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#17 王妃セイリーンの覚悟

「……穢れ」


そう自然と口にした言葉に、彼が私をゆっくりと見た後闇に目を向けたのがわかった。


闇はゆっくりと迫っているため、此処まで届くには時間があることは確かだった。


(きっと…ううん、絶対にあれがアリルさんの言ってた“穢れ ”だ。)


「アオイ、立てるか?」


「はい…」


彼に抱きかかえられるようにして、私は立ち上がる。


「くっ…葵!早く、逃げるぞ!」


「あっ…!」


立ち上がった私の手を引いてユウ兄が焦ったように走りだそうとしたが、その手を彼が止める。


「どこに逃げるというんだ?」


「どこって、魔界外だよ!あんな大きな“力”に飲み込まれたら…死ぬぞ!!」


「…っ!」


『死』という言葉に、体が反応しビクッと揺れる。

顔を青ざめた私を見た彼が睨むようにしてユウ兄を見て、低い声で言う。


「それは無理だ。」


「なんでっ…!」


「あれを見ろ。」


ユウ兄の言葉を遮った彼の声に、彼の視線の先を見上げる。

私達のいる場所は宙に浮かんだ大陸だとユウ兄に聞いた。

だから迫り来る闇も同じ高さを霧のように漂っているだけで、上空に闇は無いと思っていた。


けれど彼が指摘したところには、何か膜のようなものがあり、その上をスライム状の闇が徐々に空を覆い尽くそうとしていたのだ。


「魔界を囲っていた結界に亀裂が入っていたのを見た。

そこからあの闇は外へと出て行き、力ある結界に引き寄せられ、あのように覆い尽くそうとしているのだと思う。

……お前はあれを見て分かるだろう…俺達は閉じ込められたも同然だ。」


「っ…!くそっ!!」


彼の説明にユウ兄は苛立ったように拳を強く握る。


「あの…どうして、出られないんですか?」


立たせてくれた彼を見つめ、不安そうにそう言った私の頭に手を置き、彼は苦笑しながら教えてくれた。


「世界と世界を移動するときは、転移の魔法を使うんだ。だがそれには結界を通して行うことになる」


「つまり…?」


「魔界の結界と、グランド・マリア、天界の結界とを繋げ、所謂通路のようなものを形成させるんだ。

だが今のように結界を囲むようにしてあの闇があると、通路を作れたとしても不安定になって……最悪の場合、どこか別の空間、あるいは空間の狭間に引きずり込まれ…此処には二度と戻っては来られないだろう。」


その説明に私は、未だ唇を噛み締め俯くユウ兄を見た。


(だから、ユウ兄はあんなに…)


ぐっと握り締めた手がどんどん赤くなっているのに気づき、私はユウ兄の手を優しく両手で包み込み、淡く微笑んだ。


「…大丈夫だよ。出られる方法は絶対あるよ、ユウ兄」


「……葵」


ユウ兄を安心させたくて言ったのに、声は震えてしまった。

それに気づかないほど鈍いユウ兄ではない。


「ああ、ごめんな。取り乱して…」


「ううん…。」


優しく頭を撫でられ、私は気が緩み泣きそうになるのを堪えた。


「マゼル様ー!!」


その時、二つの影が此方に向かってくるのが見えた。

それは最初に会った魔界人で、そして異世界という未知の世界に連れてきた張本人達…シックとヴァールだった。


「シック…ヴァール…。」


マゼルさんの前に降り立った彼らは、血に塗れ、疲労の色が見て取れた。


「マゼル様…ご無事で!」


「早速ですが、セイリーン様から…こちらを。」


跪いたシックから、何やら受け取るマゼルさん。


「アンタ達も見てくれってさ」


すると立ったままだったヴァールがこちらに歩み寄ってきた。

私は無意識にきゅっと彼の服を掴んでしまい、それを見たユウ兄はムッとしながら私とヴァールの間に立ちだかった。


「これ以上は葵に近づくな。お前らが葵を連れ去ったこと…忘れたとは言わせないぞ」


剣を真っ直ぐ迷いなく、ヴァールに向けるユウ兄はいつもと違う殺気のような気配を漂わせる。

そんなユウ兄とは対照的に、ヴァールは困ったように頭に手を置くと私を見た。


「あん時は悪かったよ、赤くなるまで手首掴んだり、乱暴に地面に下ろしたり。」


「お前、そんなことをしたのか!?」


怒ったように声を荒げ、剣を構えるユウ兄には目もくれず、ヴァールは続ける。


「けど、今はこんな事としている場合じゃない。それを分かってほしい……頼む。」


彼から感じるのは、本当に申し訳ないという思いと、今の状況を何とかしたいと本気で思っている感情だった。


「……こいつらは、大丈夫だ。」


彼がそう言う。

私は服を掴む手を離し、ヴァールさんに近づいていった。


横を通り過ぎた時「待て、葵!」というユウ兄の声は無視して。


「分かりました。貴方のこと、貴方の言葉を信じます。」


私は彼と同じ想いだった…『この人は、大丈夫』。

その気持ちが伝わるよう微笑んだ。嘘の無い本当の笑顔を。


「………。お前、いい女だな…結構大きいし」


「!!?」


ヴァールさんは目を見開いた後、私の胸部を見つめ突然そう言った。


私はバッと胸を隠すように手を置き、睨むようにして頬を赤く染めた。

ユウ兄と彼はというと素早い動きで私とヴァールさんの間に入る。


「ば、馬鹿野朗!!何処見てんだ!?」


(ユウ兄…。顔を赤くして言っても説得力ないよ)


「アオイ、やはりコイツは駄目だ。……切り刻んでいいか?」


真顔で物騒なこと言い出す彼を、どうやって止めようか考えているとマゼルさんの声が響く。


「ヴァール、何してる!それにアオナシエル様方も早く来てください!」


「は~い!マゼル様!」


何事も無かったようにマゼルに近寄っていくヴァールさんに続き、私達もマゼルさんの側に寄る。

勿論、私の両隣はユウ兄と彼が固める。


「セイリーン様!セイリーン様!!」


マゼルさんの手元を覗き込むと、そこにあったのは縁を銀色で統一させた手帳ほどの鏡だった。


マゼルさんの問いかけに反応するようにその鏡が光り出したかと思った瞬間、鏡の中に一人の女性の姿が浮かび上がった。

髪はさらさらの銀色のロングヘアー、瞳は金色をしていた。気品溢れるその姿に息を呑んでいると、鏡の中の彼女が話し出した。


『マゼル、そんなに呼ばなくとも聞こえています。…そこにいるのはマゼル、シック、ヴァール、ユーマ、アオナシエル、そしてイオゼリクで間違いありませんね?』


「はい…。しかし、その情報をどこで?」


『細かい事はいいのです。』


「は、はい…」


彼女とマゼルさんの話の中に出てきた名前に、私は横目で彼を見た。


(イオゼリク…って、彼の名前だよね?私……今まで気にしていなかったけれど、あの時――)


――『貴女にはイオゼリク様を誘き出す餌になってもらいます』


(そう言われて、初めて聞く名前のはずなのに…何故か彼だと思った。

今も…彼の名前を聞いて、これが初めてじゃない気がしてる……なんでだろう。)


「それで?何か良い案でも浮かんだのか?セイリーン。」


私の視線に気づいているのかそうでないのかは分からないが、彼…イオゼリクさんは鏡に向かって素っ気無く聞いた。


『え!?……ま、まさか『イッくん』から話しかけてくれるなんて!きゃー!』


突然態度がマゼルさんの時とは一変し、声高めのセイリーンさんは、顔をポッと赤らめ手で隠した。


そんな彼女をマゼルさん、シックさん、ヴァールさんは厭きれたように見つめ、私とユウ兄は呆然と見つめ…イオゼリクさんはというと。


「………鏡、割って良いんだな?」


無表情のまま、剣を取り出し鏡に突き立てようとしていた。


『まま、待ってちょうだい!!コホン、私が伝えたい事はね。』


真剣な表情に戻ったセイリーンさんに、私達は次の言葉を待った。

その時、またも大地が揺れ、皆剣を地に突き刺したり、地に手を着き耐える。


『よかった、ちゃんと動いたようね』


その揺れを鏡越しに確認したセイリーンさんが微笑んだ。

だけどセイリーンさんの瞳が、悲しげに揺れていることに気づいたのは私だけだった。


「いったい…何が!!?」


「大陸が、連結している!?」


いち早く立ち上がったシックさんとヴァールさんが、驚いたように大陸の端を見つめた。


そこには荒れた大地が広がる大陸が、私達のいる大陸と徐々に同化していく様が見て取れた。


「どういうことだ、セイリーン?」


イオゼリクさんもこれには驚いたようで、鏡の中のセイリーンさんを見つめた。


『今、貴方達のいる魔精大陸に向かって、魔界に残っている全ての大陸が向かっているのです。』


「何故そんなこと…をっ!?」


ドォン!と、マゼルさんが話している間にまた一つ大きな大陸が連結した。


『そんなこと聞かれるまでもありません。全ては魔界を救うため、そして同属である魔界人全てを護るためです。』


セイリーンさんがそう言った後、また一つ大陸が私達の側に繋がった。


そこは居住区のような場所だったのか、黒髪に金色の瞳をした人達が混乱したように騒ぎ立てていた。


「シック!ヴァール!お前達は住民を宥めに行け、私も直ぐに行く!」


「「はい!!」」


マゼルさんの声にシックさん達は混雑する大陸に駆け出していった。


「イオゼリク様」


マゼルさんはイオゼリクさんに鏡を預けると、一礼してシックさん達を追うように駆けて行った。


『イッく…コホン。貴方直属の部下『剣の騎士』に力を借り、今全ての大陸を繋げました。』


「“元”部下だ。それに、まだ全てじゃないだろう?お前のいる大陸がまだ来ていないじゃないか。」


鏡越しに確認したセイリーンさんをイオゼリクさんは睨み付けた。


その視線を真っ直ぐに受け止め、セイリーンさんはこう言い放った。


『私の全マリアを使い、魔界をグランド・マリアへと移します。』


――――彼女の瞳に、迷いはなかった。






此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


……クライマックスとか言っておいて、まだ終われてない!?


すみませんでした…。


次回こそ頑張ります

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