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洗脳魔法

「ふぅ。これで大丈夫フェンリルに何があったか聞いてみるよ。」

「よかったわ…。お願いね。」


マキナはフェンリルに念話を送った。


「【グッ…ここは…?】」

「【目を覚ましたのね。大丈夫?】」

「【大丈夫だ。我よりアリスはどうなった?】」

「【今は寝てる。】」

「【そうか…。それはよかった。】」

「【で、何でこんなことになってたの?】」

「【我でもわからぬ。アリスとの同調が深くなった時点で何故か我の意識がアリスに引っ張られてしまった故、覚えていないのだ。】」

「【そういえばアリスは同調を重ねる事に徐々に深く、制御できるようになってたね。そう考えればフェンリルを完全制御下に置けたということじゃないかな?】」

「【よくわからんがそうなのだろう。後はアリスに聞いてくれ、我は少し寝る。】」


そう言うとフェンリルとの念話が切れたのだ。


「んー。結局わからず。」

「そうなの…。」

「アリスさん何が有ったのでしょうか。」

「あ”!時間が無いんだった!」

「どうしたのです?」

「ダンリックさん!皆を乗せて後からスペルチェに戻ってきてください!私は先に行くんで!」

「え?」

「マキナどういうこと?」

「黒幕っぽい人?から聞いたんだけど、今あっちが大混乱らしいの。だから過アインスとクォーツィに赴いて事情を説明しなきゃいけない!」

「突拍子もない話だけどマキナの言うことだし、わかったわ。私達は遅れて行くからそれまで頑張りなさい。」

「マキナさん。国を、民を頼みます。」

「任せて!では、ダンリックさん後は頼みました。」

「ええ、わかりました、お気をつけて。」


“空間跳躍起動”

“跳躍先確保完了”

“空間跳躍開始”


マキナはダンリックの声を聞き終えると同時にアインスの王城上空へ空間跳躍した。

アインスの上空に出るとすぐさまフォトンウィングを転送し空中に滞空する。

空からアインスを見渡すと騎士と冒険者の争いが起きていた。城の出入り口は騎士で固められ、国民は家の中に篭っているようだ。


「あいつらの言ったとおり…ね。とりあえず国王様のところ行かないと!」


マキナは下降すると王が居るであろう会見の間のテラスへ降り立った。

それと同時に騎士が反応し、こちらに槍を向けてくる。


「槍を下げよ!」


そこに男の声が響く。

それに従うように騎士たちは槍を下ろす。


「久しぶりだな、マキナ。」

「レオンこそ久しぶり~。ってこんな場合じゃないの!国王様~国王様~!」

「なんだね。一回言えば聞こえてるぞ。」

「ああ、良かった。お話したいことが有って来ました。」

「…それは冒険者達の反乱についてか?」

「反乱…?」

「そうだ。街を巡回していた騎士が突然冒険者に襲われ、詰所に居た騎士も襲われた。」

「今騎士との連絡は?」

「ついておらぬ。混戦状態だからな。」

「…この騒動の主犯と会いました。」

「何?申してみよ。」

「はい。その人物はギルド職員と一部の騎士、カーディ国王に洗脳魔法を掛けたと言いました。洗脳魔法については知っていますよね?」

「あぁ、しかしそこまでの効果は出ないと…。」

「私と対峙した相手は生半可な魔力ではありません。意思もある程度操作できるでしょう。そして、世界を滅ぼすと言っていました。人間は人間同士で殺し合えっと。ここまで言えば騒動の原因はわかってもらえると思います。」

「報告に来た騎士、やられたと言った騎士は全て洗脳済みか…そしてギルドからの命令も全て偽り…そういうことだな?」

「はい。すぐに兵を下げてください。このままでは敵の思う壺です。このまま続けていたら混乱に乗じてカーディの軍勢がこちらに来ます。」

「しかし、冒険者はどうする?騎士達を下げようにも冒険者が食らいついて離れられないぞ。」

「…洗脳魔法は魔力で相手の精神に干渉するものです。だからサンプル…検体があれば逆位相の魔力を精製し、広範囲に散布することができます。しかし、これはアインス、クォーツィ、スペルチェだけ言えることです。カーディに至っては元々の野心が強く、解除しても止まらないでしょう。」

「ふむ…ならば我が国からクォーツィ、スペルチェを周り洗脳を解除し、カーディを制圧する。兵は各国から出してもらうとしよう。」

「ではそのように説得もついでに行なってきますs。」

「すまないな。頼んだぞ。」

「はい。逆位相魔力を散布を確認したら止めに入ってください。」


そう言うとマキナは入ってきたテラスから勢い良く飛び出していった。


ATS -フォトンウィング-


この混戦の中洗脳された人を見つけるのは難しい。

しかし、中に混ざってない人がいる。それはギルド職員だ。

恐らく何らかの理由でギルドマスターが封じられている。

でなければこんな命令など出せない。


マキナはギルドの入り口に降りると当たりに居た冒険者達が驚いたような目でマキナを見ている。

そして冒険者の中に居る魔法使いはとてつもない魔力を使っていることがわかった。


マキナはフォトンウィングを装備した状態でギルドの中へ入った。

羽事態は光で構成されているため邪魔になることはない。


ギルドの中に入ると、そんなマキナを見ても何も言わず、驚いていない職員が数名居た。

他の職員は皆マキナを見て驚いて居る中に真顔で冒険者に命令をしているのだ。


「国王がご乱心になった。我々冒険者ギルドを潰すつもりだ!冒険者達よ、騎士に立ち向かえ!」


そんなことを言い放っている職員にマキナが近づくとマキナにも声をかけてきた。


「冒険者よ。何をしている!我らを潰そうとしている!早く倒して来い!」

「ねえ!後ろの人!この人いつからこうなってるの?」

「え、き、昨日まではいつもどおりでした。」

「ふーん…で、ギルドマスターは?」

「そ、それが昨日から姿が見えなくて…。」

「分かった。後でギルドマスターも探してみるかな。」

「おい!いつまで話している!さっさと―」

「ちょっと失礼しますよ。」

「な、何を!」


マキナは職員の頭を掴むと、スキャンを開始した。


職員の魔力と並列して異なる魔力が検出される。


「これか。」

「離せ!この…ッ!」


職員は頭を掴まれ必死に抵抗しているがマキナの手を動かすことは出来ない。


「異物魔力逆位相変換開始……完了。転写。」

「あ、がっあ、あ、あ、あ、あ?あれ?」

「ふぅ。」


ギルド職員はきょとんっとした顔をしている。

今まで何をしていたのか覚えていないのだろう。

職員は周りに"何が有ったの?”っと言う視線を送っている。


「さて、後はこれを王都全体へ転写するだけだな。」


そう言うとマキナはギルドから出て行った。

ギルドの中では未だに洗脳されている職員と何が起こったか理解出来ていない元に戻った職員と何をしにきたのかさっぱり理解できない冒険者、職員だった。




「この高さでいいかな。」


マキナ現在王城より少し高い位置まで飛び上がっている。


「よし。対洗脳魔法逆位相魔力、名付けてアンチブレインウォッシング。転写!」


王都全体にマキナの魔力が広がっていく。



「国王様。マキナ様の魔力を確認しました。」

「よし。街中の暴動を止めよ!」

「ハッ!」


一方街中では、戦闘中にいきなり苦しみだした騎士が次々と現れた。

対峙していた冒険者達は何が起こったのかわからず、戦闘を中断していた。

ギルドでも職員が頭を抑え苦しみだしていた。


そして王城から多数の騎士達が街の中へ入ってきた。

それを見た冒険者達へ剣を向けると、騎士の中から一人の男が出てきた。


「まて!我々は何もしない!止めに来たのだ。」

「そう言って殺す気だろ!」

「そうではない。」


そう言うとその男は剣を投げ捨てた。

冒険者達はその騎士が何をしているのか理解できなかった。

騎士が剣を投げ捨てるなど命を投げ捨てているのと同じだからだ。


「この通りだ。この暴動には裏で糸を引いている者がいる。だから我々はこんな所で争っていてはいけないのだ!」

「だ、だけどよう!こちとら騎士に斬られた奴も居るんだ!」

「それは済まなかった。しかし、そちらに斬られた騎士も居るのも事実だ。」

「それは…。」


そこへ空からマキナが降り立った。


「あーだこーだ言ってないで、本当の敵は居るんだからそっちにしなさい!」

「お、おま―」

「五月蝿いなぁ。敵はカーディを操る変な人!敵はアインスじゃないの!分かった?」


マキナは常人にもわかるほど魔力を放出すると"やさしく説得”をした。

すると冒険者達は何故か顔色を変え、納得したのだった。


「いやー。物分かりが早くて嬉しいよ。」

「は、はい。」


マキナが笑っていると冒険者が二手に分かれていく。

何事かと思いそちらを見るといつか見た。

そこにはカインと老人が一人歩いてきていた。


「うーん?あー。誰だっけ?」

「カインだ!」

「うそうそ。覚えてるよ。で、その人だれ?」

「ギルドマスターだ。地下に監禁されていたのを助けてきた。」

「へー。仕事してるんだね。」

「俺を何だと…まぁ、昨日からギルドにおかしな動きや魔力の変動を確認したからな。独自に調査してたんだ。」

「ふーん。じゃ、今起こっていることも大体はわかってるよね?」

「ああ。今はもう無いが、頭のなかにもう一つの魔力が確認できた。そいつが思考を上書きしていたようだな。」

「さすが天才。話がわかれば早いね。冒険者と騎士を束ねてカーディに侵攻する準備しておいて。恐らく明日にはカーディから魔物や騎士が大量に攻めこんでくるよ。」

「またカーディか!」

「じゃ、私はクォーツィとスペルチェ回らないといけないからちょっと行ってくる。後は任せたよ、カイン。」


そう言うとマキナクォーツィの王城目掛けて空間跳躍を行ったのだった。

クォーツィに移動が完了するとここでも冒険者と騎士の暴動が起こっていた。マキナは城のテラスから王城へ入るとまた槍を向けられたのだった。


「なにこれデジャブ?」

「お前は…マキナか。槍を下げろ。」

「どうもどうも。で、今起きてることなんですけど、これ洗脳魔法のしわざです。はい。」

「お前説明めんどくさくなってないか?」

「だってこれ話すの二回目ですから。」

「洗脳とはアインスで起きた事件の時に使われたものでしょうか。」


王妃がそうマキナに問いかける。


「はい。そうですね、今回もそれが発端で起きています。」

「何やら私と随分態度が違うようだが…。」

「あなたは黙っていてください。」

「…はい。」

「今回は一部の騎士と冒険者ギルドの職員が洗脳魔法により操られ起きています。犯人はこの混乱に乗じて世界を滅ぼすつもりでいます。」

「ではその洗脳魔法を解除すれば事は収まるのですね。」

「ええ。ただ少し"お話”をしないといけませんね。それは私が話しますのでご心配なく。」


マキナは先程のことから騎士が出て行っても事態は収束しないとわかったのだ。

だから"優しくお話”をすることで解決する。


「ちょっとギルドの様子を見た後に王都全体に洗脳魔法を解除する魔力を放ちます。恐らくそちらの王宮魔法使いさんでわかるでしょう。」

「わかりました。よろしくお願いします。」

「それでは。」


そう言うと相変わらずテラスから出て行くマキナ。

クォーツィのギルドの前まで飛んでいくとギルドから数人の人が出てきていた。

それは大会で見たこと有る人物だ。


「あー。なんで騎士と戦わなくちゃいけないのよ~。」

「しょうがないだろ。マスターからの命令だからな。」

「いいじゃねェか!騎士様を殺せるんだぜ?こんな機会一生ねぇよ!」


それはアンジェ、レイブン、バルトの三人だった。

物騒な話を聞いたマキナは三人の前に降り立った。


「ねえ!今の話本当?」

「な、こいつ表彰式サボったやつじゃない?」

「ああ。そうだな、カインがめちゃくちゃ怒ってたな。」

「アァ?お前に教えて何の特があるってんだ?」

「いいから!マスターからの命令って本当なの?」

「そうだ。騎士が我々を潰そうとする。だから抗うのだ。」

「そうよ!ギルドを潰そうとするなら逆に潰してやるんだから!」

「そういうこったァ。そこどきな。」

「嫌だね。少し待ってくれないかな?」

「嫌だと言ったら?」

「少し気絶してもらう。」

「おもしれェ!やってみせてもらおうかァ!!!」


そう言うとバルトは抜刀した。

続けてレイブンも抜刀し、アンジェも杖を抜いた。


「…しょうがないな。少し寝ててもらうよ。」


バルトとレイブンは同時に武器を振るった。

マキナはそれぞれの剣の起動に合わせ手をかざした。


"身体強化三十パーセント”


迫り来る剣とハルバード。

それを鷲掴みすると二人を持ち上げギルドの壁に勢い良く投げつけた。

結果、ギルドの壁を貫通しギルド内の物をなぎ倒して行く。


「え?」


アンジェは斬りかかった二人があっという間にやられたことに気を取られマキナの接近に気が付かなかった。


「あ…。」


マキナはアンジェの頭に手を乗せると洗脳魔法の波長を真似することで相手の精神へ干渉する。

するとアンジェは足元に崩れ落ちた。


「少し眠ってもらったからね。」


聞こえているかは分からないが、マキナはアンジェの精神の活動を変化させ眠らせたのだ。


奥からは起き上がった二人が出てくる。


「お前…よくもアンジェを。」

「糞が!よくもやってくれたなァ!」

「んー。ここであなた達を失うわけには行かないからおとなしくしていてくれないかな?」

「五月蝿い!」


そう言うとレイブンがハルバートの長さを生かした突き攻撃を仕掛けてきた。

それを躱すとレイブンのすぐ後ろにバルトが居ることに気がついた。


「もらったあァ!」


バルトの剣が肩から腰にかけて振り下ろされる。


「…?」


バルトはおかしな感触が手に伝わってきたのがわかった。

まるであたっただけで切れてない感触が。

顔をあげると傷ひとつ付いていないマキナの姿があった。


「なっ!」

「ざんねんだね。その剣じゃ私の戦闘服は斬れないみたいだね。」


そう言うとバルトの頭を素早く掴みアンジェと同じように魔力を送り込んだ。


「バルト!」


レイブンは攻撃をしかけようにもマキナがバルトを掴んでいるため攻撃できなかった。

ヘタしたらバルトに当たる可能性があるからだ。


「二人目。ねぇ?二人を介護してあげてくれないかな?私はギルドマスターに用があるんだけど。」

「…くっ。」

「その顔はいいってことだね。じゃ、行かせてもらうからね。」


そう言うとマキナはギルドマスターのところへ向かっていった。

ギルドへ入ると職員が何か言ってきたがマキナはそれを無視するとギルドマスターが居るであろう二階へ向かって行く。


「なぜギルドマスターって二階に居るんだろう…。」


そう思いながらも扉を開けた。

そこには一人の人がいた。


「何用ですか?」

「貴方を止めに来ました。」

「ほう。今は騎士の制圧で忙しいのにまた厄介事が出来てしまったか。しょうがない、相手を―」

「こうやって喋らせるほど時間の無駄はない。」

「なっ!」


マキナは相手がしゃべっている隙をついて一気に距離を詰めた。

それは人間が反応できる速さを超えている。

目の前まで近づくと頭を掴みそのまま壁へ押し付けた。


「ガッ!」

「ちょっと失礼」




「おい!バルト!アンジェ!大丈夫か!」

「うーん…もう食べられないよ…。」

「…アンジェじゃ大丈夫か。おい!バルトいつまで寝てるんだ!」


レイブンはバルトの頬を叩くと無理やり起こした。


「痛ってぇなァ。何しやがる。」

「あいつがギルドマスターの所に行った。俺たちも行くぞ!」

「アァ?めんどくせェなぁあ!…いつまで寝てやがる!」


バルトはアンジェの脇腹を蹴飛ばした。

さすがにこれには目を覚ますアンジェ。


「いったーい!ちょっと何すんのよ!」

「お前らはやく行くぞ!」


そう言うと三人はギルドマスターの部屋へと駆けて行く。

しかし、それと同じくして窓からマキナは飛び去ってしまった。


「逃げられたか!マスター大丈夫か?」

「えぇ。少し頭が痛いが、大丈夫。」

「そうか…じゃ、俺達は再び―」

「その件ですが直ぐ皆に止めるように指示を出してください。」

「な!なんでだ!せっかく騎士と殺りあえると思ったのにヨォ!」

「その、不甲斐ないですがどうも操られていたみたいで…。ささ!早くお願いします!」

「では行ってきます。」


そう言うとレイブンは二人を連れてギルドから出て行った。


その頃マキナは街全体が見渡せるほど高い位置にいた。

そしてそこから対洗脳魔法用アンチブレインウォッシングを使用した。

王都全体に魔力が降り注ぐ。

洗脳魔法が掛かった人々は最初は苦しみだすが、次第に落ち着きを取り戻していった。


「これでよしっと。ちょっとお城に戻ろうかな。」


そう言うとマキナは城へ戻っていった。もちろんテラスである。

会見の間に入ると洗脳魔法を解いたことを説明した。

そして目的であるカーディ対策も説明する。


「わかりました。こちらからも兵を明日までに集めておきましょう。ギルドにも応援要請をしてみます。」

「ありがとうございます。」

「次はスペルチェですか?」

「そうですが、何か有るのでしょうか。」

「あそこの王は少し強欲ですので気をつけてください。」

「わかりました。では行ってきます。」


そう言うとテラスから外へ飛び出していった。


「なぁもういいか?」

「あら?本当に喋りませんでしたね。」

「泣きたい…。」



相変わらずの国王である。


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