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闇に棲むもの

注意

著者の独断と偏見と経験から基づくカウンセリング(めちゃくちゃ)が入っています。ご都合主義として読んでください。

マキナは元気よく扉を開けた。

「たっだいまー。」

「おかえりー。」

「あれ?ネザリアは?」

「先に寝ちゃったよ。」

「そっかー。」


マキナは適当な場所に腰を下ろした。


「ミルフィーの事なにかわかった?」

「うん。全部わかったよ。」

「さすがマキナ!そこにシビれる憧れ―」

「それ以上言ってはいけない!」


マキナがアリスを止めると、ミルフィーの事を話し始めた。


「長老の家の本棚の奥に隠されていた本で確認したんだけど、やっぱりミルフィーは…」

「ミルフィーは…?」

「ハイエルフに覚醒してる。」

「ハイエルフ?」


マキナが頷く。


「そう。ハイエルフ。エルフより多くの魔力を持ち、金髪の髪の毛を持つ。そして体に刺繍がある。ハイエルフの子孫は何かのきっかけで覚醒するみたい。」

「それでミルフィーの体に刺繍と髪の色が金に変わってたんだね。」

「うんむ。今は寝ちゃってるけど、体の変化に適応できれば目が覚めるハズ。」

「はず?」

「うん。普通あんなに突然魔力が増えたら障害を引き起こすはずなんだ。魔力中毒って言った所かな?」

「そんなのもあるんだね。」

「うん。でもその兆候もないし、元々器がそれに対応していたと考えるほうが自然なのかもしれない。」

「かもしれないねー。なんせハイエルフだし。」

「そうそう。ハイエルフだし。」


何処かで聞いたことがあるような言い方だ。


「さて寝ようか!」

「そうだね。もう夜だし。」

「そういえばアリス。夕食は?」

「うん?ドラゴン食べてきた。」


アリスの言葉にさすがに言葉を失うマキナ。


「それじゃおやすみ~。」

「おお、おやすみ。(ドラゴン食べたっておまっ…)」


マキナは横になるとスリープモードへ移行した。





朝日が昇り森の小鳥たちがさえずる頃、マキナ達は目覚めた。


「うーん。おーはーよー。」

「後5時間…」

「ここに御肉の―あれ?無い。」


マキナが手に持っていた肉はいつの間にかなくなっており、マキナの後ろで肉を持って食べているアリスが居た。


「こいつ…!はやい!」


そんなことをやっているうちにミルフィーの母親コフィーが部屋へ入ってきた。


「あ、おはようございます。」

「おはよう…。」

「ミルフィーの様子はどうですか?」

「…まだ寝ています。」


コフィーの目線はアチラコチラにいっている。


「(ちょっとまずいかもしれない。)コフィーさんこっちへ。」


マキナはミルフィーの居る部屋まで連れ出すと話し始めた。


「ミルフィーは大丈夫です。今の状況を説明します。」

「は、はい。お願いします。」


「ミルフィーはクリスタルによりハイエルフとしての血を覚醒させました。

その影響により今は寝ているだけです。心配しないでください。」

「ハイ・・・エルフ?」

「そうです。膨大な魔力、金髪の髪の毛、刺繍の入った体。これはハイエルフの証拠。あなたの家系は元ハイエルフとエルフが交わった家系でした。」

「そんな…。」

「嘘ではありません。ミルフィーが証拠です。そしてコフィーさん。あなたは少し思い詰めすぎです。」

「私が…ですか?」

「はい。」


マキナはこのままではコフィーの精神が危ないことに気づいていたので知りうる限りでカウンセリングを行うこととした。


知識だけがあるので実際に出来るかはわからない。

でも知識があるなら出来るはず、とマキナは思っていた。


「まず、コフィーさん。あなたは重度の鬱病です。」

「うつ病?」

「はい。脳…頭で生成される物質が生成されにくくなり、そういうふうになってしまう。簡単に言うとこんな感じの病気です。」

「はぁ…。」

「これ発症したのって夫の死、エルフ達からの嫌がらせからでしょう?」

「私が無気力になって何もかもしたくないと思い始めたのはそれから少し後です。」


マキナは再度確信した。

エルフ達の嫌がらせと夫の死がコフィーを苦しめているのだと。


「いいですか?この病気はあなたの意思次第で治りもしますが治りもしません。治す覚悟はありますか?元気な姿をミルフィーに見せたくありませんか?」

「私は…。娘に元気な姿を見せたいし、笑いあいたい。でも気持ちがそうならないのです。本当に治るのですか?」

「薬が無いので難しいですが、ミルフィーが目を覚ますまでやって行きましょう。」

「はい。」


こうしてコフィーとマキナのカウンセリングは始まった。


「(ええっと。鬱病の人には頑張れは厳禁で、ストレスなどは植物、動物、運動が効果的だ。)…。まず外へ出ましょう。できますか?」


コフィーが一瞬震えた気がした。


「で、出来ます。行きます。」

「では私の手をとってください。」


マキナはそう言うとコフィーに手を伸ばした。


コフィーとマキナが一歩ずつ扉へ近づいていく。

マキナの手をにぎるコフィーの手に力が入る。


マキナがドアを開けるとコフィーの足は止まってしまった。


「どうしました?」

「…。」

「怖いですか?無理なら戻りましょう。」

「…すみ…ません。」

「ならテラスはどうでしょうか。」


マキナとコフィーはテラスへと移動した。

テラスならコフィーも出れるようだ。


「ほら家の中よりいい雰囲気でしょう?」

「そうですね…。」

「もっと高いところ行きませんか?」

「どういう意味ですか?」

「空へ行きませんか?」

「…行けるなら行きたいですね。少しでも空に届くなら…。」


“ATS フォトンウィング”


「なら行きましょう。」

「え?」


マキナはコフィーを優しく抱えると空へと飛び立った。シールドを超えそらえと上がっていく。


“シールド展開”


マキナとコフィーは雲の上まで上がってきた。


「どうですか。空です。」

「…。」


静寂が支配する中コフィーが声を出した。


「夫は何処にも居ないのですね…。」

「死んでしまった人、エルフは何処にもいません。」

「うっ…あぁ…。」

「しかし、あなたが忘れなければお父さんもきっとあなたの中で生き続けます。」

「うぅっ…私の…中で?」

「そうです。風の音が聞こえるでしょう。」

「はい。」

「目を閉じてください。そのまま体の力を抜いて。」

「…。」

「風の音だけに集中してください。それ以外は何も思わないで。コフィーさん。あなたの目の前には暗闇ではなく一面青い空の世界があります。あなたはそこに浮かんでいる。」


マキナは無意識にはたらきかけて、夫の死に対するショックを和らげようとした。

しかしそれが思わぬ結果になるのは少し後だ。


「今のあなたは体を動かそうにも動かない。指一本も動かない。四肢の力が抜け、ただ風の音が聞こえるのみ。コフィーさん心を広げて。無意識を意識して。」


「心を家に例えたら心を広げる行為は空に羽ばたくこと。意識を空に溶かし、無意識に入り込み、無意識を意識しよう。」


「…。」

「無意識の中では意識して行わない事や記憶、感情があります。

さぁ。夫を探しだしてあげてください。まだあなたの中で生きています。

さぁ。見つけてあげて。」


「…ぁ。」


“外部からの魔力的干渉有り”


「は?私のシールドを超えて干渉?何処に?」

“スキャン開始”


マキナのシールドを超えてくる干渉にマキナは特定を急いだ。

干渉はコフィーの頭の中に起きていた。

「え?なんでコフィーの頭の中に?」


マキナのシールドはセキュリティも万全の魔力すら通さない作りだ。

それを超えるなどあるはずがないと思っていた。


「…データベースに照合。カール・グスタフ・ユング。普遍的無意識。

…コフィーの意識がそこまで到達した…?」


普遍的無意識とはすべての人の無意識が集まったものと考えられている。

そこに意識が介入しようなら膨大な無意識により意識など一瞬で消されてしまうだろう。


恐らく魔力干渉は普遍的無意識の領域から来ているのだろう。


「コフィー!今すぐ!目を覚ましなさい!コフィー!」



SideOut


一面の空。まるで魂だけが漂っているかのような感覚。

手足もない。無駄な思考もない。


只々、空を漂う。

そして聞こえてくる風の音。


“コフィーさん心を広げて。無意識を意識して。”


(心を広げる…無意識を意識する…)


空から声が聞こえる。


“無意識の中では意識して行わない事や記憶、感情があります。

さぁ。夫を探しだしてあげてください。まだあなたの中で生きています。

さぁ。見つけてあげて。”


(無意識…私…俺…僕……夫…どこ?)


果てしなき空を只々さまよう。

意識に他の意識が流れ込んでくる。


(私は…私?………?……私は誰?)


普遍的無意識の中、他の無意識に意識が蝕まれ意識が崩壊していく。


“コフィー!今すぐ!目を覚ましなさい!コフィー!”


(こふぃー?私は…。そうだ。私はこふぃーだ。コフィー。)


なんとか持ち直したコフィー。


(夫…夫はどこに居るの?メルズ・フィールド…)


コフィーの思いが普遍的無意識にひとつの変化を与えた。

無意識の侵食が遅くなったのである。


(どこ…?どこに居るの?メルズ…。)


その言葉が響き渡り、より一層侵食が鈍る。


(コフィー。)


空から声が聞こえた。


(メルズ?メルズ!)


声のした方に移動しようとするコフィー。

しかし、コフィーを邪魔するかのように手がコフィーを掴んだ。


(憎い…憎い…アイツが憎い。こいつもアイツもすべてが憎いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!)


無意識とは悪意のたまり場でもあると同時に、悪意は一定量たまると場に怪物を生み出す。


闇に棲むもの。ニャルラトホテプ。


(ヒィ!?)


(あんたの娘逃げたんだって?この裏切り者!)

(お前のせいで罪もない民が犠牲になったのじゃ!)

(裏切り者!)

(死んでしまえ!)


(あぁ…。いやぁ…。あぁ…。)


悪意により意識への侵食が早まる。


(タスけテ…メルズ…)


(コフィー。)

(め…ル…ず)


(取り込まれてしまえ!)

(あんたが代わりに死ねばよかったのよ!)

(娘を返して!)


(メ……ル)


(コフィー!)


SideOut


「干渉が弱まってる?でも意識が?いや、おかしい。」


マキナはコフィーの意識を調べていた。

確かにコフィーの意識からは魔力干渉が出ていたが呼びかけてもそれは変わらず、しかし今になって落ち始めている。


「普遍的無意識…人々の無意識…何がある?」


マキナは思考を加速させあらゆる結論を導き出した。


「悪意、私欲、絶望」


マキナがはじき出した答え。

希望と言う答えもあったがこれらのほうが大きいと判断した。


「なら今弱まってるのは悪意に掴まってるから?どうする?どうしたらいい?」

高速並列思考で考え始めたマキナは1つの答えにたどり着いた。


「人間から機械に移植できたんだ。人間にだってできるはず。」


マキナはコフィーの頭に手を乗せると魔力を流し、コフィーと同調させた。

そして精神と見られる波動に魔力を同調、送り込む。


途端マキナのディスプレイにノイズが走った。


“警告 不明なエラーを検出”

“ATSと切断されました”


そこにはコフィーと大きな黒い塊が居た。


「コフィー!」

「…キ…さ…」

「離れろおおおぉぉ!」


コフィーに取り付いている黒い塊に手をぶつけると衝撃魔術をぶつけた。

“魔導炉出力80%”


黒い塊―ニャルラトホテプは衝撃魔術により体を散らし吹き飛んでいった。


「コフィー大丈夫?しっかりして!」

(コフィー。)

「メ…イズ…。」


(憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い)

(お前も取り込まれろおおおおお!)


ニャルラトホテプが触手を伸ばしてくる。


“シールド出力40%”


触手が当たる鈍い音とともにディスプレイに警告が表示された。


“シールド負荷27% ”


「40で27%も来るのか!?」


コフィーを声のする方へ流すとマキナはニャルラトホテプに向かっていった。


“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”


「喰らいなさい!出力100%圧縮衝撃魔術!」


マキナが放つと同時に核が爆発したかの衝撃波と爆音が轟いた。

悪意の塊ニャルラトホテプはそれにより醜悪な黒い塊を散らしながら吹き飛んだ。


しかし、吹き飛んだ塊から触手が飛び出してきた。


“シールド出力60%”


マキナのシールドにそれがはじかれると本体へ集まりだした。

「復活なんてさせない!エクス!炎よ!風よ!土よ!水よ!雷よ!光よ!闇よ!発現せよ!魔砲 カタストロフィー!」


集まりきった黒い悪意の塊に七色の魔砲が放たれた。


塊は徐々に小さくなっていき最後のあがきと魔砲の中に触手を伸ばしてきた。


体を削り伸ばす触手は魔砲に削られながらも徐々にマキナへ伸びていく。


本体を削り切る直前に触手が勢い良く伸び肩に命中した。


“警告 皮膚貫通”

“警告 複合魔装甲に亀裂発生”


「はぁはぁ…何なのアイツ…」


“修復を開始します。”


「まさか私の装甲に亀裂が入るなんて…。要調査ね。」


マキナは無意識の世界から現実へ戻った。

現実の体にも戦闘の傷跡が残っていた。

服を貫通し、装甲まで亀裂が入っている。


「私はいいとして、コフィー。大丈夫?」



コフィーSide


(コフィー。)

(メル…ズ!メルズ!)


声の元へたどり着いた途端空だった世界が自分の家に変わった。


「言えなかった。あんなに強気では言ってたものの、相手はドラゴン。里の戦力から見て勝てるはずがない。コフィー。済まない。」


(これはあの時の。)


「伝えられなかったが、どうか娘と強く生きて欲しい。俺の分まで強く、強く…!」


景色は休息に移り変わりドラゴンとの先頭になっていた。


ドラゴンは魔法による鱗の損傷箇所から矢が突き出たり、剣が刺さっていたが虫に刺された程度にしか感じていないようだ。


「危ない!」

「う、うわ!」

(メイズ!)


メイズは若い弓兵を庇うため押し倒した。

その瞬間メイズの背中にドラゴンの爪痕が着いた。


「うっ!?ぐっ!!」

「メイズさん!」

(メイズ!)


「俺は…家に娘と妻が居るんだ…!こんなところで死んでたまるかああああああ!!」


ドラゴンの口からは炎が漏れている。


メイズは剣を握り直し、ドラゴンへと駆けていく。


「うおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ!」

(メイズ!ダメエエエエエエェェェェェ!!!!)


そして残酷にもドラゴンの炎が吐き出された。


景色は移り変わり、戦いが終わった後だった。


コフィーはメイズが居た場所を探した。

そこには剣を握りしめた炭化した手しか残ってないメイズだった物が合った。

(イヤアアァアアアアアアアッァァァァっァァ)



景色は空へと戻った。


(あ…う…)

(コフィー。)

(めいず…。)

(強く生きて俺のぶんまで強く。)

(めいず?)

(見たんだろ?俺の記憶。なら強く生きろ!コフィー・フィールド!)

(メイズ…。)


メイズはコフィーを叱りつける。


(メイズ!一緒に帰ろ?ねぇ?帰ろうよ!)

(無理だ。俺はメイズで在ってメイズではない。)

(どういう事…?)

(ここは人々の無意識の中。コフィーや、その友人、動物が生み出したメイズにしか過ぎない。本物ではないんだ。)

(で、でも!メイズにしか知らないことだって!)


コフィーは否定した。せっかく会えて、話も出来た最愛の夫なのだ。

それが偽物だなんて信じたくない。


(それはコフィーの無意識のものだよ。この世界は無意識が反映される。コフィーがそう思えばそうなってしまう。)

(メイズ…。)

(さぁ。アイツが復活しないうちに急いで!そして強く生きて!娘を頼んだぞ!コフィー!!!)

(メイズ…メイズ…)


コフィーの意識は途絶えた。


(ミルフィーを頼んだぞ。最愛の妻よ。)


あ。後、鬱が強いので気をつけてください。


13/05/12 誤字修正

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