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助けてと言ったな。あれは嘘だ。

ウワァァァァァァ



クォーツィを出てから数時間後。

マキナ達はスペルチェへ向けて歩いていた。


「ちょ、ちょっと休憩しよう?お腹空いたよぅ。」

「知らないわよ。私は注意したじゃない。」

「体力はまだあるけど空腹には勝てないよ。」

「空腹ならしょうがない。」

「さすがマキナ!わかってるぅ!」

「でも早くスペルチェに着きたいからまだだーめ。」

「う、裏切られた…。」


マキナはアリスに"めっ”っと歩きながら指を向けてた。

アリスはがっかりしながらも歩いている。


「今どの辺りなのでしょうか。」

「そうね…。クォーツィとスペルチェの国境辺りじゃないかしら。」

「出発前に受けた依頼は確かスペルチェ方面からクォーツィに向かっていた商人が襲われたっと書いてありましたね。」

「そうね。国境付近では休憩しないほうが良いと思うわ。」

「そうですね。この辺りで休憩してから国境を超えたほうが良いかもしれませんね。」

「それじゃ休憩にしてお昼にしよう。そうしよう。」

「うん?休憩するの?」

「そうした方がいいわ。休憩中に盗賊に来られても困るし。」

「了解~」

「それじゃ早速食べよう。そうしよう。」


そう言うとアリスはバッグから四人分の食料を取り出した。

マキナはどうしてもアリスのバッグが気になるようだった。


「(相変わらずあのバッグどうなってるんだろう…まぁいいか。)」


マキナはアリスのバッグについて考えることをやめた。


アリスは食料を三人に渡すと美味しそうに食べ始めた。

マキナは干し肉を口にした途端今まで食べていた干し肉より塩分が濃い気がした。


「この干し肉塩分が多い。」


マキナの言葉にアリスが反応した。


「水分を抜く過程で使った塩が残っているみたい。くっ、私としたことが!」

「ま、まぁ食べれるからいいんじゃない?」


アリス心底がっかりしていた。


四人は食料を食べ終わるとスペルチェへ歩き出した。

一時間ほどだろうか。歩いていると道沿いに関所が見えてきた。

クォーツィとスペルチェとの国境である。

その関所はクォーツィ、スペルチェの騎士団の詰所が左右に置かれている。


マキナ達が関所に到着すると二人の騎士がマキナ達に声を掛けた。


「ちょっと止まってくれ。少しいいか?」

「すまんね。これも決まりなんだ。」

「えぇ。これでいいでしょう?」

「あぁ。ミルフィー…あぁ噂のエルフね。」

「噂?」

「こいつ新米騎士なんだ。噂っていうのは冒険者のエルフがいると言うこった。」

「自分最近任を得た者で…。」

「そうなの。この時期の新米は大変そうね。」

「そうだな。最近賊の活動が盛んになっていて大変なんだ。」

「やはりアインスとクォーツィの軍事力が低下しているのが原因だと思うのだが…ところで残りの三人の身分証を見せてくれ。」

「はいはい。ほら、カード出して。」


マキナ達がカードを出すとミルフィーが三人のカードを受け取り、騎士へ手渡した。

受け取った騎士のカードをもう一人の騎士が覗き込んでいる。


「マキナとアリスとネザリア…ね。カード返すよ。」

「ん?ネザリア?」

「(あ。これめんどくさいやつだ。)ささ!行こう!」


アリスがそう提案する。


「そうね。通させてもらうわよ。」

「おー?行こう行こう。」

「そうですね。行きましょうか。」

「お、おう。気をつけてな。」


皆がそう言うとミルフィーがカードを持っていた騎士からカードを取り戻すと、歩きながらカードを戻していった。


マキナ達が関所を通り過ぎた後カードを覗き込んでいた騎士が一言声を上げた。


「あ!思い出した!」

「どうした?」

「ネザリアと言えばあの御方だ!」

「ん?」

「お、お前本当に何も知らないんだな…。」

「す、すまん。」

「ネザリアと言えばアインスのネザリア・アインス王女様だよ!」

「あ、へ?」


マキナ達が関所を通りすぎて数秒後、関所方面から驚きの声が響き渡った。

その驚きの声はマキナ達にも聞こえてきた。


「えっ!?何!?」


マキナは歩きながら関所方面へ頭を向けた。


「やっと気づいたのね。」

「そうみたいだね~。」

「何が?え?ネザリアわかる?」

「私にもわかりません。」

「あなた達鈍いわね。マキナ。ネザリアはどういう人?」

「ん?ネザリアはネザリアでしょ?」

「…。ネザリア。貴方はどんな人かしら?」

「はい?ええっと?」

「アリス。説明してちょうだい。」

「はいはーい。いい?単純な事だよ。ネザリアとマキナ。ネザリアの家名は何?」

「何ってそれはもちろんアインス…あ。」

「あ、そうでした!すっかり失念してました。」

「そういうことよ。」

「なるほどねー。何も知らない騎士が王女様が居るとなれば騒ぎになるっと言うことだね。」


マキナが納得していると風景が徐々に青々とした木々に囲まれていく。

どうやら森へ入ったようだ。


「ん~!森林浴ってイイネ!」

「そうですね。森は良いものですね。」


マキナとネザリアが森林浴を楽しんでいるとアリスとネザリアは周りを警戒していた。


「盗賊が隠れるにはちょうどいい場所ね。」

「そうだね。今のところは居ないけど、いつ襲ってくるかわからないからね。」


しばらく騒ぎ、警戒しながら歩いていると、道端にボロ布のような服を着ている人が倒れていた。


「うぅ…助けてくれ…。」

「っ!大丈夫!?」


そう言うとマキナは倒れている男に駆け寄って行く。

ネザリア、アリスもそれに続くが、ミルフィーは男を見ていた。


「(あの男おかしいわ。服装はボロ布だけど痩せこけていない。それに肌が綺麗すぎるわね。)」


ミルフィーが考え事をしている最中もマキナ達は男に声を掛けている。

どうやら男は盗賊に捕まり、奴隷として売り払われる前に逃げ出し、捕まっている仲間たちを助けてほしいと言うのが男の言い分だ。


三人はすっかりその気になっているようだ。

アジトの場所、盗賊の数、奴隷の人数を聞き出している。


そんな中ミルフィーだけは少し離れた場所でその様子を見ていた。

男を信用出来ないのだ。


「(商品だから傷をつかないようにしているのもある。でもそれは女の場合。男は大抵少し傷がついても値は下がらない。)」


ミルフィーが考え込んでいると男から事情を聞き終えたマキナ達がミルフィーを呼んだ。


「ミルフィー!これから助けに行くよー!」

「えぇ…。そうね。行きましょう。」

「ありがとうございます…。」

「困ったときはお互い様です。」


そう言うと男を先頭にマキナ達は道から外れ、森の中を歩いて行く。

背の低い草木を掻き分け五人は進んで行く。

十分程だろうか。今まで木々で閉ざされていた視界が開けた。

そこには崖に掘られた洞窟があった。


「こ、この中があいつらのアジトです。」

「それじゃ行こうか。」


そう言うとマキナ達は洞窟の中へ入り始めた。


「貴方は来ないのかしら?」

「え!?あ、いや、自分は戦えないので…。」

「…そう。」


そう言うとミルフィーもマキナ達に続いて洞窟の中へと入っていった。

洞窟の中は所々の壁に松明が立てかけられていた。

奥に進むと道が二手に分かれていた。


「皆はどっちだと思う?」

「私は右だと思う。」

「そうですね。松明の消耗具合も違いますし、右かと思います。」

「奴隷として売り払う人たちを押し込めておくだけなら松明を頻繁に交換するはず無いでしょうね。」

「じゃ、右に行こう。」


そう言うとマキナは右の通路へ歩き出した。


「…それにしても盗賊居ないね。」

「それもそうだね…出かけてるのかな?」

「なら好都合じゃないですか?居ないうちに捕まっている人たちを救出して、帰ってきた所を不意打ちする事ができます。」

「…。」


少し歩くと洞窟の壁に鉄で補強された木の牢屋が見えてきた。


「あれみたいだね。」


マキナが牢屋に近づくと中に倒れている女性の姿が見えた。


「おーい!大丈夫ですか!」

「ん…。あ、え?どうして此処に?」

「外に居た人から仲間が捕まっていると聞いてね、助けに来たんだよ。」

「駄目です!それは罠です!」

「え?」

「…やっぱりね。」


その時マキナ達が歩いてきた方向から多人数の足音が聞こえてきた。


「へへへ。上玉が四人も掛かったか。これは今晩が楽しみだな。」

「ハメられた!?」


そう言うと男の後ろから先ほどのボロ布の男が出てきた。


「どうだ?俺の演技は?」

「あー!さっきの男!」

「そこの黒い女ほど馬鹿正直な奴ほど引っかかるんだよな。ハハハハ!」

「むっきー!」

「落ち着きなさい。あの男の演技は完璧じゃなかったわ。」

「なんだとぅ?」

「まず、奴隷として売り払われる人、しかも男がそんなに無傷な筈が無い。次にその服装に対して貴方は綺麗すぎる。なんで汚れてないのかしら?」

「…次の参考にさせてもらうぜ。」

「まぁ。あなた達に次は無いでしょうね。何故なら此処で私達に討伐されるのだから。」

「へっ。女が意気がるなよ。」


そう言うと盗賊たちが一斉に剣を抜いた。

それを合図にマキナ達も戦闘態勢に入った。


「ミルフィーとネザリアは下がって!洞窟で魔法は危ないから!」


そう言うとマキナは二人を後ろへ下がらせた。

魔法が洞窟の壁に当たり、落盤を起こしたら大変である。


アリスは剣を抜き盗賊達へ飛び込んだ

マキナはアリスを通り過ぎてきた盗賊を相手することにした。

もちろん武器は無しだ。


アリスを数人の盗賊が素通りしてきた。

盗賊はマキナに剣を振り下ろすがマキナはそれを難なく躱すと盗賊の一人に躱した勢いで腹部へ拳を叩き込んだ。


その盗賊は体をくの字にしながら数メートル吹き飛んでいった。


「まずは一人。」

「よくも殺ってくれたな!」

「どっちの意味かは分からないけど、殺してはいないよ…多分。」


そう言いながらも剣を躱しつつもう一人の盗賊へ狙いを定めた。

狙いを付けられた盗賊は咄嗟に剣を振るうがマキナに剣を掴まれ引き寄せられてしまった。


「なっ!?剣を素手で―」

「オヤスミ。」


剣を掴んでいない片手で盗賊の頭を掴むと衝撃魔術を行使した。

最低威力で放ったが意識を刈り取るには十分な威力であった。


「知ってる?脳震盪ってダメージが回復する前に再度強い衝撃を受けると脳に障害が発生する恐れがあるんだよ。」

「知るか!」

「ですよねー。」


二人目がやられたことで更に怒りを増して襲いかかってきた。

マキナは振り下ろされる剣を体をずらし躱すと遠心力をつけながら盗賊を蹴り飛ばした。


こうしてマキナにより三人が倒され、前ではアリスが盗賊を切り倒している。

アリスは相手を生かすつもりはないらしい。

持っている剣の都合上峰打はできない。


「さてっと。まだ半分ぐらい居るし、手伝うとしますか。」


そう言うとマキナは盗賊の中へ駆け込んでいった。


そして一分後、見事に制圧された盗賊の姿があった。


「ふむ…生き残りは一三人か。とりあえず牢屋に縛って放り込んでおくか。」

「そうね。後でギルドにでも報告して騎士に引き取ってもらいましょう。」


マキナとアリスが生き残りを縛り上げていると、ネザリア達がやってきた。

後ろには先程の女性が立っていた。

格好から見るに冒険者だろうか。レザーアーマーに剣を携えている。


「あ、大丈夫だった?」

「はい。お陰で助かりました。本当に有難うございます。」

「いやいや、いいんだよ。それよりどうしてあんな所に?」

「それは…見事に罠にかかってしまって…多勢に無勢で…。」

「あぁ…私達と同じなんですね。」

「はい…。」

「これから私達はスペルチェへ向かうのだけど、貴方はどうする?」

「あ、私はクォーツィへ向かう予定でした。」

「じゃ、お別れかな。」

「はい。今日は本当に有難うございます。おかげで助かりました。」

「気にしないきにしなーい。」


そう言いながらマキナ達は縛り上げた盗賊を牢屋に放り込むと元歩いて道へと引き返していった。

道に到着すると助けた女性と別れ、マキナ達は経由する村へと向けて歩き出した。


「いやぁ~。まさか演技だったなんてびっくりだよ。」

「はい…まさか演技だなんて…。」

「私も騙されたよ。まったく。」

「あなた達少しは頭使いなさい。先の男なんてよく見ればわかったことでしょう?」

「ぐぬぬ…。」


そんな話をしながら四人は歩いている。

ミルフィーの頭を使う問題に三人は悪戦苦闘しながらも答えていた。

日も暮れ、当たりが夕闇に染まり始めた頃マキナ達は経由予定の村に到着したようだ。

そして村にある宿を取るとマキナ達はその日を終えたのだった。




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