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#10 隠す真実と不安

フワフワと心地いい浮遊感に、私は自然と笑みを浮かべた。


『気持ちよく……寝てるな』


すると浮遊感はなくなり、頬に温もりを感じた。

その心地よさに、私は体の力を抜く。


(……あったかいなぁ……落ち着く。……あれ?…前にもこうやって、誰かが膝枕してくれたような……ん?──膝枕!?)


ハッと、一気に目が覚めた私は、自分が横向きに、誰かの膝の上に頭を乗せて寝ていることに気づき、恐る恐る顔を上に向けた。


「お?…目が覚めたんだな、良かった!気分はどうだ、葵?」


手を置き優しく撫でながら、ホッとしたように微笑むのは、ユウ兄だった。……つまりは膝枕をしているのもユウ兄ということで…。


私の思考はそこでストップし、ユウ兄を見上げたまま固まる。そして───


「き……」


「…き?」


「きゃあああぁ!?」


「うわあ!イテッ!?」


ドサッという音のあと、ゴツンという音がした。


「どうした!!」


私の悲鳴に彼が駆け寄ってきた。

そして、赤面しながら半泣き状態で座り込む私と、私に突き飛ばされ後ろにあった木の幹に頭を打って後頭部を押さえうずくまるユウ兄を見て、彼は腰にある剣の柄に手を掛けた。


「貴様…アオイに何を……」


まるで地獄の底から聞こえてくるような低い声で、彼はユウ兄との距離を縮める。


「いや、待て!お、俺は何もしてないっての!ただ、葵が寝心地悪そうにしてたから“膝枕”しただけで…!」


「膝枕……だと?」


「ひっ…!?」


彼の銀色の瞳がユウ兄を捉えた。

今にも射殺しそうなその瞳に、冷静さを取り戻した私は立ち上がり彼の手を取った。


「ま、待って下さい!…私が勝手に驚いただけで、ユウ兄には悪気はないんです!だからっ…!」


「分かった。」


私の言葉に素直に彼は、半分ほど抜いていた剣を鞘に戻し私を見つめる。


「アオイに何も無いのなら、それでいい。……目覚めて良かった」


ポンと頭に手を置くと、彼は優しく私の頭を撫でてくれた。

気恥ずかしくはあったが、それよりも嬉しさの方が上回っていた。


「葵の言うことは素直に聞くのかよ…」


ユウ兄がボソッと呟いたけれど、私は気づかなかった。

私は改めて、彼の顔を見上げた。


(初めて逢ったときから不思議と、この人の側にいると落ち着くなぁ……どうしてかな?)


ユウ兄を睨んでいた彼が、私の視線に気づいたのか、私を見下ろし微笑んだ。

その笑顔を見た瞬間に、私の鼓動が早まった。

ドクンッ、ドクンッと脈打つ鼓動が、まるで何かを知らせるように、私の体を熱くさせた。


(胸が痛い……でも、苦しくない。私は、この人を以前から知っている…の?)


何故そう思うのか、自分でもよくわからなかった。

ただ分かるのは、この感情は『恋』ではないということだけだった。


「あ、政稀…」


彼の威圧感から解放され、ホッと息を吐いていたユウ兄が、此方に向かって歩いてくる政稀兄さんを見つけ立ち上がった。


そこで私は辺りを見回し、此処が処刑所でないことに気づいた。


濃い緑の葉が生い茂る木々に囲まれ、地には色とりどりに咲く花々。

政稀兄さんが歩いている所はまるで、神聖な地と言われても納得してしまいそうに澄んだ空気が漂う緑の草原。

その向こうには、青々とした空色の湖が広がり、綺麗な月が映っていた。


(また、違う場所…)


「!……良かった、葵…目が覚めたんだな!」


起きている私を見つけ、政稀兄さんは安堵したように駆け寄ってきた。


「政稀兄さん…此処って――」


「この向こうに小屋があったから、そこで休むことにしよう…な、葵?」


(……え…)


今まで私の言葉を遮った事の無い政稀兄さんが言葉を遮り、背を押すように歩きだした。


「へぇー!小屋か!いいな、よし!行こうぜ、葵!」


政稀兄さんと同じように私の手を取り、引っ張るようにしてユウ兄も歩き出す。

だけど、私は一歩も動こうとはしなかった。


「あ、葵?」


動こうとしない私の顔を、ユウ兄が覗き込んだ。

そんなユウ兄の手を振りほどき、私は政稀兄さんからも距離を取った。


「待ってよ…二人とも変だよ!どうして、こんな所にいるの?…先程まで処刑所にいて、ユウ兄が火の中に埋もれて…っ!私もあの高さから落ちたのにどこも…怪我してないんだよ?」


バッと顔を上げ政稀兄さんとユウ兄を見つめた。

二人の顔はどこか焦っているような気がした。だけど、私は言葉を続ける。


「また、魔法か何かなの?……また、私には何も教えてくれないの?」


「葵…」


何か言いたげに私の名前を呼ぶ政稀兄さん。

だけど私は止まらなかった。まるで、感情を抑えられない子供のように…。


「政稀兄さんもユウ兄も…私に何か隠そうとしてる!…此処に来て、色んな事が次々に起きて…。目の前で…っ…ユウ兄が殺されそうになったり、分からないことだらけで…!」


そこまで言って、自分が泣いていることに気付いた。

彼に逢ったときも泣いてしまったことを思い出す。


(私……ずっと不安だったんだ。…ユウ兄達に会えてホッとしたのは本当。だけど…)


「……怖かった。…ユウ兄と政稀兄さんが人間じゃないって知った時からずっと考えてたこと…。」


私は涙を拭うと、意を決して口を開く。


「私は…っ…二人と同じで人間じゃないのかな…って……。」


「!!」


政稀兄さんとユウ兄は驚きに目を見開いた。

その表情が私にはどこか、言う前に言われてしまったと驚く表情に見えた。

私の言葉に、ユウ兄が焦ったように口を開く。


「…なっ何を言っているんだ?…葵、お前は人間だよ!…俺達とは“違う”ちゃんと人間だ!…だ、だからっ…」


「分かった……もういい」


ユウ兄の言葉を遮り、私は俯き拳を強く握る。

そして、溢れ出す涙を拭うことなく…政稀兄さんとユウ兄を見上げた。


「政稀兄さんもユウ兄も…本当のことを話す気はないんだね…」


「ち、違う…そうじゃなくて…」


「私……もう、わからないよ…二人のこと。…家族なのに、大切なのに……ユウ兄と政稀兄さんの気持ち、わかんないっ!」


涙を止めることなく、私は二人に背を向けて走り出した。


「葵!!」


私を引き止めるように叫ばれた名前を無視し、私はひたすら走った……心を落ち着かせる為に。


────「くそっ…!」


悠磨が髪をかき乱し、唇を噛み締めた。  


「葵のこと…大切にしたいのに、どうして…。……泣かせちまった…」


悠磨は片手で顔を隠すように、そう呟いた。

俺にも悠磨の気持ちが痛いほど分かった。いや、同じ気持ちだと思う。


(葵を泣かせた…自分が許せない。)


事情なんて、葵が知りたいのなら、教えれば良いだけのことだ。だが、それをしないのは…俺達が臆病者だから…。


(葵に…真実を知られるのが、怖いなんて……。まだまだ、子供なのかもな…俺も悠磨も。)


自分の不甲斐なさに、笑みすら浮かべる。

だが、大切に想うからこそ…悲しい顔をさせたくないから、言えなかった。なのに、言わないことで悲しい顔にさせてしまった。


「貴様等は、バカだな。…いや、阿呆か?」


その時、今まで黙って聞いていたあの男が、開口一番にそう言った。


「は、はあ!?…なんでアンタにそんな事言われなくちゃいけないんだよ!」


悠磨が苛立ちをぶつけるように、男に詰め寄り胸ぐらを掴んだ。

だが、それをいとも簡単に払いのけ、男は葵が去っていった方に足を向けた。


「少しはアオイの気持ちを考えたらどうだ?……アオイは何も知らない場所に一人来てしまい、不安でいっぱいなんだ。」


「そ、そんな事分かって…!」


「分かっていないだろう!」


「…!?」


男が声を張り上げた。

初めて聞いた男の怒声に俺達は目を見開き、男を凝視する。


「貴様等はアオイの何を見ている?…信頼しているからこそ、何も聞かずにアオイはついて来ていたんだろう。それすら分かっていない貴様等に、アオイの何が分かる」


正直何も言い返せなかった。

この人の言う事は正論で、俺達は葵の不安を煽ってしまっていたのかもしれない。


「……やはり、貴様等の側にアオイを置いておくことは出来ない」


そう言った男の背中に、漆黒の翼が一瞬で現れた。

そして、顔だけを俺達の方に向けると、感情のない銀の瞳で睨みつけた。

そして風を巻き起こし、葵が走り去った方向に飛んでいった。


「……なんで、葵のことが分かるんだよ」


悠磨が崩れ落ちるように座り込んだ。

そんな悠磨の肩に手を置き、俺は葵と男が消えた方向を見つめた。


「だが…あの人の言うことは本当だろう?俺達は知らず知らずの間に、葵を不安にさせまいと思ってやっていた事と、反対の事をしていたんだから…。」


「……反対?」


俺を見上げ、聞き返す悠磨に、自嘲気味に微笑んだ。


「…葵に黙っていた事が、葵を守る為ではなく…。自分自身を守る為だったってことだよ。」


「………。」


俺の言葉に悠磨は俯き、考え込むように黙り込んだ。

そして、次に顔を上げたとき、悠磨の瞳には強い意志が浮かんでいた。


「……政稀、葵を追いかけよう。謝って許してくれるか分からないけど、今度こそ全部打ち明けよう。」


「ああ、そうだな」


立ち上がり歩き出す悠磨に続き、俺も決心を固め、前を見据えた。



───相手を傷つけない為の嘘がある。

それは、分かっている。だって、ユウ兄たちが私に本当のことを教えてくれないのは、私が傷つくと思っているから…。


「アオイっ!」


「きゃっ…!」


闇雲に走っていた私の目の前に、漆黒の翼をはためかせた彼が舞い降りてきた。


「……大丈夫か?」


地に足を着けた彼が、心配そうに私の顔を覗き込むと、赤くなっている目の端を優しく撫でた。

そして、真剣な眼差しで、こう切り出した。


「……アオイ。この世界のこと、お前が前いた世界のこと……お前が知りたいのなら、俺は真実を教えよう」


「!!……ほんとう…ですか?」


震える声でそう言った私に、彼は深く頷く。


「お願いします!!私……知りたいんです!!」


掴みかかる勢いの私に、優しげな瞳を向け、彼は微笑んだ。


「……分かった。教えよう…──」


彼の話しに私は耳を澄ました。


「──…この世界は『天界』『魔界』そして、『グランド・マリア』という三つの世界が同時に存在する世界なんだ。」


「世界が三つ!?それって、バランスとかその……色々、大丈夫なんですか!?」


驚きを隠せない私を、側にある木の根元に座るよう促した彼は、私が座るとその隣に腰を下ろし話を続ける。


「そうだな…。だが不思議なことに、世界のバランスは常に保たれていた。それは、天界をすべる“光の者”と呼ばれる天界人(てんかいびと)と、魔界をすべる“闇の者”と呼ばれる魔界人(まかいびと)が、決して交わらない位置にいたからだ。」


「交わらない位置?それは……交わると、どうなるんですか?」


私の言葉に一瞬、躊躇いを見せた彼だったが、静かに口を開いた。


「……光は闇を消し去る力を持ち、また闇も光を飲み込む力を持っている。お互いがお互いを敵視し……やがて戦争になった。」


(え……“なった”?)


胸に抱いた疑問を問う前に、彼が悲しげに言った。


「……今が、その状況なんだ。…天界と魔界は今、戦争の真っ只中だ。」


「っ!!?」



────彼の真剣さに、それが私の知りたかった“真実”だと理解したのだった。






此処まで読んで下さり、ありがとうございます!


葵を大切に思う悠磨と政稀。…不安を抱える葵と仲直り(?)できるといいのですが…。   

次回は、今回明かされたこの世界で起きていることについての続きを“彼”が話してくれます!

そして、ついに彼の名前も明らかに!?──



それから、この話で「天界と魔界を繋ぐ少女」も10話になりました!


これからも、読んで頂けたら…嬉しいです。

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