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国境の村

国境を越えたマキナ達は近くの村へ向かって歩いていた。

マキナのディスプレイには図書館で見た地図が表示されている。


方向はマキナのセンサーによりわかっているので迷う心配はない。


「クォーツィって初めてくるんだけど、アリス達は来たことある?」

「もちろんあるわよ。」

「私もギルドの依頼であるよ。」

「私は王族関係で。」


マキナ以外は来たことあるようだ。


「へ~。そうなんだ。一番近場の村はアッチだね。」

「マキナさんすごいです。初めてなのにわかるのですか?」

「ネザリア。マキナは一回世界地図見てるのよ。」

「さすがマキナさん。一回で覚えるなんて凄いです!」

「もっと褒めてもいいのよ!」

「それも神様の能力なんですか?」

「いや、記憶できる機械なら一回で覚え…記録出来るよ。」

「機械って凄いのですね。魔法ではできませんから。」


ネザリアとマキナの会話が弾んでいく。


「魔法はイメージだから地図とか細かいのは無理だよね。」

「さすがに地図の細かいところまではイメージできません。それにイメージ出来たとしてどうやって使うのでしょうか? それにイメージ出来るほど覚えているなら…。」


ネザリアは苦笑いをしている。


「あはは。イメージ出来る程覚えてるならそんなもの要らないってことだね。」

「ですね。」

「でも魔法はいいじゃない?クリーン…自然にやさしいんだから」

「魔法はっと言うと、機械はそうではないのですか?」


アリスがミルフィーに真顔で話しかけた。


「ミルフィー。全くわからない!」

「アリス…。今日ばかりは同意するわ。」


王宮育ちの魔法知識を持つネザリアと魔術と科学の知識を持っているマキナの会話が前方で繰り広げられている。

料理と剣のアリスにはさっぱりわからず、ついていけていない。

魔法には詳しいが、科学にはさっぱりなミルフィー。


「機械は科学が発展して出来るもので、科学が発展するために色々なものを犠牲にしたんだ。何かわかる?」

「…人ですか?」

「一応人もだけど微々たるものだね。一番はそれじゃないんだ。」

「人で無いとすると…何でしょうか。」

「答えは自然だよ。」

「自然…ですか?私達からしたら考えられないことです。自然の恵みを分け与えて貰い、それを糧として生活している私達には考えられません。」

「そう考えられることは良いことだよ。私達は得るものではなく、作るものだからね。」

「作る…ですか?」

「そう。機械が管理して機械が栽培、収穫、加工、出荷。人工自然まで作り出すから、常に最高品質の物しか出来ない。ウルス、私達の世界にも同じような動物がいたんだけど、それも機械で管理されて繁殖、成長、そして加工まで…ね。」


元の世界はすべてが機械化され、工場はメンテナンス以外無人状態である。


「機械というとマキナさんしか思いつかないのですが…」

「ん~。無機質な意思を持たない金属の塊って考えてくれれば良いかな?それが命令に従い、行動を起こす。」

「…なんか嫌です。マキナさんは良いですが、そんな意思もない機械に…。」

「話ずれたんだけど、自然を犠牲にした結果…って話したっけ?…話してないね。うん。」


マキナは自分の世界で合ったことを軽く話した。

マキナにとっては軽く話したつもりだったが、ネザリアにとっては衝撃的だったようだ。


「人が…生き物が…絶滅…?」


ネザリアは信じられないという目をしている。


「嘘じゃないぞ~。私はそれを避ける為に創られたんだからね。」

「で、寝坊と。」


後ろからぼそっと言葉が聞こえてきた。


「寝坊じゃなーい!」

「今日の朝だってマキナが最後…」


マキナは後ろから聞こえてくる声を無視することにしたようだ。


「で、話が戻るけど、機械は魔力で動いてないから余計に自然が汚れるんだ。」

「魔力ではないのですか?」

「私は魔力から取り出したエネルギーで動いてるけどね。機械は基本電気で動いてたよ。」

「電気というとアレですか。」

「アレです。」

「不思議です。攻撃の用途にしか使えない電気が機械を動かすなんて。」

「そこが科学なんだよね~。不思議なんてものは無い。すべて理屈があるから起こる。それを応用することが大事なのよ!」

「理解し、応用することが大事なのですね。」

「そうそう。魔道具だってもっと頑張れば今よりもっと良い物が作れるよ。それこそ機械みたいに便利な魔道具もね。」


2人が喋りながら歩いていると、前方に村が見えてきた。


「この村来るの初めてね。」

「私もだよ。」


アリスとミルフィーが初めての来た村だと言っている。

村は少し寂れているようにも見える。


少しばかり歩いて村へ入ると入り口近くに宿があった。


「…いらっしゃいませ。4名様ですね。」

「? はいそうです。」

「お食事別の銀貨3枚になります。」

「たっか!」


アリスがその金額に驚いて声を出した。


「確かに食事別にしては高いわね。」


ミルフィーも同意のようだ。


「ん?はい。10銀貨1枚と銀貨2枚ね。」

「え?あ、お部屋の鍵はこちらになります。」


そう言うと女性店主は2個の鍵を渡してきた。

どうやら寝る場所が2つしか無く、2部屋みたいだ。

「さー!いこー。」

「お二方。行きましょう。」


お金の感覚がわからないマキナとネザリアは何も思わずに部屋に向かっていった。

アリスとミルフィーは長年冒険者をやっているためこの宿がぼったくりなのは説明でわかった。


そして女性店主は驚いた表情で銀貨を見ていた。


「まったく。あの2人は。」

「まぁ、どちらにしてもここ以外宿なさそうだし…。」


2人もマキナとネザリアの後を追いかけていった。


「待ってマキナ!」

「うん?」

「なんでこんな高い宿にしたの?」

「高いの?」

「こんなボロ宿なんて銀貨1枚程度よ」

「ほら、部屋の中は凄い綺麗とかあるんだよ!」


何事も中身が大切と言いながらマキナは部屋を開けた。

そして、何度か閉めたり開けたりを繰り返したマキナ。


「そんなことなかった。」


2人に鍵を渡し、マキナはネザリアと入ることにした。


「これが宿ですか。思っていたより…ボロ」

「あー!それ以上言わなくてもいいよー!?」


マキナはそれなりの理由があるんだよっと諭していた。


「うーん床抜けないかな?」


マキナが歩くごとにギシギシと音を立てる床。すきま風が床から吹き上げているのがわかる。

「大丈夫ですよ。そこまでは無いと思います。…多分」

「あははそうだよね…!?」


床の色が違う場所に足をおいた途端バリっという音を立てて踏み抜いてしまった。


「おおおおう!?」


マキナは片足を捕られ、床に前のめりに倒れてしまった。


「あだっ」

「床が…!」


倒れた際に腕を着いた床が嫌な音を立てたのは気のせいだろうか。

マキナは片足を抜こうと体勢を元に戻した。


「大丈夫ですか!?」

「あぁ。ビックリしたぁ。大丈夫。私頑丈だからね!」


マキナはそう言いながら片足に力を込め、足を引き抜こうとした。

半分辺りまで折れた床に引っかかりながらも抜き終えたところで嫌な音がまたしても聞こえてきた。


それは力を篭めている足の方からだ。


「…ネザリア?なにか聞こえないかな?」

「マキナさん。聞こえます。明らかにその足の床からです。」


現実は非情である。

力を込めていた足の床まで抜けてしまったのである。


「腐ってるのかこの床!」


マキナはそのまま股間を床板を支えているところにぶつけた。


「…これ生身だったら相当痛いよ。うん。」

「ちょ、ちょっと店主呼んできます。」


そう言いながらネザリアは外に出ていってしまった。

若干表情を歪めてたのは気のせいではないだろう。


「…。これどうしよう。」


腕で体を持ち上げてもいいが、それだとまた床を抜きそうで怖いのだ。

これだけ床が抜けるとなると、広範囲にわたって腐っている可能性がある。


「どうしたものか…。」


そんなことをやっているマキナ達とは違いアリスとミルフィーは無事に荷物を置いてベッドに腰掛けていた。


「ねぇ?さっきからマキナ達の部屋からすごい音が聞こえるんだけど。」

「…あれは木が折れる音、恐らく床でも抜いたんじゃないかしら?」

「あはは…私達の部屋って大丈夫?」

「多分大丈夫よ。…多分」


チームの中ではマキナが一番重いのだ。


アリスは下着に近い服。

ミルフィーも普通の服である。

ネザリアもちょっと高そうなローブと服である。

武器の重量を入れてもマキナほど重くないのだ。


マキナは胸部、肘、膝などに複合魔装甲が装備されているため、それが錘になっている。


「床見て歩こう…。」

「そうね…。」


アリス達が床に対して警戒心を持った頃、宿の女店主が駆けつけてきた。


「あぁ…とんでもないことに…。」

「これどうしましょうかね?」


「と、とりあえず引き上げましょう。」

「あー。そのへんも多分腐ってるので力入れると抜けますよ。」


女性はその場で固まると試しに足に力を入れてみた。

床からはミシミシと音が聞こえ始めた。


その音を聞いているうちに女性の顔は青くなっていった。


「ちょ、ちょ、ちょっと待っててください!」


女性は受付の方へ走って行ってしまった。


「ネザリアに問題です。」

「え?何でしょうか。」

「なぜ床板が腐っているでしょうか。」


マキナの突拍子もない質問にネザリアは一瞬戸惑った。


「えっと…腐るということは水をこぼしたままだったのですか?」

「あー違う違う。やっぱりわからないかー。」

「っとなると違う理由があるので?」

「答えは湿気。この部屋窓が一箇所しか無いでしょ?そうすると日当たりも悪くなり、風とも悪くなる。」

「湿気…ですか。聞いたことが無いです。」

「わかりやすく言うと空気中に水分があるんだ。」

「空気に水が…?」

「うん。わかりやすく言うと湯気を想像してくれるかな?透明な湯気があると思ってくれれば良いかなぁ?」


マキナは適切な表現が思いつかなかったため湯船やお湯の湯気を想像してもらうことにした。


「それが空気中にあると。」

「そうそう。まぁ。体が塗れるほど無いけどね。それが原因で木が腐るんだ。木材腐朽菌が湿気により活動を活発化させ木を腐らせるんだ。」

「…となるとこの部屋、宿自体が危険ですよね?」

「…その発想は無かった!」


マキナは床だけに考えが行っていて他のことを考えていなかった。

ドタドタギシギシと音を立てながら女性店主が戻ってきた。


腕には新しそうな木材を抱えている。


「これを足場にしましょう!」


この後マキナは救出され、女性からの謝罪ラッシュが始まったのは言うまでもない。


「もういいですよ~。」

「いえ!久しぶりのお客様にこんな無礼を…!」

「ネザリア助けて~。」

「店主さん。1ついいですか?」

「はい!何でしょうか!」

「え、えっとですね。木の腐食がここまで広がっていると宿自体が腐り始めていると思われます。建て替えしたほうがよろしいかと。」


そうネザリアが言うと、店主は黙りこんでしまった。


「どうしたんですか?」


マキナは服についた埃を払いながら話しかけた。


「非情に情けないのですが、お金がないのです。」

「5年ほど前に駐屯騎士の入れ替えが有ったのです。ただの入れ替えなら良かったのですが、どうやら不正を行なっている騎士のようで…。」

「不正とは?」


マキナがそれに反応し、聞き返した。


「奴隷販売、税金を払えなかった人への強制徴収と言う名目の人攫い。」

「ひどいです!クォーツィでも奴隷は禁止されているはずです!」

「その不正の先には貴族が居るらしく、もみ消されてしまうらしいのです。」

「そんな…。」


その時入り口から物音がした。


「ちょっとすみません。」


女性店主は受付へ走って行ってしまった。


「お客さんかな?」

「どうでしょうか。」

「とりあえず、この穴どうするの?」

「どうなるんでしょうか…。」


マキナは店主が持って来た木の板で穴を覆った。

これで一安心だろう。


「でもこれって意味あるんですか?」

「…ここだけ隠してもねぇ…。」


そこまで話していると受付の方から大きな音と怒鳴り声が聞こえてきた。


「…部屋の中にいても響いてくるよ。」

「そんなことより、なにか有ったのではないでしょうか?」

「そうだね。行ってみようか。」


余計なことに首を突っ込むマキナとネザリア。

アリスとミルフィーが居たならば即座に止めただろう。


マキナ達は受付に行くとありえないものを見た。


「おい!答えろ!この銀貨はどうした?この間飯も食えないから待ってくださいって泣きついてきたのは誰だか覚えてるよな?この銀貨どうしたって聞いているんだ!」

「だ、だからお客さんが来てくださって…。」

「客だぁ?こんなオンボロの宿にどんな物好きが止まるんだよ!ハハハハハハ!」


後ろにいる騎士たちも笑っている。

そしてその内の1人がこちらに気づいたようだ。


「ウーカさん!あそこに物好きがいらっしゃいますよ…ハハハ!!」

「ハハハハ!!本当に物好きが居やがったぞ!」


店主は目で早く戻れと促しているようだ。

マキナはそれに気づいていたが、それとは別に気に触ったので戻らないことにした。




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