カタストロフィー 舞台の終わり
マキナは世界を満たす魔力を翼へと形創った。
それは青い翼。魔力その物。
マキナはその翼を使い、空へと浮かび上がる。
「右脚、左腕脱着。ATSから右足、左腕を転送、装着。稼働チェック開始。」
マキナが破損した体の一部を交換し、チェックしていると邪龍から先ほどのブレスが放たれた。
マキナはそのブレスを冷静に見ると世界から膨大な魔力を捻り出した。
「ディメンションシールド。」
マキナがそう言うと邪龍のブレスはマキナの前で見えない壁にぶつかるかのように飛散して行く。
邪龍がどれだけ威力を上げようが次元障壁は破ることは出来なかった。
"機体負荷十三パーセント”
「チェック完了。ディメンションアンピュテーション。」
マキナがそう言い放つと邪龍に手を向けた。
その瞬間世界が切り取られたように黒く染まった。
それは邪龍へと迫り片翼を意図も簡単に切断する。
"機体負荷三十四パーセント”
"世界線負荷測定十七パーセント”
"修正力を確認。世界線負荷減少”
片翼を切断された邪龍は落ちながらも翼を再生していた。
それは瞬く間に行われ、ほんの数秒で元通りになってしまった。
「めんどくさいなぁ…。とりあえず今はそんなことしている場合じゃない…可能性を検索開始…。」
"システム負荷六十四パーセント”
"現時点での可能性を多数検出”
「可能性をこの世界線に反映開始。」
"可能性を反映します…”
"対象:アリス、ミルフィー、ネザリア”
"機体負荷五十八パーセント”
"世界線負荷測定三十一パーセント”
"修正力を確認。世界線負荷減少”
この世界線に可能性が反映された。
それは数多の世界線で起こったであろう邪龍の攻撃の瞬間。
数多の世界線の中からアリス、ミルフィー、ネザリアが負傷しない可能性のある世界線を集め、この世界線へと反映したのだ。
それによりこの世界線のアリス、ミルフィー、ネザリアの負傷は無かった事となった。
また、四人分の可能性を反映したことにより世界線、マキナ事態にも負荷が掛かったがまだ許容範囲だ。
マキナは三人の元へ移動しようとするが、邪龍は待ってくれそうもない。
邪龍は翼を広げると膨大な魔力を練り始めた。
それは空間に穴を開けた。穴には赤黒いエネルギーの球体が見えている。
次第に裂け目が大きくなると共に、エネルギー球体も大きくなり次第にひし形の様なエネルギー結晶体へと変化していく。
「へぇ…そんな物もあるんだ。」
"測定不能エネルギーを検知”
マキナのディスプレイに測定できないほどのエネルギーを示唆する表示がなされた。
「――――ッ!!」
声にならない声をあげる邪龍。
それは攻撃の準備が完了し、放さんとする合図だ。
「ディメンションシールドじゃ防げない攻撃か。なら相殺すればいい話だよね?」
放たれようとしている邪龍の攻撃は空間の属性を含んでおり、この次元を使った障壁の場合破られる恐れがあるのだ。
「そういえばカインも同じ魔法名の魔法使ってたなぁ…。でもそれとは違う世界の根源に近い物。アリスが使った物と同じ根源魔法<神々の戦いを今此処に再現しよう。星は落ち、大地は砕け、すべての命が耐える時終焉の笛は鳴らされる。始めよう。此処に新たな終末を。終末-ラグナロク->」
根源魔法。
それは世界に記録された魔法。
神々の存在が創りだした魔法である。
邪龍の放った高エネルギー結晶に終焉をもたらす根源魔法が衝突する。
その時世界が光に包まれた。
光に遅れて衝撃波がやってきた。それは木々を薙ぎ倒し、あらゆる物を吹き飛ばしていく。
マキナは倒れている三人をシールドで保護すると光の向こう側にいるであろう邪龍に向けて攻撃を放ったである。
「ディメンションアンピュテーション。」
"機体負荷六十五パーセント”
"世界線負荷測定四十六パーセント”
"修正力を確認。世界線負荷減少”
"警告 機体負荷が六十パーセントを超えました。”
「あたったかな?」
次第に空が晴れ、そこには再生中の邪龍の姿があった。
「うーん。効きが悪い…なぁ。でも再生速度は落ちてるみたいだし、効いてるには効いてそうなんだけど…。一撃で葬らないと駄目かもしれない。」
マキナがそんなことを呟いていると邪龍は間接攻撃が効きにくいと判断し、マキナに迫ってきた。
「あー。そうくるか。ディメンションプリズン」
"機体負荷七二パーセント”
邪龍は突如出現した漆黒の檻に閉じ込められた。
檻は空間に固定され、いかなる攻撃も受け付けない。
邪龍は必死にその檻を破壊しようとするがびくともしない。
挙げ句の果てには自分さえも犠牲にしてドラゴンブレスをゼロ距離で放っていた。
結果頭は吹き飛び、檻には何も影響はなかった。
「<フェンリルを捕縛する鎖よ、今ここに現れよ。ドウェルグニより創造されし鎖、六つの概念を使いし鎖、彼の者を繋ぎ止めよ。 束縛-グレイプニル->」
"機体負荷八十五パーセント”
マキナが根源魔法を詠唱すると檻に捕まった邪龍に鎖が巻き付いていく。
足、腕、胴体、翼、口へと巻き付き全ての攻撃、動きを封じたのだ。
邪龍は体に力を入れ鎖を引き千切ろうとするが鎖は千切れること無く邪龍を拘束している。
「これで避けられないね。さて、古代人は追放してたけどそれだとまた復活する恐れがある。ならばこの場で倒してしまったほうがいいよね。」
そう言うとマキナは邪龍に手を向けた。
「さて。根源にもこの魔法は有るんだよね。ならこれで大詰め、終わりにしようか。<今ここに全てを終わらそう。デウス・エクス・マキナが命じる。物語は始まりを告げ終わりを告げる者。そして今ここにその終わりを告げよう。結末-カタストロフィー->」
根源魔法の発動と同時に世界が光に満たされていく。
黒く漂っていた雲は全て吹き飛び、邪龍を押さえつけていた檻、鎖さえも破壊して行く。
邪龍も粒子一個も残さず消え去っていく。
光の空間から脱出しようと邪龍は抵抗するが、自分自身が消える速度のほうが早く、脱出を行う前に消え失せてしまった。
そして世界が光に満たされた。
"機体負荷百パーセント”
マキナは白い光の中に居た。
周りを見渡しても辺り一面混じりけのない白。
声を出して名前を呼んでも誰も反応しない。
そしてそこに白衣の男が現れた。
「よくやった。」
「うん。私…倒したよ。」
「そうか…よくやった、頑張ったな。」
「ねぇ…おじさん。」
「なんだい?」
「私ね。体がすごく重いの。それにこの体になってから感じることもなかった眠気も感じるし。」
「…そうか。だがまだ休んではダメだ。」
「どうして?」
「皆が待っているぞ。」
「皆…?」
「ほら、あそこだ。」
マキナは後ろを振り向くとアリス、ミルフィー、ネザリアが立っていた。
三人はこちらに大きく手を振っている。
「あ、皆…。」
「行きなさい。」
「わかりました…皆ー!アリス!ミルフィー!ネザリア!」
そしてマキナは三人の元へと走って行き―――。
「ん…ここは…。」
ミルフィーが目を覚ました。
当たりを見渡すと城の残骸や吹き飛んだ家々の残骸が散らばっていた。
「アリス!ネザリア!」
ミルフィーは直ぐに二人を起こしにかかった。
ネザリアは直ぐに目覚めたがアリスがなかなか目覚めなかった。
体には傷はなく、健康そのものだ。
ミルフィーがアリスに耳を近づけると寝息が聞こえてきた。
「…。ステーキが―」
ミルフィーがそう言った途端アリスが立ち上がった。
「んん!?」
「やっと起きたわね。」
「あ…れ?」
「アリスさん、怪我がなくてよかったです。」
「え?いや、確かにあの時背骨がゴキって逝ったような…。」
「【あぁ、確かに折れたな。】」
「でも何処も折れてないですよ?」
「うーん。そうなんだよね。」
「って、そんなことよりあの黒いドラゴンは何処に行ったのよ!」
「そうだ!あいつは!マキナは!」
アリスが辺り一帯を隈無く探すとマキナが見たこと無い翼で浮かんでいるのを見つけた。
「見つけた!あっちだよ!」
三人がマキナの元へ駆け寄っていると、突然翼が消えマキナは地面へ落下し始めた。
「あ!」
「アリス!全力で行きなさい!」
「アリスさん頼みました!」
「わかった!フェンリル!!」
アリスは一瞬でフェンリルと深く同調するとマキナの落下地点へ全力で走りだした。
「マキナ!」
アリスは間一髪マキナをキャッチすることが出来た。
抱きかかえたままマキナに声をかけるが反応を示さない。
「マキナ!大丈夫?マキナってば!」
すると徐々にマキナの体が重くなってきた。
「え?ちょちょちょ!お、重い!」
アリスはマキナを地面に寝かせると再び呼びかけた。
マキナに呼びかけているとミルフィーとネザリアもやってきた。
必死に呼びかけているアリスに焦りを感じたのか二人も必死にマキナに呼びかける。
街中にカーディの騎士を倒し、駆けつけてきた騎士や冒険者がやってきた。
その中から四人がこちらへやってくる。
それはアインス、クォーツィ、スペルチェの国王とカインだ。
「終わったようだな。」
「え?あ、国王様。」
「お父様…。」
「遠くから見ていたよ。あの黒いドラゴンは倒されたようだな。」
「わかりません。私達は気絶していたので何が有ったか…。」
「所でマキナはどうしたんだ?」
カインが横になっているマキナについて聞いた。
「それが目を覚まさないんです。」
「カイン殿。少し見てやってくれないか?」
ナハト国王がカインに頼む。
「わかりました。」
カインがマキナに近寄り体や魔力を見ていく。
「おかしい。魔力が殆ど無い。それどころか魔力が徐々に減っていっている。」
「それはどういうことだ?」
魔法に詳しくないノート国王がカインに質問を投げかけた。
「つまりこのままでは目を覚まさないところか死ぬ恐れがある。」
「なんだと!それでは困る!まだ約束を果たしてもらっていないからな!」
「ノート国王よ。今はそれどころじゃないと思うが。」
「…それもそうだな。アインス国王よ。」
「しかし、どうすればいいのだ。魔力が徐々に無くなるなど、我々にはどうすることも出来ない。」
アリスがミルフィーとネザリアを見た。
二人はアリスが何を言おうとしているのかわかっていた。
だから二人は頷いた。
「一ついうことがあります。」
「なんだね?」
「マキナは人間ではありません。」
「…?言っている意味が分からないが。」
アインス国王はいきなり人間ではないと言われ混乱している。
「お父様。マキナさんは人ではなく機械と言うものなのです。」
「機械?」
その場に居る四人が不思議に思った。
「はい。だからマキナさんには明確な死の概念がありません。」
「では魔力が仮に最低限を下回っても死なないと言うことか。」
「はい。マキナは異世界からやってきた機械仕掛けの神、機械の神様です。」
「神…だと?」
「はい。お父様も見たでしょう?空を飛び、不可思議な武器を使い、カーディの軍勢を見たこともない魔法で吹き飛ばしたのを。」
「そうだ…な。」
「確かに、あの闘技大会の時の魔力と言い、意味不明な魔法、武器。俺たちの知識をはるかに上回っていた。」
「ふむ。ではマキナ殿は異世界の神と言うことか。」
「はい。」
「だがなぜ倒れているのだ?」
「それは私にもわかりません。」
「とりあえずアインスの城にでも運ばないか?」
カインが提案する。
「それはそうだな。誰か運んでやれ。」
「それはそうと、マキナ重くて運べないのよ。恐らく前に言っていた重量制御しすてむとか言うのが止まっているんじゃないかしら。」
「よくわからないが…どれ俺が持ってみよう。」
ノート国王はそういうと腕を回しマキナを抱き上げようとした。
「ふん!…うぐぐぐぐぐあああああああ!なんだこれ持ち上がらん!」
「そうなんですよ。重すぎて持ちあげられないんです。」
「フェンリルと同調しているアリスでさえ持ち上げられないから」
「では補給馬車を持ってこさせよう。そこに乗せれば良かろう。」
「そうですね…。」
国王に呼ばれアインスの補給馬車がアリス達のところへやってきた。
ノート国王、カインアリス、そして付き添いの騎士でなんとかマキナを持ち上げると、馬車に乗せる。
国王達とアリス達は馬車に乗ると一旦アインスへ帰還するのであった。




