に対して臆せず行なった『度胸』。鎧の男もまた、尋常の輩ではなかったのだ。

 イドは返ってきた剣をあっさり避け、今度は手当たり次第に黒尽くめたちを投げつけ始めた。ただの力技だったが、当たってしまえば体勢は崩れるため、馬上にいる分相手が不利だった。黒尽くめたちは為す術もなく無残な悲鳴を上げて飛んでいく。何人かは的外れの方向へ飛んでいき、脇を通り抜けて壁にたたきつけられ絶命した。そして、命中する軌道をとった者たちは、槍から発せられた雷撃によって塵となった。

 それまで辺りを取り囲んでいた黒尽くめたちは恐怖し、更に何歩も距離をとった。投げるものがなくなり、結果的に背後を突かれる心配がなくなったイドは、一気に間合いを詰めた。馬上の男の死角へ潜り込み短刀を突き出す。



「グッ! この!」



 死角から突き出された刃を間一髪のところで避けた。槍で受ける暇もないほどの絶妙な方位だったのだ。だが無理な格好で避けたために馬上から転がり落ちてしまう。イドは返す手で馬の足を切断した。馬は断末魔の叫びを上げ、落馬した鎧の男の方向に倒れ落ちた。



「う、おおおおおおおおおおッ!」



 無様に転がり、倒れてくる馬を避ける。馬の反対側に居たイドは馬を乗り越えて、転がって逃げる男へ跳びかかった。



「死ィねェェェェェ――――ッ!!」



 最早反撃は出来ないだろう。槍はまだ手の内にあったが、槍は長く今の状況では取り回しはきかない。転がっている体勢の上、背後は地面だ。長兵器を振り回すことは出来ない。イドは勝利を確信して刃を振り下ろした。空間すら断つ程の気迫を持ち、その前ではどんなものも逃れることは出来ない。



「オオオオオオォォォッ!」


 

 男は叫んだ。目前に迫る、死に至らしめるであろう刃に向かって。本能的な恐怖が男を襲う。訓練に訓練を重ね、数々の死線をくぐり抜けた男ですら、逃れられない死に恐怖したのだ。だが死に晒された直前に、男の本能は生きるために何が出来るかを導き出した。

 身体は自然と、刃を防ぐように体の前に両手を突き出す動きをとった。



 そして――



 ――術は完成した。





 両手から放たれた光がイドの身体を貫く。


 身を焦がす熱、そして身体をバラバラにするような衝撃がイドを襲った。身体が意思を無視してビクビクと跳ねる。イドは宙を舞って地面に叩き付けられた。何が起こったのか理解できなかった。己の刃は確実に奴の息の根を止めたはずだ、と。しかし、実際に倒れ伏しているのは自分のほうで、鎧の男は逆に自分を見下ろしている。動こうとしても、イドは立ち上がることが出来なかった。痛みのせいではない。既に痛みなど度外視している。渾身の力を持ってしても起き上がる事は出来なかった。

 彼は知らないだろうが、極限の力を込められた雷撃はイドの内蔵を、筋肉を、関節を焼いたのだ。今は興奮と怒りで痛みも感じていないが、実際は致命傷だ。意思は折れて居ないが、燃え上がる闘志と反比例して肉体は死の危険を迎えているのだ。


 鎧の男は肩で息をしている。間一髪のところで命を拾ったのだ。倒れたイドを睨みつけながら槍を構え、警戒する。

 刹那の攻撃だったが、自分の全力を込めた魔術だ。確実に相手を殺傷したという自信があった。それでも奴は【獣】の因子を持っている。何が起こるか分からなかった。故に万全の状態で迎え撃てるように、槍で身体を護り、ゆっくりと近づいていく。



「驚きだな。殺したと確信したのに、まだ息があるのか。だがこれまでだ。今度こそ『生き返れない』ようにしてやる」



 鎧の男は槍を天へ掲げた。天へ延びる塔のように厳かで、壮麗だった。それは槍の装飾が美しいのもあったが、槍として完成された、武器として完璧であることの美しさから来ているものだった。



「ここで死ぬような存在なのであれば、ひと思いにここで楽にしてやる。大人しくしていろ」



 槍がチリチリと帯電し始める。触媒として使われているのか、魔術の力が増幅されていくのが空気を伝わってきて分かる。収束していく力が周囲の瓦礫を余波で砕いた。遠巻きに見ている黒尽くめたちの何人かが焼かれる。

 目で見えるほどの力場を形成し、増幅する魔力に呼応して槍が赤銅色に輝いた。



「これも……耐えてみせるかッ!? 【獣】――ビースト―― !」



 天を裂き、地を砕く力が、イドを飲み込んだ。


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