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憂さ晴らし

マキナは表彰式をサボり、依頼を受けていた。


「昨日できなかった分を思いっきり叩き込んでやる!」




クォーツィギルド

朝いつものように酔いつぶれた冒険者やテーブルの食器を片付けている職員たち。

そこに現れたのは少女。

しかし、その少女を見た職員は固まってしまった。

そしてまた一人、一人と固まる職員が増えていった。


「? すみません。このTSの山火龍の依頼お願いします。」

「…え?あ、はいぃ!た、ただいま!」


依頼書を受け取った職員はすぐさま用意をすると依頼書をマキナへ手渡した。


「ありがとね~。」


ギルド内は嵐が過ぎ去った後のように静まっていたのだった。




「えっと、依頼書ではこの辺のはずなんだけど…。TS、野外、人が居ない。これはいい条件!って思ってたのに対象が居ないとなぁ…。」


“広域スキャン開始”


「…これじゃどれがどれだか分からないじゃん!」


マキナのレーダー機能は対象の場所を映すだけであり、大きさや個体情報までは出ないのである。

すべて点で表示される。


「うーん…。多分大きいだろうし空から探してみるかな。」


"ATS -フォトンウィング-”






「マキナ見つかった?」

「いえ、見つかりません。」

「まったく。どこに言ったのかしら。」


アリス、ネザリア、ミルフィーは表彰式に出るはずのマキナを探していた。

主催者や関係者一同も町中を探し回っている。


「お?どうしたんだ?」

「あ、おじさん。マキナ見ませんでしたか?」

「ん?あの嬢ちゃんかい?それなら朝はやくギルドから出たとか。」

「…まさかマキナ表彰式じゃなくて依頼を受けに行った…?」

「いや、まさかー。」

「そ、そうですよね!」

「それがなんでも、TSの依頼書を手に取っていたとか。」


三人はそれを聞くと何をやっているんだと言いたげな表情になっていた。



結局表彰式は優勝者のマキナを除いた上位二名で行われた。

そして参加者に金貨と当初の目的である騎士への勧誘が行われたのであった。






「うーん。さっきから遭遇するのは雑魚ばかり。どこに居るのかなぁ。」


マキナは空を飛びながら襲いかかってくる魔物を切り伏せていく。

どうやらこの辺りはその魔物のテリトリーらしく、侵入者であるマキナを攻撃しているのだ。


「あ、そうだ。知能がある魔物なら挑発に答えてくれるかも?」


マキナはそう考えると魔物を殲滅しながら魔力を周囲に発した。

それは巨大な魔力であり、辺り一帯に広がっていった。

一部の魔物はその魔力で気絶し、更には逃げ出す魔物も居た。


魔力を発してから数分が経過した時大きな魔力反応が山奥から発せられた。


マキナがその方向を見るとこちらに火の塊、火球が飛んできている所であった。


「シールド展開。」


"シールド負荷23%”


「お?乗ってくれたのかな?」

「お前か。俺様に挑発をした人間は。」

「んー。人間じゃないけどそうだよ。」

「そんなことはどうでもいい。お前はここで死ぬのだからな!」


そう言うと山火龍はマキナに突っ込んできた。


巨大な体を回避するのは困難だと判断したマキナは山火龍の体を利用し、滑りながら回避を行った。


山火龍の後ろに回ることができたマキナはミルフィーやアリスの事で八つ当たりすることにした。


「吹き飛べやごらああああああああ!圧縮衝撃魔術出力100%!」


大気を揺るがした強烈な衝撃波は山火龍に当たるとその巨大な体を吹き飛ばしたのであった。

しかし、その体ゆえか鱗や体表も固く余りダメージが入っていないようだ。


「おのれ!その―」

「五月蝿い黙れ。エクス!炎よ!風よ!土よ!水よ!雷よ!光よ!闇よ!発現せよ!カタストロフィー!」


魔砲は山火龍に向かって直進するが、山火龍はそれをかわすと攻撃に移った。

しかしマキナが手の方向を変えるとそれを追うかのように魔砲が軌道を変えてきた。


山火龍はドラゴンブレスをマキナへ放つと魔砲を回避した。

そしてドラゴンブレスを防ぐため魔砲を止めたマキナはシールドを展開。

ブレスを完全に防ぎきったのだ。

しかし、ブレスの爆発により周囲に煙が発生し視界が悪くなってしまった。

視野を赤外線へと切り替えようとした途端煙を吹き飛ばしながら空を駆けてくる山火龍の姿が合った。


さすがにこれは回避できずにシールドで受け止めるマキナ。


"シールド負荷95%”

“オーバードライブ発動 制限時間20分スタート”

"ATS 魔導式AVA”

“駆動プロファイル変更:射撃モード”

“魔導式AVAとリンクを確立”

"コードDEMとのシステムリンク確立”

"AVAシステムオーバーライド”

“フォトンウィング出力上昇”

“身体強化40%”


「死にさらせやあああああああああああ!」


魔導式AVAがその駆動音を響かせ、魔弾を吐き出した。

オーバードライブモードのマキナによりシステムが上書きされた魔導式AVAは連射速度が上昇し、魔弾の密度も上がっている。


魔弾は山火龍を捉えるとその鱗にヒビを入れた、


「ガアアァァァァァァァァ!<魔力よ!我を守り給え!ハイ・シールド>」


山火龍は自身の鱗にヒビが入れられた事に焦り、結界を展開したが、結界に無数の穴が空き魔弾がその巨大な体に撃ち込まれた。


マキナはあえて一箇所を狙わず全身を舐め回すように銃身を移動させていた。

山火龍はその魔弾の雨から逃げようと体をくねらせ飛行するがマキナの偏差射撃により逃げれずに居た。

どんなに体を動かし逃げようとしてもマキナは視界に捉えている山火龍の動きをリアルタイムで分析し、移動方向を算出しているため逃げることができないのである。


山火龍は鱗を破壊され露出した皮膚に魔弾が撃ち込まれ、体中から出血し始めていた。


「グギャアアア!こ、この俺様が!俺様がアアァァァァ!」

「ふひひひひひ!楽しいねぇ楽しいねぇ!」


マキナは完全に暴走しており手のつけようがなかった。

アリスとミルフィーの件でストレスが溜まっており、それが解消できずにいたため今になってそのストレスが爆発しているのだ。


"警告 銃身オーバーヒート。強制解除します。”

"ATS 高周波ブレード”


「それじゃぁ…死んでくれる?」

「人間なんかに負けるかアアア!」


山火龍は大きな口を開けドラゴンブレスをゼロ距離放とうと溜めながら近づいてくる。

マキナはそれに合わせ高周波ブレードの刃を滑らせた。


山火龍は口から後頭部までを切られ、体を硬直させるとそのまま地面へ墜ちていった。

墜ちる途中、貯めていたドラゴンブレスが暴発し、山火龍の頭は自分自身のブレスにより吹き飛んでしまった。


「汚い花火だぜ…。」





「すみません。マキナさんがどこに行ったかわかりますか?」

「はい。少々お待ちを…。」


ここはクォーツィギルド。

アリス達三人は隣に座っていた男性の証言を元に冒険者ギルドへと来ていた。


「マキナ様は現在TSの山火龍討伐へと出られております。」

「TSの山火龍!?」

「ひ、一人でですか?」

「そ、そうですね。あの時注意すればよかったのですが…。」

「まぁ。マキナだから大丈夫。逆に山火龍が心配になるわ。」

「で、でも山火龍は山みたいに大きいドラゴンなんですよね?」

「そうだよ。山みたいに大きくて、そして硬い。でもそれから取れる鱗はどんな攻撃も通さない防具を作る素材になるって言われてるんだよ。」

「そ、そうなんですか…でもマキナさんなら大丈夫そうな気がして来ました。」

「そうだね。マキナなら大丈夫。」






「どうしよう…」


冷静になったマキナは現在の状況をどう打開しようか考えていた。

依頼内容はこうだ。

山火龍の鱗、龍玉を回収。

しかし、山火龍は頭部が吹き飛び体中の鱗はひび割れ穴だらけになっている。


「あ”あ”あ”!どうしよう。鱗はひび割れてなさそうな物を選んで行けばいいけど、龍玉割れてたらどうしよう…。と、とりあえずスキャン!」


"スキャンモード”


マキナは山のように大きい山火龍を空から端から端まで見始めた。

そうすると一部から魔力が漏れているのがわかった。

それが恐らく龍玉だろう。


「アレかな…?傷とかついてなければいいけど…。」


そう言うとマキナは山火龍の死体の上に降り立ち、高周波ブレードを突き立てた。

龍玉を傷つけること無く回収しなくては行けないため慎重に体を切除していく。

数分後体の切除が終わると、マキナの頭並に大きい深紅の玉があった。


「これが龍玉かぁ。」


マキナは龍玉を手に取ると少し力を入れて引っ張った。

それにつられて周りの肉も一緒に引っ張られたが一定の長さを超えた所で龍玉から肉が離れ、綺麗な龍玉が回収できたのだった。


「うーん。傷ついてなくてよかった。とりあえず閉まっておこうかな。」


龍玉を四次元空間へ収納すると今度は鱗は剥がしに掛かった。

ひび割れていない鱗を探し出し、剥がしていく。


一枚一枚が大きいため、そのたびに四次元空間へ収納していく。

三十枚ほど集めた所でマキナは剥がすのをやめた。


「よーし。これくらいでいいかな?後は死体の後始末だけっと。でもどうしようかな…埋める?穴掘る手段がない。うーん…。あ、そうだ。アレがあった。」



マキナは少し離れると山火龍の死体に手を向けた。


「サンライト・フュージョン。」


山火龍の死体の真上に小さな太陽が生成された。

それは次第に大きくなり山火龍を飲み込みはじめた。


人工太陽は山火龍より小さいが、その熱と引力により山火龍を飲み込んでいく。

数分もせずに山火龍は人工太陽に飲み込まれ消失していた。

マキナは魔力を送るのをやめると核融合が停止し、人工太陽は消滅していった。

死体があった場所には赤く溶解した地面と山肌しか残っていなかった。


「さてっと…帰りますか!」


マキナは王都外周へ座標を合わせ空間跳躍を行い帰還するのであった。


王都へ帰還後冒険者ギルドへ報告に向かうとそこにはアリス達三人が待っていた。

マキナはアリス達に近づこうとしたが、明らか表情が怒っているのが見えたため足を止めた。


「あ、あの、何を怒っていらっしゃるんで?」

「マキナ。胸に手を当てて考えてみなさい。」

「そうですよ!」

「…当てる胸がない人だっているんだからね!」

「え?え?」


マキナは困惑していた。

依頼から帰ってきた直後アリス達三人に怒られているのだ。


【ちょ、ちょ!フェンリルさんなにがどうなってるんです?】

【いや、お主が黙っていなくなるのがいけないのではないか?】

【こら!マキナ!フェンリルに助け求めないの!】


「と、とりあえず、ごめんね?」

「全く。表彰式サボったと思ったらTSの山火龍に行ったとか言うのだから。」

「本当ですよ。びっくりしたんですからね!」

「まぁ、マキナだから大丈夫だとは思っていたけど。」

「まぁ、山火龍は悲惨な結末を迎えましたまる。」


穴だらけの爆発飛散。


「とりあえず報告いいかな?その後色々話すよ~。」

「そうね。とりあえず報告してくると良いわ。」

「ちょっと行ってくるー。」


マキナは受付に向かうと依頼書を提出した。


「依頼達成して来ました。」

「はい…山火龍!?え、ええっと、依頼書に書いてある鱗と龍玉はどこにあるのでしょうか?」

「うーん。ここじゃ狭いから広いところ無い?」

「庭ならありますが、そちらでよろしいでしょうか。」

「いいですよ。」

「ではこちらへ。」


そう言うと受付の人はマキナを庭へと案内した。

ギルドの庭は受付近くの扉を開けるとすぐである。


「それじゃ、出しますね。」

「出すって何を―」


マキナは四次元空間から鱗三十枚、龍玉を取り出した。

受付の人は目を丸くしている。


「あの、もしもーし。」

「あ、しょ、少々お待ちください!」


そう言うと受付の人はギルド内へ戻っていった。

外で待つこと数分。

受付の人はモノクルを掛けた老人を連れてきた。


「そんなに急かすな。」

「業務ですよ!」

「最近の若いもんは……どれどれ。」


モノクルを掛けた老人は鱗と龍玉を凝視している。

恐らく鑑定士か何かなのだろう。


「うむ。儂も長いこと鑑定士をやっているが山火龍の実物の鱗や龍玉を見たのは始めてじゃ。」

「ん?始めてで分かるんですか?」

「取ってきたのはお主か。若いのによう殺るのぅ。」

「何か文字が違かった気がする。」

「山火龍は他の龍とくらべて大きく、表面がゴツゴツしているのが特徴じゃ。そして龍玉の大きさでもある。」

「へぇ。龍玉ってドラゴンならどの個体でも持ってるんですか?」

「そうじゃ。大きさはドラゴンの年によるが持っておる。ドラゴンの魔力の大半はそこから来ているのじゃ。」

「ふむ。」

「それじゃ儂は戻るぞ。」

「わかりました。では他の職員に依頼品を回収させますので少々お待ちを。」


そう言うと受付の人は忙しく走り回っていった。



「ただいま。」

「おかえり。遅かったわね。」

「依頼品の確認が大変だったんだよー。」

「で、なんでサボったのかしら?」

「うっ。結局そうなるんだ…。」



この後サボった理由を話し、アリス達を呆れさせたのであった。



余談だが、マキナ達が食べていた食堂はマキナの優勝により大繁盛したとか。



5/10 誤字修正しました。

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