闘技大会本戦 その4 ネザリア編
「…何と言うか…あれだったな。」
「うん…。」
「さ、さて！ハプニングもありましたが、次の試合です！この試合はなんと！アインスの王女様が出場するということです！ランクはA！対する相手のランクはWS！果たして王女様はどこまで追い詰めることができるのでしょうか！」
「え？今王女って？」
「うん？そうだよ？」
「ええええええええええ！」
「な、なん？」
「王女が知り合いで仲間ってどういうことだよ…てか王女がなんで冒険者なんてしてるんだ…。」
「色々あったんですよー。」
「それでは選手入場です！」
観客の歓声が上がった。
「ネザリア。頑張って勝ちなさいよ。」
「はい！アインスの王女の名に掛けて勝ちます！」
「その調子よ。」
「次の選手入場！」
「頑張ってきます！」
ネザリアが入場すると観客の歓声が上がった。
あちらこちらからネザリアを呼ぶ声が聞こえる。
「王女だからって手加減はしないぜ。」
「え？は、はい！よろしくお願いします！」
「俺の名前はレイブン・クロイツ。よろしくな。」
「私はネザリア・アインスです。よろしくお願いします。」
「ふたりとも準備は良いか？」
「はい。(相手は剣士ですね…近づかれないようにしないと。)」
「いいぜ。」
「では、試合開始！」
「先手必勝！<星に宿りし万物を縛る力よ。その力全てに等しく与えられん。星よ！全てを圧し潰す力をここに！グラビティ・エリア！>」
「ぐっ！？なんだこれは！体が…重い！」
「<雷よ！塊となりて相手を撃て！ライトニング・スフィア>」
「このぐらいさけてみせらアァ！」
「さすが剣士です！この重力下で動けますか！」
「何の魔法だか知らねぇが、体力、筋力だけはある職なめちゃいけないぜ！」
「でも重いでしょう？体力が尽きるのも時間の問題ですね。」
「ふっ。それまでに王女様を倒せばいいんだろ？」
「いいますね。<風を纏いし煉獄の炎よ。その大いなる風炎渦巻き、螺旋を描く槍と成せし、我が敵を穿け！ミッド・ファイア・ランス！>」
「どりゃああああああああああああ！」
「！？」
レイブンはファイア・ランスの直撃に合わせ剣を振るった。
それは魔法を押さえつけ切り裂いた。
「まさか、それは魔剣ですか？」
「へへ。じゃなかったら今ので折れてるぜ？そろそろ行かせてもらうぜ！」
そう言うとレイブンはネザリアに向かって走りだした。
ネザリアが支配する重力下を一般人と同じ速度で走ってくるレイブン。
「はやい！<我を守り給え！シールド>」
「そんなシールド切り裂いてやるわ！」
そう言うと男は剣を横薙ぎした。
シールドはいともたやすく切り裂かれてしまった。
「っ！せい！」
ネザリアは杖を突っ込んできたレイブンに振り下ろした。
レイブンはそれを受け流すと開いている左腕でネザリアを殴りつけた。
「あがっ！」
ネザリアがのけぞると、そこに蹴りの追撃が入った。
追撃が入ると共に空間を支配していたネザリアの重力が解除されてしまった。
「ま、王女様じゃこんなものか。」
「…っ…まだ…です！」
「お？まだ起きるか。根性だけはあるんだな。」
「見せて…あげます…。マキナさんから教わった星の力を。」
「ふん。あの変な魔法ならもう意味ないぜ？」
「(見ててください！マキナさん！これが私の…)魔力ライン一、魔力ライン二、魔力ライン三！！ <星々に宿りしすべてを縛りし大いなる力よ！すべてを狂わす力となれ。星よ！我に力を！今ここに発現せよ！ハイ・グラビティ・クラッシュ・アンビリティ・エンド！>」
魔力ラインすべてを一つの魔法につぎ込んだネザリア。
その魔法は最大の効率を誇る。
そして、魔法の発動と同時に周囲に変化が起こった。
壁が剥がれ飛散し、地面が浮かび上がり、それが飛散していく。
方向性がなくなった重力が全てを引き裂いていく。
「ぐがあああっぐうああああああ！！」
もちろんレイブンも例外ではなく体中をバラバラの方向に引き裂かれる痛みに襲われている。
レイブンは重力異常により浮かび上がってしまっているためネザリアを止めようとしても止められない。
「はぁ…はぁ…！ゲホッ。まだ、まだです！」
ネザリアは先程の追撃で肺にダメージを受けたのか吐血している。
既に魔法を維持するだけで精一杯である。
「くっそがあああああああああああああああ！」
レイブンは空中で暴れるが、地に足がつかずネザリアを攻撃できない。
「これ…ならどうだア！」
レイブンはそう言うと体を何とか動かすと剣をネザリアに投げつけた。
剣は軌道を振らしながらネザリアの肩に突き刺さった。
「あっ…いやあああああぁぁぁぁ！」
ネザリアの叫び声と同時に魔法が切れてしまった。
男が地面に着地するとかろうじて立ち上がった。
「畜生…体中が痛む…」
「痛い…痛い…！」
地面に倒れて苦しむネザリアのもとに審判が急いで駆け寄る。
「勝者レイブン！救護班急げ！」
救護班が到着すると突き刺さった剣を抜くと同時に治癒魔法をかけ始めた。
「貫通はしているが大丈夫だ。」
「よし出血は止まった。」
「医務室へ運べ！」
そう言うとネザリアは医務室へ運ばれていった。
「お、おい、大丈夫なのか？」
「大丈夫。あの出血量じゃ死にはしない。刺さった位置的にも障害は残らない。」
「おい、なんか冷たくないか？仲間が刺されたんだぞ？」
「…。(たしかに見させてもらったよ。)ちょっと医務室行ってくる。」
「そうしてやれ。」
マキナは医務室へ向かっていく。
場所がわからないのでネザリアの反応をたどることにした。
“ディスプレイモード拡張へ移行”
魔力のレーダーが三次元方向へ拡散する。
ネザリアの位置がxyz軸で表され、ディスプレイに場所が映し出される。
マキナが居る位置より下のようだ。
しばらく歩くと一つの扉の前についた。
「ここか。」
ネザリアの反応は確かにこの扉の前から出ている。
扉を開けるとベッドに寝ているネザリアの姿があった。
「ネザリア大丈夫ー？」
「あ、マキナさん…。」
「最後の見てたよ。よく頑張ったね。」
「ありがとうございます。」
「肩大丈夫？」
「はい。マキナさんが一番わかっている気がします。」
ネザリアは苦笑いをしている。
「あはは。たしかにそうだね。後遺症は残らないから大丈夫だよ。」
「本当ですか。ありがとうございます。」
「いやいや、何もしてないからね。ネザリアとアリス連れて帰っても大丈夫ですよね？」
「ん？あぁ、お仲間さんね。大丈夫だ。傷口もふさがっている。そっちの子も落ち着いている。」
「それじゃ、よいしょっと。」
マキナはそのまま抱きかかえた。
お姫様抱っこと言うやつだ。
「ネザリアは歩けるよね？」
「はい。」
「じゃ、戻ろう。」
マキナとネザリアが上に上がるとミルフィーがロビーに立っていた。
「マキナ。アリスとネザリアは大丈夫？」
「うん。どっちも大丈夫だよ。」
「すみません。負けてしまいました。」
「気にしないの。あの魔法全力じゃないんでしょ？」
「それはそうですよ。全力でやったら死んじゃいます。」
「それでも体中が痛いがな。」
「あ、レイブンさん。」
「よう。ネザリア王女様。肩大丈夫か？」
「はい。大丈夫です。」
「そうか。それだけが気がかりだったんだ。じゃあな。」
そう言うとレイブンは去っていった。
「私達も帰ろうか。」
「そうね。」
マキナ達は宿へ戻っていく。
「そういえば明日の試合って一人余るけど、どうなってるの？」
「勝った方と戦う方式ね。決勝戦は明後日。」
「明後日かー。…全力で潰す。」
「今何か言ったかしら？」
「いや、なんにも言ってないよ？」
マキナは無表情で返答した。
宿につくとアリスを寝かせ、三人は町中の食堂へ向った。
少し遅い昼食だ。
宿の食堂は時間外になってしまっていた。
「さーてまたここに来ました。」
「そうね。」
「なかなか美味しかったですからね。」
三人が中に入ると厨房から大きな声が届いた。
「いらっしゃい！お？お前たちか！金髪のねーちゃん本戦突破良かったな！」
「たいしたことないわ。」
「王女様は残念だったな。肩大丈夫か？」
「はい。大丈夫です！」
「がはは！よーし何食べる？決まったら呼んでくれ！」
そう言うと店主は奥へ戻っていった。
「何食べよっかな―。この間食べそこねたのでいいかな。」
「私は野菜炒め一択ね。最近肉が多くて飽きていたのよ。」
「私は流した血の分お肉を食べないと！」
「それじゃ決定かな？すみませーん！」
「あいよー！何にするんだ？」
「私はウルスのレアステーキ」
「野菜炒め頂戴。」
「私もウルスのステーキでお願いします。」
「ウルスのレアステーキ、野菜炒め、ウルスのステーキだな。少し待ってくれ！すぐ作る！」
そう言うと厨房へ駆け足で戻っていった。
「ミルフィー次準決勝戦でしょ？相手も強いから手加減しないようにね。」
「当たり前よ。あのおこちゃまじゃないんだから。」
「私、マキナさんと応援してます！」
「えぇ。そういえば、あの時のシールドはマキナかしら？」
「うん。周りのこと考えずにあんな魔法使うから。」
「…悪かったと思っているわ。」
「ミルフィーとネザリアの魔法で今頃スタジアムの整備が大変そうだ。」
「う。すみません。」
「そういえば、ネザリア？二つの魔法を並行して使っていなかったかしら？」
「はい。マキナさんと練習しました。」
「どうやったか教えてくれるかしら？」
「はい。魔力の流れ道を具体的に思い浮かべるんです。最初は言葉にしてやったほうが成功率が高いです。魔力ライン1とか2っと。」
「へぇ。それは面白そうね。」
「魔力供給が途絶えると次第に消えてしまうのが欠点で同時に使えなかったですが、これがあれば使えるので便利です！」
「そうね。後あの魔法は何？」
「あれは重力と言う魔法です。」
「重力？」
「はい。そこはマキナさんのほうが詳しいので。」
「マキナ、教えてくれるかしら？」
マキナはミルフィーに重力に関してネザリアと同じように教えていく。
「なるほどね。星自体が持つ力ってことね。」
「うん。」
「明日の準決勝で使ってみようかしら。」
「この魔法は組み合わせないと意味ないから気をつけてね～。」
「さっきのアレね。」
そう話していると店主が料理を運んできた。
「おう。お待ちどう様だ。ウルスのレアステーキと野菜炒め、ウルスのステーキ。」
「おーいただきまーす！」
三人は食べ始めた。
以前はアリスに吹き飛ばされて食べれなかったマキナだったが今回は無事に食べられた。
「うーん。おいしいね！」
「そうね。この絶妙な火加減。」
「そうですね。美味しく焼けてます。」
三人は遅い昼食を食べ終わると宿に戻った。
アリスはまだ寝ているようだ。
高い精神負荷が掛かったためだろうか。
「私は明日に備えてもう寝るわ。」
「そうだね。」
「おやすみなさい。」
「よう。」
「なんだ。レイブンか。」
「なんだとはなんだよ。カイン。」
「Aランクに結構やられてたじゃないか。」
「アレは油断しだんだ。」
「油断大敵。俺達の業界じゃ当たり前のことだ。」
「まぁ、そうだが…それより聞きたいことがあったんだ。」
「なんだ？」
「あの魔法なんだ？」
「見ていたがさっぱりわからん。俺も知らない魔法だ。しかも属性もな。」
「お前が知らない魔法があるのか…だとしたらアインスは新属性の開発に成功しているのか？」
「いや、多分違うだろう。あのマキナってやつの入れ知恵だろうな。」
「マキナ？」
「そうだ。あの冒険者チームのリーダーだ。」
「ほう。一度戦ってみたいな！」
「やめておけ。俺に勝てないようじゃ、絶対に勝てないぞ。」
「お前がそこまで言うならやめておこう。」
「さて、準決勝どこまで楽しませてくれるかな？」
