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里の状況

「いい?まず人の話をきちんと聞いてから―」


マキナがエルフ達に説教をしていた。

一体何があったのか。それは少し前の事だ。




エルフ達がマキナ達に対して攻撃を加えている。

「一体何なんだ。あの結界は。ビクともしないぞ…」

「怯むな!我らエルフの魔法を見せつけてやれ!」


エルフ達がこれでもかと魔力を流し込み、今まで以上の魔法を発動させようとしていた。


「あの、話聞いてください。」


マキナは笑ってはいるが、表情が引き攣っている。

後ろではマキナの放出する魔力(エネルギー)量が増えていることを感じているミルフィーとネザリア。


そして顔色が悪いままのアリス。


「話聞いて―」

「放て!」


エルフ達から光の光線が放たれた。

光属性の攻撃魔法だ。

収束率が高く、光の熱により相手を焼き殺す魔法であり貫通力も高い。

マキナのシールドに波紋が広がり始めている。


“シールド負荷67% ”


「いいぞ!このまま放ち続けるんだ!」


“シールド負荷70% ”



マキナのディスプレイにシールドのステータスが表示されているが、そんなことより無視されていることや言葉を遮られたことに意識が回っていた。


「…。」


マキナは口をパクパクさせながら手を前に突き出した。


ミルフィーにはマキナが小声で何かを言っているのが聞き取れていた。

「無視して言葉遮ってネザリア狙って挙げ句の果てには攻撃も仕掛けてきてどいつもこいつも話を効かない奴らばかりでイライラするし、この際全て吹き飛ばしてしまえば…フフフフフ…圧縮…圧縮…圧縮…衝撃魔術出力5%結界ごと破壊してあのエルフ達を吹き飛ばす…所詮シールド出力10%じゃこの程度…。」


ネザリアはマキナの事をあまり知らないため、ミルフィーに声を掛けた。

「ミルフィーさん。マキナさんは何をしているのですか?」

「…見てればわかるわ。ちょっと機嫌悪いみたいだけど。」


“警告 シールド負荷が許容値を超えました。”


「一回反省してこいやあああああぁぁぁぁ!!」

マキナの大声とともにシールドが消滅し、衝撃魔術が放たれた。

圧縮されたエネルギーは放たれていた光魔法を打ち消し、エルフ達を守っていた結界も砕いた。

出力が弱めのため、射程距離は短いが圧縮を重ねたため威力は高いのだ。


エルフ達は回避する間もなく射程ギリギリで届いた衝撃波に吹き飛ばされてしまった。


マキナはそのまま指揮をしていたエルフの元へ歩み寄っていった。



これが事の発端である。


「そこの隊長みたいなエルフ!何故攻撃したか3文字で述べよ!」

「え?」

「答えになっていない!3文字だ!」

「…部外者。」


マキナは隊長格のエルフに散らばって吹き飛んだエルフ達を集めさせ説教をしていた。


「部外者だからって毒矢や、矢、魔法の雨あられはないよね!ねぇ…?」


マキナは黒い笑顔を浮かべながら男に近寄った。


それを遠くから苦笑いで見ているネザリアと苦笑いも出来ないミルフィーがいた。

「マキナさんめちゃくちゃです。」

「…そうね。いつものことだわ。」

ネザリアはミルフィーが少しおかしいことに気づいた。

「ミルフィーさんどうしたのですか?」

「どうもしてないわ。」

「そうですか…あ、マキナさんが押さえつけられ…エルフさんが吹き飛びましたよ!?」


マキナが一瞬隙を見せた時、エルフ達は一斉にマキナに掴みかかったが、掴みかかったすべてのエルフをマキナの持て余している身体能力で吹き飛ばした。


再度エルフ達を招集しているようだ。

マキナの説教はまだまだ終わりそうもない。



アリスがミルフィーに頼んで治癒魔法を掛けてもらっている頃、里の奥から1人のエルフが出てきた。


他のエルフより皺が多く、年配者であることが一目でわかるだろう。


「さっきからうるさい音を立てて、結界がいつまでも復旧しないで何をやっている?」


年配の女性エルフがそう言い放った。

エルフの里自警団らしきエルフ達は一斉に後ろを振り向いた。


「ちょ、長老!」

「で、だから部外者でも突然の―」

「おい!長老が御出でになったのだ!静かにしろ!」


また話を遮られたマキナは遮ったエルフを空へと打ち上げた。


「あああああああぁぁぁぁぁぁぁ…ぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」


木上まで投げられたエルフは声を上げながらマキナにキャッチされた。


「もう一回逝っとく?」

「す、すみません。もうしません。許してください。」

「よろしい。」


マキナは打ち上げたエルフを地面に下ろした。


「ほぅ。面白そうじゃな。どれ、儂もやってくれないか?」

「!?」


エルフ達は一斉に驚きで目を見開いた。


長老は何を言っているのかっと。


「いいですよー。」

「よしきた!ほれ、準備完了じゃ。」


マキナは先程より少し低めに空へと打ち上げた。


「おおおおぉぉぉぉぉぉおおおお」


ぽすん。

マキナにキャッチされる長老。


「意外と面白いものじゃ。」


頷きながら元の立ち位置に戻っていく長老。


「で、何が有ったのじゃ?」

「そ、それが…」


自警団が言葉を詰まらせたタイミングでマキナが割り込んだ。


「この人達に森の中で襲われた挙句、結界外で攻撃を受けました。」

「で、この有様ということか?」


長老は辺りを見渡した。

自警団のメンバーは傷だらけ、結界周辺には抉れた地面、消滅した結界。


「は、はい。」


マキナは私悪くないと言わんばかりのオーラを出している。


「…どうしたものかのぅ…。」

「どうかしたのですか?」

「お主が結界を壊したのじゃろう?」

「まぁ…壊したといえば壊しましたが、私は悪くない!」


マキナはあくまでも 私は悪くない を通すようだ。


「で、相談なんじゃが…」

「うん?」

「村の結界直してくれないかのぅ…。あれが無いと困るのじゃ。」

「別に良いけど…何かあるの?」

「それは儂の家で話そう。」

「長老!こいつらは部外者ですよ!しかも人間!」

「うるさいぞ。儂が決めたのじゃ。お主らは片付けでもして待つのじゃ。」


長老の一喝で反対していたエルフは沈黙し、片付けを始めた。

長老の影響力はとても強いようだ。


「さて。行くかのぅ。お仲間も連れてきたらどうじゃ?」

「そうですね~。おーい!皆来ていいよー。」


治癒魔法をかけていたミルフィーは呼ばれた声に若干戸惑いを感じたが、ネザリアに押されてマキナの元へと歩いて行った。


「さて。ここが儂の家じゃ。」


長老の家は木上ではなく、高床式の家のようだ。

やはり年のせいで上は辛いのだろうか。


「おじゃましま~す。」


マキナ達が家に入るとそこには大きなテーブルが合った。


「好きなところに座るが良い。聞きたいことがあるのじゃろ?儂も聞きたいことがあるのじゃ。のぅ?ミルフィー?」

「…」


マキナは意味がわからなかったがとりあえず椅子に座った。


「で、長老さん。結界が必要な訳とはぶっちゃけると?」

「…後半の意味がわからぬが、外敵の侵入を阻むためじゃ。」

「外敵って魔物とか?」

「魔物、人間じゃ。」


マキナは外敵に人間が入っていることに疑問を抱いた。


「なぜ人間も入ってるの?」

「大抵ここに来る人間は盗賊や奴隷商人。民を守るたじゃ。」

「…だから攻撃されたのかぁ。どう見てもそんな格好じゃなかったけど。」

「…それはあやつらに儂から言っておこう。」


「でも、魔物程度ならあの自警団で十分な気がするけど?」

「実は…じゃな。」

「何かあるの?」


長老は少し黙りこみ、話し始めた。

「実はこの里の奥に神殿があるのじゃが、いつからかそこに魔物が住み着きおって毎年生贄を要求するのじゃ。」

「生贄を要求って喋れるの?」

「あぁ。マキナさんは知らないのでしたね。高位の魔物は知能を持っているので喋ることや魔法を使ったりできるのです。」

「へ~。ありがとネザリア。で、毎年要求するのはわかったけど、何故結界が必要なの?」

「それはアヤツが要求以上に獲ろうとするからじゃ。」

「ん?防げるから結界があるんでしょ?」


マキナが矛盾点に気がついた。

結界で防げるなら別に生贄など要らないのだ。


「無理やりさせられた契約以外の事には力を出さないようでな、結界に弾かれて何処かに飛んでいくのじゃ。しかし、弾いただけでも結界にヒビが入ってしまう。」

「後少しなのに獲らないのも、恐怖を煽るパフォーマンスだね。」

「そもそも、こうして要求以上に獲り始めたのは最初からでは無いのじゃよ。」


長老はそう言うとミルフィーの方へと目を向けた。

ミルフィーはそれに気がつくと俯いてしまった。


「ミルフィーがどうかしたの?」

「そうじゃ。そのエルフが逃げたから始まったのじゃ。そやつは3年前の生贄じゃ。」

「なっ!?」


これにはさすがにマキナも驚いた。

マキナに限らず、アリスとネザリアもだ。


「そのせいで契約違反だのと暴れ、結界が必要になったのじゃ。」


長老はなんとも言えない目でミルフィーを見ている。


「で、今年の生贄はそやつの母親、コフィー・フィールドじゃ。」

「ふ、ふざけないで!」


ミルフィーがその名を聞いた途端大声を上げた。

椅子は勢い良く立ち上がったため、床に倒れ大きな音を立てた。


「生贄は2日後じゃ。それまでに親子の再開と別れを済ますが良い。」


長老は終わりだと言わんばかりに席を立った。


マキナ達は長老の家から出ると、ミルフィーに目を向けた。


「ミルフィー。」

「…私の家はあっちよ。」


ミルフィーが歩き出した。


道を歩いていると家の中から視線が向けられる。

それは嫌味や悪意の眼差しだ。


特にそれはミルフィーに向けられている。


「…嫌ですね。ここは。」


ネザリアがこの雰囲気を嫌っている。


「しょうが無い事。私が逃げたから。」


木に立て掛けられているはしごを登ると一件の家があった。


「……。」


ミルフィーはドアを開けた。


ドアを開けた先には1人の女のエルフが座っていた。


元気そうとは思えない顔つきだが、肌は荒れておらず綺麗だ。


「…ミルフィー…帰ったのね。」

「…えぇ。帰ってきてしまったわ。」

「後ろの人達はどなた?」

「旅先で出会った人たち。」

「…そう。部屋空いてるから使うといいわ。」

「…あの部屋ね。」


そう言うとミルフィーはマキナ達を手招きした。

ミルフィーの母親は椅子に座ったまま動かなかった。


その目には生気を感じられない。


マキナは母親と目が合った。

そこからは悲しみが読み取れた。


奥へと進むと1つの部屋で立ち止まった。

「ここよ。」


部屋の扉を開けると時が止まったような部屋だった。


弓が立て掛けられているが、弦が切れ埃をかぶっている。

小物類もあるが、すべて埃まみれだ。


「…<風よ。ウインド>」


ミルフィーの魔法で埃は部屋の中心へと集められ、外へと流していった。

「この部屋使って。」

「この部屋って誰の部屋?」

「…お父さんよ。悪いかしら。」

「…2人とも入ろう。」


そう言うとミルフィーを除くメンバーが部屋の中へ入った。


「(開いている部屋と言っていた。そしてこの埃。ミルフィーのお父さんは恐らく亡くなっている。)」


マキナは部屋にあるベッドに腰掛けながら考えていた。


「(そして恐らく無理やり契約させられたということは多少なりの犠牲が合ったのだろう。)」


元14歳らしからぬ考えをするマキナ。


「ね、ミルフィーのお父さんってやっぱり…。」

「そうだね。考えてること合ってると思う。」


アリスの疑問にマキナが答えた。


「マキナさん、アリスさん。1ついいですか?」

「どうしたの?ネザリア。」

「その住み着いた魔物倒しちゃいませんか?」

「ちょ、ちょ、ネザリア?何を。」


アリスが焦っているようだ。

仮にも王族の娘であり、勝手についてきたが死なせるようなことがあってはならないのだ。


まして相手は高位の魔物。

ただでは済まなそうだ。


「大丈夫です。マキナさんがいれば問題ありません。」

「マキナがいれば…うん。何とかなりそうな気がする。」

「ウフフ。私最強!ウフフ。」


「恐らくですが、ミルフィーさんは親の代わりに生贄になろうとするでしょう。」

「だろうなぁ。」

「でもただではなりそうもないよね。」


アリスが立てかけてあった弓を持ち上げながらそういった。


「多分戦おうとするでしょう。でも高位の魔物相手では、さすがにAのミルフィーさん1人では無理です。」

「…うん。無理だろうってフェンリルが言ってるよ。」


「フェンリル?」

「あー。説明してなかったね。アリスの服はフェンリルの素材で出来ていて、フェンリルが憑いてるんだー。」

「フェンリルが憑いて…と、とりあえず、1人では無理なのでタイミングを見計らって私達も参戦します。」


ネザリアが作戦を立てていく。

マキナは聞いているが、作戦など思いつかなかった。

軍事教育とは一体なんだったのか。


「じゃ、参戦の合図はマキナに任せればいいかな。」

「マキナさんに?」

「まかせろー!私の索敵は最強だ。」


マキナの広域スキャンで敵対反応が出た瞬間にミルフィーの座標軸上に空間跳躍を実行するのだ。


「マキナが合図で転移でミルフィーの上、空まで転移する。これで奇襲を掛ける。」

「マキナさん転移も出来るんですか…。」

「うん。できるよ~。ネザリアは私に掴まってて。アリスは加護が有るから平気だけど、ネザリアは生身だからね。」


マキナ達はネザリアを筆頭に作戦会議を続けていた。


意見がまとまり、作戦が組み上がったと同時にアリスから空腹を知らせる音が聞こえてきた。


ぐぅ~。


「…お腹へった。」

「外じゃ…食べれそうにないですね。」

「携帯食料でいいんじゃないかな?」


マキナはアリスに自分の分をあげていた。


「よーしよーし。アリスちゃんいい食べっぷり!」

「マキナさん。犬じゃないのだから…。」


俺は悪くねぇっ!

このセリフが出てきました。


13/5/12 誤字修正

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