国境の村 黒幕は…
国境の村は王都に比べかなり廃れている。
それも高い税金と不正、横領が行われているためである。
クォーツィの税は高く、そしてその税を最大限国民に還元する仕組みになっている。
しかし、王都から離れれば離れるほど輸送費、仲介費がかかるため、王都の恩恵を受けれ無くなってしまう。
それがこの村である。
「確かにひどいな。俺もまだまだだと言うことだな。」
戻ってきたマキナ達にアリスとミルフィー、そして宿屋の店主も近寄ってきた。3人は背中に赤いマントを着ている人物がすぐに誰だか分かった。そしてその隣にいる人物も。
「「「クォーツィの国王様!?」」」
「む。俺は国王だが、どうかしたか?…これはひどいな。」
国王は振り向いて目に入った宿を見ていた。国王が木に力を込めるとあっけなく木が砕けてしまった。
「腐っているな。」
「わかるんですか?」
マキナが国王に聞いた。
「あぁ。昔はもの作りが好きでな、その時に少し勉強したんだ。それと、そこの娘よ。すまんな宿の一部を壊して。」
「い、いいいいい、いえ!問題ありません!」
「問題大有りだろう…さて例の者達はどこだ?」
「…こちらです。」
マキナはレーダーを確認すると未だに殺気を出している者達の塊があった。
「シーナはネザリア王女と共に居なさい。そこの者達が居るのであれば大丈夫だ。」
「わかりました。貴方も気をつけて…。」
マキナと国王は兵士詰所へと歩いて行った。
「ところで、マキナと言ったか。ネザリア王女の話によると君が例の者達の居場所を知っているのは些かおかしいと思うのだが?」
「…騎士なら騎士の詰所に居るでしょう。それにあのような者どもを宿や一般の家に閉じ込めるわけには行かないでしょう。」
「…そうか。それもそうだな。っと。着いたな。」
マキナが先導し、扉を開けた。国王が入る前に素早く騎士たちが反撃出来ないようにシールドで閉じ込めた。
「おい!この縄を外せ!さもないと殺…す…ぞ?」
「誰に向かって殺すだって?え?」
「国王様…?」
「あぁ。なんだ?」
騎士たちはこんな偏狭な村に国王が居ることに驚いていた。
そして頭の回る騎士は隣に隊長を伸した女が居ることに気づき、国王はすべてを知っていると確信してしまった。
“きっとこの娘は宿の店主から全て聞いて知っているのだろう”っと。
「さて。質問なんだが…お前たちが不正をしていると聞いたのだがどうなのかね?」
「国王様!我々は何もしておりません!そこにいる冒険者達がこちらに攻撃を仕掛けて…。」
「ほう。何もしてないからこんなにも村が廃れてしまっているのか。」
「ち、違っ」
「で、お前たちが攻撃した冒険者チームは同盟国であるアインスから報告の合った冒険者だ。つまり、お前たちは冒険者であるアインス国の王女様に攻撃したことになる。これは同盟に歪み…いや。ヒビを入れる事だ。」
その言葉を聞いて騎士達の表情は徐々に青くなっていった。
「本来ならこの様なことがあれば処刑―」
「ま、待ってください!あれは誤解なんです!」
「処刑なんだが、更に奴隷売買をしていたそうだな?」
「!…」
「何処へ売った?誰からの指示だ?誰に送金した?言えば処刑は止めてやる。」
「ほ、本当ですか!」
「あぁ。処刑はしない。」
「ありがとうございます!ありがとうございます!」
「早く言え。」
「す、すみません。ガレードと言う貴族の命令です。自分たちはそこの貴族に雇われた騎士です。」
「ほう。あのいけ好かない豚か。そりゃあ苦情も何も来ないよな。アイツがそこの頭なんだからな。」
「よし。いいぞ。お前たちは証人になってもらう。その後は一生強制労働だ。」
「!?そんな!」
「?何がだ?俺は処刑にはしないと言っただけで、罰を与えないとは一言も言っていないぞ?」
そう言うと国王は詰所から出ていった。
「哀れだね。」
「畜生!うるせぇぞガキ!!」
「その手首もう使い物にならないでしょ?」
「そうだよ!お前のせいでな!」
「良かったじゃない?強制労働出来ないじゃん。」
マキナはそう言うと詰所から出た。後ろからは叫び声が聞こえるが無視することに決めているマキナにとってはただの騒音にしか聞こえない。
「遅かったな。」
「ちょっと遊んでいました。」
2人は宿へと歩き出した。
「遊んでいた?」
「はい。国王様が話していた人が居ましたよね?」
「あぁ。居たな。」
「そいつの手首粉々に砕いてあるんですよ。ツルハシの一本も持てないですよ。」
「そいつは困ったな。一生投獄でいいか。」
「国王様決断早いですね。」
「いつまでも考えるのはめんどくさいのでね。」
「…所でこの間の戦争はどうお思いで?」
「実のところカーディが魔物を操る魔法を開発したのは脅威だ。しかしどの程度まで操れるのかがわからないと対処の仕様がない。」
「最大限の戦力を持ちいるのもいいですが、それだと費用がかさみますからね。」
「税金は国民の血と汗と涙だ。1銅貨も無駄にはできん。」
「良い国王様ですね。」
「ハハハ。もっと褒めてもいいぞ。」
そんな緊張感があるのか無いのかわからない会話をしながら宿に戻ってきた2人。
「ねぇ?あの国王様マキナに似てないかしら?」
「性格が少し似てる気がする。」
アリスとミルフィーが小声で話し合っている。
聞こえてくる会話が、国王とマキナの性格が似てるような気がしたのだ。
「あの人は昔からああいう人なのよ。国民のために努力してその割にはめんどくさがり屋なんです。」
「あ、聞こえてました…?」
「バッチリです。確かに似ている気がしますね。子供の時から悪戯も好きで私も何回…。」
少し顔を赤らめている。何があったのだろうか。
「クォーツィの国王様は国民思いの良い国王と聞きますからね。ですが、その思いが逆にこういった場所に悪影響を及ぼしてしまっています。」
その時マキナと国王がタイミングよく入ってきたのだ。
ネザリアの言葉に国王が答えた。
「それなんだ。今まで王都周辺までは見ていた。しかし辺境にある村まで目が届かなかったようだ。我が国は税率が高いが、勉学、治癒費、食料管理を行なっている。しかし、この村にはこのいずれも行き届いていないようだ。」
「輸送車両でもあれば費用を減らせて、沢山運べそうなんだけどなぁ…。」
マキナがぼそっと声を漏らした。
「車両はよくわからないが…いや…仲介費が無い分王国直の方が安く出来るか?すまん。一度王城へ戻らせてくれ。後であの騎士を回収に馬車を寄こす。」
「了解。王妃様こちらへ。」
国王と王妃が揃った事を確認したマキナは2人の腰に腕を回すとしっかりと掴んだ。
「マキナ?何をするのだ?」
「王都の座標がわからないから空に空間跳躍…転移する。で、後はネザリアの時みたいに飛ぶ。おーけー?」
「よくわからんが、大丈夫なのだろう。」
「貴方がそういうなら私も…。」
王妃は少し心配のようだ。
「行きますよー。」
“空間跳躍起動”
“跳躍先確保完了”
“魔導炉出力上昇”
“空間跳躍開始”
次の瞬間マキナ達は落下していた。
「キャアアアアアァァ」
王妃の叫び声が王都の空へ響きわたる。
“ATS フォトンウィング”
マキナから光の翼が出現し、すぐに落下速度が緩やかになり王城のバルコニーへ向かっていく。
「言ったとおりでしょう?大丈夫なんです!」
「確かに大丈夫だな。」
「寿命が縮まります…。」
「おいおい。俺より先に逝かないでくれよ?」
そんな話をしていると、バルコニーに騎士達が出てきた。
先ほどの悲鳴を聞きつけたのだろう。
「あー。説得おねがいしますね?」
「まかせろ。」
マキナがバルコニーに降り立つと国王と王妃は、あっという間に騎士の中に飲み込まれていった。
「国王様と王妃様を拐うなどなんたることだ!」
「国王様ー!まだですかー!」
「貴様!まだ言うか!切り伏せて―」
「静まれ!各自持ち場に戻り、警備を続けろ!解散!」
国王は大声を上げると王座に戻っていった。
「マキナさんこちらへ。」
「あ、はい。」
王妃がマキナを手招きした。
騎士が道を開け、マキナを通していく。
国王の自由翻弄に振り回される騎士たちはマキナが一度来た時のようになっている。
「おかえりなさいませ。国王様。」
「おう。で、どうだった?」
「ハッ。広報の方に多数の苦情が来ていました。それも辺境の村ばかりです。」
「そんな苦情など俺のところには来ていないぞ。」
国王は分かりきったことを返している。
先ほど騎士たちから聞いた話でだいたいわかっていたからだ。
「そこのトップである貴族ガレードが隠蔽しているようです。」
「やはりか。聞いた通りだな。」
「国王様は知っておられたのですか?」
「先ほど不正をしていた騎士から聞いた。人身売買もしているようだ。」
「なっ!ではやはり先程のあれは。」
「あぁ。全部本当だ。」
マキナは何処の貴族も腐ってるんだなっと思っていた。
実際アインスでも同じようなことが有ったからである。
マキナが潰してしまったが…。
「どの様にしますか?」
「まずは背後確認しろ。奴隷商ごと引っ張るぞ。」
「ハッ!これからしばらく張り込みをするので持ち場から離れる許可を。」
「いいぞ。行け。」
「よし。副隊長は国王様をお守りしろ。俺は張り込みに行く。」
「任せてください。」
そう言うと隊長は小走りで去っていった。
「さて、宰相。流通の資料をここに。」
「少々お待ちください。」
宰相はそう言うと走って取りに行ったようだ。
マキナは王妃と楽しそうに話していた。
「先ほどの翼はなんという魔法なんです?」
「いえ。あれは魔法ではなく技術と魔術の融合です。」
「よくわかりませんが、凄いですね。空を自由に飛べるのでしょう?」
「はい。ネザリアもすごく喜んでいました。」
「まぁ!私も空を飛んでみたいわ!」
「では今度…」
話が弾んでおり、国王が入ろうとしても弾かれてしまっている。
しばらくすると宰相が資料片手に帰ってきた。
国王にとってソレは長く感じられた。
「お待たせしました。これが資料です。」
「どれ…む。なんだこれは?」
「何でしょうか。」
国王が指さしている項目名は仲介手数料と書いてある。
「何故こんなに手数料が高いのだ?」
「恐らく馬、護衛、人件費などの資金かと。」
「宰相よ。我が国の税制と還元はどうなっている?」
「…護衛、人件費にしては高いですね。」
マキナが気になって資料を覗きこむと、仲介手数料が辺境の村だけ異常に高いことがわかった。
具体的に言うと一般が120銀貨だが、辺境の村だと思われる項目には360銀貨と書かれている。
3倍もかかっていることがわかる。何故こんなに高いのか。
各村に割り当てられる金額は均一の月500銀貨となっている。
その半分以上が村に着く前に無くなってしまっている。
「護衛にしても冒険者ギルドから出るには高すぎる気がします。」
「ほう。ソレは冒険者だから分かることか。」
「はい。依頼書を見ていましたが、距離や期間に左右されますが一人あたり10銀貨から20銀貨が妥当だと思われます。」
マキナは依頼書を暇があれば見ていたので細かいことまで覚えている。
基本忘れるということは無いのだ。
「それならば確かに高すぎるな。宰相。この経費がどこに流れているか調べてくれるか?何人でも使っても構わない。」
「わかりました。調べてきます。」
「あー。国王様」
「ん。なんだ?」
「私の仲間に被害が及んだら…そいつ粛清するのでご勘弁を。」
「粛清とはまた。何をするんだ?」
「こいつで」
“ATS 魔導式AVA”
「屋敷ごとぶっ潰します。」
マキナの身長の5倍ちかくあるガトリング砲が現れた。
近衛騎士や騎士、国王、王妃も突然そのような物が出てきたことに驚いている。
そしてソレを片手で振り回すマキナにも驚いていた。
魔導式AVAは.700ニトロ・エクスプレスと同等、ソレ以上の威力を要する重火器だ。
この世界には重火器の概念はまだ無い。
他から見ればただの装飾された鉄の塊に思えるだろう。
余談だが、魔導式AVAを撃つ時はフォトンウィングを展開しなければ反動により後退してしまう。
フォトンウィングの推進力により反動を打ち消すのだ。
「それはどの様な武器なんだ?それで相手を殴るのか?」
「いえ。ちょっとバルコニーに来てくださいますか。ここでは使えません。」
そういうとマキナはAVAを持ち上げバルコニーへと歩いて行った。
それに続く形で国王、王妃、近衛騎士、野次馬騎士がバルコニーに集まった。
「空に向けて撃ちますね。雲を撃ち抜きますよ~蜂の巣ですよ~。」
「撃つとは弓矢みたいなものなのか?」
「見ればわかりますよっと。」
“駆動プロファイル変更:射撃モード”
“魔導式AVAとリンクを確立”
“フォトンウィング出力上昇”
“身体強化40%”
キュィーンという音とともに砲身が回転を始めた。
それに皆驚いていた。この様な仕掛けは見たことがないのだ。
徐々に回転速度を増し、最大限まで達した時マキナが言葉を掛けた。
「撃ちまーす!耳抑えてください!」
“シールド展開”
マキナがトリガーを引くと怒涛の6000速射が始まった。
火炎魔法が爆発したかのような大きな音をたてながら魔弾が空に向けて速射される。
高度が低い雲に魔弾が当たり、雲が飛散していく。
見に来た者達は皆耳を塞いでいる。
マキナにとっては機能を切ればいいはなしであるが、生身の人にはできない。
やがて雲が完全に飛散したことを確認したマキナは撃つのをやめた。
「ステータス」
“状態:オンライン”
“砲身温度:86度”
“冷却稼働率:70%”
“3452発速射可能”
「冷却稼働率を100%へ」
“冷却稼働率:100%”
「聴覚起動」
“聴覚オンライン”
「――――ナ!」
「うん?」
「うん?じゃないぞ。今のはなんだ…?雲が跡形もなくなったぞ。それに何か飛んでいるように見えたが…。」
「あー。魔力を固形化させてそれを撃ちこんでるんだよ。人間に当たれば一瞬で肉塊かなぁ。」
平然と残酷なことを言うマキナ。ここで天然スキル発動である。
「肉塊…その武器の製造方法を教えてくれないか?」
「あー。無理です。絶対に作れません。」
「そこまで言うか。一応アインスと技術提供しているのだが?」
「技術といっても魔法や弓矢、剣などでしょう?」
「そうだが?他に何があると言うんだ?」
「この武器は科学技術、魔術を元に創られています。科学技術を魔法に劣ると考えている世界ではこの武器は絶対に作ることも理解することも出来ないと言うことです。」
「科学…?あー。そういえば蒸気で物を動かそうとかしてた人間が居たな。あれを科学と言うのか?」
「そうですね。超初歩的原始的な物ですが。」
「ふむ。なら俺たちにはその武器は理解できないな。」
“魔導式AVA解除”
“フォトンウィング解除”
「で、そろそろ迎えの騎士を送らないといけないのでは?」
「あぁ。忘れていた。そこのお前。4~5人つれて馬車で不正した者達を連行してこい。場所はカルト村だ。」
「あの村カルトって言うんだ。」
マキナは頭の中でカルト教団やらそちらの考えが出てきていた。しかし実際何も関係無いのである。
「あ、国王様。貴族の処分に困ったら私におまかせを。屋敷ごと処分します。」
「い、いや、私達がやろう。バラされたら困る…。」
国王は先程の武器が家に向けられ放たれるのを想像して身震いした。
本当に屋敷が処分されてしまう。
「それではまた明日来ようかと思います。」
「あぁ。なるべく門から入ってくれ。」
「了解~。」
そう言うとマキナは一瞬にして消え去った。
国王と王妃は“やってしまった”と言う顔をしている。
周りに居た騎士や魔法使い達はいきなり消えた、1人で転移?などと話している。
「他言無用だ!」
国王がこの場にいる者に言い放った。
マキナがカルト村の外に空間跳躍したときは既に夕方だ。
「さーて。皆のところに戻るかな!」
軽い足取りで皆の待つ宿へ歩き出したのだった。
誤字がありましたらご指摘ください。
修正




