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マキナVSカイン


翌朝。マキナは宿の庭で武器の手入れをしていた。


ATS -魔導式AVA-

「ふむぅ…摩耗も欠損も無い。システムとのリンクも正常っと。」

「マキナ?まさかそれ使うんじゃないわよね?」

「ん~?それがどうかしたの?」

「どうかしたのって、そんなもの使ったら大変なことになるわよ。」

「んー。どうでもいい。」

「どうでもいいって…。」

「目の前の敵は倒すべし!」

「…もう何も言わないわ。」

「次は高周波ブレードかなー。」


呆れたミルフィーを他所にマキナはメイン武器をチェックしていく。

高周波ブレードにも異常はないようだ。


それを片付けると三人に声を掛けた。


「そろそろ行こうかー!今日は頑張って殺るぞー!」

「【アリス。あの神先程からおかしくないか?】」

「【うーん。二日前からそう思っていたけど、今日は更におかしいね。】」

「ほら!アリスいくよ~。」

「あ、今行くよー。」


そう言うとマキナ達はスタジアムへ向かっていった。


今日は決勝戦のためかスタジアムの周りは人でごった返していた。

それを狙ってか、露店が多く並んでいた。


「へい!いらっしゃい!試合見ながら飲み物はどうだい!」

「美味しい焼き鳥ありますよー!」

「冒険者気分を味わいませんか!冒険者御用達干し肉いかがですかー!」


それぞれの露店が個々ぞとばかりに宣伝をしている。

アリスが食べ物のそれを聞いて立ち止まったりしていた。


「アリスさん。いきますよ。」

「え、アレ欲しい!ちょっとだけ待って!」

「マキナさん達もう先行っちゃってますよ。」

「あ、ちょ、もー!うー!」


アリスは残念そうに露店前を後にした。


スタジアムロビーに着くとマキナは三人と別れ、待合室へ向った。

そこにはローブ姿のカインが居た。

どうやら相変わらず寝ているようだ。


マキナはカインとは反対側に座ると開始の時刻まで待つことにしたのだった。






「ええっとマキナさんが座ってた位置はどこでしょうか。」

「あそこじゃないかしら?」


ミルフィーが指さすと、ちょうど4人分の席が確保されていた。

その隣には見慣れた男性が居た。


三人はその席へ向かっていった。


「お?やっときたか!席確保しておいてやったぜ!」

「ありがとうございます。」

「ありゃ?一人足りないが、どうしたんだ?」

「マキナはこれから試合に出るから待合室にいるんだ。」

「へ…?あの嬢ちゃんが謎の冒険者だっていうのか?」

「謎のって…」

「今日の話題はそれで持ちきりだぜ。国王様を救った謎の冒険者が決勝戦の相手だってな。」

「へー。そうなんだ。」

「謎の冒険者があの嬢ちゃんとは正直驚いたぜ。闘技大会が始まってからずっと隣にいたんだからな!」


そこまで言うと司会が出てきた。

そろそろ始まるということだろう。


「さあ皆あつまったか!」


司会がそう言うと観客から声が上がった。

観客席は既に満員だ。


「どうやら会場に入れない人もいるようだが、始めさせてもらうぞ!決勝戦の試合はギルドランクTSのカイン・ヴィルスタ選手とギルドランクSのマキナ選手だ!今回も格上が相手の試合となる!今大会はギルドランクがあてにならない!決勝戦はどうなるのか!」


司会の言葉に観客のボルテージは次第に上がっていく。


「すごいわね。」

「それだけ皆期待してるってことだ!」






「…。」

「…。」

「…。(何なんだこの空気は…凄い重いぞ…。)」


待合室に居る騎士はこの重苦しい空気にさらされていた。

そこへ準備完了の合図が届いた。


「りょ、両者入場せよ!」


そう騎士が言うとマキナとカインはステージへ入場していった。

ステージにはこれでもかというほどの王宮魔法使いがステージ端に立っていた。

ステージにはこの日のために作ったと思われるドーナツ状の魔法陣が王宮魔法使いの足元に敷かれていた。


「へぇ。王宮魔法使い全員で結界をはるってか。」

「それはいい。これで全力で叩きのめせる。」

「言ってくれるな。それほど自信あるのか?まぁ、俺は負ける気なんて無いがな。」

「ふん。アリスとミルフィーの痛みを知るといい。」


二人の間に険悪なムードが漂う中、騎士が近づいてきた。


「両者準備はいいか?」

「あぁ。」

「いいよ。」

「では試合開始!」


審判の騎士はそう言うと全力でステージ入り口へ走っていった。

騎士が入るのを確認するとステージ端に待機していた王宮魔法使いたちが結界を展開した。


「強度が心配だがまあ大丈夫だろう。」

「随分自信満々だね。こんな脆い結界じゃ壊れちゃうよ?」

「お前こそ自信満々だな。やってみろ。」

「いいよ。これぐらいで倒れないでね?」


そう言うとマキナは手をカインへ向けた。


「圧縮五回、出力四十パーセント。」


マキナの掌から圧縮された魔力が開放され衝撃波となり襲いかかる。


「うおおぉぉ!?」


それと同時に剣で防御していたカインが吹き飛ばされた。

ステージの地面には衝撃波によりヒビが入り、結界を大きく揺らした。


「くぅ…なんて威力だ。」

「結界を維持しろ!観客に被害が出る可能性がある!」

「了解!」


「さて、早く戻ってきなよ。」

「まさか夜桜を使っても吹き飛ばされるとは思わなかった。」

「ふん。そんな自信持ってるからだよ。」


“ATS 魔導式AVA”

“駆動プロファイル変更:射撃モード”

“魔導式AVAとリンクを確立”


「!<エスト・シールド>」


カインが結界を張ると共に砲身が回転を始めた。

それを見ていた観客はいきなり身長より大きい物が現れた事に驚き、弓でも剣でもないものに不思議がっていた。


しかし、王宮魔法使いの一部は以前見たことがあるためそれが何なのかはわかっていた。


「結界を強化しろ!急げ!」

「りょ、了解です!」


"射撃可能”


そう表示された瞬間七十口径の魔弾が放たれた。

それはカインのシールドに当たると跳弾し、観客を守る結界にあたった。

あたった部分の結界はヒビが入り、そこに居た観客は腰を抜かしていた。


しかし、王宮魔法使い達の頑張りもあり、ヒビはすぐに修復されていく。


されどマキナの弾幕はまだ続いている。


「なんだアレは…!これじゃ反撃が!」


マキナは20秒ほど撃ち続けたがカインの結界には僅かなヒビしか入れることができず効果が薄いと判断した。


"魔導式AVA解除”


マキナは素早くAVAを片付けるとカインの結界に飛び込んだ。


「この距離ならどう?」


"魔導炉出力上昇”


結界に手を添えると衝撃魔術をゼロ距離で放った。

出力を上げた衝撃魔術はカインの結界に致命的なヒビを入れ、周りの地面を抉った。


“ATS 魔導式LSR”


そしてひび割れた結界に銃口を突きつけたマキナはそのトリガーを引いた。


「っ!?」



カインは咄嗟にシールド内で剣を盾にしたがシールドを貫通してきた魔弾が剣により軌道をそらされ左肩を掠めていった。


貫通力に特化したLSRの魔弾は観客を守る結界に容易く穴を開けた。

幸い誰にも怪我はなく試合は続行されている。


「離れろ!」


カインは剣を横薙ぎするとマキナを引き離した。


「ふふん。脆い脆い。」

「お前本気でやってるのか?」

「本気なわけ無いじゃん。何?もっと出力上げてほしい?」

「なら俺も力出すとするか。」


そう言うとカインの魔力が跳ね上がった。


「後悔するなよ。」

「どっちがよ!」

「お前がだ!<大いなる深淵よ。その絶望、狂気、憎悪をここに具現化し彼の者を破壊せよ。エスト・ダークネス・バリトラ>」

「シールド展開 出力七十パーセント」


暗黒の波動がマキナに襲いかかる。

しかし、シールドに阻まれマキナに届くことはなかった。

それどころか観客を守る結界に大きなダメージを与えていた。


「まじかよ。」

「それだけ?ならまたこっちから行かせてもらう。」


ATS 高周波ブレード


「今度は剣か。いいだろう!」


マキナは素早くカインに近寄るとブレードを振り下ろした。

それに合わせるかのようにカインも剣を振るった。


二つの剣が鍔迫り合いを始める。

マキナの高周波により甲高い金属音が鳴り響く。



「へぇ。高周波ブレードでも斬れない物がこっちにあったんだ。」

「なんだその剣は…手が…!」

「いつまで耐えられる?」

「くっ!つああああ!」

「おお?よく押し返した。手が震えてるよ。」


カインの手は高周波ブレードの高速振動により末端神経が軽い麻痺を起こしている。


「ふん。この位どうってこと無い。」

「あ、そう。」


"警告 大容量の魔力を検知”


「<深淵なる闇よ。今その闇を解き放ち彼の者を絶望に引きずり込め。至高の恐怖を未来永劫彼の者に与えよ。 エスト・ダークネス・カオススフィア>」


"緊急シールド展開”


マキナのシステムが自動でシールドを展開するとマキナを一瞬にして黒い球体が包み込んだ。


「はっ!大口叩いた割には呆気無いな。」


そう言うとカインは剣を収めた。





“シールド負荷八十七%”


「…? 真っ暗だねぇ。」


マキナは真っ暗な空間に一人ポツンっと立っていた。


「たしかカインの魔法でシステムが作動してどうたらこうたら。」


"スキャンモード”


「ふむ…。魔力で構成されてる亜空間ってやつ?相当な魔力がつぎ込まれてるけど。」


“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”


「お?」


マキナのディスプレイにそう表示されると次から次へと表示された。


“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”

“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”

“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”

“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”


「おおおおお?ブラクラかっ!」


周りに漂っている闇の魔力がマキナの体を侵食しようと干渉してくる。

そのたびにマキナのシステムがその干渉を弾き飛ばしていた。


「うーん。さすがに五月蝿いなぁ。この闇さえ払ってしまえばいいんだよね。」


マキナはそう言うがこの闇を払う方法を持っていなかった。

数秒考えこむとひとつの結論を出した。


「うん。魔術作ろう。…マキナの3分魔術クッキング~。闇を払うには光!光と言えば太陽!」


マキナが考えたのは擬似的な太陽を創りだすことだった。

ただ闇を払うだけであれば光だけで十分なのだが、そこはロマンらしい。


ところで太陽はなぜ光っているか知っているだろうか。

太陽はよく燃えている様な描写をされるが実際には燃えていないのである。

燃えるには酸素が必要という事は常識である。

太陽が光る原理は核融合である。


水素原子を集め、それを高温、高圧力状態に置くと水素原子がヘリウム原子に合成される。

この時水素原子の質量に対してヘリウム原子の質量は軽く、余ってしまう。

余った質量はエネルギーに変換され辺り一帯に放出される。

これが太陽が光を放つ理由であり核融合の原理である。


光の他にも膨大な熱を放つため攻撃にも持って来いなのだ。


ただし、核融合反応を継続させるためには大量の魔力が必要だ。

それも攻撃用に大きくすればするほど魔力を大量消費することになる。

しかし、マキナには魔導炉が搭載されているためその問題は解決するのだ。


「ってことが太陽の原理で…一人で何やってるんだろう…。」


“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”

“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”


「ああ!五月蝿い!サンライト・フュージョン魔術陣展開、発動キー設定。サンライト・フュージョン」


“サンライト・フュージョン魔術陣に発動キーを設定しました。”



マキナは片手を上げた。


「科学の力を見せてやる!サンライト・フュージョン!」


大きな魔術陣がマキナの足元に展開されていく。

サンライト・フュージョン、それは水、炎、重力で構成される複合魔法だ。


まず水属性の魔法で水素が生成される。それが炎で際限なく加熱、強い重力で加重される。

そしてヘリウム原子へ融合されマキナの掌に小さな太陽が出来上がった。

それは徐々に大きさを増し、辺り一帯の闇を払いはじめた。







「…? なんだ?」


カインは自分の魔法に違和感を覚え、振り返った。

そこにはマキナを包んでいた魔法が膨張している光景があった。


「あいつ何をした…?」


黒い球体は徐々に大きさを増していく。

それに伴い、観客からもどよめきが増していく。


カインは剣を引き抜くと再び構え直した。


黒い球体が十メートルほどの大きさに膨れ上がった時、黒い球体から光が漏れ始めた。

それと同時に辺り一帯の温度が上がり始めた。


「結界の強度を上げろ!」

「了解!」


ステージ端にいる魔法使い達は観客を守る結界の強化を始めていた。


「エスト・シールド」


カインも直感で良くないことが起きるであろうと察したため結界を張った。

それと同時に漏れる光が多くなり一瞬だが閃光が辺り一帯を包んだ。


その閃光により多くの人の目が眩んだ。


「うわああ目があああ!」

「うわ!眩しっ!」

「目がぁぁぁぁ!」



皆が次第に目が慣れてくるとそこには大きな火の塊が浮いていた。


「な…なんだあれ…。」


観客の一人がそう言葉を漏らした。





「残念だったね。普通の人間なら侵食されて終わっていただろうね。」

「化けもんかよ。」


カインの目の前には片手を頭上にあげ大きな火の塊を持ったマキナの姿があった。


「ふふ。これなんだと思う?」

「知るか!」

「これはね。科学と魔術の英知が生み出した物。人工太陽。」

「太陽だと…?馬鹿な魔法でもそんなことは―」

「魔法だけだとできないね。だって太陽の原理すらわからないのだから。さっきのお返し。これあげるよ。」


そう言うとマキナは人工太陽をカインへ放り投げた。

投げている最中も魔力供給がされているため核融合は行われている。


人工太陽がカインを飲み込み地面に接すると瞬く間に地面は溶解し、重力により崩壊を始めた。

強烈な熱風が辺り一帯を包み込む。

ちなみに観客席は魔法使いの結界により守られている為安全である。


人工太陽の中にいるカインは核融合を起こすための強い重力、熱にさらされている。


カインを包んでから数秒が流れた。

その時カインを包んでいた人工太陽が消滅したのだ。


「あー。とんでもない魔法使ってくれるなぁ…。」

「…?魔力で吹き飛ばした?」

「結構魔力を使ったぞ。殺す気か?」

「貴方が言えるの?」

「さぁ。どうだかな。」

「続きやろうか。エクス!炎よ!風よ!土よ!水よ!雷よ!光よ!闇よ!発現せよ!カタストロフィー!」

「<深淵なる神闇大いなる神聖よ。大いなる絶望、大いなる希望収束し、ここに集いてすべてを葬る力となれ。ラグナロク>」


混沌とした光と白と黒の混ざり合った光が放たれた。

二つの光のレーザーは衝突すると光を放ちながら衝突地点の地面を抉り始めた。


「(二属性使えるのか…。まぁどうでもいいかなぁ。)」

「(くそ!なんつう魔力だよ!七属性も合わせるなんて冗談じゃないぞ…!)」


次第にカインの魔法が押され始め、マキナの魔法が飲み込み始めていた。


「一気に押しこむ!」

「くそおぉぉぉぉ!」


マキナの魔術がカインを飲み込んだ。

そのまま観客を守る結界に大きなヒビを入れ消滅した。


「はぁはぁ。くそ。夜桜がなかったら即死だった。」

「即死はしないと思うけどね~。(半殺しにはするけどねぇ)」


既に結界を張っている魔法使いたちは疲労困憊である。


「さて終わりにしようか。」

「糞!こんなところで終わってたまるか!」

「ふーん。」


“オーバードライブ発動 制限時間20分スタート”


「せいっ!」

「なっ!糞!」


いきなり動きが早くなったマキナに疲労が溜まっているカインは防戦一方になっている。

しかし、時間が経つに連れて被弾率も上がっていく。


「あれれ?遅くなってるねぇ?おかしいねぇ?」

「うざ…っ!」

「何か言った?」


マキナは魔術で速度を底上げすると更にカインを攻めて行った。


「うらああ…!<深淵なる闇よ!絶望、恐怖、すべてを力に変え我に力を与えよ!エスト・ダークネス・アルティメシア>行くぞおらああああああ!」


カインは身体強化魔法を掛けるとマキナに対抗し始めた。


しかし、それは微々たるものだった。

規格外の人間と言えども、戦闘用兵器の前には大きな力の差があるのだ。


カインとマキナは攻防のすえ、マキナの回し蹴りがカインの腹部へ叩きこまれた。


「グガっ!」


カインはそのまま壁際まで吹き飛ばされていき、結界にたたきつけられた。


“オーバードライブ終了”


マキナはオーバードライブを停止させるとカインめがけて追撃を入れた。

しかし、カインは辛うじてマキナの攻撃を受け流すと剣で薙ぎ払った。

だがその剣はマキナの服に当たると止まってしまった。


「終わり。」

「ま、まだ…だ!」


残り僅かの魔力を衝撃波として放出するカイン。

マキナはそれに対して微動だにしなかった。


"重量制御システム一時停止”


魔力の衝撃波はマキナを吹き飛ばすこと無く消えてしまった。

重すぎたのだ。

マキナは重量制御システムを停止したため、元の重量に戻っているのだ。


"重量制御システム再開”


「残念だったねぇ。じゃ、オヤスミ。」


マキナはカインの耳元でそう囁くとカインの腹部に手を当て、衝撃魔術を行使したのだった。

ドンッっと言う音とともに体が震えるとマキナにもたれ掛かるように倒れてきた。


マキナはそれを受け止めようとせず横に避けた。

結果、カインは地面に倒れ伏せてしまった。


試合を見ていた観客は声援さえ忘れ、二人の試合を見ていた。

まさかTSがSに倒されるなんて思いもよらなかっただろう。


「しょ、勝者マキナ!」


審判が勝利宣言を行うと静まり返っていたスタジアムに再び観客の声が響いた。

救護班が素早くカインに駆け寄るとヒールを施しながらタンカーで運ばれていった。


「うーん。イマイチ本気出せない。アリスとミルフィーの分を思いっきり叩きこみたかったんだけどなぁ…後で手頃な依頼でも受けて叩きこむかなぁ。」


そう言葉を漏らすとステージを後にしたマキナであった。


所詮人間

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