墜ちる神
マキナはその膨大な魔力と衝撃波に耐え、目の前を見た。
そこには全身が漆黒で出来たドラゴンが居た。
「ククク…やったぞ!俺たちの研究は実を結んだんだ!この歪を制御出来ている!」
その声は先ほどの男女の声が混ざったような声音をしている。
「いくら制御出来ても私が倒す!それは変わらない!」
「機械の神よ、お前にそれができるかな?我が名は邪龍。世界を滅ぼす者だ!」
ATS -フォトンウィング-
ATS -魔導式LSR-
“駆動プロファイル変更:射撃モード”
“魔導式LSRとリンクを確立”
マキナは空に浮き上がると魔導式LSRを構えた。
一番柔らかいであろう目を目掛けて魔弾を放った。
しかし、魔弾は目に当たると弾かれてしまったのだ。
「!」
「無駄だ。そんなもの今の我には効かぬ!」
瞬時に魔導式LSRを解除すると高周波ブレードを呼び出した。
「ならこれで!」
マキナは高周波ブレードを振りかざし、相手の首元に振り下ろした。
が、ブレードは刃を一ミリも通すこと無く止まってしまった。
「なっ!?」
マキナはさすがに予想外過ぎて驚いた。
そして思ったのだ。
"こいつはただのUnknownではない”っと。
「ふむ。虫でも触ったか?」
そう言うと邪龍は膨大な魔力を放出し、マキナを吹き飛ばした。
"警告 レーダー一時使用不可”
「なら!オーバードライブ!」
“オーバードライブ発動 制限時間20分スタート”
「魔導炉出力最大!はああああ!」
マキナは先程とは比べ物にならない魔力とスピードで邪龍に斬りかかった。
斬撃は邪龍の鱗にヒビを入れるとそこで止まってしまった。
「!!」
「これは予想外だ。我が体にヒビを入れられるとは。まともに相手をしてやろう。」
マキナは咄嗟に後ろに下がった。
傷つけた場所を見るとたちまち修復されているのがわかる。
邪龍が腕を振り上げ振り下ろした。
それだけで魔力の斬撃が発生し、城の一角を吹き飛ばしていく。
「多重圧縮シールド展開!出力百パーセント!」
迫り来る魔力の斬撃を目の前にシールドを展開した。
圧縮されたシールドが目の前に三枚構築されマキナを守る。
これは例え五十メガトンの核爆弾を受けようとも壊れない強度である。
「そんな紙切れみたいな結界で防げると思っているのか?」
その言葉と同時に魔力の斬撃がマキナに到達した。
魔力の斬撃はシールドの一枚目を容易く切り裂き二枚目に到達した。
マキナはそれを見た時点で直ぐに回避行動を取ったのだ。
その行動は正解であり、その後直ぐに二枚目も破られ三枚目も意図も容易く破られてしまった。
「そんな馬鹿なはずが…。」
「おいおい。この程度で終わると思っているのか?」
「っ!シールド構成プログラム変更開始。」
「何をしても無駄だ。」
邪龍が空に浮かびマキナ目掛けて翼をはためかせた。
それは魔力の激流となってマキナを襲う。
マキナはひと目見てそれは危険だと察知し、回避した。
元いた場所にあった城の一角は粉々に砕かれている。
続けざまに送られてくる魔力の激流を躱しつつプログラムの改変を続ける。
シールドとは魔力の配列で強度が決まり、そこに魔力を流すことにより強度を更に底上げしている。
基礎強度が上がれば送る魔力が少量でも防御力を何倍まで高める事ができるのだ。
「どうした。逃げてばかりでは戦いにならんぞ。」
「変更完了!」
再びマキナは邪龍に向かって剣を振り上げる。
だがしかし攻撃はなかなか通らない。
「神もその程度か!」
今度は近距離で魔力の斬撃が放たれた。
「多重圧縮シールド展開 出力百パーセント。」
「無駄だと言うことが―」
「無駄じゃない!」
シールドに魔力の斬撃がぶつかると激しい点滅が起きた。
それはシールドの魔力と斬撃の魔力が反応しているからだ。
やがて一枚目のシールドにヒビが入るが斬撃は消えていった。
「なんだと?」
「ハニカム構造ってしってる?あの構造は壊れにくく強度が高いんだよ。」
「まさか戦闘中に結界の式を書き換えたと言うのか!」
「人は日々進化するものだよ…まあ、貴方にはわからないでしょうけどね~。」
「貴様!」
「エクス!炎よ!風よ!土よ!水よ!雷よ!光よ!闇よ!発現せよ!カタストロフィー!」
オーバードライブで威力が増加した魔術が邪龍に放たれた。
邪龍はそれに対抗して斬撃を放つが、カタストロフィーに飲み込まれその体に直撃を受けた。
直撃を受けた場所は大きく亀裂が入っている。
そこにマキナは剣を突き立てた。
ヒビの入っていた鱗を貫通し、その肉を抉る。
更に体内で衝撃魔術を発言させ内部から破壊していく。
「グガアアアァァァァァァ!!」
体の至る所から血を吹き出し会見の間だった場所に落ちる邪龍。
更にマキナは追い打ちをするべくもう一度魔術を発動した。
魔砲は再び邪龍に直撃し、体を覆う鱗にヒビを入れていく。
マキナは魔砲を途切れさす事無く放ち続け鱗を砕いた。
そして魔砲が邪龍を貫いた。
「ふぅ…やったかな?胴体もろとも頭も吹き飛ばしたしこれで倒したはず…。」
しばらくの静寂の後城が揺れていることに気がついた。
「何…?まさか死んでないとか…?」
次の瞬間邪龍が瓦礫の山から飛び出してきた。
その目は先程とは違い赤くなっている。
そして声にならない声を上げた。
「―――――――――ッ!!!」
「やっぱりさっきの言葉はフラグだった!こうなったらもう一発…。」
"制限時間に達しました。オーバードライブを終了します。”
"魔導炉の出力が低下しています。最大出力七十五パーセント”
「こんな時に!」
「―――――――――ッ!!!」
「?おかしい。さっきみたいな理性的な行動が見られない。もしかして…制御の要であるあの男女が胴体に居たのかな…?」
「―――――ッ!――――!」
「どうやらこっちに狙いを定めたみたいかなぁ…。」
邪龍は斬撃を連続で飛ばしてきたのだ。
さすがに連続で受け止めるには無理が有るためそれを回避しつつ邪龍へ接近を試みる。
しかし近づこうとすれば逃げられ、尻尾で攻撃される時もある。
「厄介な…。理性が無いほうが厄介ってどういうこと…。」
邪龍は翼をばたつかせ魔力の激流を起こしてきた。
一回それを見ているため軽々と回避するマキナ。
出力が低下した魔導炉から魔力を捻り出し、魔術へ昇華させる。
三度目の魔砲カタストロフィーが放たれた。
魔砲は魔力の激流とぶつかりその場で押し合いとなった。
「やっぱり出力が下がってるのとオーバードライブモードじゃないと威力が足りない…かな?」
魔術に込める魔力を上げ魔砲の威力を上げていく。
少しずつだが魔砲が押している。
「よし、このまま!」
マキナは込める魔力を更に上げると魔砲がどんどんと邪龍の攻撃を押し返していく。
そして押し合いに決着がついた。
魔砲が邪龍の胴体から頭までをもう一度貫いた。
荒れ狂う魔力の中邪龍の鱗はまたヒビ割れ砕けていく。
声にならない悲鳴が聞こえながらも魔力を流し続ける。
先程より時間がかかってしまったが邪龍の胴体と頭を再度消し飛ばすことに成功した。
"魔導炉出力低下 最大出力六十二パーセント。”
「ちょっと辛いかな?」
胴体を失った邪龍は翼と足が地面へと落ちていく。
しかしマキナの目には見えていた。
翼が消滅し、残った足から再び胴体と頭、翼が生えてくる様を。
「なっ!?死な…ない?」
邪龍は再生を終えると再びマキナの目の前に飛び上がってきた。
邪龍の目は怒りに燃えているのがうかがい知れる。
更には先程までより魔力の放出量が増えていることが確認できる。
「無限復活とかチートですか?」
その時たまたま表示していたレーダーに青い点が三つ映った。
「え?」
マキナが振り返ると地上にはアリスたち三人がこちらをみて立っていた。
それと同時に邪龍の魔力が今までにないほど膨れ上がり、マキナの計器では計測不可能の領域まで跳ね上がり口元に黒い炎が生成されていく。
「皆逃げて!」
マキナは聞こえたかわからないが直ぐ様皆の元へと飛んでいく。
その間にも魔力は増大し、今にも放たれようとしていた。
「皆シールド張って!」
焦りながら叫ぶとそれを察してくれたのかミルフィーとネザリアが今までにないほどの魔力で二重にシールドを展開し、アリスがフェンリルとシンクロし二人を守るように抱きしめた。
それと同時に邪龍から黒い禍々しいドラゴンブレスが放たれたのだ。
「魔力なんて全部もってけ!多重圧縮シールド出力百二十パーセント!」
三人の上空で両手を広げシールドを全力展開したマキナは後ろの三人に被害が出ないことを祈っていた。
ドラゴンブレスがシールドに直撃すると当たり一帯を全て吹き飛ばす程の爆発が生じる。
そしてマキナは目にした。着弾と同時にシールドが呆気無く砕けていく様を。
「そ、そんな!うっ!」
"システムに重度の障害発生、再起動します。"
最後に見たのは吹き飛ばされ地面に激突する瞬間だった。
アリス達は迫り来るカーディの騎士達を退け、他の騎士や冒険者の力を借り一足早くカーディの街中に入った。
街中は誰ひとりとして居らず、まるでゴーストタウンのようだった。
家の中を除いても女子供老人さえ居ない。
しかし、ところどころに黒い飛竜の様な死体が落ちていた。
それら全ては頭が無いものだ。
「これは…マキナさんがやったのでしょうか。」
「多分そうね。この切り口を見て。すごく綺麗に切断されてるわ。」
「これはマキナだね。ってことはこの先に居るってことだね。」
その時遠くの方で爆発音が聞こえた。
ミルフィーとネザリアはそれが魔力によるものだとわかる。
アリスが爆発の下方向に向き直るとそこには屋根が吹き飛んだ城の姿が有った。
そこには人の十倍もありそうな漆黒の龍とフォトンウィングを装備しているマキナの姿が有った。
アリスには、はっきりと見えていたが、ミルフィーとネザリアにはぼやけて見えている。
「と、とりあえずマキナに加勢しよう!」
「そうね。アンナの相手じゃ辛いはずよ。」
「そうだ。この戦いが終わったら皆で宇宙に連れて行ってもらいましょう!」
そう言いながら三人は走りだした。
走っている間も絶えず戦闘が続いており、マキナは苦戦しているようだった。
「あのマキナが苦戦するなんて相当な相手みたいね。」
「先ほどマキナさんのシールドが切り裂かれていました。あのシールドを破壊するなんて…。」
「弱気にならない!私達はできる事をやるよ!」
「貴方は常に前向きね。」
「それが取り柄だよ!」
城まで後少しという所でマキナの放った魔砲が邪龍にダメージを与え血を吹き出しながら落ちていく姿が見えた。
更に魔砲を撃ち続け城が半場崩壊している。
「!?見て!あのドラゴン再生してる!」
アリスたちからはドラゴンが再生している様が見えていたのだ。
ドラゴンは残った部位からとんでもない勢いで再生をすると再びマキナの前へと立ちふさがったのだ。
「なんなのあのドラゴンは!?」
「黒い飛竜といい昨日の黒い化け物…もしかしてあの時と同じやつじゃないかしら?」
「あの時って言うと…クォーツィ?」
「そう。あの人間から化け物に変わったやつよ!」
「それってマキナが言っていたUnknownってやつだよね?」
「そうね。私が知っている中であれを言い表すならその言葉が一番最適ね。」
「Unknownってあんなに再生するものなのでしょうか。」
「少なくても今までのUnknownは再生してなかったわね。」
城の外までアリス達が到着すると再び魔砲が放たれた。
それは押し合いを続けていたがやがて邪龍を再び飲み込んだ。
しかし邪龍はまたしても復活し、マキナの前えと立ちふさがる。
ふっとマキナがこちらに振り向いた。
「…ん…に…て!」
「え?何?よく聞こえないわ!」
ミルフィーが聞き返す。
それと同時に邪龍に今まで感じたことがないほどの魔力が集まりだしたことに気がついた。
それは魔法の才能の無いアリスでも感じ取れるもので、直感が警告を発していた。
「皆シールドを張って!」
マキナが叫んだ!
アリス達は直感から全力で防がないと危険だと感じていたためマキナに言われずとも結界を張り巡らせた。
「全力で…!<万物に宿りし大いなる力よ。すべてを守る力と成せ。我ハイエルフミルフィーが命ず。すべてを守る力よ、我に力を与え給え。エン・ボイド・プロテクション>」
「<世界を回る魔力よ!我が前に集いて災厄から我を守り給え!プロテクション!>」
「【フェンリル!】」
「【わかった!】」
ミルフィーとネザリアが全力で結界を張り巡らせたのを確認するとアリスは二人を抱きしめるように抱え込んだ。
それと同時に身の毛もよだつ様な感覚に襲われた。
恐らくあのドラゴンブレスが放たれたのだろう。
アリスは見えなかったが、ミルフィーとネザリアは見ていた。
マキナが結界を構築し、着弾する時を。
そして結界が破壊されマキナの右腕が吹き飛ぶ様を。
「マキ―!」
次の瞬間には自分たちの結界も破壊され体を張って守っていたアリスごと空に舞う自分の姿を見たのだった。




