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星達の休憩所

作者: 凛莉


「キミ」はもう、二度と来ない。


分かっているけど、「私」は「キミ」を待つ。


小さな小さな、この世界で───














ここは、星達の休憩所。

休憩所と言っても、ここに来る人は少ない

俗に言う、「異世界」というやつなのだろう。


どこからか迷い込んだ人が、ただここで、この料理を食べて、帰って行く。


そこにいつも、私は居る。


今日もまた、人が迷い込んできた。




迷い込んできた人は、皆あの扉から入ってくる。

今日、来た人は私と同じ位の男の子。


私は料理が沢山並んだテーブルの前で、椅子に腰掛けている。

いつも暖かい料理は、ホカホカと湯気が出ている。


「こ、こは・・・?」


男の子が、扉の前でおろおろと戸惑っている。

男の子が後ろを振り返ると、男の子が入ってきた扉は跡形も無く消えていて、「そこ」には壁しか無かった。



私は男の子の方を振り向き、微笑んでこう、言った。








「お食事、いかが?」
















私の向かい側で座っているのは、男の子。

そわそわと落ち着かない。


「あ、あのっ・・ ここってどこ、です・・か?」

「此処は、『星達の休憩所』。疲れた星達が、疲れを癒しに、ここへ来て食事をするの。」


食べないの、と言うと、男の子はお腹が空いていたのか、フォークとナイフを手に取り、料理に手を付け始めた。


それにあわせて私も料理に手をつける。

今日は、リチキールの丸焼きに、コーンのスープ。

沢山の野菜が入ったサラダは、スッキリとしたレモンのドレッシングで、

デザートには星型のフルーツ達に、甘い甘いホールケーキ。

飲み物にはオレンジのジュース。


他にも色々沢山あるけれど、私が「美味しそう」と思ったのはこの位。

テーブルは、私の身長の2つ半。

その上にギッシリと皿が置いてある。


食べきれないけど、この料理は、いつの間にか出来立ての元に戻ってる。

だから食べ切れなくてもいいの。


「おい、しい・・・。」

「ねぇ、キミはどこから来たの?」


リチキールのお肉を頬張っているキミに、私は尋ねる。

キミは、キョトンとした顔で私を見つめ、困った顔をして、キミは言った。



───「分からない」 と。



私は少なからず、驚いた。


いつも此処に迷い込んでくる人は、皆迷い込んだ記憶を持っていて、ある人は夢から来て、

ある人は部屋の扉から。

でも何故ここに来たのかは、分からないらしい。


「何も?」

「うん・・・・。」


どうやら、ここにどうやって来たのかが、分からないらしい。



キミの少し長めの栗色の前髪が、ションボリと俯いた顔に掛かる。


「別にキミを責めてる訳じゃないよ。 それに、お腹空いてるんでしょう?

デザートも、飲み物も、何でも有る。好きなだけ、食べて。」

「・・・・。 うん!」


少し間を置いたが、私が言った事に、キミは緑色の目を細めてニッコリと笑った。


私はふと、上を見上げる。

あぁ、今日も空が藍色だ


私が上・・・空を見上げたことからキミも真似をして、上を見上げた。


「青くない・・・? 今、夜なの?」


純粋な目でこちらを見ている。

どうやら、外の世界の空は青いらしい。


「ううん。いつも、いつでも、ここはこの色だよ。」


藍色をベースに、緑色、青色、そして黄色い星が点々と輝いていた。

ある人はこの空を「絵の中みたい」と言った。


だけど、外の世界の空の色は、聞いた事が無かった。

ここは、いつも同じ色。昼も夜も無い。


この世界、いつもこの色だから少し別な色も見てみたい。

そうだ。この世界は皆絵に出てくるような色合いだ。


もっと現実味溢れる場所に行きたい。


「じゃあ今度僕が青い空、見せてあげる!」

そう、キミは笑いかけてくれた。

私も「楽しみに待ってる」と笑った。



それが偽りの言葉だとしても──















朝日が昇る。

同じ空の色なのに、何で分かるかって?



・・・・それを聞かれると、私にも分からない。

ただ、何となく「あぁ、朝が来た」そんな感じに思うんだ。

不思議だね。




キミは薄っすらと透けていく。

キミは、自分の身に何が起こっているのか分からないようで、来たときと同じようにオロオロとしている。

そしてキミは、そのまま私の前から姿を消した。


私はそのまま席を立ち上がると、その椅子の後ろにある、一軒の家へと入っていく。


いつもの、事。

これが私の日常───







家に帰ったって、別にする事は外の世界の事と変わらない、らしい。

朝とお昼にご飯を食べるし、夜だって人が居なければ食べる。


あの料理達は皆、外の世界の人たちの物だから、外の世界の人が手をつけるまでは私が勝手に食べてはいけない。


暇な時間は本を読んだり、服を縫ったりしている。

いつも茶色の長袖の上に、半袖の薄い、薄いベージュのワンピース。

私は別に他の服を着ようとも思わない。


それに予備だってもう、沢山ある。 きっと売れる位あるだろう。



ただ、暇を潰すだけ。


「・・・」

裁縫道具を取りに行こうとして、ふと窓の方を見た。


昨日キミが気付かなかった、テーブルの、さらに奥にある、大きな枯木

この世界を保っている、枯れた木。 葉はこの世の土で、

実は私。


この世界はとても狭い。

5分と歩けば一周できる。

それに、ここ以外には何も無いから、私は此処にいる。


さて、今日は誰か来るかしら、そう思いながら針に糸を通した。




出来上がったいつもの服を見て、ふぅと一息吐く。

「そろそろ行かなきゃ。」


立ち上がって、外を出る。


今は夕暮れ時。

私はまた、あの場所で待つ。




色は余り変わらないけれど、星が輝いて見えた。





「・・・・・あ、のっ。」




空を見上げていると、ふと声を掛けられた。

その声はどこかで聞いた事がある気がして、扉を見てみると、そこには


昨日と同じ姿の「キミ」が立っていた。



「いらっしゃい。 食事をどうぞ。」


最初に会ったときと同じように、また私は笑って見せた。


キミは少し緊張しているのか、ぎこちない笑い方で返してくれた。

私は、それが嬉しくて、少し顔と目元が熱くなった。






「ねぇ、君の名前・・・なんていうの?」

「・・・私? 私の名前は、スターティリス。 長いからティリスって呼んで。」


「スターティリス」これが私の名前。


濃い茶色の髪に、黄色の目。

まるでこの世界のようだって、ある人は言った。

スターティリスのスターは、星って意味だって、ある人は教えてくれた。



私は一体何故ここに居るのだろうか?

今まで気にしていなかったこと、今更何を考えているのだろう。




「・・・ティリス? 覚えた!僕の名前は、イセアス!」


キミは無邪気な笑顔でそう言った。

私もそれに答えて、笑った。



キミの名は、イセアスと言うらしい。






「キ・・・イセアスは、リチキールが好き?」

向かい側で座っているキミを見た。


昨日もリチキールをたくさん食べていて、今日も半分以上無くなっていた。



「リチキール?これ、トゥートゥー鳥の丸焼きじゃないの?」

トゥートゥー鳥というのは、多分キミがいる世界のリチキールの名前だろう。


「多分、同じ物だと思うよ。 ここでの名前はリチキールだけれど。」

「へえぇ・・・。」


ごくりとオレンジジュースを飲み干すキミ。


私は近くにあったサラダを手に取った。

今日はフルーツサラダ。

素材の味を生かすために最低限の味付けしかされてない。


味気無く、とてもシンプルだけど、私の好み。



「美味しい?」


いつの間にかキミもフルーツサラダを手にとって食べていた。

味の感想を聞いてみる。 キミには味気無いだろう。


「美味しい・・・。 でもちょっと、酸っぱい。」


この反応を見ると、不味いと思っていたんだろうか?

でも自分の好きなものを「美味しい」と言われると、例えお世辞でも嬉しい。


「これ、何が入ってるの?」

小首を傾げて私に聞く。

その時手にはフォークと、それに刺さったフルーツサラダ。

お気に召したらしい。



「・・イセアスは、何が入ってると思う?」

「えぇっ!?」

思い切り戸惑っている。


「え・・・っと、まずニンリン、アポン、ハム・・・かなぁ」

「凄い。 全部当たってる。 後はグフルーテ・・酸っぱい果物に、少しのお砂糖・・・甘いやつが入ってるよ」


驚いた・・・でもサラダだから簡単かな。


グフルーテは小さく小さくの隠し味みたいな物だったから。


「へぇー、だからちょっと酸っぱかったんだぁ。」

どうやら後は名前が同じだったらしい。

通じてて良かったと、少し安心する。




「ふふ、まだ早かったかな。」


「僕は子供じゃないよ!」


からかうとぷぅ、と頬を膨らませた。

「それにティリスだって僕と同じ位じゃない」とご立腹。

やっぱり子供。そう思ったけれど、これは言わないでおこう。

流石に可哀想だからね。



「・・・」

気が付くとキミが、こちらをじっと見つめていた。


「どうしたの?」

笑顔で尋ねるとキミは、


「一人ぼっちで、寂しくないの?」

そう言ってくれた。


「寂しくないよ。 ここへ来る人が居るから。キミみたいに。」

一人だけど、独りでもない。


「そうなの?」

「うん。 ・・・そろそろ時間だよ。 また食べに来てね。」


私がそう言うと、キミは薄っすらと消えて始めた。

キミはビックリしたけど、最後には私にニッコリと笑顔を向けて

「またね」と言ってくれた。


あぁ、今日は何をしよう。

キミを見送った後、私は席を立った。

少し歩いた所で振り返ると、料理は出来立ての状態に戻っていた。














「あっ。」


いつも通り、いつも通りの服を縫っていたら、つい針で人差し指を刺してしまった。

血が少し出ている。


珍しい事もあるもんだ。

最近はずっと怪我なんてした事無かったなぁ・・・。


まぁ、舐めてれば治るでしょうと舐める。

口の中に血の味が広がる。


ハンカチで指を拭いて、再び服を作ることに専念する。

その時にはもう痛みも血も出なかった。


ぼーっとして完成した服を見る。

今日は調子でも悪いのだろうか?

いつもよりも、縫い目が粗い。


でもいつもよりも早く完成した。

まだ少し時間があるけど、席に戻ろう。









今日もお客・・・キミが来た。

私が見た中で、3回も同じ人が来るなんて事は今まで無かった。

今日もキミは、リチキールにフルーツサラダ、そして新しい料理等を頬張っていた。


キミが好きな色は、薄い緑色らしい。

キミが着ている服もそういえば緑色だったな、と思った。

だけど黄色も好きらしい。

私の目を、キラキラしていて星みたいで綺麗と言ってくれた。

・・・私の目も、星と同じ黄色だった。



そして「ピアノ」が得意とも言っていた。


「ピアノ」とは楽器の事らしい。

白と黒の鍵盤で、音を奏でるそうだ。

不思議な楽器。


「今度聴かせてあげる」と言って、キミは消えてしまった。




それから毎日、キミは来るようになった。

外の世界での色んな出来事を、私に話してくれた。

家族の事、些細な事まで全部。


外の世界に興味を持ったのは、初めてでもないけれど、

この時は本当にキミの世界に行ってみたいと思った。

もっと色んなことを知りたいと思った。


でもキミから、「友達」という言葉を聞いた事が無かった。



その事を尋ねると、少し悲しい顔をして、「体が弱いから」と言った。

そういえば、あまり顔色が良くない。


体が弱いのは、私も同じだ。

小さい頃はいつもベッドから外を眺めていたから。

そうして育ってきたから、私も「友達」がどういうものか、良く分からない。



多分、いつもここに迷い込んでくるのは、

「友達が欲しい」から、なんだろう。

もしキミの世界で友達が出来たら、キミは二度と此処には来ないだろう。


悩みは、愚痴は、全部吐き出して。

それを聞くのが、「星の守護者」である私の仕事。




ある日、キミは友達が出来そうだ、と言った。




私は一言「そう」と言うだけにした。




「キミなら、絶対友達が出来るよ。」


キミが消える間際に、ニッコリと微笑んだ。





その日から、キミが来る事は無くなった。



最近は迷い込む人も来ないから、とても暇な時を過ごしている。


今日は埃を落としに、久々に木に触れる。

強く押したら、ポロポロと崩れてしまいそうだ。


空を見上げると、いつもの絵の様な空は無く、

藍色の透き通った、キラキラと小さな星達が瞬く夜空になっていた。


それが何を意味するのか、私には分かる。


「・・・・そっか」



この世界にはもう、誰も来ない。


世界の寿命。この世界の木はもう、本当に枯れてしまったんだ。



これからは新しい世界で新しい私じゃない誰かと二人きりの食事会が始まる。




「・・・?」


ふと、木の枝に何か布の様なものが引っかかってる。

取ってみると、それはハンカチだった。



薄い緑色に、黄色く「I」と刺繍が施されている。


キミの、忘れ物だろう。

何故ここにあったのかは、姿も見たこと無い「神」の仕業なのだろう。


私は届ける事が出来ない。

キミが取りに戻るのを待とう。



そしてまた、色んな話を・・・・聞かせて。















ここは「星達の休憩所」だった場所。


星は、悩む人々。


その悩みを癒して、解してあげるのが星の守護者の役目。


暖かい料理を沢山食べて、沢山話して、沢山笑って。

それが私たちの幸せ。





星達が居なくなった休憩所は、ただ永遠の時を過ごすだけ。



最後の星が、忘れていった物を取りに来てくれる事を願って。











「────会いに、来たよ。」

   

「・・・お食事、いかが?」




そう言える日を、待ちながら。


その場のノリと勢いとテンションで書いた代物です。

詳しい設定には期待しないで下さい。



タイトルと内容がかけ離れていくのは・・いつも通りなんです。


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