正体
マキナが戻り、しばらくして…。
「ん…。」
「コフィーさん!大丈夫ですか!?」
「大丈夫です。少し頭が痛いですが…。」
「そうですか。良かった。」
「あの。」
「はい?」
「少し気が楽になった気がします。家の外に連れて行ってください。」
「りょーかいだよっと。」
マキナとコフィーはテラスには降りず、そのまま里の広場へ着地した。
マキナの腕を握る手に力が入る。
「い、行きましょう。」
「大丈夫?無理しなくてもいいんだよ?」
「大丈夫です。先ほどの私とは違います。」
マキナがコフィーの目を見ると先ほどのような死んだ魚のような目はしていなかった。
無意識の世界での精神の影響はかなり大きい。
マキナは恐らく無意識の世界でとても強い影響が有ったのだろうと予測した。
「じゃ、なるべく人が少ない場所から歩くとしようか。」
「は、はい。」
人通りが少ない場所を選び里の中を歩きまわるマキナとコフィー。
何度か人と通り過ぎる時腕を握る力が強くなっている。
未だに慣れていないようだ。
その後、人通りが少ない地域を2周ほどした後、長老の家の前の食堂に行く事にした。
「すみませーん!おすすめ2つくださーい。」
「あいよー!」
マキナとコフィーは料理が来るのを待っていた。
「どうだった?里の中歩いてみて。」
「久しぶりだったので随分と変っていました。でもまだ怖くて…」
「それはしょうがないよ。でもね、もう生贄もないし、ミルフィーがあそこまでやったんだから後ろめたい事をされることはないと思うよ?」
「それでもやっぱり…。」
「はいお待ち!昨日の人間とコフィー!」
「今日も美味しそうですね…!」
「当店おすすめだからな!ほら!コフィーもさっさと食べな!毒なんて入っちゃいないよ!」
「コフィーさん食べましょう。」
マキナはそう言うと食べ物を口へと運んでいく。
それを見ていたコフィーも食べ始めた。
「どうだい?」
「…美味しいです。」
「だろー!私の店はエルフの里一番だからね!」
店主はコフィーの肩を叩きながら自慢している。
叩かれている衝撃でうまく食べれないようだ。
少し遅い昼食を食べ終わった後、人通りが少ない地域を歩いて帰ることにした。
本人曰く、まだ大通りは無理らしい。
「でも結構精神面では改善はされたよ。」
「そうなんですか?」
「うん。気づかない?その喋り方。」
「…そういえば…。」
「予想外があったけど、これは結果オーライかな?」
「マキナさん。もしも黒いのに飲み込まれてたらどうなっていたのですか?」
「うーん。廃人。」
「え…。」
そんな他愛も無い会話をしながら帰路につく2人。
ミルフィーはまだ寝込んでいるようだ。アリスとネザリアはコフィーの変わり様に驚いている。
「コフィーどうしたの?」
「マキナさん。なにがあったのですか?」
2人に質問攻めにされたのは言うまでもない。
次の日は大通りの入り口までコフィーと歩いていた。
そこから裏通りを通り、大通りの入り口を横切る。
他人に対する恐怖感を少しづつ和らげていく。
以前とは違い、もう生贄もない。
個人的な私怨はあると思うが、もう開放されたことにより大丈夫であろうと言う考えである。
それにしても昨日の黒い塊はなんだたのか。
元の世界では無意識に潜るなんてことは誰もやらなかった。
私の装甲を貫通せずとも亀裂を入れるほどの威力だ。
普通の人間だったら腕を持っていかれただろう。
今では自動修復機能により亀裂は完璧に直っている。
「(多分悪意だと思うんだよなぁ。そんな感じに喋ってたし、色々声が混じっていたから集合体??よくわからないなぁ)」
「あのマキナさん?」
「あ、なんでしょう?」
「た、試しに大通り。」
「大丈夫?無理せずゆっくりでいいんだよ?」
「だ、大丈夫です。い、行けます。」
マキナとコフィーはゆっくりと大通りへと移動していった。
腕を掴む力が強くなる。
マキナはコフィーを見ると目を強くつぶっていた。
そのまま大通りの中を歩いていく。
所々からコフィーの話が聞こえてきたがマキナがガンを飛ばして黙らせていた。
果たしてこんなカウンセラー(似非)で良いのだろうか。
大通りを通り抜けるとマキナはコフィーに声をかけた。
「ほらコフィー。大通り抜けましたよ。」
コフィーはゆっくりと目を開いていく。
目に写ったのは先程とは正反対。大通りを抜けた所であった。
「地味に続けていけばなれるよ。大丈夫。きっと治る。」
「そう…ですね。」
まだ不安が残っているようだ。
原因の1つは取り除いた。
思いの外それが深く、その上に乗っかっていた物も一緒にとれたのでうつ病の回復は異常に早かった。
元の世界では考えられないほどだ。
やはり精神面の治療は精神側からのほうが効率がよさそうだ。
しかし、黒い塊という存在があるが。
その後コフィーとマキナは家へ戻っていった。
家の中に入るとアリスがどこからか購入してきたであろう食材を使って料理をしていた。
「あ、おかえり」
「ただいまー。何作ってるの~?」
「エルフの里で採れた新鮮な野菜を使った野菜炒め!体にいいあるヨ!」
アリスの目はキラキラしていた。
「そ、そうだね。体にいいね。」
「あ、コフィーさん。勝手に使わせてもらってます。」
「気にしないでください。美味しいお料理待ってます。」
「フフフフ。まかせなさーい!」
アリスは更に上機嫌になり、鼻歌を歌い始めた。
コフィーはミルフィーの寝ている部屋へ移動していた。
そこにはネザリアがミルフィーに付きそうように座っていた。
「ネザリアさん。娘は―ミルフィーはどうですか?」
「魔力のブレも安定してきたので明日か明後日には目を覚ますと思います。」
「そうですか。なら私も頑張らないと行けませんね。」
コフィーはそう言うとミルフィーの手を握った。
その時マキナは違う部屋に居た。
「…さて。考えるとしますかー。」
マキナは椅子に腰掛けると腕を組んで考え始めた。
「意識と無意識、普遍的無意識へのアクセス…。」
元の世界ではユングが提唱していた普遍的無意識。すべての人は心の奥底でつながっていると言う物だ。
「少なくとも元の世界ではこんな事例無かったはず。同じような催眠術が有ってもこうはならない…。」
マキナはここで魔力に注目をした。
元の世界より適正が高く、魔力量も高い異世界人。
「…意識が無意識を意識することにより、そこに魔力が集まり意識と無意識を隔てる境界線に穴を開けた?そのことで無意識の領域の奥深くでつながっている普遍的無意識へ迷い込んだ。魔法はある程度集中する事が必要だ。催眠術でも無意識を意識するように誘導していたからそのようなことが起きた…?」
マキナは元の世界とこの世界の違いを考慮し、推測を立てていく。
マキナの持ちいる知識では足りない部分が多々あり、自分の考えも混ざっている。
しかし、魔力による境界線の穴開けは可能だと思っている。
魔力は何処にでもある物質だ。
もちろん人体にも作用する為、そのような事も出来ると言う理論。
聞く人が聞いたらめちゃくちゃな理論だ。
「じゃ、あの化物はなんだろう…。」
マキナの装甲に亀裂を入れるほどの黒い塊の事だ。
コフィーさえ飲み込もうとしていたあの化物は一体何なんだろうかと。
「人は無意識で色々なことを思う。それも普遍的無意識へと流れこむ…。」
マキナは人だった時を思い出していた。
あの場所、あの時何を思った?何を感じた?
怒り悲しみ喜び。
色々な物を感じていたのをマキナは思い出していた。
その中でも一番強い感情が合った。
それは。
「怒り。負の感情はどんな生物であろうが一番強い感情だ…負の感情が普遍的無意識へと流れ込み、それが形をなしたと考えるのが適切?強い感情は歪みを生み出す。それと同じなのかなぁ。」
マキナは唸りながら首をひねっていた。
「うーん…。うーん?」
マキナは何か思い当たる事がないか検索していた時1つの事柄が引っかかった。
「クトゥルフ神話?でもこれってラヴクラフトが作ったお伽話…。」
ラヴクラフト。ハワード・フィリップス・ラヴクラフトは嘗てアメリカ合衆国に存在していた人物だ。
病弱、精神的に不安定、神経症と不幸を持っていた人物だ。
そのラヴクラフトが書いた小説がクトゥルフ神話。
「確かその中に悪意に関する邪神が…。ニャルラトホテプ?」
マキナは1つの考えにたどり着いた。
今まで考えていてたどり着かなかったほうが不思議な程だ。
「神は居ないのではなく、正確には普遍的無意識の中に存在していた?」
強い思想や感情は無意識に理を歪め、形を成す。
もし、神々がその強い信仰心で普遍的無意識に存在していたならば、また強い負の感情を糧とするニャルラトホテプも普遍的無意識存在しているはずだ。
他の神とは違い、生き物の負の感情は他の感情より強く根深い。
たとえ他の神が無意識に存在しようとも食われてしまうだろう。
「…。もしかしてあの黒い塊はニャルラトホテプの一部?だとしたらエルフ達の悪意?」
黒い塊―ニャルラトホテプはエルフ達の負の感情を出していた。
そして明確に意識がある存在も居た。
こちらを取り込もうとする意識。
「でも、意外と弱かった。もしかすると生贄の事がなくなり、悪意の総量が減っていたのかな。」
アレを弱いといえるのはマキナだけである。
「とりあえず、アレはこちらに出てこれないみたいだし大丈夫だなぁ。うん。」
あんなものが出てきたら大惨事である。
そこまで考えていたマキナに音が聞こえてきた。
それは扉をノックする音だ。
「マキナ~。出来たよ。」
「今行くよー。」
気がつけば扉の隙間からいい香りが漂ってきている。
マキナが部屋を出るとコフィーとネザリアもちょうど出てきた。
「あ、そういえばコフィーさんはアリスの手料理始めてだっけ。」
「私も始めてです。」
「あ、ネザリアもか!ふふふ。アリスの手料理は美味しいよぉ~。」
マキナはそう言いながら歩いて行った。
「お?早く食べよー!」
「相変わらずのアリスである。」
全員揃ったところでアリスが怒涛の勢いで食べ始めた。
アリスだけ盛り付けが大盛りなのである。どのくらいかと具体的に言うと、頂点が250ml程積み上げられた野菜炒めなのだ。
それを見た2人はぽかーんとしている。
見かねたマキナはいつも通りと納得させた。
ネザリアが一口食べた。
「…!このお料理美味しいです!」
そしてコフィーも一口。
「まぁ…すごく美味しい。」
「でしょ~。うちのアリスはすごいんです。」
アリスは食べることに集中しているためマキナが答えていた。
怒涛の勢いで食べているにもかかわらず、何一つこぼさず、食べ残しすら無い。
盛りつけられていた皿は綺麗になっている。
「【アリスよ。もう少し落ち着いて食べたらどうだ?】」
「【……】」
「【…無視…だと?】」
フェンリルの呼びかけにも応じない集中力。
これだけ集中力があれば魔法の1つや2つ扱えるのではないかと思ってしまう。
3人が食べ終わると同じ頃、アリスも食べ終えていた。
「美味しかった!!!食材に感謝!」
アリスはとても満足した笑みを浮かべている。
アリスの体の何処にアレだけの量が消えたのだろうか。
人体の不思議である…。
「片付けは私がやります。皆さんはお部屋でお休みください。」
コフィーはそう言うと皿を片付け始めた。
「それじゃお言葉に甘えて。」
「すみません。ありがとうございます。」
「コフィーさんありがとございます。」
3人は部屋に戻ると今後について話し合っていた。
「とりあえず、ミルフィーが目を覚ましたら力比べでも…」
「待ってください。それおかしいです。」
アリスの提案にネザリアが異議を唱えた。
「でもエルフからハイエルフになったんでしょ?どれくらいの力が使えるか試さないと今後の戦闘で障害がでるかも。」
「そ、それはそうですが、病み上がりの体には良くないと思います。」
「あー。それは大丈夫。ミルフィーは体に魔力をなじませるために寝てるだけだから、起きたら全回復って所かな?」
「なら相手はどなたが?」
アリスとマキナの視線がネザリアを向いたままになっている。
「2人ともどうしました?私に何か付いてますか?」
それでも見られるネザリアは何故見られているのか分かった。
「え?もしかして私が相手になるのですか?」
「そのとーり!」
「えぇ!?何故です?」
「ネザリア。よく考えて。マキナは強すぎる。私は詠唱させずに倒せる。そしてネザリアの戦闘はエンチャントしか見たことがない。分かった?」
アリスの的確すぎる言葉にネザリアは頷くしか無かった。
13/05/12 誤字修正




