スペルチェの国王
テラスから飛び出したマキナは空中でスペルチェ上空に位置を合わせると空間跳躍を行使した。
スペルチェに転移すると港から船が少なくなっているのが見受けられる。
その中に先ほど乗っていたギルドの帆船が有ることを見つけた。
「ミルフィー達はもう帰ってきてるみたいだね。よし。」
マキナはスペルチェ上空でも同じように魔力を放出し、洗脳魔術を中和していった。
そしてにらみ合いになった集団の真ん中に降りると魔力を放出しながらお話を始めたのだった。
お話を始めてから数分後。
両方の勢力は和解し、元に戻っていった。
中には何故か泣いている冒険者もいたがマキナには見えてなかったようだ。
そしてカーディと犯人の事を話すべくスペルチェの城まで行くのだが…。
「ちょっと!入れてくれないってどういうこと!緊急事態なの!」
「駄目だ。何処の誰だかわからない小娘など入れるわけにはいかんのだ。」
「だーかーらー!冒険者カード見せてるでしょ!」
「それでも駄目だ。偽造されたカードかもしれないからな。」
「あーもう!一刻を争うっていうのに!」
マキナが外で騒いでいると中から一人の騎士がやってきた。
騎士は何かを門番に話すと城の中へ戻っていった。
「国王様からの命だ。お前を通す。」
「お?やっぱり国王様は話がわかるー!」
マキナは城門を潜ると、騎士の案内で会見の間まで歩いて行く。
城の中はアインスやクォーツィと違って貴金属が展示してあったり、高価そうな壺などが置かれている。
「うわ。高そうだな。」
「いいか!絶対に触るんじゃないぞ!」
「わかってますよーだ!」
周りの展示物を見ながら歩いているといきなり騎士が立ち止まりマキナは騎士の背中にぶつかった。
「いてっ。」
「前を見てあるけ!馬鹿者が…ここが会見の間だ。武器を預けてから中に入ってもらおうか。」
「ん?武器は持ってないよ。」
マキナは両手を広げたり服を叩いたりしている。
「冒険者が武器を持っていないなど…。」
騎士は上から下まで観察するが武器が入っていそうな場所は何処にもない。
それに本人が服を叩いているが硬いものを叩くような音はしなかった。
「…いいだろう。入れ。」
会見の間を守っている騎士がこちらを見ているがそれを無視し、中へ入った。
「お前か?外で騒いでいた馬鹿は。」
「…そうです。今日は緊急の知らせが有ったため参りました(バカとはなんだ!)」
「緊急の知らせだと?」
「はい。今回の騒動は洗脳魔法による仕組まれた暴動です。アインスでの事件を知っているでしょうか?」
「ああ、知っている。カーディの人間が魔物を連れて攻めてきたことだろう?」
「そうです。今回はそれを人に使い各国で暴動を起こし、弱った所でカーディの騎士や魔物が攻めてきます。」
「なぜお前が知っている?」
「それは直接犯人から聞いたからです。」
「それならなぜ犯人を捕まえなかった。」
「簡単です。逃げられたからです。」
「チッ。無能が。」
「(ウザッ!こいつウザ!) …おっしゃるとおりです。本題ですが、洗脳魔法は私が全て解除しました。これから侵略してくるであろうカーディの騎士や魔物に対抗すべく兵を出してもらいたくここに来ました。」
「断る。」
「!?」
「兵を出すということはそれだけ金がかかる。それに我には何も見返りがないではないか。商売、同盟とは何かしらの見返りがあるからこそ成り立つものだ。」
「しかし!」
「攻めてきたら潰すまで。以上だ。」
そう言うと扉の前に居た騎士達がマキナを掴む。
しかしマキナはそこから動こうとはしなかった。
「おい!国王様が終わりだと言ったのだ!」
「これ以上抵抗するなら斬るぞ!」
「五月蝿いなぁ。ちょっとどいてよ。」
マキナは二人の兵士を逆に持ち上げると勢い良く壁に投げつけた。
壁に投げつけられた兵士は気絶し、動かなくなった。
それを見ていた騎士たちが一斉にマキナに襲いかかる。
が、ガラスの割れたような音――衝撃魔術により全員壁際まで吹き飛ばされたのだ。
「ほう。なかなかやるではないか。」
「兵を出してください。」
「その兵を倒したのはお主だろう?」
「これだけが兵とは言わせませんよ。」
両者のにらみ合いが続き、物音聞いて騎士達が会見の間へ駆けつけてきた。
「国王様!ご無事ですか!」
「ほら居るじゃないですか。」
「馬鹿どもめ…。ふん!気に入った!条件付きで兵を出してやろう。」
「条件?」
「そうだ。事が終わった後お前には我が近衛騎士になってもらおう。」
「断る。」
「なっ!?」
あまりの即答にさすがの国王もあっけにとられる。
「私は世界を見て回りたいのです。こんな所で縛られるわけにはいけません。」
「ククク…尽く我に歯向かうな…こんな人は始めてだ。」
「普段から皆思っていることでしょうね。」
「言ってくれる。いいぞ、面白い。お前は他のやつとは違うようだ。」
国王は笑いながら玉座から立ち上がった。
そして手を横に出すと近くに居た騎士が剣を差し出した。
「ならば剣を抜け!お前にそこまでの強さがあるのか見てやろう!」
「いいですよ。私が勝ったら兵を出してもらいますからね。」
そう言うと、マキナは後ろで構えていた騎士から剣を奪うと国王と対峙した。
両者がなかなか動かない中倒れ込んでいた騎士が起き上がった時に鉄が擦れる音が静寂で満たされた部屋にこだました。
それを合図に両者が動き出したのだ。
「うら!」
「遅い!」
国王が剣を振るうとマキナもそれに合わせるかのように剣を振るった。
両者の剣がぶつかり合い火花が散った。
今の一撃は相当な力がこもっていたらしく、ぶつかり合った部分の刃が欠けている。
「ほう。細身の女にしてはなかなかな力だ。」
「私を人間としてみないことね。」
「言ってくれる…!」
国王は体を捻らせ剣を振るう。
遠心力だ。遠心力により加速され、力を増した剣撃はマキナに迫ったがそれを綺麗に流すとマキナも反撃を始めた。
到底人間では反応出来ない速度で剣を振るうが何故か国王はそれを避ける。
「ふっ。人間だと思わないことだと?笑わせる。この程度の斬撃など避けられるわ!」
そう言うと国王はマキナの剣を受け流したのだ。
「!?」
「もらったぞ!」
「甘い!」
マキナの胸の中心を狙った突きは背をのけぞらし回避した。
その勢いで地面に手を着くと、勢い良く足を上げた。
下からのケリに国王は咄嗟に後ろに下がる。
「ちっ。避けられた。」
「まさかあんな形で避けるとはな…。」
「あんた何者?」
「俺か?いいだろう教えてやる。俺は元ギルドランクTSの剣の王オリジン・ノートだ。」
「ノート?スペルチェじゃないの?」
「それは代々我の家が受け継いだ国の名前だ。別に家名が国の名前でなくてもよかろう。」
「まぁ、そうだけど。」
「話はここまでだ。続きを始めよう。」
「いいよ。少し本気だすからついてきてよ、剣の王さん?」
そう言うと先ほどより早く剣を振るう。
オリジンはそれを回避するがその時にはマキナの二撃目が振るわれていた。
それを剣で弾くと弾いた時の力を利用し距離を取りマキナに突っ込む。
オリジンの剣とマキナの剣が鍔迫り合いに入り金属音が部屋に響き渡る。
「そろそろ降参したらどう?もうそれ以上速度上がらないんでしょ?」
「ふん!小娘などに負けるか!」
そう言うとオリジンは力を更に込めてくる。
鍔迫り合いが押され始めるが、マキナも負けじと少しだけ力を入れていく。
「む。何処にそんな力が…!」
「ふふふ。だから言ったでしょ。人間だと思わないことだって!」
マキナはその場で足を浮かせた、そうするとオリジンから加わる力により後ろに勢いよく飛んだ。
「何?」
後ろに下がったマキナは兵士の傍まで行くと剣をオリジンに投げつけた。
「そんな小細工が…!」
「もらった!」
マキナは剣を投げた後直ぐに側に居た騎士から剣を奪い取ったのだ。
そこから力強く跳躍するとオリジンに斬りかかった。
「グッ…。」
マキナの剣撃は国王の剣にヒビを入れたのだ。
「せやああああ!」
オリジンはひび割れた剣に力を入れマキナは弾き飛ばした。
だが、それと同時に剣が折れてしまった。
「ふぅ…どうするの?そっちの剣は折れてしまったけど。」
「もう良い。お前の力はよくわかった。」
「そう?」
「お前まだ本気出していないだろう?」
「あ、わかってた?」
「当たり前だ。我を誰だと思っている。」
「そう。じゃ、兵を出してくれるの?」
「ああ、出してやる。だが諦めぬぞ、お主を何れ我が騎士にしてくれる。」
「はいはい。できるものならやってみたら?」
「ふふ、面白い。我を挑発するその行為面白い。」
「それじゃよろしくね。」
「任せろ…ククク。」
マキナはその言葉だけ確認すると王城を出るのだった。
テラスから。
外に出たマキナはミルフィー達を探すべくレーダーを表示した。
レーダーを表示しつつ空を飛びながら目的地へ移動する。
「ここかな?」
そこは少し大通りから外れている建物だった。
かんばんが有り、ここは宿のようだ。
宿に入ると受付の男性に話しかけられた。
「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」
「いえ、ダンリックという方が止まっていませんか?」
「…止まっていますが、どのような関係でしょうか。」
「ギルドで雇われた護衛です。」
マキナはそう言いながらギルドカードを差し出した。
「ふむ。ダンリックさんは百二号室です。」
「ありがとうございます。」
そう言うと廊下を進んでいく。
目的の部屋の前まで行くと扉をノックした。
「はい。お待ちください。」
中から声がしたかと思うと扉が開いた。
「おや?マキナさんではなじゃないですか。どうぞお入りください。」
「おじゃましまーす。」
マキナが中に入るとミルフィー達がいた。
アリスはベッドから上半身だけ起き上がっている。
「あ、アリス大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。少し心配かけちゃったかな?」
「もー。心配したんだから!」
「いやー。ごめんごめん。」
「で、なんで倒れてたの?」
「ん~。よくわからないんだけど、力を貯めなくちゃって思ってフェンリルと同調率をあげてたんだ。そうしたら…なんていうのかな。同調率が勢い良く広がるというかどこまでも深く同調できる気がして深く深く同調したんだけど、そしたら急に頭のなかにイメージと言葉が浮かんできたんだ。」
「それは?」
「うん。何か大きな木が有って、そこから三層構造になってる世界。その一番下にフェンリルが居たんだけど、雪と氷で覆われててね。それがイメージとして流れ込んできたの。」
「うーん?なんだそれ?見たこと有るの?」
「いや、無いなぁ。でね、言葉のほうなんだけど。…霧の国から来る者よ。九つの世界、最も冷たく闇の世界。終わらせる者ロキの長子のフェンリルの契約者として此処に発現する。全てを凍てつかせる世界となれ。氷界-ニヴルヘイム-ってな感じの言葉何だけど…意味がわからないんだよね。」
「…それ詠唱じゃないかしら?」
「でも私魔法なんてさっぱり使えないよ?」
「ロキ?」
「マキナ何か知ってるの?」
「いや、私の世界の神話にその名前の神が居るんだけどね。」
「なんでそんな存在をアリスが知っているかしら?」
「さぁ…。そこはフェンリルが関係するんじゃないの?フェンリルは元々ロキの長子だし。」
「もしかしてフェンリルさんは本物のフェンリルさんの生まれ変わりだったりして!」
「いやいや、そんなわけが…」
三人が考え込んでいるとアリスが声を掛けた
「そんなに悩まなくていいよ。もう私動けるから大丈夫。寝てる間に有ったことも聞いたよ。私も頑張るからね。」
「そうだね。これ以上考えるのはよそう。今は犯人の事だけを考えよう。」
「そうね。ダンリックさんはここに居てください。恐らく明日には戦争が起きるでしょうから。」
「わかりました。私は皆さんのご生還をお祈りしています。」
「あ、思い出した。ダンリックさん薬草をお渡ししますよ。」
そう言うとマキナは四次元空間から薬草を取り出した。
「おお。そういえばそうでした。今籠を持ってきますので少々お待ちください。」
ダンリックは商売道具入れの中から籠を取り出すとその中に薬草を詰めていった。
「これはですね、回復魔法には及ばないもののとても強い効果を持った薬草でして疲れや病気、痛み止めにも効くのです。少々値が張りますが魔法を使えない冒険者には売れるのですよ。」
「ほほー長期任務には最適な品ですね。疲労回復なら魔法使いにも縁がありそうな商品ですね。」
「はい。色々な方が買っていきます。ただ、あの島にしか生えていないというのが欠点ですが。」
「そうなんですか。(どうしよう。クレーター創っちゃったよ。)」
「とりあえず皆さん、今日はこの部屋で休んでください。恐らく混乱のせいで宿は空いていないと思われます。」
「そうね。逃げ込んだ商人で埋まってそうね」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます。」
「ダンリックさんありがとうございます。」
「いえいえ。当然のことですよ。」
その夜マキナは一人で考えていた。
当然アリスのことである。
マキナに記録されている膨大なデータベースから情報を全て検索し、当てはまる項目を探していたのだ。
「(うーん。やっぱり娯楽系のデータベースには詳しいことは載ってないなぁ。載ってて北欧神話の概要と登場する神とかだけかぁ。まぁ…そんなに載ってるわけ無いよね。時代が時代だったし。)」
やはり考えても何もわからなかったマキナはいつもより早い時間にタイマーを設定しスリープに入っていった。




