謎の人現る 異世界人パート その2
アリスが絶望とも見える表情を浮かべていると近くの茂みからとてつもないスピードで何かが飛び出して来た。
その人物はアリスの近くのゴブリンを胴体から真っ二つに切り裂き幌馬車の横で砂埃を立てながら止まった。
アリスは何が起こったのかわからずきょとんっとしてしまっていた。
そこに他の冒険者から活を入れる罵声が飛んできた。
「そんなところで突っ立ってんじゃねえぞ!死にてえのか!」
「え?…あ、そ、そうね。ごめんなさい」
アリスはその一言で現実に引き戻され、二度とこのようなことがないように気を引き締めて再びゴブリンへと向かう。
反対側ではいきなり現れた見たこともない服装の女性が光る剣らしき物を振るっていた。
その太刀筋は素早く青色の軌跡を残し、斬られたゴブリンは例外なく体を切断され絶命していく。
これはさすがに甲冑の人も予想外らしく自分の敵を倒し謎の人物を見ていた。
謎の人物は舞うように剣を振りゴブリンたちを殲滅して行く。
剣を振るった後には青の軌跡が残っている。
幌馬車の上の女性はそれが魔力の痕跡だと気づき、そしてその人物が纏う魔力の大きさにも。
謎の人物の介入によりゴブリンが殲滅された後、幌馬車は少し先に移動し止まっていた。
皆予想外な行動をするゴブリンに疲労したようだ。
座り込みながら武器である剣から血肉を落とし切れ味を回復させる。
幌馬車の上の女性は遮るものがなく見通しの良い場所なので下に降りてアリスと話していた。
「大丈夫だった?」
「…はい。大丈夫です。」
少しばかりアリスの顔は引き攣っている。
先ほど殺されそうになったばかりだからか、少し震えているようにも見える。
「冒険者になった時死ぬ覚悟なんてできていたはずなんです。でも実際に死ぬ間際になるとこんなにも怖いんですね…。」
「そりゃそうよ。経験の無い覚悟なんてそんなものよ。私だって最初はそうだったのだからね。」
「…そうなんですか?」
「何よ?私をなんでもできる超人と勘違いしてる?」
「い、いや!違います。その、あなたの印象からじゃ想像つかないなーっと思って。」
「あなたじゃない。私はミルフィー。ミルフィー・フィールド。」
「あ、私はアリス。アリス・エルフォードです!あれ?でもミルフィーさんは私の名前呼んでいましたよね?」
「私はエルフなのよ。ほら、この耳が証拠よ。だから聴力や視力には自身があるの。」
「なるほど。ダンリックさんへの自己紹介の時に聞こえていたのですね。」
アリスとミルフィーが話している頃謎の人物はダンリックと話をしていた。
「いやー。助かりました。私のみならず冒険者の彼女の命も救ってくださるなんてありがとうございます。」
「いえいえ。大したことではありません。それより先ほどのは何でしょうか。」
「先ほどのっと申しますとゴブリンのことですかな?」
「ゴブリン?」
「知らないのですか?ゴブリンは多少の知能があり、主に集落や馬車を襲い食べ物や人を攫う魔物のことです。」
「ふむ…。」
ダンリックはこの謎の人物が何者であるか見定めようとしていたが、あまりにも常識的な事を知らずどういう人物だか更にわからなくなってしまった。
「とりあえず彼女の元へ行ってあげたらいいのではないですか?あなたが救ってあげた子なのですから。」
「そうですね。失礼します。」
その人物は敵意一切無く礼儀正しくダンリックから離れていった。
その背中は何も警戒していないかのように無防備だった。
アリスとミルフィーが一緒にいるところに謎の人物が歩み寄っていく。
ミルフィーは背後から気配、魔力の塊が近づいてくることに気づき咄嗟に後ろを向いた。
そこに居たのは先程の戦闘でいきなり乱入してきた人物だった。
「大丈夫だった?」
謎の人がアリスに話しかけてくる。
「あ、はい。大丈夫です。危ないところありがとうございました。」
「そう。良かった間に合って。」
アリスにはその人物がほっとしている様子がわかった。
この人がもし来なかったら自分は今頃幌馬車の隣で転がっていただろうと思って再び顔を青くした。
「あら?本当に大丈夫?気分悪い?」
「そうよ。大丈夫なのアリス?」
「え!? ご、ごめんなさい。さっきの事思い出しちゃっただけだから大丈夫だよ。」
二人に心配され慌てふためくアリス。
このままでは場の雰囲気が悪いと思ったのかアリスは話題を変えようと謎の人物へ話しかけた。
「そ、そういえば助けてもらったのに名前すら聞いていませんでした。私はアリス。アリス・エルフォードともうします。あなたは?」
「私?私はマキナ。ただのマキナよ。」
「マキナさんですね!ありがとうございました!」
「いやいや、感謝されるほどじゃないよ。私はそういう目的で”作られた”んだし」
「え?」
「ちょっとマキナさんいいかしら?」
「はい?なんですか?」
アリスはマキナの言葉に一瞬違和感を覚えたのだがミルフィーがマキナを連れて行ってしまった為その違和感は意識の奥へ沈んでしまった。
幌馬車から少し離れた場所でミルフィーとマキナが座り込んで話をしている。
ミルフィーは先程から気になっていたことが我慢しきれなかったのだ。
「私はミルフィーって言うんだ。よろしく。」
「よろしくお願いします。」
「っで、聞きたいんだけど、あなた何者?」
「…」
ミルフィーがそう質問するとマキナは黙りこんでしまった。
怪しさ満点である。
「アリスを助けてくれたのは感謝してるけど、素性すらわからない怪しい人とは居たくないのだけど。」
「ちょ、ちょっと待って。」
「何よ?」
「一つ聞きたいんだけどいいかな?」
「質問を質問で返さないでくれる?」
ミルフィーは質問を質問で返され少し不機嫌のようだ。
しかし、話が進みそうにない雰囲気だったので受けることにしたようだ。
「で、質問ってなによ?」
「ここ何処ですか?」
静寂。
そしてミルフィーの呆気にとられた顔。
「はぁ?」
「いや、だからここ何処ですか?」
ミルフィーは呆れ顔でマキナに教えた。
「どこってガーランドの街から西に出た道よ?そんなこともわからずこんなところうろついてるわけ?」
「…」
ミルフィーがそう言うとマキナは再び黙りこんでしまった。
何か言っているようだが話とは関係ないことのようだ。
少したってマキナは口を開いた。
「私はこことは違う場所から来ました。」
「私はそんな事聞いてるんじゃないよ。あんたが何者かと聞いてるんだよ。そんな巨大な魔力、わけわからない剣。アレは何よ?」
ミルフィーは気になっていたことをすべてマキナへぶつけた。
マキナは少し返答に困っているように見えた。
「えっと、私は地球と言う場所から来ました。たぶん異世界です。」
「はぁ?」
「この魔力なのですが、私には魔導炉が搭載されているからだと思います。剣に関しては魔力を圧縮し、振動させることにより切れ味を極限まで上げている高周波ブレードといいます。多分わからないと思いますが。」
「そうね。あなたが何を言って、何者なのか何もわからないわ。」
またもやミルフィーの顔は呆れ顔になっていた。
喋り出したらいきなり異世界だと魔導炉だと高周波ブレードなど言われたらわからない人には全くわからないものである。
そんな人物は怪しまない人などいるのだろうか。
「でも決して敵意とか無いんで安心してください?」
「なんで最後疑問形なのよ。」
呆れ顔はそのままでミルフィーは無気力に答え返した。
「いや、言葉があってるかなーっと思って。」
「あんたね…もういいわ、戻りましょう。」
ミルフィーの言葉でマキナとミルフィーは幌馬車へと戻っていった。