船酔い注意、足元注意
宿に到着後部屋に戻り、ギルドで受け取った羊皮紙を開いた。
そこにはアースワームの討伐の確認、今後の警戒、支援要請、ランクアップが書かれている。
そして最後の方には愚痴が書いてあった。
「地面が凸凹になってたのは知らないわよ…。」
アースワームが突き出てきた場所、這いずった後など、地面が凸凹になってしまいギルドの方で処理することになったらしい。それの報告書がめんどくさいようだ。
「あの凸凹な地面。重力で整地しておけばよかったでしょうか。」
「そこまでする必要はないわ。第一にWSランクと戦って被害を出さないほうが凄いのよ。」
「とりあえず、今後の方針なんだけど。ここに書いてあるようにギルドからの支援要請があり次第そちらに行くって形でいいかな?」
「私は大丈夫よ。」
「はい。私も大丈夫です。」
「私も良いよ~。」
「じゃ、そういうことで。次にランクについてなんだけど、私がWSで三人がSランクになったみたいだよ。」
「あれ?昇格試験は無いのかな?」
「ん。えっと…アースワーム討伐で十分であり、先の大会での実力も十分って書いてあるよ。」
「情報回るの早いわね。」
「そうですね。ギルドはギルドで独自の情報網を持っているのでしょうか。」
「ま、そういうことだね。」
そう言うと羊皮紙をベッドに投げ出し、自分自身もベッドに飛び込んだ。
「ん~!柔らかい!」
「壊れたらどうするのよ。」
「大丈夫。これぐらいじゃ壊れないよ、多分。」
「計測魔道具壊した本人が何を…。」
「あーあー。聞こえない。」
マキナはそう言いながら枕に顔を埋めた。
「ねーねー。」
「何かしら?」
「終わったなら食堂行こう!」
「そうですね。では行きましょうか。」
二人の提案に四人は食堂へ夕食を食べに行くようだ。
食堂では相変わらずアリスが蕩けそうになっていたが、三人は"それはいつもどおり”っと思い、今回の支配人も表情や態度には出さないが内面では若干引いているようだった。
食事が終わると四人は湯浴みへ行くことにしたようだ。
さて、四人が湯浴みをしている頃ギルドではダンリックが翌日の指定依頼の準備を進めていた。
「――では指定メンバーで登録させて頂きます。」
「はい。お願いします。」
「尚、指定メンバー意外はこの依頼を受けることができません。ギルドの貸出船を破損、沈没させた場合は賠償金が発生しますのでご注意ください。」
「ああ。分かっているよ。」
「では、ここに印をお願いします。」
「はい……これで宜しいでしょうか?」
「結構です。ではこの内容で登録させて頂きます。」
職員は印が押された羊皮紙に何やら書き込み、他の羊皮紙にも書き込んでいる。
ダンリックは荷物を片付けると自分の荷物を持ち、宿へ戻っていった。
マキナ達は湯浴みを終え、部屋に戻ってきていた。
「あーさっぱりした。」
「そうですね。土埃とか結構被りましたからね。」
「私とマキナなんて血も浴びたからね。」
「それじゃ、明日の予定はダンリックさんの護衛と言うことで。」
「そういえば無人島と言っていましたが、どんな薬草があるんでしょうか。」
「聞いたことないわね…明日本人にでも聞いてみましょう。」
「でも商売上の秘密だから教えてくれないかも?」
「うんまぁ…寝よう。おやすみ。」
「おやすみマキナ。」
マキナは復帰時間を設定するとスリープモードへ移行した。
その後すぐに三人もベッドに入り、眠りに落ちていった。
次の日の朝…。
予定通りの時間にスリープを解除し、起床する。
マキナが起きた時には既に三人とも起きていた。
「おー?皆早いね、おはよー。」
「おはよう、マキナ。」
「おはようございます、ベッドがふかふかでよく寝れたおかげでしょうか、早起きすることが出来ました。」
「ほほう。やはり良いベッドで寝るとコンディションも良くなるんだなー。」
「マキナも起きたし!朝食食べよう!」
食堂に向かい食事をとる。
相変わらずのアリスだったが、それを流しつつ四人は食事を済ませ部屋から荷物を持ちだした。
四人はダンリックがギルドに申請したであろう依頼を受けにギルドへ向かっていた。
ギルドの中は相変わらず綺麗でテーブルに座っているパーティからは今日の予定などを話し合っているようだ。
ギルドの受付まで歩いて行き職員に話しかける。
「おはようございます。何か御用でしょうか。」
「えっと、ダンリックと言う人から指定依頼が来ていると思うのですが。」
「ダンリック様ですね。少々お待ちください。」
そう言うと受付の職員は手元にある羊皮紙の束をめくり始めた。
数枚めくると目的の物を見つけたのか、一枚の羊皮紙を取り出しマキナ達の前に差し出した。
「これがダンリック様からの指定依頼になります。お受けになる際はこの羊皮紙に名前の記入をお願い致します。」
「わかりました。」
マキナはそう言うと羊皮紙の参加一覧と書かれている場所に自分の名前と三人の名前を書き込んでいく。
四人の名前を記入し終えたマキナは羊皮紙を職員に手渡すと職員がそれを確認する。
「ギルドカードを拝見させていただいても宜しいでしょうか?」
「はい。ちょっとギルドカード貸してー。」
マキナはそう言うと三人からギルドカードを受け取る。
四人分のギルドカードを職員に手渡すと、受け取ったギルドカードと羊皮紙に書かれている名前を見比べていく。
職員は名前の確認が終わったのかギルドカードをマキナ達に手渡した。
そして羊皮紙にサインをすると依頼書をマキナに手渡す。
「依頼の受付完了です。頑張ってください。」
「ありがとうございます。」
そう言うとマキナ達はダンリックとの待ち合わせ場所へと移動していくのだった。
街中は相変わらず露店で埋め尽くされ、港には馬車が何台も止まっている。
この馬車はこの大陸の国々を回るのだろう。
ギルドから少し歩くと馬車が二台乗るであろう帆船が停泊しているのがわかる。
そこにはダンリックが立っていた。
後ろにある船はよく見ると冒険者ギルド所有船と書かれている。
「ダンリックさーん!おはようございます。」
「おや、おはようございます。今日もお元気ですね。船はギルドからお借りしました。早速行きましょう。」
「了解です。ダンリックさんは船の操作できるんですか?」
「えぇ、一応できる事はできます。」
「(大丈夫かしら…。)」
ミルフィーはそう思いながらも船に乗り込む。
5人が船に乗るとダンリックがマキナ達に指示を飛ばした。
「すみませんが錨を上げてくれないでしょうか。」
「あ、はい。任せてください。」
マキナはそう言うと船の先端にある錨を引き上げた。
それを見ていたアリスとミルフィーは"またやってる”っと言った表情でマキナを見ている。
「マキナ。これ見てくれるかしら?」
「ん?なにそれ?」
ミルフィーが丸く、一本の棒が飛び出ている物体に手を置いていた。
「マキナ?普通錨はこれで巻き上がるんだよ。」
「あー。そうなの?私の世界だと自動だからね。アハハ。」
「しかもそれ一人で持ち上げられるほど軽く無いのだけど…まぁ、マキナだしそれもあるわね…。」
アリスが苦笑いをしながらもロープを巻き上げているとダンリックから出航
の声が聞こえてきた。
「それでは出発します。帆を張ってください。」
「はい。」
ネザリアは帆を止めていたロープを外すと、マストから一直線に帆が降り、風を受けて帆が張った。
静止していた船が少しずつ動き出す。
「わー!すごい。動いてますよ!」
ネザリアは船から身を乗り出すようにして見ている。
「ちょっとネザリア、危ないわよ。」
ミルフィーが身を乗り出しているネザリアに注意をする。
「ご、ごめんなさい。こうやって船に乗るのは初めてで…。」
「初めて、ね…私も初めてよ。」
「お?皆初めてなの?」
「冒険者はあまり船乗らないから、初めてが多いんだよ。」
「へー。私も海には出たことなかったなぁ。」
そんなことを話していると港から徐々に遠ざかっていた。
マキナ達は船の四方に散り、海の魔物を警戒していた。
しかし、魔物は一向に現れず静かな海のままだ。
魔物が襲ってこないのは良いことで有るが、近海に何も居ないのは逆に不気味である。
「んー。何も居ないなぁ。」
そうマキナが呟くと、操舵をしているダンリックがその呟きに反応した。
「魔物が居ないだけでいいじゃないですか。」
「そうですけど、こうも居ないと逆に不気味というか…。」
「それは…そうですが、何も起こらなければ良いのです。」
「それはそうと、どうやって進行方向を決めているのですか?」
マキナが不思議そうに問いかけた。
羅針盤の計器類もなく海に出たら迷うだけである。
ダンリックはそう言われると舵の中央に付いている水晶球を指さした。
「これですよ。この水晶球は方角を表してくれるのです。」
「ほほう。コンパスみたいな物かな。」
「コンパスが何かわかりませんが、この水晶球は方位魔道具で北が赤く光る事で方角がわかるようになっています。理屈はよくわかりませんが。」
「ほほう。そんな魔道具があるんですか。…壊したら怖いので触らないでおきます。」
「ははは。ちょっとやそっとじゃ壊れはしないよ。」
「いえ…前例が…。」
「ふむ…。人生そんなこともあるさ。」
マキナ達が船に乗ってから一時間ほど経つと、すっかり港は小さくなり見えなくなってきた。
それと同じぐらいにトラブルが発生しだした。
「…気持ち悪いです…。」
ネザリアが船酔いを起こしたのだ。
「ちょっと大丈夫?」
「だいじょう…ぶ…です…。」
「大丈夫じゃないわ。完全に酔ってるじゃない。」
「ダンリックさ~ん!休憩室借りてもいいですか?」
「ああ、構わないよ。お仲間さん運んであげなさい。」
「ありがとうございますー!」
アリスがそう叫ぶとネザリアを抱き抱え船の中へ入っていった。
残念ながらマキナの医療セットには酔い止めは入っていない。
「んー。これは予想外。まさかネザリアが酔うなんて…。」
「仕方ないでしょう。酔など人それぞれです。」
「そうですね。目的地まで残りどれくらいです?」
「そろそろ見えてくるはず…。ああ、あれですね。進行方向の少し右にある島です。進路を少し修正します。」
「ん~?どれどれ。」
マキナは言われた方向を見るとディスプレイにズームされた映像が表示された。
そこには確かに島が存在していた。
島には鬱蒼とした草木が生え、島全体を覆っているのがわかる。
マキナは広域スキャンで生物反応を調べようとしたが、魔力に敏感な方位魔道具が有ることを思い出すとスキャンをやめた。
コンパスと同じ理由だ。コンパスの周りに強力な地場があればコンパスは狂ってしまう。
方位魔道具も理屈は同じで星を回る魔力に反応し、表示しているのだ。
そんな物の近くで高出力の広域スキャンなど使った日には方位魔道具が一時的、あるいは壊れてしまうだろう。
マキナは出力の小さいレーダーだけを使い、当たりを見渡していた。
しかし、相変わらず動物や魔物は居らずに静かな波の音が当たりから聞こえてくる。
船に乗ってから三時間後には無事に目的の無人島に到着していた。
アリスはネザリアを起こすと船の出口へ連れて行く。
港が無いため帆船は接岸出来ず、島から少し離れた場所に停泊しているのだ。
船に備え付けられていた手漕ぎ船に乗り換えると五人は無人島へと上陸した。
マキナは出力を押さえ気味で島の一部をスキャンしたが魔物や動物の反応は無く、自分たちだけが表示された。
「んー。何も居ないみたいだよ?」
「それは変ね。動物も居ないのかしら?」
「うん。」
「おかしいですね…とりあえず薬草を集めてしまいましょう。」
「はい。どんな形の薬草ですか?」
「葉はギザギザしており、少し茶色の葉をしているのが今回の目的の物です。」
「了解です。じゃ、皆探しに行こう。アリスはダンリックさんの護衛を。ネザリアとミルフィーは散開して薬草を確保。」
「わかったわ。」
「わかりました。」
「護衛は任せろー!」
「それではみなさんよろしくお願いします。」
そう言うと各自の仕事を始めた。
「さてさてどれかなーっと。」
マキナは早速森の中に入ると地面に生えている草を見ている。
少し森の中を歩くと茶色い葉をしている草を見つけた。
マキナはそれを引きぬいて分析してみると成分が表示された。
「ふむ…。病去草の上位互換ってやつかな?色々ありえない草だけど…。」
マキナがスキャンした草は病去草より強力な抗生物質やビタミン各種、鎮静作用が含まれている。
「どうしたらこんな植物ができるんだろう…。とりあえず沢山とっておくかな。」
マキナは目についた薬草を次々に抜いては四次元空間に収納して行く。
しばらく抜き、歩いていると知らないうちに森の奥地まで来ていてしまった。
「ん~?ここどこ?結構奥まで来ちゃったみたいだなぁ…そろそろ戻ろうかな。」
マキナが元来た道を引き返そうとした時視界に自然の物とは言えない物が目に入った。
マキナがその方向へと歩くとそれがはっきりと見えた。
「これは…遺跡?」
そこにあったのは石で出来ている基礎、家の様な後だ。
そして奥には祭壇のような物がある。
祭壇は所々壊れてしまっているが原型はまだ残っている。
「んー?無人島に祭壇?なんだろうこれ?」
マキナは遺跡の道を進み祭壇へ向かって行く。
道は石畳で出来ており、それなりの文化が有ったことが窺い知れる。
「この祭壇って何のために有ったんだろう…?あれ?スキャン開始。」
マキナが当たりをスキャンするとこの一帯、この祭壇付近を中心に魔力濃度が高いことがわかった。
魔力とは世界に均等に漂っている物で、一箇所に濃くなると言う事は通常ではありえない。
あり得るとしたら魔力の分布が変わるほどの大魔法を使ったことになる。
「…昔ここで何か有ったのかな?でもこれだけの情報じゃ何もわからないから―」
その時だった。
マキナの足元から何かにヒビが入る様な音が聞こえてきたのは。
「っ!まさか!うわっ!!??」
マキナが回避しようとした時には遅かった。
地面が崩れ、マキナはそのまま落ちていってしまったのだった。




