出発
「まったく。恥ずかしいからサボったとか何よそれ…。今更すぎるわよ。」
「だってぇ~。私あんなのやったこと無いし。」
「…もういいわ。」
「でもスッキリしたからいいかなーって。」
「山火龍に何があったのかしら。」
「えっと、吹き飛んで蜂の巣にされて爆発飛散かなぁ。」
「もういいわ。」
マキナたちが外を歩いていると後ろから走ってくる男が現れた。
その男はマキナに飛び蹴りを当てようとしたが華麗に避けられ地面に激突することとなった。
「いってぇなぁ!避けんなよ!」
「いや、避けるでしょ!」
「お前なんで表彰式来なかったんだよ!」
「えーだってー。」
「だっても糞もあるか!来なかった挙句山火龍討伐に行ってたってな!」
「相手が人間じゃないからスッキリしたよ!」
「何したんだよ…。」
「えっと吹き飛ばし―」
「もうそれはいいわ。」
「とりあえず王城行け。王が冷や汗流しながら表彰式やっていたぞ。」
「なんでだろうね。」
「お前のせいだろうが!」
マキナ達は主催者である国王の元へと行くことにした。
元々国王に頼まれて出場したのだ。
それくらいは当然だろう。
「でも王城ってここからだと地味に遠いよね。」
「そうですね。」
「じゃぁ転移しよう。」
「は?」
「ほらほら固まって固まって~。」
そう言うとマキナはアリス達三人をまとめると空間跳躍モジュールを起動した。
一瞬の視界のブレと共に王城の目の前まで転移したマキナ達。
以前会った門番の騎士は突然現れたマキナ達に驚いていた。
「わわ!なにもないところから人が突然出てきた!」
「おおお、おちつ、つつけ!こ、これは魔法だ!」
「こんにちわ~。国王様に用事があって来ましたー。」
「お、おう。お前さんなら通してやるぞ。」
「ありがとね。」
マキナ達は顔パスで場内に入ると国王が居る王座の間へ向かって階段を登っていった。
王座の間の扉の前到着すると騎士に装備を預ける3人。
「ありがとうございます。決まりですので…。」
「例外はないほうがいいわ。」
「そうですね。」
騎士は装備を箱に入れると鍵を掛けた。
「よし。…国王様!失礼します!」
そう言うと扉をノックして開いた。
王座の間にはいつもどおりの国王と王妃が座っていた。
「あ、どこ行っていたんだ!表彰式終わってしまったぞ!」
「あー。なんか色々有ったみたいですね。」
「有ったじゃないぞ…。」
「いやぁ、だって恥ずかしいじゃないですか。」
「恥ずかしいってお前あんなに暴れていたじゃないか。」
「いやぁ、あれは復讐心と言うか何と言うか。えへへ。」
「えへへじゃないぞ…。」
「いやぁ、結果オーライだからいいじゃん?」
「よく意味が分からないが新しい騎士もある程度集まったから良い事は良いが、まだ我が国の戦力は厳しい事には変わりない。」
「アインス、クォーツィ、カーディが同じ時期にこんなに兵士が死ぬなんてね。誰かが裏で糸引いてたり。」
「…。」
「…。」
「そんなことないですよねー。」
「そうだよな。」
「とりあえず、防衛に関してはアインスと共闘と言う形にすればしばらくは安定するんじゃない?」
「あぁ。そうだな。どうかな?ネザリア姫よ。」
「えぇ。我が国もカーディの戦闘の際に兵力を大きく失った事もあり共闘するのは賛成です。」
「ではそのようにアインスに使者を送ろう。」
その後国王と話しをしたマキナ達は話が終わり宿へ戻ってきていた。
「お昼―。」
「ご飯だあああ!」
「あの食堂行く?」
マキナが提案する。
あの食堂とは闘技大会の時に立ち寄った食堂の事だ。
「えぇ。いいわよ。」
「私はどこでも良いですよ。」
「アリスは―。聞かなくても大丈夫か。」
「さぁ行こう!」
「はいはい。逃げたりしないからそんなに騒がない。」
マキナ達は食堂へ向ったが、食堂は大繁盛しており食堂の外まで列ができている。
「あー。これどうするの?」
「他の店にしましょう。」
「そうですね。こんなに混んでいたらいつになるかわかりませんし。」
「ぐぬぬ…。」
結局マキナ達は出店で食事を済ませるのであった。
「うん。美味しかったね~。」
「そう?何処も一緒よ。」
「ミルフィー!料理は作る人が心を込めて調理している物だよ!即ち!その人の味や個性があるんだよ!それを何処も一緒だなんて失礼だよ!第一!ミルフィーは料理に対して無関心すぎるんだよ!ちゃんと調理人の気持ちを理解して食べたことある?料理、それは人生最大の―」
ミルフィーの一言によりアリスの心に火を点けてしまったようだ。
「何か始まりましたね。」
「そうだね。まぁミルフィーがアリスの地雷を踏んじゃったみたいだし、しょうがないね。」
道端で食の在り方を説き出したアリス。
そして道端で座らせられているミルフィー。
道行く人々は野次馬気分で集まり始めていた。
マキナとネザリアはそっとその輪から離れていった。
宿に戻り二人で話をしていると数十分ほどしてアリスとミルフィーが帰ってきた。
ミルフィーは疲れきった表情を浮かべ、アリスは言いたいことを言い切ったという達成感に浸っている。
「あ、二人ともお帰り~。」
「おかえりなさい。」
「…ただいま。」
「たーだいまー!」
「これはまぁ…ミルフィーも大変だったねぇ。」
「まったくよ…まさかあの一言でこうなるとは思わなかったわ。」
ミルフィーは横目でアリスを見るとため息を吐いた。
「とりあえず次はどこに行くのかしら?」
「あ、そうだよね!次どこ行くの?」
「うーん。私としてはスペルチェ国とか行きたいなーって。」
「スペルチェ国ね。あの国は―」
「大陸中の美味しい食べ物や他大陸の食べ物までなんでもあるんだよ!!!」
アリスは目をキラキラさせながら話した。
どうやら食べ物が目当てのようだ。
「よし!じゃ、次の目的地はスペルチェ国だね!」
「賛成!よーし!美味しいもの食べるぞー!」
「おー!」
二人が騒いでいる隣でネザリアとミルフィーは旅路の話をしている。
「スペルチェはクォーツィから南東ですね。アインスを経由するよりクォーツィから出発したほうが早く着きそうです。」
「そうね。確か途中に村も有ったわね。夜はそこに泊まりましょう。」
「そうしましょう。夜の道で野宿するより安全ですからね。」
二人が話していると準備を完了し、今にも飛び出していきそうな二人が声を掛けた。
「早く行こうよ!」
「そうだよ!早く行こう!食材が私達を待っている!」
「待ちなさい。今から出発すれば確実に野宿になるわよ。」
現在は昼過ぎである。
歩いて行くには距離があるのだ。
「「えー!」」
「えーじゃないわよ。」
「そうですよ。安全第一です。」
「むー。しょうがないなぁ…。」
「…なら明日の食料買ってくる!」
「あぁ。それならいいわよ。いってらっしゃい。」
アリスはそう言うと買い物へ出かけていった。
「食料はアリスさんに任せて私達は何をしてましょうか。」
「私は矢を買っておくわ。闘技大会の時に使い切ったから。」
「私は特にありませんので宿で居ます。」
「そういえば、ネザリア?服破けてるけど…どうするの?」
「あ、そうでした。それでは私もお洋服屋へ行きます。」
闘技大会の時に刺された所が破けたままなのだ。
マキナを探していたために、その事を忘れていた。
「んー。私は特に無いなぁ。留守番してるよ。」
「わかりました。」
「それじゃ行ってくるわ。」
「いってらっしゃーい。」
皆それぞれの用事を済ませに外に出て行った。
「とりあえず…何してようかな…。」
用事が無いマキナは暇だった。
ベッドの上でジタバタしたり、部屋の中を歩きまわったり、外を眺めたりしていた。
「んー。暇だなぁ…。留守番してる都合上メンテナンスもできないし。うーむ。」
結局マキナはベッドの上でジタバタして過ごすのであった。
数十分後、用事を済ませた仲間たちが帰ってきた。
アリスは沢山買ってきたと言っていたが、何処にも食料がない。
おそらくあの不思議なバッグに入っているのだろう。
ミルフィーは見た目通り矢筒を肩から腰にかけて掛けているのがわかる。
ネザリアは新しい服に着替えていた。
「皆用事終わったのね~。」
「えぇ。終わったわ。」
「おつかれさまー。さて!明日の予定は?」
「クォーツィの南門から南東に進んだところに村があるのよ。そこまで歩くわ。そこで一泊したらスペルチェに向かう予定よ。」
「ふむ…距離が結構あるんだね。」
「はい。スペルチェはアインスとカーディの境界線下の海沿いにありますから、クォーツィだとどうしても遠くなってしまうのです。」
「そういえば…確か地図的に…。」
マキナはデータベースから地図のデータを引き出し、ディスプレイに表示していた。
確かにスペルチェは今居るクォーツィから見ると遠い場所にあるようだ。
途中の道に村が数個点在している。
クォーツィから伸びる街道を辿ると、途中に村が有るのがわかる。
恐らくそこに泊まるのであろう。
村からスペルチェまでは約半日と言った所だ。
「うん。そうだね。結構距離有るみたいだね。」
「そうなのよ。」
「ふむ…。クォーツィ出る前に何か討伐依頼でも受けておく?」
「そうね。ギルドで方法収集してから行こうかしらね。」
「そうですね。」
「よし!そうと決まれば早寝に限る!おやすみ!」
マキナはそう言うとすぐにベッドに入ってスリープモードへ移行してしまった。
それに続くかのようにアリスもベッドに潜り込んでいったのだった。
「まったく。子供ね。」
「あはは。」
ネザリアとミルフィーは寝支度をした後ベッドに入っていった。
翌朝。
マキナ達は宿から出るとギルドへ向った。
早朝のギルドは毎度のごとく、酔っぱらいが机に伏せている。
そんな光景を横目にマキナ達はクォーツィ南東、スペルチェ北西辺りの依頼書を重点的に目を通して行く。
「んー。良いの有った?」
「これはどう?」
「んーどれどれ?」
アリスが一枚の依頼書を手に取った。
三人がそれを覗きこむと、こう書いてあった。
“盗賊一味の討伐”
「盗賊かぁ。」
「盗賊ね…。まぁいいんじゃないかしら。」
「盗賊ですか?」
「あぁ。ネザリアは知らないかな?王族とは無縁の存在だからね~。」
「簡単に言うと悪党の集団ね。剣などで武装してる愚か者よ。」
「それぐらいわかりますが…。聞いただけで実際には見たことはありませんね。」
「大丈夫!私も初めてだから!」
「あら?マキナの世界には盗賊は居なかったのかしら?」
「うん。私が生まれた時はそんな場合ではなかったし…盗賊と同じような人は居たけどね。マフィアとかヤクザとか…。」
「まふぃあとやくざ…ね。何処の世界にもいるのね。」
「ねー。」
「まぁ、人間の文化だし似てる部分もあるって事ね。」
ミルフィーは小声で"エルフにはそんな奴いないけど”っと呟いていた。
「それじゃまぁ、この依頼受けてくるよ。」
そう言うとアリスはギルド受付へと歩いて行った。
「さてっと。準備は大丈夫かしら?」
「私はいつでも準備完了だよ。」
「はい。大丈夫です。」
「アリスが戻ってきたら出発ね。」
「まだ見ぬ世界が私を待っている…!」
マキナがそわそわしながら待っていると、受付を済ませたアリスが戻ってきた。
「たっだいまー!依頼受けてきたよ~。」
「おっかえりー!さぁ行こう!」
「食べ物が私を待っている!」
「「いえーい!」」
アリスとマキナはハイタッチをしている。
「相変わらずテンション高いわね。」
「だって!」
「昨日から!」
「「我慢してたんだもん!!」」
「あなた達は子供なの?」
ミルフィーは騒ぐ二人を見て溜息を吐いた。
ネザリアはミルフィーの隣で苦笑いをしていたのだった。
今マキナ達は王都南門へとやってきた。
これからスペルチェへ向けて出発するためだ。
「よーし!これからスペルチェに向けて出発!皆準備できてるよね!」
「おー!」
「大丈夫よ。」
「私も大丈夫です。」
「じゃ、出発!」
「そんな調子じゃ体力が持たないわよ。」
「大丈夫!取り柄だから!」
そう言うとアリスは歩き出した。
続いてマキナ、ネザリアもそれに続いて行く。
相変わらずのアリスに半ば呆れながらミルフィーも歩き出したのだった。




