表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/95

明日はきっと雨だよ

大通りの入り口でオロオロしている一人の女性。

そう。コフィーである。


コフィーは未だ大通りに出られずに居た。


オロオロしている時間が立つに連れそれをチラチラと見始める人が多くなり、さらにオロオロしだすコフィー。


そこに家から出てきたマキナが現れた。


「コフィーさんさっきからなにしてるんですか?」

「あ、マキナさん。あ、あの、大通りに入りたいのですが、ちょっと怖くて。」

「無理せずゆっくりやればいいんだよ。ほら、手を。」


マキナはコフィーへ手を差し伸べた。


「あ、は、はい。」


マキナとコフィーは大通りに入っていった。

先日まで感じていた視線はあまり感じなくなっていた。


どちらかと言うと申し訳なさそうな雰囲気になっている。

その雰囲気にマキナは首をひねる。


「うーん?何か有ったのかな?あ、ところで行きたい場所ある?」

「あ、お肉屋さんに行こうと…。」

「おっけー。えっと何処だ?」


しばらく大通り歩いていると、肉を売っている店を見つけた。


「あー。ここかな?」

「はい。…いってきまます。」


「(噛んでる…)」


コフィーは店の中へ入っていった。


「ん?いらっしゃい。」

「あ、あの。」

「んん?あー。あんたコフィーさんか。」

「…はい。」


店の主人は本を置くとコフィーに向き直った。


「別に取って食うわけじゃないさ。それより聞いてくれよ。…聞かせるけどな。」

「は、はぁ。」


店主は実は朝の長老宅の前の野次馬の中に居たのだ。

そしてミルフィーの言っていたことも全て聞いていた。


さらにエルフの歴史も垣間見た店主は今までのことを思い返し、反省していたのだった。


生贄の娘が逃げたからってその親まで悪くいう必要はない。

それより、コフィーの父親は魔物に挑み青年を助けた代わりに死んでいったのだ。

そんな家族を責めることを恥じた。


「話っていうのは今日の朝のことだ。」

「朝…ですか?」

「そう。朝だ。長老のところにお宅の娘さんが居てな、大声上げて何事かと思ったら何と怒っていたんだよ。」

「やっぱり…。」

「お?知ってるのかい?」

「い、いえ。あまり知らないです。」

「そうか!でな、怒った理由が…そう。あんただ。」

「私…ですか?」

「如何にも!母親の事を言われ激怒した娘さんは”お母さんは悪くない”とか”責める必要はないじゃない”とか怒鳴り散らしてたんだぜ?」

「…。」


その後、マキナがミルフィーを持ち上げ、出てくるところまで話が続いた。


コフィーは何があったか知らないため肉屋の店主から聞いて始めてわかった。

ミルフィーはコフィーの事で激怒し、魔法すら使おうとしていたのだった。


「そんなことが…。」

「で、今まで…その、済まなかったな。」

「え?」


コフィーは予想外の言葉に耳を奪われた。


「俺実はあんたの夫に助けてもらったことがあるんだ。」

「も、もしかして、魔物の攻撃から…」

「あれ?なんで知ってるんだ?」

「あ、いえ、なんとなく。」


本人とは言えないが夫に会いましたなんて言えない。


「皆があんたを目の敵にしてる中、俺は後ろめたい気持ちでいっぱいだったんだ。」


店主が自分の気持ちを語っている。


「でも、俺さ…そこまで強くなくて皆に言えなかったんだ。立派に戦った夫を持つあんたを責めるべきではないと。生贄なんて怖くて当然。逃げないほうがおかしいんだ。」


「でな、この間の魔物討伐の時傷つきながらも戦ってたのを見て思ったんだ。」


店主はカウンターから出てくるとコフィーとの距離を取った。


「今まで本当に済まなかった。」


それは土下座。


地面に頭を付け、誤っている。


「え?え?顔を上げてください!ダメです!そんなことは!」

「いや、いいんだ!俺は今まで何もできず、周りに流されていたんだ。」

「でも、だからって!」

「いいんだ。これが俺の気持ちだからな!」

「…分かりました。」


店主は立ち上がると店の奥から肉を持って来た。


「今までのお返しだ。持ってけ!」

「え?でもこんなに大きいの…。」


コフィーが両手で支えるほど大きな肉を渡された。


「今家にはあの人間の冒険者もいるんだろう?そいつらと食えばいいさ。」

「あ、ありがとうございます!」

「いいってことよ!もう大通り歩いてもあんたを罵声する奴なんて居ないさ!堂々と歩くんだな!」

「え?見てたんですか!?」

「そりゃあ、あの人間につかまりながら目を閉じて小動物のように歩いて―グボォ」


店主はコフィーが持つ肉で殴られていた。


「さ、さようなら!」

「ま、またのご来店を…ぐふぅ」



「おー?買えた?結構長かったけど。」

「買えました。」

「…大きいね。持とうか?」

「いえ。なんのこれしき!」


途中、残りの食材を買うためにお店に入ったが特に何もなく、皆苦笑いで申し訳なさそうにしていた。


「たくさん買えましたね。」

「はい!…少し重いですが。」

「これ。はしご上がれる?」

「あ…。」


コフィーははしごの存在をすっかり忘れていたようだ。


「しょうがないなぁ。」


マキナは食材に手を触れて格納していく。


「え?え?食材はどこに…」

「私の異次元空間に収納しました。これで上がれますね。」

「さらっとすごいことを…。」


家の中に入っていく2人。今夜の食事はアリスとコフィーさんが作るそうだ。

神殺しXはもう出来ないだろう…。


マキナはネザリアと話していることとした。


「ねえ?ネザリア。」

「なんでしょうか?」

「エルフの里しか見てないけど、どうかな?」

「そうですね。お城では気づきにくかったのですが、こう言う負の一面も世界なのだと思いました。」

「うん。世界は常に正しいとは限らないんだ。こういう負の一面もあれば正の一面もある。」

「難しいです。」

「そうかな?物事を良く見て、よく考えれば自然と身につくよ。」

「そうですよね。頑張ります。」


ネザリアはよしっとポーズを決めている。

そんな他愛もない話をしているうちに料理が出来た。

エルフの里産の食材で作った料理だ。


今まで食べたこともないものもある。


アリスは運びながらチラチラと料理に目を向けていた。


「あ、ミルフィー呼んでくるね。」


マキナはそう言うとミルフィーの居る部屋へと向かっていった。

扉をノックすると中からミルフィーの声が聞こえてきた。


「誰。」

「私。」

「…。」


マキナは扉を開けて中に入った。


「誰も入ってなんて言ってないのだけど?」

「ちょっと失礼」


マキナはミルフィーを力づくで押し倒すと、口を塞ぎ頭に開いている手を載せた。


「(ミルフィーの魔力に同調…完了。こじ開けてあげる。)」

「!?んー!んー!」


マキナの魔力が流れ込んでくるのを察知したミルフィーが抵抗するがマキナの体は石のように動かないどころか、意識がだんだんと薄れてくる。


「んー。ん…。」







「ここはどこ?」

「ミルフィーの無意識と普遍的無意識の間。」

「マキナ。」

「どうやら成功したみたい。」

「人を実験台にしないでくれるかしら?」


マキナはミルフィーを強制的に無意識と普遍的無意識の間に連れてきたのだ。

マキナの魔力でミルフィーの意識に干渉し、穴を開ける。

そこに自分の信号を変換し送り込む事で自分も実体化する。


「で、言いたいことがあるんだ。」

「何よ?」

「お前は馬鹿か!」


いきなりマキナが怒鳴ったことにミルフィーは驚いていた。


「い、いきなり何よ!」

「ミルフィー。あの時あの魔法使えばどうなるかわかって使おうとしてたんだよね?当然だよね?私の側に居たネザリアはともかく、アリスもコフィーもエルフ達もすべて吹き飛ばす事をわかって使おうとしたんだよね?」


マキナのいう言葉には棘が付いていた。


その言葉がミルフィーに絡みつき棘が傷つける。


「わ、私は…」

「わかってて使うなんて最低。仲間じゃなかったの?」

「ち、違っ」

「ならいいよね?」


ミルフィーにはマキナが魔力を高めているのがわかった。


「マキナ!」

「衝撃魔術出力30%」

「<ハイ・シールド>」


マキナの魔術とミルフィーの結界が激突した瞬間、結界が砕けた。


「話を聞いて!私はそんなつもりじゃ…!<ハイ・シールド><ハイ・シールド>」

「出力60%」

「くぅ…。」


ミルフィーは深い所へドンドンと落ちていく。

それは普遍的無意識へと。


「エクス!炎よ!風よ!土よ!水よ!雷よ!光よ!闇よ!発現せよ!魔砲 カタストロフィー!」

「!? <万物に宿りし大いなる力よ。すべてを破壊する力と成せ。我ハイエルフミルフィーが命ず。その力を今ここに体現せよ。エン・ボイド・ディストラクション>」


2つの魔法が一点でぶつかり合う。

魔砲を打ち消す古代の虚の衝撃波。


その大きな力の衝突によりミルフィーは更に奥へ。

普遍的無意識の中へ落ちていった。






「ここは…?」


一面真っ暗な空間。自分の姿さえ見ることが出来ない。


「どこなの…。」


その時どこからか声が聞こえてきた。


「はぁはぁ。早く食べたい…ミルフィーとマキナはまだなの…!」

「この声はアリス?アリス!居るの?アリスー!」


その声は虚しく響き渡った。


「やっぱりついてきてよかった。お城じゃこんな楽しいこと出会えないのだから。」

「ネザリア!どこに居るの!」


やはり声は帰ってくること無くただただ虚しく響き渡るだけ。


「どうなって…。」


「あの子は逃げたが、別に親を責めることはなかったんだ。」

「何故俺達は責めてしまったのだろうな。」

「わ、私も…。」

「儂らはきっと無意識に逃げ場を無くし、他人を責め立てることで自己を保っていたのじゃろう。」

「俺は何も出来ない。助けてもらった命なのに。」


「何…なんなの…?」


「お母さん。」

「!?」

「私はお母さんと仲直りしたい。でもそれを私が許さない。本当はこんな事やめて素直になりたい。でもあの時のことを思い出すとそれが出来ない。」

「な、なんで…なんで私の声がするの…?」


それはミルフィーの無意識の気持ち。

常に意識が抑えてきた気持ち。


それがミルフィーに聞こえたのだ。

意識が無意識を意識した時、それは無意識ではなくなる。

ミルフィーの抑えていた気持ちが一気に流れ込んできた。


「う…あ…。私は…。お母さんに…。」


「やっぱり来たね。ニャルラトホテプ。」

「よくわかったな。」


「え…?」

「ミルフィーは早く逃げて。」

「逃すと思うか?」


そう言うと黒い塊は逃げ道を塞いで閉まった。


「めんどくさい。だから倒す!」

「マキナ?どういう状況なの?」

「負ければ廃人か死ぬ。ただそれだけ。」

「…ようは実践ね。」

「前は負けたが今回はエルフだけの感情だけではない。人の感情も取り込んでいる。お前たちは勝てるかな?」


そう言うとニャルラトホテプは数本の触手を伸ばしてきた。

「シールド出力80%で展開 魔術陣展開」

「喰らいなさい!<ハイ・シールド><シャイニング・レイ>」


触手はミルフィーの魔法で打ち払われ、マキナのシールドにはじかれる。


「形は刀。魔力の刀。」

「ええい。小賢しい結界め!」

「私を忘れてないかしら?<ハイ・ファイア・ジャッジメント>」


ミルフィーの死角からの攻撃によりニャルラトホテプの一部がその炎に焼かれ消滅。

しかし、自然と回復してるようだ。


「無駄だ。私は人の負の感情で生まれた。滅ぼすなど不可能。」

「めんどくさいわね。」

「マジックソード魔術陣展開、発動キー設定。マジックソード」

“マジックソード魔術陣に発動キーを設定しました。”


マキナはシールドを張りながらここで戦えるように魔法を作っていた。


「よし!マジックソード!」


マキナの手元に魔力で出来た剣が現れた。

それを振り上げると勢い良く振り下ろした。


剣からは魔力でできた衝撃波が飛び、ニャルラトホテプに襲いかかる。

当然触手で防御されてしまったが、2~3本切り落とすことが出来た。


「ここからは私もいくよ!」

「勝てるわけがない勝負に何の意味がある。諦め私に取り込まれるが良い。」

「うるさいよ。」


剣に魔力を込めると触手で防御しているニャルラトホテプに叩き込んだ。

凄まじい衝撃波とニャルラトホテプの体の一部が吹き飛んでいく。


「小癪な!」

「させない!<シャイニング・レーザー>」


レーザーを縦に薙ぎ払う事により剣の代用としたミルフィーはマキナに襲いかかろうとしていた触手を切断した。


「回復力より強いダメージを与えられたらどうなるかしらね?」

「ねー。」

「おのれえええ!」


ニャルラトホテプに魔力が集まっていく。


「ミルフィー!」


ミルフィーがマキナの後ろに入るとマキナはシールドを展開した。


“魔導炉出力100%”


「圧縮3回シールド出力100%」

「<ハイ・シールド><ハイ・シールド>」


マキナとミルフィーの結界(シールド)の三重展開。


「死ぬが良い。<原始ノ暗黒>」


ニャルラトホテプから黒い光が放たれた。それは結界に当たるやいなや結界にヒビを入れていく。

「マキナ!私の結界はもう持たない!」

「シールド多重展開!出力60%圧縮5回」


ミルフィーの結界が2枚とも破られると同時にマキナのシールドに滅びの光が襲いかかった。


“シールド負荷27% ”

“危険 超高エネルギー反応検知 緊急コード0000を発令”

“警告 魔導炉出力低下 現在92%”


「結構痛い攻撃…だね。」


“シールド負荷増大 80%”


「外側のシールド解除。リソースを内側に。」


“シールド解除”

“シールド負荷3% ”


「<万物に宿りし大いなる力よ。すべてを守る力と成せ。我ハイエルフミルフィーが命ず。すべてを守る力よ、我に力を与え給え。エン・ボイド・プロテクション>」


マキナのシールドの外側に再び結界が張られた。


「!これきついどころの話じゃないわよ!?」

「だろうねぇ…。」

「だろうねぇ…ってマキナ平気なの?」

「ちょっと出力落ちた。ちょっとだけ。」


ミルフィーはマキナのことだから本当にちょっとなのだろうと思った。

実際にそうだから困るのだ。


「…そろそろ私限界…!」

「解除していいよ!シールド強化したから!その間に次の攻撃は全力のお願い。」

「わかったわ!」


ミルフィーの結界が解除され、マキナのシールドに再び負荷が掛かり始めた。


「<万物に宿りし大いなる力よ。集い集いて昇華し、すべてを破壊する虚無の力と成せ。我ハイエルフミルフィーが命ず。その力を今ここに体現し、我の敵を打ち砕け>」


以前ミルフィーが遺跡で使ったファイア・ランスと同じ様に魔法を圧縮している。


さすがに古代魔法はきついようだ。額には汗が噴き出している。


「まだ生きているのか!」


滅びの光が消え相手に隙が出来た時、マキナとミルフィーは最強の一撃を放った。


「<エン・ボイド・ディストラクション!>」

「出力最大!多段超圧縮衝撃魔術!」

ニャルラトホテプの目の前に虚無の衝撃波が発生し、それ事マキナの衝撃魔術が飲み込む。


ニャルラトホテプは喋る暇もなく体をバラバラに分解され、再びチリひとつ残さず消滅させられた。


「やったわ!」

「まだ。最初にアイツがやったこと覚えてる?」

「退路を塞いだ…まさか!?」


退路に自分の体の一部を使用していたのだ。既に少しづつ再生している。


「今なら間に合うっ!」


マキナは全力で剣を振るった。


発生した剣撃が退路を覆う体を引き裂いた。


「いくよ!」


マキナ達はその切れ目に向かって飛んでいく。


“シールド展開出力80%”


触手はシールドに弾かれ、意味を成さない。

マキナ小さくなった切れ目にそのまま突っ込んだ。案の定引っかかったがシールドに送る魔力を増やし、シールドを拡張させた。


“シールド再展開。出力100% ”


体は切れ目から引き裂かれ、シールドを縮めると一気に脱出した。


ミルフィーの意識を戻し、意識に開けた穴を元に戻したマキナはミルフィーの上から退いた。

“魔導炉通常運転へ移行”

“魔導炉出力制限80%”


「ふぅ…」

「ふぅ、じゃないわ。」

「でも言いたいことわかったでしょ?」

「…えぇ。無理やりなやり方だったけどね。」

「それともうひとつも。」

「それもわかってるわ。」


「後で家に2人にしてあげるから、ちゃんと言うんだよ?」

「わかってるわよ。私は子供じゃないわ。」


部屋の外に出るとアリスは食べ始めていた。

これを予想して普遍的無意識に落ちるまではマキナの処理ではやめていたが、そこからはリアルタイムだったのだ。

アリスは耐え切れずに食べ始めてしまっていた。


「あ、遅いよ。二人してなにやってたの?」


アリスが珍しく反応したのだった。


「明日雨ね。」

「そうね。」


ミルフィーとマキナは食卓へと向かっていった。



「ネザリア、アリス。食べ終わったら外いこう。」

「?わかりました。」

「…わかったよ。」

「やっぱり明日雨だよ。」


食事中にアリスが言葉の意味を察するなんて珍しすぎる。

これは雨がふるだろう。

シリアスなんてぶち壊してやる!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ