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#16 氷の中で

 冷たくて、寒くて、身体が動かない。目も開けることは出来ず、夢に見たあの感覚が私を襲う。


(怖い…こわいよ…助けて!!)


叫んでも叫んでも、誰にも声は届かない。周りはすべて闇に囲まれる。


(こんな、気持ちだったの?アリルさんは、こんな気持ちであの時いたの?)


頬を涙が伝い、私の心には恐怖しかなかった。

夢で見ているだけだった。

本当にあの人の辛さを分かっていなかったのかと思うと、涙が止まらなかった。


――――『…泣かないで?』


フワッと優しい何かが頬に触れた。

その温かさに、スッと心が軽くなる。


『私の…大切な存在、愛しい子』


「アナタは……。アリルさん?」


私の声に反応するように、頬にある温かさが

ビクッと震えた。


『私を…知っているの?……声が聞こえている?』


「えっと……“夢”でアリルさんの事を知りました。アナタが……亡くなる夢。」


『…っ…!』


息を飲むのが分かった。

目を開けている訳じゃないのに、アリルさんはすぐ側にいるような気がして……私は手を伸ばした。

気がつけば寒さも無くなり、体はまるで羽のように軽かった。


『私の“死”を……。そんな辛い想いを…させてしまったのね…っ…ごめんなさい!』


震えた声。

アリルさんが、泣いている。

伸ばしていた手が、温かな彼女に触れた。


「……。アリルさんは、悪くないです……だから、泣かないで下さい」


そう言って、目を開ける。

すると先程の闇が嘘のように晴れ、白い光が周りを包み込んだ。


私の目の前。

そこにいたのは……夢に見た時と変わらない、アリルさんだった。

揺れる栗色の長い髪、海よりも空に近い青色の瞳、初めてはっきりと見れたアリルさんの顔はとても優しげな、慈愛に満ちた女神のようだった。


(これも夢なのかもしれない。だけど、やっと…)


「やっと…会えました」


アリルさんが私の頬に触れているのと同じように、私も彼女の涙を拭うように頬に触れ、微笑みかけた。


『っ!!うう…わあぁーん!』


「えぇっ!?」


突然子供のように泣き出したアリルさんに驚き、私は慌てて手を離す。

すると彼女はその手をガシッと掴み、しゃくりを上げながら私を胸に抱き寄せた。


『なんてっ…なんてっ、良い子に、育ったのかしらっ!もうっ……可愛い!!』


「え、えっと…??」


ぎゅむっと胸に押し付けられ、訳が分からず彼女を見上げると、アリルさんはそっと目を閉じた。


『本当に…優しい子。……“イオ”をお願いね『アオイ』。』


「どうして、私の名前を……」


『それは……また会った時に話すわ。でも今は、私の話を聞いてくれないかしら?』


突然腕を放した彼女に、聞きたい事は山ほどあったけれど、私はアリルさんの『また会える』という言葉を信じ、彼女の声に耳を傾けることにした。


『今、魔界はたくさんの血が流れ、穢れが増している。このままだと魔界は穢れに飲み込まれ、世界自体が崩壊してしまうかもしれないの…』


「え!?」


『だからね、貴方の力を貸してほしいの。アナタの…“繋ぐ者の力”を』


「……そんな」


事態は深刻だ。そうアリルさんの瞳が語っている。

だからこそ不安は募るばかりだった。


(繋ぐ者としての力があるっていうのは確かに聞いたけど…。私なんかにそんなこと本当に出来るの…?)


今まで何も力がない人間として生きてきたのに、此処、異世界に来て私は『繋ぐ者』という、人間ではない種だと言われた。


実際にはそう言われただけで、本当かどうか分からない。

けれど、身体の中にある『何か』が自分は繋ぐ者だと訴える。


『アオイ…大丈夫よ』


「…っ!!」


いつの間にか自分を抱きしめるようにしていた私に、アリルさんがもう一度抱きしめてくれた。

その温もりに安堵する自分がいた。

どこか懐かしい、そんな温かさが身体に流れ込んでくるようだった。


『ごめんなさい、無理を言っていることは分かっているわ。けれど、こう考えてみて?

貴女の『大切な人達』を救うんだって…』


「私の…大切な人達?」


『そうよ。…見て、アオイ』


スッとアリルさんが片手を上げると、そこから淡いピンク色の光を放つ図形が浮かび上がった。

それは徐々に広がっていき、大きなスクリーンのようなものに変わった。


「あっ…ユウ兄!?」


そこに映ったのは、必死に何かに呼びかけているユウ兄の姿だった。


「…ユウ兄!!」


私はアリルさんの腕から離れ、スクリーンに近寄った。

しかし私の声は届く事はなく、ユウ兄は変わらず叫んでいた。


「なんで…」


『この子は、アオイが大切なのね。だから…必死に呼びかけている』


「え…?」


アリルさんの小さな囁き声に、私は振り向く。


『貴女には、この子のように貴方を支えてくれる人達がいるのを忘れないで?

そうすれば、きっと不安なんて直ぐに無くなっちゃうわ』


私を見つめるアリルさんが、嬉しそうに微笑んだ。


『アオイが、大切に想われていて良かった。さあ、アオイ……大切な人達を、私が出来なかった事をやり遂げて』


「アリルさん…?」


アリルさんが、まるで最後の別れのようにぎゅっと私を抱きしめる。


『私の力を、貴女に……』


「!!?」


その瞬間、眩いピンクの光が目の前を埋め尽くした。

そのあまりの眩しさに目を閉じると、温かな温もりが離れていくのが分かった。


「まっ…!待って、アリルさん!!アリルさん!!!」


『アオイ…あの人をお願い。貴女にしか…────は救えないから…』


「いや…いかないで…っ…アリルさん!!」


必死に手を伸ばすも、彼女の気配は光と共に消えていった。


「っ…ああっ…。」


涙が溢れた。

何故か分からないけれど、何か言わなくてはいけなかったのに…言えなかった。

そんな想いが胸を埋め尽くし、悲しさが溢れた。


「アリル…さんっ…」


蹲るようにして泣いていると、周りの白い光も消えていき、最初と同じような闇が覆い尽くしてきた。


「!!…泣いてる場合じゃないよね」


それに気づき、私は涙を拭うと決意を固め、辺りを見回した。


(此処がもし、夢なら…。目を覚ませばいい…)


「でも、どうやって?」


とりあえず何か方法はないかと思っていると


《…あお…!…葵!!聞こえてたら、返事をしてくれっ…葵!!!》


「この声……ユウ兄!」


聞きなれた優しい声が、上から降ってきた。


それと同時に、一粒の青黒い光が落ちてくる。それは私の目の前で止まると丸い手鏡のような形になった。


《葵…お前に嘘を吐いていた事…きちんと謝らせてくれ。俺は、葵とずっと一緒にいたい、絶対に護るから……葵が大切なんだ。だから…俺の声に答えてくれっ…葵ィー!!》


手鏡が映し出したのは、息を荒くしながらも私に必死に呼びかけてくれているユウ兄の姿だった。


(さっきのも、私に呼びかけていたんだね…!)


「ユウ兄!!ちゃんと、届いたよ…ユウ兄の気持ち。…私は、ユウ兄…ううん。私の大切な人達に会いたい…―――会いたい!!!」



―――――パキンッ…!パキパキッ…パキンッ!!!



「…!!!」


大きな音を立てて、氷の柱が砕け散った。

フワッと身体が浮く感じがした後、前のめりに倒れる感覚がした…だけど。


「葵!!!」


次の瞬間には、逞しくも優しい腕の中にいた。

その温もりの主は、私の大切な人だ。


「ゆ…うにい…?」


「あおいっ…!よかった…よかった!!」


少しきつめに抱きしめてくるユウ兄に、私は何の抵抗もなく抱きしめられる。

その温かさに、私はホッとして目を閉じた。


「ちゃんと、聞こえたよ?ユウ兄の声…。」


「葵…喋らなくていい…。もう、大丈夫だから…もう、大丈夫だ」


私の背中をさするユウ兄の手と声は震えていて、その言葉はまるで自分に言い聞かせているようだった。

私は寒さで震える手を動かし、ユウ兄の背にまわした。


「アオイッ!!」


抱きしめあったまま数分後、彼と私を閉じ込めた人…マゼルが一緒に空からやってきた。


ユウ兄に抱きしめられている間に何があったのか全てを思い出した私は、勿論その人に氷の中に閉じ込められた事も…思い出していた。


「マゼルッ!!」


私を優しく地面に座らせると、キィィンと音を立て大きな剣を出現させたユウ兄が、両手でその剣を構えた。


「大丈夫だ…コイツはもう、アオイに何もしない。」


飛び掛りそうな勢いのユウ兄と微動だにしないマゼルの間に割って入ったのは、彼だった。


「そんなの…っ!」


「ああ、アオイ。よかった……大丈夫か?」


「は…はい」


「おい!無視か!?」


一瞬でユウ兄を通り越し、私の目の前に現れた彼は、私の手を取るとその冷たさに顔をしかめた。


「今、暖かくしてやるから」


「え?……あ。」


ギュッと彼の胸の中に抱きしめられたと思った瞬間に、パァァと温かな光が体に流れ込んでくるのが分かった。


それは体中に広がり、私の体温が戻ってくるようだった。


「あの、ありがとうございます…」


「……礼はいらない、お前が無事ならそれでいいんだ」


腕を離した彼が笑顔を見せた。

それにつられるように、私も微笑み返したのだった。


「……そんな、あの氷を自力で解くとは」


降り立ってから、驚いたまま固まっていたマゼルさんが思わずというように声を上げる。


「お前の力は、アオイに及ばない。それは分かっていたのだろ?何を今更驚く。」


まだふらふらする私を支えるように一緒に立ち上がった彼が、マゼルさんを冷徹な瞳で見つめた…その時。


───ゴゴゴゴゴゴォオ…!!


「うおっ!?」


「っ!?」


「きゃあっ!」


「アオイ!!」


地鳴りと共に、大陸全体が激しく揺れる。

ユウ兄は剣を支えに、マゼルさんは手を地に着き、なんとか持ちこたえる。


私はフラつく足のせいか、踏ん張ることが出来ず倒れ込んだ。

それを彼が咄嗟に支え、私達はゆっくりと地に座り込んだ。


やがて揺れは収まったが、そこで異変に気づいたユウ兄が声を上げる。


「な、なんだ…あれ!?」


ユウ兄の声に弾かれるように、私達がユウ兄の視線の先を辿ると…そこには。


「……っ!」


────海が荒れた時に出来る巨大な波のような、大きな『闇』が私達に迫っていた。








此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


次回、魔界での戦いがクライマックス?!


……かも?


感想等もお待ちしております!

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