意味がわからないよby異世界人
「とにかく助けないと! ATS -高周波ブレード-!」
マキナは弾丸の如く茂みからそのまま飛び出し少女に迫っていた正体不明の生き物を切り裂いた。
切り裂いた感覚はほとんど無く、綺麗に真っ二つに地面へ落ちていく。
止まるために足を踏ん張った結果マキナの後ろに裏返った地面や砂埃が舞っている。
幌馬車の中に居た人とマキナは目があった。
いきなり現れた人物に中に居た人は驚いているようだ。
「あ、すみません。驚かせてしまって。今片づけますんで。」
「え?」
マキナは甲冑の人達がいるところまで力強く地面を蹴り前へ飛んだ。すれ違いざまに剣を二振り。
青い軌跡を残しながら振られる剣。
マキナの目にはすべてのものがスローモーションに見えていた。
“戦闘モードへ移行”
“視覚装置ハイスピードモード”
“駆動プロファイル変更:近接戦闘モード”
「(すごい。動きがスローモーションに見える。私の体はそのまま動くのに。)」
モードが変更されたマキナの体はその速さを活かせるようにフレームレートを上昇させ、一度に入る情報を増やした。
駆動系が近接戦闘モードへ移行したことにより各部分の動作が早くなりスローモーションに見える中でも自身の体は通常と変わらない動きができるのだ。
前に飛び込んだマキナはその機能を生かし舞うように敵を切り裂いていく。
「(すごい!この剣の切れ味もそうだけど、体ももっとすごい!こんなに早く動けるなんて。…そういえば体のマニュアル生前読んでなかったなぁ…)」
すべてがスローモーションの世界でただ一人普通に動けるマキナはその楽しさから踊るように敵を斬り裂いていった。
“敵性反応消失、モードを通常モードへ移行します。”
スローモーションだった世界が元に戻ると同時にその戦闘は終わりを告げた。
血の匂いが濃い場所に長く居るのは危険だということで場所を移動するようだ。
マキナはそれについていくことにした。
ここがどこか。それがわからない以上は下手に行動すべきでなはない。
「(とりあえずこの人達に着いて行こう。何かわかるかも。)」
皆疲れきっているようだ。
アレほどの戦闘があった後だからしょうがないだろう。
少しして幌馬車が止まり、冒険者達は装備の手入れを始めようだ。
「(とりあえず、あの人に会いに行こう。ちゃんと挨拶しないとね!)」
本当に軍事教育を受けたのかわからないマキナである。
「すみません。お時間よろしいですか?」
「うん?君は…先ほど幌馬車の後ろで目があった人だね?」
「はい。そうですね。あの時は驚かせてしまい、すみません。」
「いえいえ、とんでもないですよ。」
「そう言っていただけると幸いです。」
「いやー。助かりました。私のみならず冒険者の彼女の命も救ってくださるなんてありがとうございます。」
「いえいえ。大したことではありません。それより先ほどのは何でしょうか。」
マキナはそれが気になっていた。
マキナに登録されているデータにはあのような生き物など登録されていないからだ。
ましてや生物はすべて死に絶えたと書いてあったのに居ることがおかしい。
「先ほどのっと申しますとゴブリンのことですかな?」
「ゴブリン?」
「知らないのですか?ゴブリンは多少の知能があり、主に集落や馬車を襲い食べ物や人を攫う魔物のことです。」
「ふむ…。(何そのふぁんたじー。ここ何処なのよぅ…)」
マキナはあの生物の名前を聞きしっかり生物に関するデータベースにデータを書き込んだ。
書き込んでいる途中からここが本当にどこだかわからなくなり、ひとつの可能性が浮上してきた。
「とりあえず彼女の元へ行ってあげたらいいのではないですか?あなたが救ってあげた子なのですから。」
「そうですね。失礼します。」
考えることを一旦やめて先ほどの女性へ会いに行く事に。
先ほどの女性の後ろ姿を見つけ、側によろうと歩み寄っていたら隣の女性がいきなり振り向いてきた。
マキナはそれを受け流し、先ほどの女性へと声を掛けた。
「大丈夫だった?」
「あ、はい。大丈夫です。危ないところありがとうございました。」
彼女はなんとか大丈夫そうだった。
しかし本人は気づいていなさそうだが少し顔が引き攣っている。
「そう。良かった間に合って…あら?本当に大丈夫?気分悪い?」
「そうよ。大丈夫なのアリス?」
「え!? ご、ごめんなさい。さっきの事思い出しちゃっただけだから大丈夫だよ。」
なぜか慌てふためく彼女。
何か変なことを言ったのだろうか。
「そ、そういえば助けてもらったのに名前すら聞いていませんでした。私はアリス。アリス・エルフォードともうします。あなたは?」
「私?私はマキナ。ただのマキナよ。」
「マキナさんですね!ありがとうございました!」
「いやいや、感謝されるほどじゃないよ。私はそういう目的で”作られた”んだし」
「え?」
「ちょっとマキナさんいいかしら?」
「はい?なんですか?」
自己紹介が終わると同時にミルフィーに腕を捕まれ幌馬車から少し離れたところまで連れてこられてしまった。
ミルフィーは腕を離し振り返る。
「私はミルフィーって言うんだ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「っで、聞きたいんだけど、あなた何者?」
「…(何者って言われても困るんだよなぁ)」
ミルフィーがそう質問するとマキナは黙りこんでしまった。
内心どう答えていいか迷っていたのである。
機械神?元人間?迷子?
兎に角、怪しさ満点である。
「アリスを助けてくれたのは感謝してるけど、素性すらわからない怪しい人とは居たくないのだけど。」
「ちょ、ちょっと待って。」
「何よ?」
「一つ聞きたいんだけどいいかな?」
「質問を質問で返さないでくれる?」
ミルフィーは質問を質問で返され少し不機嫌のようだ。
しかし、話が進みそうにない雰囲気だったので受けることにしたようだ。
「で、質問ってなによ?」
「ここ何処ですか?」
静寂。
そしてミルフィーの呆気にとられた顔。
マキナはどれだけ常識はずれな質問をしているかわかっているのだろうか。
いや、わかっていないだろう。
「はぁ?」
「いや、だからここ何処ですか?」
ミルフィーは呆れ顔でマキナに教えた。
「どこってガーランドの街から西に出た道よ?そんなこともわからずこんなところうろついてるわけ?」
「…(わかるはず無いじゃないですかー!ここ完全に異世界じゃないですか!ヤダー!)」
ミルフィーがそう言うとマキナは再び黙りこんでしまった。
マキナは小声で”なぜこんなことに”や”空間跳躍が~”など言っていたがミルフィーは何も口を挟まないようだ。
少したってマキナは口を開いた。
「私はこことは違う場所から来ました。」
「私はそんな事聞いてるんじゃないよ。あんたが何者かと聞いてるんだよ。そんな巨大な魔力、わけわからない剣。アレは何よ?」
ミルフィーは気になっていたことをすべてマキナへぶつけてきた。
マキナは少し返答に困っているように見えた。
「えっと、私は地球と言う場所から来ました。たぶん異世界です。」
「はぁ?」
「この魔力なのですが、私には魔導炉が搭載されているからだと思います。剣に関しては魔力を圧縮し、振動させることにより切れ味を極限まで上げている高周波ブレードといいます。多分わからないと思いますが。」
「そうね。あなたが何を言って、何者なのか何もわからないわ。」
またもやミルフィーの顔は呆れ顔になっていた。
喋り出したらいきなり異世界だと魔導炉だと高周波ブレードなど言われたらわからない人には全くわからないものである。
そんな人物は怪しまない人などいるのだろうか。
「でも決して敵意とか無いんで安心してください?」
「なんで最後疑問形なのよ。」
呆れ顔はそのままでミルフィーは無気力に答えを返してきたように見えた。
「いや、言葉があってるかなーっと思って。」
「あんたね…もういいわ、戻りましょう。」
ミルフィーの言葉でマキナとミルフィーは幌馬車へと戻っていった。
科学のかの字もわからない異世界の人に説明してもわかるはずが無い。