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地面から這い寄るアイツ

朝日が昇り、辺り一帯が太陽の温かい光が照らし始める。

宿の窓に光が差し込み始めた。


「うーん?朝か。」


マキナが目を覚ますと、三人ともまだ寝ていた。

その様子を見て不思議そうにディスプレイに時計を表示させる。


「あ、あれ~?復帰時間、間違えちゃったな。」


マキナは苦笑いをしながら皆が起きるまで何をしようか考えていた。

少し考えると、あることを思い出したのだ。


「そういえば武器とか体のメンテナンスしてない。」


マキナは体のメンテナンスを行ったが、何処にも異常がないことがわかる。

そして皆を起こさないように扉を静かに開けて外へと出て行った。

宿の庭に出ると周りを見渡し人がいないことを確認する。


「よし。誰もいないね。よし、出てこいっ!」


ATS -魔導式AVA-


“魔導式AVAとリンクを確立”


「よし。さてさてメンテナンスっと。」


メンテナンスを行なっていると、魔導式AVAのバレルが摩耗しているのがわかった。

その後メンテナンスを続けたが、特には異常は無かった。


「うーん。さすがにガトリングは摩耗が酷いなぁ…。後何発撃てるかな?」


摩耗具合を基礎データとして後数発撃てるかシミュレーションを始めた。

シミュレーション事態はすぐに終わり、結果が表示される。


「残り一万ちょっと…か。バレルの交換も出来ないし、少し使用を控えたほうが良いかもしれないな。」


AVAを片付けるとマキナは皆が居る部屋へと戻って行く。

部屋の扉を開けると既に三人が起きていた。

思ったよりもメンテナンスの時間が長引いて閉まっていたためだ。


「あ、おはよー。」

「おはよー。」

「おはようございます。」

「あら、おはよう。何処に行ってたのかしら?」

「うん?装備のメンテナンス…整備してたんだ。」

「そうなの。」


マキナが戻ってくると皆は宿から出た。

これから王都へ向けて村から出発することになる。

マキナ達は出発前に荷物を確認すると王都へ向けて出発した。


「ねーねー、ミルフィー?」

「ん?何かしら?マキナ。」

「この村から王都までってどれくらいなのかな。」

「…昼過ぎに到着かしら。」

「ふむ。そんなに遠くないのね~。」


その後黙々と道を歩いて行く四人。

太陽が真上に差し掛かろうかという時、目の前には徐々に王都が見えてきていた。


「あと少しだねー。」

「そうだね…ふふふ…。」

「ア、アリスさん…。」

「まったく。アリスは食い意地が…?」


ミルフィーは違和感を覚えた。


「…ねえ?なんか揺れてない?」

「ん?揺れてる?……あー。確かに揺れてるね。」

「でもこれ少しずつ大きくなってませんか?」

「なんだろうね。」


マキナはとりあえず観測機能で辺り一帯を調べ始めた。


「レーダー敵影なーし。魔力反応なーし。大気、空間異常なーし。」

「異常なし?じゃ、これはなんだって言うのよ?」

「うーん。地震じゃないの?」

「でもこんなに…」


その時マキナのレーダーに自分たちと重なるように敵が表示されたことに気がついた。


「っ!地面だ!地面の中に魔物が居る!」


マキナがそう言い放つと揺れはどんどんと大きくなって行く。


「皆!飛んで!」


アリスがそう言うとマキナ達は四方バラバラへ避けるように飛んだ。

その瞬間地面から何か大きなものが顔を出した。


「え?ミミズ?いや、でかいね!」

「ミミズなんかじゃないわ。こいつはWS指定のアースワームよ!」

「おおう。地面に戻っていってしまった。」

「こいつは地面からの奇襲、地面を這うようにして口内にある刃にも似た歯で相手を切り裂きながら丸呑みする魔物よ。」

「え?なんでこんな道の真ん中でそんな魔物が?」


ネザリアは道の真中。

それもよく人が通る道でSの魔物が出たことに驚いていた。


「わからないわ。ただ、何か有ったことは確かね。王都に着いたら確かめてみるのが良さそうね。」

「とりあえず倒そう。【フェンリル!】」

「【さぁ!參ろうぞ!】」

「いい?アースワームは皮膚が固く、斬撃を通しにくい。でも薄い場所があるからそこを狙うのよ!」

「狙うって行ってもなぁ…。」


マキナは自分のましたから出てきたアースワームを躱すと、地面に戻ろうとするアースワームを視界に捉えた。


既に地面に潜ってしまったアースワームだが、マキナは先程見たアースワームを再生し、アースワームの特徴を見ていた。


「これ薄いだろうと思われる場所…狭くない?」


マキナは狭くとも固くとも何だろうと高周波ブレードで斬ってしまえば良いと思っていたのだった。

そこで一つ思い出したのだった。

最近ノワールの出番が無いことを。


「…使ってあげるかなぁ…。ATS -ノワール-」


マキナは剣を取り出すと剣を構えた。

レーダーは常に表示しており、対象が地表に近くなった時に反応するようになっている。


「ネザリア下!」


マキナが叫ぶ。

叫ばれたネザリアはその場から離れる。

離れてからほんの数秒後地面からアースワームが飛び出してきた。


アースワームは地面に潜らず地表を這いずるかのように迫ってきた。

攻撃対象はマキナだ。

迫り来るアースワームを避けようとせずにただ目の前に立っていた。


「ふふーん。後十メートル。」

「マキナ何か企んでるわね。」


アースワームとマキナの距離が残り五メートルを切った所でマキナは足に力を込めると、アースワームの真上に飛んだ。

そのまま落ちる時の運動エネルギーを利用し、アースワームにノワールを突き立てた。


ノワールは見事にアースワームの硬い皮膚を貫通すると突き刺さった場所から緑色の血が溢れ出してきた。

アースワームが痛みで暴れだし、マキナを振り落とそうとする。


「おっとっと?そんなのじゃ振り落とされないよ?アリス!」

「任せて!」


アリスが動きが止まっているアースワーム目掛け爪を振るった。

爪は皮膚の薄い場所へ吸い込まれるように振り下ろされたのだ。

爪は薄い皮膚を深く抉り、血が噴き出してくる。


「うへぇ。血まみれ…。」

「【こんなものすぐに流れ落ちる。汚れなど残らん。】」


その時アリスに声が掛かった。


「アリスさん魔法を放ちます!<轟く雷よ!彼の空から此の地へ落ち、裁きを与えよ!ミッド・ライトニング・ドライバー!>」


アリスは魔法の発動と同時に飛び退くと空から一筋の雷が寸前に傷を負わせた場所へ落ちた。

落ちた雷は本来電気に強いはずのアースワームを内部から高圧の電流で焼いていく。

周囲に肉の焦げる匂いが漂う。


「おおおおお?ノワールを通して電流が流れてきてる。」

「あ、ま、マキナさん大丈夫ですか!?」

「あー。うん。平気だから気にしないで~。」

「<ハイ・ウィンド・スラッシュ>」


ミルフィーの放った大きな風の刃が切り裂かれたアースワームに致命傷とも言えるダメージを与えた。

風の刃は一瞬にして通り過ぎたかと思いきや、地面を抉りアースワームを両断していったのだ。


「おっと。…っと。」


マキナはアースワームの上から降りるとノワールに付いた血を払い飛ばしていた。


「ふぅ。終わったなぁ。」


アースワームは両断されてから暫くは体をくねらせ動いていたが、次第に動きが鈍くなり数分後には動かなくなった。

マキナはアースワームを道の端に寄せると、周りを見渡している。


「あーあ。これどうするの…。」


それは穴だらけになった道である。

マキナは後始末をどうするか考えているとアリスから声が掛かった。


「マキナ!後ろ!」

「あー。はいはい。死に損ないは…。」


マキナはノワールを振り上げると後ろを振り向き、振り下ろした。

手加減無しの斬撃は一番固い筈の口を縦一筋に切り裂いたのだ。


「黙ってそのまま死んでよ?…ノワール大丈夫かな?」


マキナは力任せに斬ってしまったためノワールの刀身を見ていた。

刀身には傷ひとつ無く、血で汚れてしまっているが大丈夫そうだ。


「ほっ。よかったよかった。」

「マキナさん大丈夫でしたか?」

「あぁ。大丈夫。このぐらい平気だからね。」


そう言いながらマキナは再び周りを見ながら言葉を発した。


「これ直そう。」


魔法が使えないアリスと待機中のマキナは人が落ちないように道を見張っていた。

ミルフィーとネザリアは道から外れたところにある土を魔法で掘り起こし、穴へと入れている。


「この穴って結構深いよね。」

「そうだね。あのアースワームがあんなに勢い付けて出てくるんだから結構深そうだね。」


暫く続けているとミルフィーが一度に大量の土を運んできたのだ。


「うわ!退避ー!」


アリスとマキナは穴から離れるとミルフィーは道一杯に土を下ろした。

土は道から溢れ高く積み上がっているが、魔法で穴に落としているようだ。


「…。まったく迷惑な魔物だよね。」

「…。そうだね。」


アリスとマキナは道の端で空を眺めながら座っているのであった。


それから一時間後。

無事に作業を終えたのだろう。穴がふさがり道が元通りになっている。


「おーお疲れ様!」

「おつかれー。」

「…。本当に疲れたわ。」

「つ、疲れました…。」

「街まで後少しだから頑張れ!」


マキナはそう言うと二人に肩を貸しながら歩き出した。


「再しゅっぱーつ!」


その後魔物に襲われることもなく、三時間ほど歩くと王都へ入るためのもんが見えてきた。

王都に近づくに連れて潮風と青い海が見えてくる。

こちらの道は人気があまり無いのか誰一人として並んでいない。


マキナ達が近づくと騎士が四人を呼び止めた。


「止まれ。身分証を提示してください。」

「はい。四人分ね。」


ミルフィーが三人からカードを受け取ると騎士にカードを手渡した。


「冒険者か。良いだろう。通れ!」


ミルフィーはカードを受け取ると三人に返しながら歩き出した。

街に入るとアインス、クォーツィでも見たことがない程賑わっていた。


「おー!凄い活気だね!」

「あ!あれ南の大陸原産のお肉!それにあっちは東の国の米じゃない!」

「あなた達。まずはギルドに行くのよ。」

「そうですよ。先ほどのことを報告しなければなりません。」

「あ、そうだった。ごめんごめん。」

「待っててね!私の食材…!」


そう言いながら賑わっている町中を通っていくマキナ達。

マキナは歩いていると一件の店が目に入った。

そこには鉄格子の檻に入れられた少女が入っていた。服は薄汚れ、手首には鎖がつけられ首からは番号と値札が掛けられている。

それを見たマキナはあまりよい気持ちではなくなった。

元々人権意識の高い地球ではこのような事など無かったからだからだ。

そんなマキナに気がついたのかミルフィーがマキナに声を掛けた。


「マキナ。この世界では奴隷は認められていることなの。」

「でも!こんなの酷いよ…。」

「マキナ…。」

「……もういい。行こう。」


マキナは奴隷商店から目を背けると歩き出した。

それに続くように三人も続いていった。


少し歩くとギルドの看板が見えてきた。

交易国家だからだろうか、ギルドの外装や内装が他の国に比べて立派な作りになっている。

中へ入ると酔いつぶれた客はおらず、昼食を食べる青年や作戦会議をしているであろうパーティが見受けられた。


「へぇ。他の国にも見られるからギルド内も綺麗にしてるのね。」

「そうね。受付に行きましょう。」


マキナは受付に行くとカードを手渡し、先ほど有ったことを受付の職員に話すとマキナ達に待つように言いながら二階へ上がっていった。

恐らくギルドマスターの所へ向ったのだろう。


職員が上がっていって数分後、職員が階段から降りてきた。


「すみませんが、ギルドマスターが面会を望んでおられますので来てもらってもよろしいでしょうか。」

「わかりました。」


職員は一礼するとマキナ達を二階にあるギルドマスターの部屋へと案内していく。


「ここです。では失礼します。」


そう言うと職員の人は下へと降りて行ってしまった。

マキナが扉をノックすると中から女性の声が聞こえてくる。


「どうぞ。」

「失礼します。」


マキナ達が部屋の中に入ると二十五歳ぐらいの女性だろうか。

椅子に座りこちらを見ていた。


「そこに掛けて頂戴。」


そう言うとマスターはマキナ達が座っているソファーの反対側へと座った。


「えっと?チーム戦女神。あなた達がアースワームを発見討伐したのよね?」

「はい。クォーツィからスペルチェへ向かう途中で遭遇しました。」

「おかしいわね…。アースワームがこんな場所にいる事自体がおかしいのよ。」

「でも道のど真ん中でしたよ?」

「いい?アースワームは本来カーディ国周辺にしか居ないはずの魔物なの。それがなぜクォーツィ、スペルチェ側にいるのか。なぜアインス、スペルチェ側でトラブルを起こさなかったのか。」

「うーん。たまたまじゃないですか?」

「そうね。それもあるわ。でもアインス、スペルチェの道は一日に何人もの冒険者や商人が行き来している。遭遇しないほうが不思議ね。まるで何かに追い立てられ、そこに移動させられたとか。」

「まさかカーディがまた何か…。」

「先の事があるから否定はできない。とりあえず調査に出した者が戻り次第警告を発令するわ。」

「わかりました。私達は暫くの間スペルチェに居るので何かあったら呼んでください。」

「わかった。何かあったらお願いね。」

「では失礼します。」


そう言うとマキナは立ち上がった。それに続き三人も立ち上がり部屋を出て行く。

扉が閉まりマスターも立ち上がり机の隣にある窓から外を眺めながら呟いた。


「あの娘がリーダー…か。不思議な娘ね。」


呟いた声は誰にも届かず虚空へと消えていったのだった。




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