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#6 漆黒の救い手

 目を開けるとそこは、黒い霧が立ちこめ、辺りは枯れ果てた木や、地面が続いている見たことのない場所だった。


霧により視界がぼやけ、足下も容易に見えない中、私はヴァールに手を掴まれたまま、彼らの後を歩く。

(…どこに行くのかな……あれ?…何か、すごく息苦しい…。)


そう気づき、掴まれていない方の手で口を押さえるも、息苦しさは変わらず、私の足取りは次第に遅くなっていた。

それに気付いたシックは、足を止めると私に近づき、何か呪文のようなものを唱えた。

すると、息苦しさは消え、普通に呼吸出来るようになった。


「人間の所と、此処の空気は違うからね…」


そう言うと、シックはまた歩き出し、その後にヴァールと私が続く。


(……シックという人…。そんなに悪い人じゃないのかな?…それにしても、人間の所と違うってどういうことだろう?……春華的に言うと、もしかして此処って…異世界!?)


そこまで考えてハタと気づく、今はそれより逃げなくては、と。

此処がもし異世界だとしても、ヒロ達を消したことに変わりないのだから…私もいつ消されるか分からない。だから、逃げなくては。

そう、決意した時だった。


「…ヴァール」


シックが歩みを止め、ヴァールに合図をすると、ヴァールは私から手を離し、背中に庇うような形を取った。


(な、何…?)

 

状況が分からず一人困惑する私を、背中で庇っていたヴァールが、突然ハッと空を見上げ叫んだ。


「シック!上だ!!」


───ガキンッ!!!


剣と剣がぶつかり合うような音が響いた。


「くっ!?」


いつの間にか、シックの手には銀に輝く剣が握られていた。

空から一直線に突っ込んできた黒い影。

周りの霧が少し晴れ、漆黒の丈の長いマントを着たその影の手には、黒く輝きを放つ剣があるのが見えた。

それを受け止めたシックが、その衝撃に苦痛の表情を浮かべる。


「あの剣…!まさか…!?」


ヴァールは、黒く輝く剣を見つめ、驚愕の表情を浮かべた。


「ぐああっ…!」


その時、剣を交えていたシックが、悲痛な叫び声を上げた。

見ると、体の胸の辺りから腹までを斜めに切られた傷があった。

そして、前のめりに倒れると、シックはピクリとも動かなくなった。


「シック!!…クソおおぉ!」


シックの名を呼び、ヴァールは無謀にも、黒き剣を持つ影へと突っ込んで行った。


(や……いやぁ!)


無残な姿を想像してしまった私は、胸の前で両手を握り、強く目を閉じた。

その瞬間、ヴァールの悲痛な叫び声と共に、地面に倒れ込む音が聞こえた。


私は、恐る恐る目を開け、目の前に広がる惨状に恐怖し崩れ落ちた。


黒き剣を持つ影は、ピクリとも動かなくなった彼らに背を向けると剣を一払いし、付いた血を払う。

そして、ゆっくりと私に近付いてきた。


(なんで…なんでこんな事になるの?……ヒロ…助けて、紘斗!!)


私は死を覚悟しながらも、心の中でヒロに助けを求める。

届くはずのない、心の叫び。

頭を抱えるように、恐怖に溢れ出した涙を拭うことなく、私キツく目を閉じた。


だが、カチャッと剣の音が聞こえると、それは振り下ろされることなく、地面に置かれた。

不思議に思い、目を開けると、影はしゃがみ込み、私の右手を優しく掴んでいた。


「やっ…離し───」


「すまない…」


泣きじゃくりながら離してと私が言う前に、遮られた。

ハッキリと聞こえた…「すまない」という謝罪の言葉。

その声がとても優しくて、私は体の力を少し抜いた。

「怖い想いをさせた…。こんなに赤くなって…。助けるのが遅くなって、本当にすまない……すまない」


私の手首は、ヴァールに掴まれていたからか赤くなっていた。

それを心配しているのに、どこか自分を責めるようにこの人は何度も謝る。


(何でだろう……この人は、悪い人じゃないって…分かる。)


そう思った時、霧を晴らすように風が吹いた。

風は彼のマントを煽り、そして顔を覆っていたフードが外れ、彼の顔が露わになった。


何処までも続く暗闇のような漆黒の髪、闇夜を照らす月のような銀色の瞳、その綺麗な顔に目を奪われ、私は見つめたまま動けなくなった。

そんな私の頬を伝う涙を拭うように、彼は優しく触れた。

「……もう、大丈夫だ。俺は……お前の味方だ」


慰めるように…安心させるように、そう囁いた彼は腕を伸ばし、私を抱きしめた。

彼の腕の中、混乱しながらも、その優しく背中をさする手の温かさに、私は嗚咽を漏らす。


「わたし…っ…」


「今は何も考えなくていい…。俺は危害を加えたりしない…だから、泣いていい。……辛かったな」


「!!…っ…うう、わああぁ…」


突然ヒロや春華達が消えたり、怪しい男達に連れてこられた見知らぬ場所、血の匂い。

知らず知らずに溜め込んでいた不安を、吐き出すかのように…私は、泣いた。

それを受け止めるように、彼は抱きしめる腕を少し強めたのだった。───



「落ち着いたか…?」


返事をする代わりにコクリと私が頷くと、彼は腕を離してくれた。


(泣いたからかな?……少し心が軽くなった気がする…)


冷静さを取り戻した私は、状況をちゃんと把握しようと思い、彼を見つめる。


「あの、質問……してもいいですか?」


「ああ、俺に答えられる範囲でなら。」


「それじゃあ…えっと……」


何から聞けばいいのか迷っていると、視界の端に倒れたままのシックとヴァールの姿が目に入り、私は青ざめながらもその事を聞こうと思った。


「……あの人達は、もう?」


私の言いたい事を察したのか、彼は首を横に振った。

「いや、あいつらは死んでいない。自ら仮死状態になっているだけだ。」


「仮死状態…?」


私が聞き返すと、彼は説明してくれた。


──自分の命が危険になると、自らの体の周りに見えない結界を張り、傷が癒えるまでの間を死んだように見せる能力みたいなもの。

そうすることで、相手に死んだと思わせる事ができ、逃げたり、不意打ちをくらわしたり出来るらしい。

(って…教えてもらったけど……よく分からないや…。)


「じゃあ、とりあえずあの人達は死んでいないんですね…」


「ああ…」


「……良かった」


ホッと胸を撫で下ろす私を、心底不思議そうに彼は見つめていた。

それには気づかず、私は更に質問攻めにした。 


「あ、でも……そんな事出来るなんて、あの人達はいったい何者なんでしょう?……それに、何で私を此処に…?」


「あいつらは此処…魔界の者だ。そしてお前を連れてきたのは……。お前が『繋ぐ者』だからだ。」


「えっ?」

(今……魔界って言わなかった!?)


私の質問に淡々と答える彼の言葉の中に、異世界要素が含まれているのに気づき、私は目を見開く。

肝心の単語には気付かずに…。


(魔界!…そっか、だからあの人達の背中に翼があったのか!前に春華が言ってた魔界人よね…?本物を見てしまったということかな!?)


完全に警戒心を解き、一人興奮している私とは対象的に、彼は何かに気づいたように遠くを見つめると、目の色を変え立ち上がった。


「誰か来る……一人…いや、二人か…」


「え!?」


興奮を押さえ、私も慌てて立ち上がると彼が見つめている方向を見た。

すると、確かに遠くの方に、こちらに向かってくる影が二つあった。


「俺の後ろから出るなよ」

 

「え…あ、はい!」


手を引かれ彼の背中に庇われる。 

私の返事に、彼は先程地面に置いた黒い剣を拾い構えた。

だんだん足音が近付いて来ると、私は彼のマントを無意識に掴む。

緊張感…というより恐怖感が込み上げ、私は握る力を強めた。

だが、私は近付いてきた影の顔を見て、驚愕した。


「ユウ、兄…?政稀兄さん!?」


此処に居るはずがない、そう思うものの、長年一緒にいる家族だ。見間違う筈がない。


「あお、い…?…葵!!」


その証拠に私の名前を叫び、ユウ兄が駆け寄ってきた…が、それを黒い剣が阻んだ。


「……これ以上近づくな。…何者だ」


ユウ兄に剣先を向け彼は、鋭く睨む。

それにうろたえる事なく、ユウ兄はハッキリと言い放った。


「俺は、彼女の味方だ。そこを通してもらおうか…」

いつもと違う物言いのユウ兄に、違和感を覚えながらも、私は本物のユウ兄だと分かり、彼のマントを離し前へ出る。


「あの!…この人は、私の兄なんです!だから…」


「………。」


私の必死さが伝わったのか、彼は渋々剣を下ろしてくれた。


「葵!!!」


それを見たユウ兄が勢いよく私に抱きつく。

いつもなら軽くあしらう私だが、今はその温もりを感じていたかった。


「無事か?怪我は無いか?…ごめんな…葵!…俺が、気付けなかったばかりに怖い想いをさせて…!」


「全くだ…。あれほど、一秒でも長く側に居ろと言ったのに…お前は……」


「な!?そ、そう言う政稀だって!仕事早く終わらして校門の前に居たくせに、気付けなかったのかよ!」


「!…そ、それは…」


「ちょっと待って!!」


ユウ兄の腕から抜け出し、私は言い争う政稀兄さんとユウ兄の間に割り込んだ。

私に気づき、口論を止めた二人を交互に見つめてから、私は疑問を投げかけた。


「気付けなかった…ってどういう事?……こんな事が起こるかもって知っていたの?」


私の言葉に、ユウ兄も政稀兄さんも黙り込む。それが私には、無言の肯定に見えた。


「そう、なんだね…。じゃあ、あの人達の狙いは最初から私だった?……私が一人でいれば、紘斗や皆は消えたりしなかったの?……全部私のせい…なの?答えてっ…」


声が震え、最後の方は消そうな声になってしまった。

それでも、泣かないよう唇を噛み締めていると、それまで黙っていた彼が口を開いた。


「おい……これ以上、アオイを苦しめるな。全てを話せ……偽りはもう、たくさんだ」


銀色の瞳が、怒りで揺れていた。

それは、私を想っての怒りだと感じたのか、その瞳を見た後、政稀兄さんが意を決したように、重い口を開いたのだった…。



───『偽り』…その言葉の意味を知るとき、私は悲しみの淵に立たされる。







此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


再び登場したのは、悠磨と政稀でしたね!


それにしても、葵を助けた彼は何者なのか、気になる所です…。


次回、悠磨と政稀には秘密が!?そして、助けた彼の正体に迫る!


……な、なんか…スミマセン。

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