エルフの里の変化
大戦が終わってから数年後
ミルフィーの元にはエルフの里の自警団隊長が来ていた。
「長老が死にました。次の長にミルフィー、貴方が選ばれています。」
「はぁ?なんで私なのよ?」
「なので里まで一度来てください。」
「ちょ、ちょっと!なにこれ強制なわけ?」
ミルフィーは隊長に手を掴まれ連れてかれてしまった。
途中なんども抗議をしたが聞く耳を持たず、同じ言葉を繰り返していた。
「なんで私が…。よりによって私なのよ?」
「それは貴方がハイエルフ、いえ。貴方はエルフに貢献してくれました。」
「何もしてないわ。貢献どころか逃げて里の迷惑に貢献したわ。」
「それは既に解決した問題です。」
「じゃ、何よ。」
「私達が知らないと思っているのですか?先の大戦貴方出られましたよね?」
「それがどうかしたのかしら?」
「そこで貴方は力を振るいました。ここまではいいんです。その後が問題です。」
「問題ってなによ?」
「貴方の力を見た人間たちが私達と同盟、いや国家として手を組もうと使いの者をよこしたのです。今まで下衆な考えしかしていなかった人間がです。」
「つまり尻拭いをしろっていうのね?」
「悪い言い方だとそうなります。つまりミルフィー、貴方に抑止力になって貰いたいのです。」
「嫌な話ね。」
「それは皆わかっています。しかし、強大な力を持つ貴方を欲しがる国は有るでしょう。アインスやクォーツィ、スペルチェならまだ心配はありません。心配なのは大陸外の国です。あの戦いには外の兵器の実験も行われました。その時に見られているのです。」
「手土産持ってごますりにきたのね?」
「その通り。大使様方がお見えになりました。」
「そのことをアインスとかには?」
「伝えておりません。」
「…なら良いわ。後で処理しましょう。」
ミルフィーが里に着くと若いエルフが対戦前に見たこと有る物を所持していた。
それはクロスボウだ。
恐らく手土産で持ってきたのだろう。
以前見たタイプより小さいがその分射る速度が早そうだ。
それに機構に改良が加えられており威力も上がっている。
ミルフィーはそんなものを持って何をしているのか聞いてみたのだ。
「なんでそんなものを持っているの?」
「私ミルフィー様にあこがれて冒険者になりたいのです!だからこうして練習をしているのです。」
「…ふーん。魔法も練習しなさいよ。」
「はい!」
「このようにミルフィー様の武勇伝を過大に説明して帰っていったため、若者の一部がああいうふうに冒険者志願を始めたのです。」
「そうなの。敵を吹き飛ばしたくらいしかやってないはずなんだけど…。それにしても貴方の喋り方似合わないわね。」
「…次期長なのですからこのぐらい当たり前だ…です。」
「今おかしくなかったかしら?」
「…早く長の家に行きますよ。関係者が集まっているはずです。」
ミルフィーは元長の家の中に入るとそれなりに偉そうなエルフ達が六人ほど集まっている。
「きたか。」
「何よ。いきなり呼び出して、こっちはマキナの世話で大変なんだけど?」
「それは済まなかったな。しかし聞いてのとおりだ。あいつらの目を見て確信したのだ。あいつらは何としてでもミルフィーの力を手に入れようとしている。そのためならば手段を選ばないと。」
「そんなもの放っておきなさい。マキナが構築した結界が有るでしょ?」
「それもそうだが、そうしたら森に出ることができなくなる。」
「食料確保ができなくなると同時に孤立する可能性があるのね…。」
「そうだ。我々には交渉を受け入れるという手段しか無いのだ。」
「…はぁ…めんどくさいわ。長なんて柄じゃないけどいいわ。なってあげるわよ。」
「おお。これで里が助かる…。」
「もうこの瞬間から私が長なのよね?なら命令するわ。アインス、クォーツィ、スペルチェ、カーディにエルフ国家設立を宣言しなさい。アインスには土地の交渉を始める。そして各国との同盟を締結し、安全保障を結ぶ。わかった?早く使者を送りなさい。」
「は、はい。」
そう言うと慌ただしく偉そうなエルフ達は外へ出て行った。
「はぁ…めんどくさいわ。冒険者も廃業かしら。」
そう言いながら今は亡き長の椅子に座るのだった。
それから数日後各国にエルフ国家が設立すると言う宣言がなされた。
皆エルフが国家を作ると聞いて興味を示していた。
エルフの里は元々アインス領土内に合ったため領土交渉が行われることとなった。
この時の王はまだ父親の代で合ったが翼人戦争やマキナ達チームの貢献なども重なり交渉は割とスムーズに進んでいく。
領土に関してはエルフの里から左側からクォーツィまでの森全てとエルフの里後方海までということになった。
領土の案件を解決すると次に同盟と安全保障の案件の話を進めていく。
「そうか。外の国か…外の奴らに好き勝手にやらせるわけには行かないからな。」
「そうなのです。外の国の大使が手土産を持ってきての同盟を求めて来た。しかも国でも何でもない里で。」
「明らかに力を狙っているな。それに持ってきた手土産は力の保持を表しているのかもしれないな。」
「それもあるかもしれないですね。」
「アインスとしては外の大陸が干渉してくるのは困る。争い事の種になりかねない。」
「では安全保障の方を。」
「そうだな。ここで提案なのだが、森があのままだと騎士達がうまく動けない。なので少し森を切り開いてくれないか?」
「いいですよ。それに里…国の結界の解析もはじめなければなりません。」
「結界の解析?解析以前に里の結界はエルフ達が張ったものじゃないのか?」
「いえ。マキナに壊されました。」
「マキナ殿か…。で、解析というのはマキナが創りだした結界のことだな?」
「そうよ…です。」
「もうよい。いつもどおりの口調で話せ。ここに居るのは皆知り合いだ。」
「そうね…。元々合った結界はマキナが怒って壊したのよ。それで新しい結界を張り直してもらったんだけど、術式が私達の使っているものとはまったく別の方法で魔法が発現してるから、その術式の解析から始めないといけないのよ。」
「そうなのか。結界の一部に穴を開けることは出来ないのか?」
「それをやろうにも術式がわからないのよ。わかれば門の位置だけ穴を開けて入り口を作れるのだけど。今だと内部から手引きしないと人は入れないのよね…。」
「ふむ…。肝心なマキナ殿は未だに眠ってしまっている。解析からはじめなければいけないのか?」
リンネが言葉を発した。
「国王様。私に考えがあります。」
「なんだ?言ってみよ。」
「はい。魔石を使って強制的に結界を抉じ開けることができます。それを使ってエルフ国家の大規模結界に穴を開け、魔鉱石の門でそれを固定します。」
「ちょっといいかしら?地脈を使って結界を張っているのよ?どこからそんな大きな魔力を供給して穴を開けるのかしら?」
「どこって地脈使えばいいじゃない。」
「どういうことだ?」
「はい。同じ地脈の魔力を使用して結界に穴を開けます。同じ量の魔力を魔石に供給するならこれが現実的かとおもわれます。」
「そうか。なら大型の魔石を貸し与えるとしよう。その魔石が結界を中和している最中に先に作っておいた門を穴の空いた結界に組み込めば良かろう。」
「ありがとうございます。」
「実験中の魔法式だから暴走しても許しなさいよ。」
「結界が壊れなければいいわ。」
「魔石を壊さなければ良い。」
「は、はい。全力で暴走を防がせてもらいます。」
その日エルフの国とアインスで領土、安全保障の条約が結ばれ、アインスから魔鉱石で出来た門を貰い受け、魔法式が組み込まれた大型魔石を借りたのだった。
次の日、ミルフィーは馬車にそれらを乗せると里へと戻っていく。
「…国に入れないじゃない…木が邪魔で馬車が通れないわ。」
ミルフィーはいかにもめんどくさそうな表情をしながら木を魔法で切り倒していく。
地面も平らにしつつ馬車を少しずつ前へと進める。
やがて音に気がついたのか武装したエルフたちがミルフィーの頭上へやってきた。
「おそい。あなた達も手伝いなさい。」
「は、はい!」
そう言うと国から出てきたエルフ達と道を作り始めた。
それは大型の馬車一台が通れる程大きな道だった。
「切り倒した木は枝を落としてそこらに置いて。後で片付けるわ。」
「わかりました。」
ようやく国へ到着すると次に土の魔法を利用して穴を開けていく。門を埋めるためだ。
門は縦五メートル、幅六十センチと大きいが薄い長方形だ。
これだけでもエルフの国の予算以上の金額がするのだ。
結界の両側から穴を開けると結界を中心に深さ二メートル程の穴が掘られた。そこに門を借り置きする。
ミルフィーは地脈の湧き出る場所へ向かうと魔石に魔力を供給し始めた。
数分もすると魔石は魔力を取り込み終えたのか光輝き、強い魔力を発し始めた。
「よし。これで結界を中和して門を組み込めばいいのね。」
そう言いながら地脈の洞窟から出て行くミルフィー。
エルフたちが集まっている中ミルフィーは魔石を結界に近づけた。
すると魔石がより一層光を放ち、結界に波紋が生じた。
波紋の中心から穴が開き始め、やがて門以上の大きさの穴が出来上がった。
「今よ!結界に合わせて門を移動させなさい!」
「了解!」
自警団のエルフたちは門を結界の間に移動させる。
それと同時に魔石の光が鈍り、結界が元に戻り始める。
魔鉱石製の門と結界がぶつかると門は強い光を発し、魔力を吸収し始めたがやがて許容量を吸収したのか光は収まり結界に固定された。
「よし。後は土を戻して終わりよ。」
そう言うと自警団のエルフ達が魔法を使い土を戻していく。
高さ三メートルを残し、門が土に埋まり結界に穴が開いた空間が出来上がった。
「よし。これで完成ね。」
魔鉱石の門はその性質上魔力を供給すればするほど強度が上がるため今では門を傷つけることは非常に難しくなっている。
更に魔法式が組み込まれており、緊急時には門の内側に結界を張ることができる。
ミルフィーは一度切り倒した森へ戻ると重力魔法を利用して木を持ち上げ里に持ち帰ってきた。
一同はそれに驚いていた。
何せ木が中に浮いているのだ。
ミルフィーは木を一箇所にまとめると指示を出した。
「これで門の内側に入国管理室を作り反対側には内壁を立てなさい。」
「わかりました。」
「余った木材は馬車に乗せてアインスへ無償提供するわ。今回の礼よ。」
そう言うとミルフィーは長の家へと戻っていく。
「はぁ。疲れたわ。」
「お疲れ様。」
そう言うとお茶が出された。
ミルフィーは目を向けるとそこにはコフィーがいた。
「お母さん。ありがとう。」
「いいのよ。まさかミルフィーが長になるなんて嘘みたい。でも今は疲れたでしょう?お茶でも飲んで休んで。」
「そうね。」
「そういえばこの里の名前はどうするの?」
「そうね…エルフ国じゃ面目がないから…この国の名前はコーティにしようかしら。」
「コーティ?」
「ええ。ハイエルフのコーティよ。戒めも込めてつけることにするわ。差別がないようにね。」
差別。
それはハイエルフとエルフの歴史に関することだ。
それを戒めに国名を付け、これからこのようなことがないようにしようと考えたのだ。
翌日ミルフィーはこの事を発表した。
各国にはエルフの里改、コーティ国と改名したと使者を送った。
アインスには切り倒した木と魔石が返還され、アインスとの直通の通信用魔道具を渡され、騎士の一部がコーティ国に送られた。
その後外の大陸から大使がもう一度やってきたが、その変わりように驚いていた。
大使はこの国について聞かされ、眉間に皺を寄せていた。
大使達国の考え通りに事が運ばなくなってしまったのだ。
コーティ国家はまだ出来立てだが防御力は恐らく世界で一番強い。
ドラゴンの攻撃にも耐える結界が張られているのだ。
更には各国との安全保障も結ばれ何か合った時には大陸間の全面戦争になりかねない。
大使は色々と話したが、ミルフィーには通じず逆に論破されてしまった。
最後には脅しを掛けて来る始末だったが、相手には未知の魔法であろう重力の魔法で空に浮かべ地面すれすれに落として身の程を教えていた。
大使は直ぐに逃げ出していった。
恐らく諦めるだろう。
こうしてエルフの里改、コーティ国家が誕生したのだった。
他の国との交易も始め、エルフを対等に扱う条約を締結していく。
このことからエルフの冒険者が一人二人と増えていく。
コーティ国にも観光として色々な人間などが訪れたりもしていた。
最初はギスギスしていたが次第に慣れ始め今では人間もエルフも変わりがないように接している。
エルフの里に新たな風が舞い込む。
これからエルフの里は徐々に変化していくだろう。




