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#14 白と黒の攻防戦

 イオゼリクが魔界に現れてから数分後…。魔界の小さな大陸に、青黒い図形が現れた。

そこからは、スゥ…と一人の青年の姿が浮かび上がる。


「魔界に着いたな…。血がついたら、葵に嫌われるかな…。いや、そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!早く助けないと!」


黒き翼をはためかせ、制服姿の悠磨は今自分がいる場所を把握する。


(此処は……王都の真上か。葵を捕らえたのが魔界の者なら、城の牢が一番怪しいが……ん?)


とりあえず城へ潜入しようとした時、何人者魔界人が城から飛び出してきた。


揃いの漆黒の外套を羽織ったその者達は皆、文様のある剣を手にしている。


それは、魔界を守護する『つるぎ騎士(きし)』と呼ばれる、兵士の中でも上位の者達の証だと、悠磨は気付いた。


(なんで、剣の騎士が!?あいつ等は対魔物迎撃隊だろ!?俺は、魔物じゃねぇぞ!)


悠磨は小さな声で、素早く呪文を唱える。


すると、青黒い光が悠磨の手に集中し始め、やがて“剣”の形へと変わった。


青に近い黒の刀身は大きく、所謂両手剣のように大きいものだ。


(剣を使うのは久々だけど…。鈍ってるなよ!俺!!)


迫り来る騎士達に剣を構える悠磨。

だが、騎士達は悠磨には目もくれずに、通り過ぎていった。


「あ、あれ?」


状況がつかめず戸惑う悠磨は、振り返り騎士達を目で追った。


「な!天界人!?」


騎士達の行く先…何十人もの白い影と、黒い影が剣撃を繰り広げていた。


黒い影が白い影を斬りつけると、今度は白い影が黒い影を斬りつける。


両者の服や翼は、どんどん血の色に染まっていく。まるで地獄絵図だ。


「どうして…天界人が……」


「それは、結界に亀裂が入ったからだよ」


独り言のように呟いた言葉に、答えが返ってきたことに驚き、悠磨は素早く振り返る。


そこにいたのは、悠磨とさほど変わらない背丈の少年がいた。


「お前は……」


「久しぶり、ユーマ。」


「………イルク、なのか?」


悠磨に名を呼ばれ、イルクは深く頷いた。


「何年ぶり…か?ユーマは、アオナシエル様を迎えに来たんだよな?なら、アオナシエル様がいるのは魔精大陸だ。」


安易に手に入った情報に目を丸くするも、その真偽を探る悠磨。


「……どうして、俺に教えてくれる?親子共々魔界を“裏切った”俺に…」


唇を噛み締める悠磨に、イルクは一瞬驚いたように目を見開くと寂しそうに笑った。


「何故…?そんなの、簡単だ。ユーマが裏切ったなんて、少なくとも“俺達”は思ってない。友を見捨てるほど残酷にはなりたくないからな…」


「……イルク」


何かを言いたげに自分を見つめる悠磨に、早く行けといわんばかりにイルクは背を押した。


「マゼル様は手強いぞ。先刻、魔精大陸から強大なマリアを感知したから……気をつけろ。また、会おうな」


「ああ……また」


再会を約束するように、拳と拳を突き合わせる二人。


「そうだ、イルク」


「なんだ?」


「アオナシエルじゃなくて、アオイだ!覚えとけよ!」


悠磨はあえて『ありがとう』の言葉を飲み込み、魔精大陸に向けて飛んでいった。


「悠磨は変わったな、前より表情が柔らかくなった気がする。…それは、アオナシエ……アオイ様のおかげかもな」


遠ざかる悠磨に、イルクはそう呟くと剣の騎士達の後を追いかける。


剣と剣の激しい音が響く中、イルクは剣を出現させると声を張り上げた。


「剣の騎士達よ、魔界を護れ!!自身の命尽きようとも、一人たりとも光を通すな!……これは『剣の騎士 隊長』…イルク・バルローグスの命令だ!!はああああ!!」


高らかに、強さを秘めた雄叫びを上げ、イルクは天界人に向かって行った。



―――――魔精大陸の象徴である教会に似た建物が見えてきたところで、猛スピードで飛んでいた悠磨はふと宙に止まる。


(なんだ…?全身に鳥肌が立つような、この感じ…!)


強い『冷気』をその身で感じ、身震いをしたその時…!


――――ゴオオオオオォーー!!!


魔精大陸の建物が粉々に吹き飛び、そこから巨大な白銀の『蛇』がとぐろを巻いて現れた。


「な、なんだ…あれ!?」


魔界とはいえ、魔獣と呼ばれる生き物の中に確かに蛇は居るものの、建物より大きな蛇は見たことはなかった。


それは『グランド・マリア』『天界』でも、どうようのこと…だろう。


「白銀の蛇なんて、聞いたこともないっての!干支じゃあるまいし!」


もう一度青黒い剣を出現させた悠磨は、迷うことなく白銀の蛇のいる魔精大陸に向かう。

そこに、葵がいると信じて…。


「くっ!…冷気が強くなってきたな」


近づくに連れて、棘のように寒さが身体に刺さる。

それでも進む悠磨の前に、黒い影が横切った。


「お前…!」


「…!」


悠磨の声に気づき振り返った黒い影は、イオゼリクだった。しかし外套や服には切れ目があり、頬には切り傷。そして所々は『凍っていた』。


「アンタ、それ…」


悠磨がイオゼリクに触れようとしたとき、大きな口を広げ白銀の蛇が襲い掛かってきた。


「うわっ!?」


間一髪、悠磨とイオゼリクは左右に飛び、蛇の攻撃を避けた。

だが蛇は身体をくねらせると、悠磨目掛けて再度突進してきた。


(くそっ…!!)


先程の攻撃を避けた反動でバランスを崩していた悠磨は、咄嗟に剣を盾のように自分の前に持ってくるも、蛇の攻撃をまともに受けてしまった。


「ぐっ…あ!!」


ブンッと空気を切る音がし、悠磨は魔精大陸へと吹っ飛ばされた。

大陸の大地にめり込むようにして倒れた悠磨に、蛇は次の攻撃を仕掛けようと大口を開けた。


「マゼル!!」


それに気づいたイオゼリクが、悠磨を庇うように蛇の注意を自分に向けさせた。


シュルル…と舌を出すと蛇は、イオゼリクの思惑通り悠磨から標的をイオゼリクに定めたようだった。



「いっ…てて」


むくりと起き上がった悠磨の腕からは少量の血が流れていた。

だがそれ以外のところには特に外傷はなく、無傷といっても過言ではなかった。


(魔精大陸に来る前に防御魔法をかけておいたおかげで助かったな…)


剣を支えに立ち上がった悠磨の目の前に、イオゼリクが舞い降りた。


「無事だったか…しぶとい奴だな」


「はあ?…っていうか、あれ!?アンタ、双子かなんかなのか!?」


イオゼリクの素っ気無い態度にムッとするも、悠磨は驚愕の表情で目の前と『上空』を凝視する。


上空では漆黒の剣を片手に、蛇と対峙しているイオゼリクがいた。だが、目の前にも同じ剣を持つイオゼリクがいるのだ。


「あれは幻影分身だ。魔法で作ったマリアの塊に、俺の姿を取らせた物だ。だが長くは持たない、急ぐぞ…来い!」


簡単に答えを教えると悠磨に背を向け、崩れた建物の瓦礫に近づいていくイオゼリク。


(簡単に言ってるけど、相当なマリアがなければ分身なんて作れないだろ…)


そんな彼を、悠磨は呆然と見つめることしか出来なかった。


「…。結界は壊れていないようだな」


我を取り戻した悠磨が慌ててイオゼリクに追いつくと、彼は幾つかの大きな瓦礫を退かしていた。


そして全ての瓦礫を退けたところから出てきたのは、大きな氷の柱だった。

彼が張ったと思われる結界に覆われた氷柱は、傷一つなかった。


「な……」


だが、その氷柱を見て悠磨は言葉を失う。


服装は違えど、その顔、その優しい雰囲気…。それら全てが葵のそれだった。


「…っ…アオイッ!!!」


駆け寄り氷柱に触れた悠磨は、その冷たさに顔をしかめる。

微かにしか感じられない葵のマリアに、悠磨は焦りを見せ氷柱に左手をかざす。そして『炎』の魔法を詠唱し始めた。


「やめろ!」


「…!?」


だが左手首をイオゼリクに掴まれ、止められる。


「放せよ!このままじゃ、葵は!!」


「分かっている!だが、炎の魔法は『溶かす』どころか、中のアオイごと壊してしまうぞ!」


「!!」


何故イオゼリクが止めたのか理由が分かり、悠磨は青ざめる。


魔法は便利であると同時に、一歩間違えれば取り返しのつかない事になりかねない。

それを知っているからこそ、悠磨は自分がやろうとしていた事が葵を危険な目に遭わせる行為だったと気づき、反省した。


そんな悠磨から手を離し、イオゼリクは氷柱を見ながら悠磨に問いかける。


「氷結の魔法は、二通りあるのは知っているだろう」


「ああ、一つは『氷らせる』魔法…これは炎の魔法で溶くことができる。だがもう一つの『凍らせる』魔法は、かけた本人しか解くことが出来ない『封印』の魔法。……じゃあ、この氷は!」


「封印の方の氷だ。」


「なら、かけた相手…マゼルを連れてくれば良いんだろ!?」


「それは、無理だ…」


淡々と答えるイオゼリクに、悠磨は苛立ちを隠すことなく声を上げる。


「何でだよ!?早くしないと、葵は一生このままだぞ!」


「マゼルを連れてくることで良いなら、俺がとっくにやっている!それが出来ない理由はあれを見れば分かるだろう!!」


冷静そうに見えていたイオゼリクが声を荒げたのに驚きつつ、悠磨はイオゼリクが示す方向に目を向ける。

そこには、分身イオゼリクと戦う白銀の蛇。


(え……まさか)

「あの蛇が、マゼル!?」


悠磨の声に、やっと気づいたかと言わんばかりにイオゼリクは腕を組んでいた。


「召喚の魔法で、稀に召喚した生物と融合出来る者がいる。……マゼルもその一人だ」


イオゼリクの言葉に、悠磨はもう一度上空の蛇を見る。

白銀の蛇は、動物ではありえない知性を持っているような動きで、分身イオゼリクの攻撃を避けていた。


(そういえば聞いたことがある…。魔界でも先王とその王妃、そして『現王』の三人とその重臣の二人。この五人だけが『召喚融合』を使えるって……その一人が、マゼル)


「そんなの…同じ召喚融合が使える奴じゃないと、倒せないじゃないか!」


悠磨は己の無力さに苛立ち、剣を地面に突き立てる。


「葵はこのままじゃ…。」


剣の柄を強く握り締めながら、瞳を揺らし氷柱の中の葵を見つめる悠磨。


そんな悠磨を見つめ、イオゼリクはある決心を固めようとしていた。


(……本当に、アオイのことを想っているのなら。コイツにかけてみる…か)


漆黒の剣を構え直し、肩にある留め具に手を掛け外套を外すと、イオゼリクは悠磨に言い放った。


「マゼルに溶かせる以外に、氷を解く方法はある」


「!?…本当か!?」


驚く悠磨に深く頷くと、イオゼリクは氷の中の葵に目を向けた。


「アオイが自ら氷の魔法を破る事だ。外が駄目なら中から、だ」


「そんなこと……葵は今眠っているのと同じだろ?どうやって解くって―――」


「アオイはちゃんと戦っている、氷の中で。だから…お前が呼びかけろ。」


「呼びかける…?」


翼をより大きく広げ始めたイオゼリクに、風が巻きつくように吹く。


「そうだ。お前の声に、アオイはきっと反応する。そこから開放するきっかけを、貴様が与えろ。」


「きっかけを?……そんなの、俺に出来るわけない」


悔しそうに俯く悠磨を、イオゼリクはきつく睨む。その瞳は、何故?何に迷う?と語っていた。


(俺は葵に嘘を吐いた。葵を泣かせた、葵を騙した!…こんな俺の声に、葵が答えてくれるはず……ない!)


悠磨の葛藤が伝わったのか、イオゼリクは無言のまま悠磨に近づいた。


――――ゴッ!!


「!!」


「しっかりしろ“ユーマ”!貴様の気持ちなど二の次だ!今、目の前のことだけを考えろ!お前は、アオイを助けたい…。そうじゃないのか?!」


「…ッ!!!」


殴られた頬を抑えたまま、悠磨はイオゼリクに言われた言葉を一つずつ理解していく。


(そうだ…。たとえ声が届かなかったら、届くまで何回も呼びかければいい。俺は、葵を…!!)


悠磨の瞳に光が宿る。

それを見たイオゼリクは、少しだけ笑みを見せた。


「頼んだぞ、ユーマ。俺は、マゼルを足止めする…運がよければ、そのまま倒してアオイの魔法を解かせてみせる。それまでは…アオイを護ってくれ」


「え…ま、待てよ!簡単に倒せる相手じゃないだろう!?」


飛翔しようと一気に翼を広げたイオゼリクに、悠磨は詰め寄る。

そんな悠磨に驚いたように目を見開いたイオゼリクは、直ぐに表情を戻し悠磨を睨んだ。


「貴様は……人の心配をする前に、アオイに集中しろ。俺が、マゼルごときに負けるはずが無いだろう」


「な!?だったら、早く倒して来いよ!!」


照れたように赤くなった顔を見られないように悠磨が背けた瞬間、黒い光が背の方から瞬く間に辺りに広がっていった。


光の眩しさに思わず目を閉じた悠磨が、次に目を開けたときにはイオゼリクの姿は無かった。


「なっ…なななな!!?」


だが、代わりにそこにいたのは…――――


鋭い牙を持ち、全身は漆黒の毛色で、揺れる尾はフサフサ。

四本足の先には悠磨の背丈ほどの大きく鋭い爪。

そして形の良い少し尖った耳に、その下には強さと知性の光を宿した…大きな“銀の瞳”。


それら全てを携えた、巨大な美しい『漆黒の狼』だった。────







此処まで読んで下さり、ありがとうございます!



あの狼はいったい何者なのか!?


魔界での攻防戦、次回も続きます!



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