表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/24

#8 天界で見る夢

少し暖かい風が頬を撫でた。

ゆっくりと目を開けると、そこは至る所に花が咲き乱れる草原だった。


(あれ?…此処は…どこ?)


起き上がり辺りを見渡して、ふと自分の体の異変に気づく。


(!?…か、体が透けてる!?)


確かめようと両手を合わせるように伸ばした。だがその手はすり抜け、地面の草も手を通して見えていた。


「…いい天気」


「そうだな…」


その時、私の前に二つの影が落ちた。

一人は白のシフォンドレスに腰まである茶色の髪を風に靡かせる綺麗な女の人。

もう一人は丈の長い黒いマントを羽織った、漆黒の髪をした男の人だった。


(この人達は……!?)


そう、私は見たことがあったこの人達を。

あの悲痛な夢の女の人と男の人…間違いなくその人達だった。


(じゃあ…これも夢?……でも)


私がいつも見る夢は、彼と彼女が死の別れをする…という悲しい物だ。だが…───


「おい、裸足で駆け回ったら怪我をするぞ!」


「ふふ…大丈夫よー!」


「まったく…」


草原を駆け回る彼女を注意しながらも、幸せそうに笑う彼。

そして彼女も、晴れ渡る青空の下、暖かい風を感じながら笑顔で彼に手を振っている。


(二人共…幸せそう……。)


私の顔には自然と笑顔が浮かんだ。

悲しい最後を知っているからこそ、今彼らが笑っているこの夢が覚めなければいいと思った。


しばらく彼らは草原で話をしていた。

笑ったり、怒ったり、悲しんだり、喜んだり…色んな顔を見せる彼女を、優しく彼は見つめていた。

そんな二人に悪いとは思いつつも、彼らには私は見えていないようなので、二人の側に立ち話を聞いていた。


(二人はやっぱり…恋人同士…だよね。だったら尚更、あんな別れ方は辛いよ…)


「ねぇ……イオ」


突然、話をしていた彼女が彼の手に触れ、真剣な表情で彼を見上げた。その表情に彼と俯いていた私は、真剣な眼差しを彼女に向けた。


「なんだ……アリル」


「私達は…またこうして逢えるのかしら…」


「…逢える……絶対に」


不安そうな彼女の肩を自分の方に引き寄せると、彼は安心させるように彼女の髪を撫でた。

すると、彼女は彼の胸に顔を寄せ、震える声で囁くように言った。


「…分かっているの……分かっているのよ…逢えるって。…でも、怖いの…怖いのよ…っ」


彼女は彼の胸に顔を押し付けるように、泣いていた。


「アリル…っ…俺はお前を愛している。お前を絶対に守る…手放したりしない。例え、この愛が“禁忌の掟”を破ろうとも…俺はお前に逢いに行く……だから、俺を信じてくれないか」


「イオっ…私もあなたを愛しているわ…この愛を永遠に…誓う…。信じてる…ずっと」


「アリル…」


彼の言葉に顔を上げた彼女の瞳からは涙が零れる。それを拭うと、彼は彼女の頬に口付けを落とす。

そして、誓いを求めるように…彼らは目を閉じると、互いの唇を求めた。


(あわわ!?…見てない!…私は見てない!!)


動揺した私は素早く二人に背を向けた。

ボンッと音が出そうなほど顔を赤くした私は、改めて彼らがお互いを大切に思っているんだな…と感じた。

だがそれと同時に何故彼らはあんなにも悲しい顔をするのだろうと疑問に思った。


──『…愛していた…いいえ……今も愛しているの……』


(!?……また、この声!?)


頭に直接響く女性の声。その声が聞こえた瞬間、辺りが炎に包まれた。


視界が一変し、どこかの建物だろうか、洋風の部屋の真ん中に私は立っていた。

テーブルや棚、全てが炎に呑まれ燃え上がり、その黒煙の上がる部屋の隅に彼女はうずくまっていた。


「火の手が早い……このままじゃ…」


苦しそうに床に手を着き、彼女は辺りを見渡した。

その時、側の壁が崩れ落ち、一人の男が姿を見せた。


「こんな所にいらっしゃいましたか…」


「どうしてっ……貴方が此処に…」


男を見上げ、彼女は信じられない物でも見るように顔を青ざめた。

そんな彼女の顔に、男は不適な笑みを浮かべると彼女へと手を伸ばした。


「私は…貴方様を助けに来ただけですよ?“マリアノエル”……いや、『アリル』と呼んだ方がよろしいか?」


「なんで……その名を…っ!」


「私に知らないことなど、無いのですよ…アリル」


「その名で、呼ばないで!!」


自分に伸ばされていた手を払いのけ、彼女は男を睨み付けた。


「私をそう呼んでいいのは、あの人だけ…!そう……彼だけよ」


男にそう言った彼女は、心に彼の優しい笑みを思い浮かべ、よろよろと立ち上がった。

その顔には、強い意志があった。


───『あの人に逢いたい』


(……あっ!)


私の頭に響く声と、彼女の心の声が重なった。

強く感じる彼女の心に、私はあの声の正体は彼女なのだと知った。


「…待っていて……イ、オ…。すぐに…行くっ…から。……あなたの、そば…に」


深く煙を吸い込んでしまったのか、彼女の顔色は先程より悪くなっていた。

それでも彼女は、歩くのを止めなかった。


「何故だ……何故、奴を選ぶ…。お前は…お前は!!!」


そんな彼女に男は怒りを露わにし、彼女に向けて手を上げると、何かを詠唱し始めた。

すると、手の平に光と部屋の炎が集まり、次第に大きな炎の塊になっていった。

それに気付きながらも、彼女は出口へ向かう歩みを止めない。


そして、彼女が部屋の出口に着いた瞬間──


「貴様など…燃え尽きよ!!!」


男のその言葉と共に、ニメートル以上ある炎の塊が彼女目掛けて放たれた。


(ダメ……やめてーー!!!)


私は自分が夢の中に居ることも忘れ、彼女と炎の間に飛び込んだ。

だが、炎の熱さは感じるものの、衝撃は有るはずもなく…ゴオォという音だけが耳に残っていた。─────



「あ…い!…っ…葵!!」


「っ!!?」


私の名前を呼ぶ声に、ハッと目を開けると私を心配そうに覗き込む政稀兄さんの顔が目の前にあった。


「ま、さき兄さん…?」


「良かった…葵……。」


私が名前を呟くと、政稀兄さんは安堵の息を吐き、私を抱き起こした。

そこで意識がはっきりとした私が辺りを見ると、石造りで出来た壁に、少しカビ臭い此処は牢屋のような場所だった。


「そうだ…私、急に頭が痛くなって……それで…。政稀兄さん…此処はどこ?ユウ兄とあの人は!?」


「落ち着け、葵…此処は天界の牢獄だ。葵が気を失っている間に、俺達はあの兵士達に連れられて此処に入れられたんだ…。悠磨とあの男の人も、多分近くに居るはずだ。」


「そう……。」


政稀兄さんの話に耳を傾けながらも、私は拭い去れない不安が心にあり、顔をしかめ俯いた。


(今の夢…いつもより近くに感じた。彼女の心や臭いや感覚も…どうしてだろう…悲しい気持ちが止まらない…。それに……『禁忌の掟』って、何なの…?) 


「葵…?……まだ、気分が悪いのか?」


俯いている私を政稀兄さんが心配そうに覗き込む。それに笑顔で「大丈夫だよ」と答えると、政稀兄さんは少し悲しそうな表情をした後笑顔を見せた。


「なら、良かった。それじゃあ此処から出る方法を考えないとな…」


「うん…そうだね」


政稀兄さんの言葉にこれからどうなるのかという不安が募る中、夜が更けていった。


―――天界といっても地球と同じように太陽も月もあり、私が異世界に来て初めての夜を迎えた。


「くそっ!…離せ!!」


「暴れるな!…きびきび歩け!」


「な!?引っ張るなよ!」


政稀兄さんに寄りかかるようにしてまどろんでいた私は、左の方からガチャンと鉄格子が開く音がし目を覚ます。

そこから聞こえた声に聞き覚えがあり、私は鉄格子に近づく。

そして私達のいる牢屋の前を通ったのは、腕に鎖を填められたユウ兄と彼、そして兵士が二名だった。


「ユウ兄!!」


私が格子の間からユウ兄に手を伸ばすと、それに気づいたユウ兄が目に見えて安堵した。


「葵!!…良かった。もう、頭は痛くないのか?」


「立ち止まるな、歩け!」


「…っ!」


だが、私に手を伸ばそうとした所を兵士が鎖を引っ張りそれを阻止した。


「ユウ兄!!」


そしてそのままユウ兄と彼は兵士に引かれ、牢屋を出て行った。

その直後、扉越しに光が溢れた。だが直ぐに光は消え、夜の沈静が落ちる。


「ユウ兄達は…どこに連れて行かれたの?」


不安な眼差しでユウ兄達が出て行った扉を見つめ、後ろに居るであろう政稀兄さんに問う。

だが返事は返ってこず、代わりに何かが崩れる音がした。

驚いて振り返ると、壁が崩れ、外の景色が見えていた。


「行くぞ、葵…悠磨達が危ない」


崩れた壁の側に立つ政稀兄さんが、私に手を差し伸べた。


「う、うん……」

(どうやって、壁を壊したんだろう…)


「って…わ!?」


私がその手を握ると、政稀兄さんは強く手を引き、私を軽々と横抱きにした。


「驚くだろうけど、しっかり掴まっていろよ…葵」


「え…」


抱き上げられた私は、崩れた壁の外を見て、顔を青ざめた。

下が見えない。見える物と言ったら、月明かりに照らされた真っ白な雲だけ…。


(ま、待って……こんな展開、前にも…)


私の体を持つ手を強めると、政稀兄さんは足を踏み出し、外へと飛んだ。


「きゃあああぁーー!?」


雲を突き抜け落下していく私達。

私は政稀兄さんの首に必死に掴まるのがやっとで、目をきつく閉じる。


「大丈夫だ…怖い事なんか無い。目を開けてごらん…葵」


政稀兄さんの優しい声が聞こえた瞬間。

先程までの落下していく感覚はなく、フワフワと浮遊しているような感覚がした。

私は恐る恐る目を開けると、その光景に目を丸くする。


「わぁ…!」


雲の下、いくつもの島々が空中に浮かび、その上には清らかな空気を漂わせる白い石造りの建物があった。

私達が飛び出した牢獄だと思われる建物は、その中でも大きな方だった。

私が歓喜の声を上げると、側にある政稀兄さんの顔が笑顔になった。


「まだ、怖いか?」


「ううん!…とっても、綺麗……あっ」


政稀兄さんに微笑みかけた私は、息を飲む。

政稀兄さんの背中…真っ白な翼が、神々しいまでに輝きを放っていたのだ。

その羽を纏う政稀兄さんが、天使に見えた。


(…本当に……人間じゃないんだね…政稀兄さん)


その姿に、私は政稀兄さんを初めて遠い人に感じて…首に回す手に力を込めた。


「…葵?」


「…政稀兄さん……大好きだよ」


「!……俺も、大好きだよ」


私の不安な気持ちに気付いたのか、政稀兄さんは優しく笑いかけてくれたのだった。


───「あ!あそこにユウ兄達が!」


少し離れた所に、他とは違う造りの建物が見えてきた。

そこに入っていくユウ兄達。

私が見つめる方向を見て、政稀兄さんの顔が険しくなった。


「あそこは……『処刑所』だ」


「え…!?」


政稀兄さんの言葉に私が目を見開くと、私を抱く力を強め、政稀兄さんは処刑所に向かい速度を早めたのだった。










此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


葵はまた夢を見ましたね…。

ですがいつもと違う夢…いったい何を意味するのか?


そして悠磨達がまさかの処刑!?


次回は、彼の正体が明らかに!そして…葵が知る真実とは…。


感想などお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ