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#21 魔界に輝く光 後編

またも文字数が多くなってしまいました。…すみません。


私を座らせると地を蹴り、イオさんがアルクスに切りかかる。

けれどアルクスに届く前に、イオさんの剣はまるで何か見えないものに阻まれているかのように宙に止まってしまった。


「イオさん…っ!ゲホッ…ケホッ!!」


私は苦しみから解放されたばかりだったからか、激しく咳き込む。

その間にもイオさんは剣を構えたまま、呪文を唱える。


「“我が身に宿りし闇よ。今この剣に移り、力を与えよ!”」


銀色に混じり、黒い光がイオさんから剣に移る。そして見えない何かに切れ目が生じ、アルクスの表情が変わる。


──パリンッ!!


大きな音を立て、見えない何かが砕け散る。

次の瞬間、剣と剣がぶつかり合うような音が響き、アルクスとイオさんが睨み合う。


いつの間にかアルクスの手には金色に輝く剣が握られ、暗闇の中に銀と金の光が広がる。


(…今、イオさんの呪文が聞き取れた…。それって、やっぱり私が魔法を理解し始めているってこと?)


暗闇の中、戦う二人を見つめ、私は自身の中で広がる不思議な力を感じた。


「貴様は…アリルだけでなく、アオイまで殺すつもりだったのか!!」


イオさんの叫びに、毎日のように見ていた“あの夢”を思い出す。

あの夢に出てきたのが、イオさんとアリルさんだと分かっている今、目の前にいる人物があの夢の原因を。アリルさんを殺したかもしれない人だと知り…体が震えだす。


(アリルさんは…殺されたの?……イオさんは、それを知って…?)


「そうだ。」


「!!」


私の考えに対してか、それともイオさんの言葉への返事なのか…アルクスは剣を交えたまま、答えた。


「当たり前だろう。闇の者に心を明け渡し、挙げ句の果てに“信じる”だと?…そんな考えを持った者など、最早天界人でもなければ、天界の姫でもない!!」


「ぐあっ!!」


声を荒げたアルクスの剣に押され、凄まじい風と共にイオさんが弾き飛ばされる。


「イオさんっ!!」


地面に打ちつけられたイオさんに駆け寄ろうとした私の手を、アルクスが掴む。


(いつの間に…!?)


「俺は、お前を許さない…。アリルも…お前も!!」


殺される。

そんな考えが頭をよぎり、手を解こうとアルクスの顔を見て、私はハッとなる。

そして…解こうとするのを止めた。


(なんで…泣きそうなの…?)


それは…私を睨み付けるアルクスの顔が、ひどく悲しげで、今にも涙がこぼれ落ちそうだったから。


「魔界は悪だ。…それを知っているのに、何故、奴を愛した?

……お前の優しさや、力を利用するために近づいたんだ!!アイツは…イオゼリクは、お前を騙して…!!

俺は…俺は!…お前を…っ!!」


目線を合わせ、まるで私じゃない誰かに伝えたかったことを必死に訴えるアルクスに、私はしっかりと見つめ返し言った。


「アナタは…アリルさんのことが…──好き、だったの?」


私の言葉に、アルクスの体がビクッと揺れる。

さっき見た映像からも、そんな気持ちが伝わってきていたから。

そして、今聞かせてくれた言葉の中には…アリルさんへの想いが詰まっていた。

けれどそれは告げる前に、間違った方向へと行ってしまった。


──アリルさんが愛した“イオゼリク”という人を憎む…という方へ。


「俺が…マリアノエルを?」


自身の中の想いにすら気づいていなかったのか、するりと手から力が抜け、アルクスは膝を着く。

そこへイオさんが勢いをつけ、剣を構えたまま突っ込んできた。

その瞳には、怒りの色しかなかった。


「アルクスッ!!!」


「ッ!止めて、イオさん!!!」


──ザシュッ…!!


黒い地面に、赤い液体がポタポタと落ちる。

激しい痛みを腹部に感じながらも、私は突き刺さる“銀色の剣”を掴む。


「あ…おい……な、ぜっ!!!」


アルクスを庇った私を、剣の柄を握る手を震わせ、イオさんは血の気の引いた顔で見つめた。


「イオ、さんが…この人を、傷つけ…たら、アリルさんが…悲しむ…から…ッ」


私はその視線をまっすぐに受け止める。


アルクスがアリルさんを想っていた気持ちとは違うけど、アリルさんもアルクスさんの事を想っていたと思う。

だって、あの映像の中でアリルさんは…一度もアルクスさんの事を嫌いだなんて言っていない。

それに…きっと、アリルさんはアルクスさんに、イオさんの事を分かって欲しかったんだと思う。


「それに…大切な人同士が、傷つけ合うなんて、悲しいことだから……痛っ!!」


目の前が霞み、地面が赤く染まっていく。

腹部から溢れ出る温かなものは、止まる気配がない。


「アオイッ!!!」


瞬間、握っていた剣が光となって消え、傾く私の身体はイオさんが抱き留めてくれた。


「アオイッ…しっかりしろ!…お前まで…いかないでくれ!!…ッ…アオイ!!」


いつも見ていた、あの夢と重なる。

けれど違うところは、イオさんがアリルさんではなく、私を抱きしめて…想いを叫んでいること。


「いなく、なったりしないって、言ったじゃないですか……勝手に、私を殺さないで、下さいよ…ふふ」


荒い息の中、私は笑みを浮かべイオさんの胸に耳を当てる。

トクトク…と聞こえる心音に、私は何故か落ち着いた気持ちになる。


「何だか…懐かしいです……イオさんの、鼓動が…。なんで、でしょうね」


「アオイ…っ」


少しだけギュッと腕に力を込めたイオさんから視線を移せば、アルクスさんが目を見開いたまま固まっていた。


「何故…だ?」


そしてやっと出た声で、紡いだ言葉に私は笑顔を見せた。


「さっきも…言ったじゃないですか。……アリルさんの“大切な人”が…傷つけ合うなんて…悲しいって」


「そんな事は…聞いていない!!俺が……マリアノエルの大切な人だと?…馬鹿なことを言うな!!!」


立ち上がったアルクスの手に、炎の塊が浮かび上がる。

それはあの映像と、前に夢の中で見た魔法。


「アイツは…闇に落ちた者だ!イオゼリク共々、お前の息の根を今此処で俺がッ…!!!」


───《もう、止めて!!!》


強く、凛とした声が響いた。

それは此処にいる二人が…愛した人。そして、そんな二人に愛された人の声。


「マリアノエル…っ」


アルクスの手から炎が消える。

すると、ふわっとドレス広げ、茶色の長い髪を揺らした一人の美しい女性の姿が私達の側に浮かび上がった。


「アリル…」


思い思いに彼女を見つめる二人に、アリルさんは悲しげな笑みを浮かべた。


《イオ…アルクス……また、逢えて嬉しいわ》


彼女は…まるで幽霊のように、足首より下が透けていた。

理解していた事だけど…アリルさんはもう、死んでいるのだと…改めて実感した。


そこでアリルさんの側に、一匹の白い子猫がいるのに気づく。

その猫は虹色と青色のオッドアイの猫で、漂う雰囲気がどこかネクリスに似ていた。


「アリル…」


何か言いたげにアリルさんを見つめるイオさん。そんな彼の視線に気づき、アリルさんは少しだけ笑みを見せた。


《少しだけ…アルクスと話をしたいの…いいかしら、イオ》


アリルさんの言葉に、イオさんはただ静かに頷いた。


《アルクス…》


アリルさんは正面に立ち、アルクスさんを見た。


「おれ、は…」


アルクスさんは後ずさり、握りしめた拳が震える。

その手を、フワッと体を浮かせ近づいたアリルさんの両手が、優しく包み込んだ。


《アルクス…もう…傷つくのも、傷つけることもしないで》


私からは、アリルさんの華奢な背中しか見えなかった。

けれど、その震えた声に、アリルさんは今…泣きそうな顔をしているのではと、そう感じた。


「傷つく…?俺はっ、正しい事をしている!!アイツがお前を奪ったんだ!心を!命を!!

だから、俺はアイツをっ!!」


《違うの!!》


バッとアリルさんがアルクスさんを抱きしめる。


《誰も悪くなんかないの!…私が貴方の気持ちを知らなかった。それが…アナタを傷つけたの。

憎まれるべきだったのは…私…。…ごめんなさい…アルクスッ。

だから…これ以上誰かを傷つけて、苦しまないで…っ!!》


フワッと浮くアリルさんの身体に、アルクスさんがおずおずと手を伸ばし、背に回す。


「マリアノエル…。………俺は、お前のことが好きだった」


《……ええ》


「俺は…お前の側にずっと居たかった。お前を好きになり、お前を手に入れたいと思った。俺は…お前を…愛していたんだっ」


アリルさんの肩に顔をうずめたアルクスさんから、嗚咽が漏れる。

今まで抱え込んでいたアリルさんへの想い全てを吐き出すように、アルクスさんは泣いた。

きっと、ずっと言いたかった事だ。アリルさんへの……届かないと知っていた気持ち。

それを今…伝えようとしている。


《ええ…貴方の気持ち、確かに受け取ったわ》


そんな彼の背をさするアリルさんも、全てを受け止めるように涙を流していた。


(……人を好きになるって、苦しいことなんだね。アルクスさんは、その苦しみをイオさんを憎むことで…救われていたのかな)


いつの間にか頬を伝う涙に気づきながらも、私は静かに目を閉じた。

その瞬間、瞼の裏に一人の顔が浮かび上がった。

優しげに見つめる黒い瞳と、二人だけで決めた大切な“呼び名”を呼んでくれる笑顔。


───アオ。


(…な、なんで、ヒロの顔が浮かぶの!?)


かあっと赤くなる頬に手を伸ばし、ふと…腹部に痛みがないことに気づく。


『まったく…後少しでも剣の刺さった場所がズレてたら、死んでたかもしれないっていうのに……なんか、元気だね』


するとすぐ近くで、聞き覚えのある少年ボイスが聞こえた。

顔を動かしてそちらを向けば、少し怒ったような表情のオッドアイの子猫がいた。


「…よかった」


ずっと私を抱きしめていたイオさんの目から、涙が零れ落ちた。

それは私の頬に落ち、流れる。


(イオさん…泣かないで)


スッと手を伸ばし、イオさんの涙を拭う。

イオさんはその行動に驚きながらも、嬉しそうに目を細めてくれた。


『でも、やっぱりアオイは凄いね!

アオイの中にある“光の魔法”である癒しの力と“闇の魔法”…というよりは魔界人の自己治癒能力のおかげで、僕が魔法使わなくても自分で治療してたよ』


ネクリスだろう子猫が、イオさんが支えてくれながら座った私の膝に飛び乗り、説明してくれた。


(…それって、私が無意識に魔法を使ったってこと?)


ネクリスの言葉に驚きを隠せないでいると、アリルさんがアルクスさんから離れ、私達の方へ体を向けた。


《アオイ…ありがとう。

さっき言ってくれた言葉…とても嬉しかったわ。…私にとって、イオも、アルクスも…そしてアオイも私の“大切な人”だから……嬉しかった。》


私に伸ばしたアリルさんの手は、頬に触れる前に消え始めた。


「アリルさん!?」


「アリルッ!!」


イオさんがアリルさんに手を伸ばすも、アリルさんは首を横に振り上へと舞い上がる。


《私は、アオイに宿るマリアの力で作られた姿だから…意志は本当の私でも、体は魔法の偽物。もう、保たないの。

アオイ、穢れを払ってくれてありがとう》


「いいえっ…私、何も出来なくて…!」

 

《してくれたわ…だって、アルクスに逢えたもの》


「…え?」


アリルさんの言葉と同時に、アルクスさんの体が金色の輝きを放つ。

するとその光に包まれた周りの闇は、見る見る光の粒になり、まるでパズルのピースのように崩れだした。

やがて全ての闇が崩れ、現れた光景に目を見張る。


「花畑…」


そう、色とりどりの花が咲き誇る地面が、遠くまで続く花畑が広がっていた。

私はイオさんの手を借り立ち上がる。


「…アオイ、一ついいか」


「はい…?」


同じように立ち上がり、呆然と目の前の光景を見ていたイオさんが問いかけてきた。


「アルクスに…殺されそうになった時の他で、アイツに触れたことがあったか?」


おかしな質問だ。

そう思いながらも、アルクスさんとのやり取りを思い出す。


「……無かった…と思います。一度だけ、アルクスさんの手を叩こうとして…そうだ!すり抜けたんです!

その時はビックリして、すっかり忘れてましたけど…って、イオさん?」


見上げたイオさんの顔は、納得したように落ち着いた顔をしていた。


《…イオは、もう気づいたみたいね》


そこへフワリとアリルさんが舞い降りた。その体は今にも消えそうに透けていた。


《アルクスは……私と同じだったの》


「アリルさんと?」

(えっと…つまり?)


《…アルクスは、既に亡くなっているの。》


「……え。…ええ!!?」


自分でも驚くほど大きな声を出してしまい、反射的に口を押さえる。

そんな私の肩にいつの間にか乗っていたネクリスが、花畑を見つめながら言った。


『あれは“誰か”がアルクスのアリルを想う気持ちを、魔界の穢れに溶け込ませて作った姿だったんだ。

穢れ…つまりはあの闇は天界人の血と憎悪で出来たものだから。

それにアルクスの憎しみが呼応したんだろうね…。憎しみは憎しみをよんでしまうから』


《けれど、アオイのおかげで闇は浄化され、アルクスの憎しみだけが残った。

あの憎む気持ちは、私が受け取らないと…アルクスは一生苦しんだまま、闇をさ迷っていたと思うわ。

だから……ありがとう、アオイ》


「い、いえ!…そんな」


お礼を言われ、私は照れ笑いを浮かべ素直に喜んだ。

けれど同時に、不安に思った事を口にする。


「でも、それって…アルクスさんの想いを利用した人がいるって事ですよね?」


《ええ…》


アリルさんは深く頷く。

その表情は、思い当たる人物がいるように見えた。 


「アリル」


けれど、アリルさんがその人物の名を言いそうになった所で、イオさんの声が遮った。


《イオ…》


「いつから…気付いていたんだ」


(イオ…さん?)


私の隣に立つイオさんは、アリルさんを真剣な眼差しで見つめ、拳を握りしめていた。

そしてアリルさんもまた、その真剣な視線にまっすぐに向き合う。


「いつか…こうなるだろうと、解っていたんだろう?

だから…“アオイの中”に自分の魔法を宿したのか?」


《それは、違うわ。私は…私の事を覚えていて欲しくて、アオイに宿したのよ》


「宿さなくとも、覚えていられた方法はあったはずだ!!」


《な!?宿したと言っても、少しだけよ!

それに、そんな方法を知っていたら、私だってそうしていたわよ!!》


何故か突然口論を始める二人。

その様子はまるで「夫婦喧嘩」のようで、私は邪魔では?と思わざる終えなかった。


「あ、あの…お二人とも?」


「っ…だったら、どうして巻き込んだ!

魔法も無く、戦いもない世界で平和に暮らして欲しいと望んだのは…俺達だろう!?

だから……“記憶”を消したんだ!!」


(え……今、記憶って)


「それを…覚えていて欲しかったと、魔法を宿らせては、天界や魔界にバレるに決まっている!!今だって、アオイの力を使って…!」


《何よっ!…“親”として“娘”に覚えていて欲しいという気持ちは、誰もが望む事でしょ!!

イオだって、アオイに思い出して欲しいから側にいるのでしょう!!?》


「違う!!…俺は、お前との約束を守りたかったからだ!」


《え……?》


エスカレートしそうになっていた口論は、イオさんの言葉で止まる。


「アオイが大切な俺達の“娘”である事だけが、側にいる理由じゃない。

これから…ずっと側でアオイの成長を見届けたかっただろうアリルの、最後の約束を……俺は守りたいからだ。」


《イオ…》


イオさんの言葉に、アリルさんは涙を流す。


──あの子を、お願いね。


私も夢で何度も聞いた言葉だから……とても胸に響いた。


(だ・け・ど!!)


「待って下さい!二人とも!!」


「アオイ?」


《…何、どうしたの?》


キョトンとする二人に、私は混乱する頭で聞きたい言葉を選び抜き、言った。


「あの……記憶を消す、とか。親、娘…とか!……ちゃんと、説明ありますよね?」


正直、首締められたり、剣が刺さって死にそうになったり、アルクスさんが実は亡くなっていた…とか。


(頭パンクしそうですからね!!?)


そんな私の言葉に、アリルさんとイオさんは先程の会話の内容を思い出し、言ってはならないことを言ってしまったと、青ざめていた。








此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


次回も、読んで頂けると嬉しいです!!

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