二日酔いは辛いよ byアリス
エルフの里、ミルフィーの過去編です。
マキナ達は客室に居たが、アリスはなにやら顔色が悪そうだ。
「あ”~飲み過ぎた。気持ちがわ…」
アリスは口を抑えて出ていってしまった。
「まったく。あんなに飲んだり食べたりするからいけないのよ。」
「私は外に居たからよくわからないけど、なんとなく想像できちゃうのが恐ろしい…!」
「そうね。私も見てなくても想像は付きそうだわ…。そういえば昨日外で何してたのかしら?」
「ネザリアと話してただけだよ~?」
「王女様とねぇ…。」
「そうなんだよ~。ほっぺた引っ張られたんだよ~。」
「いや、聞いてないけど何してたのよ。」
そんな話をしていると顔色が悪いアリスが部屋へと戻ってきた。
「あ”―。」
「まだ顔色悪いわよ。」
「ゾンビみたい。」
アリスの顔は蒼白である。
飲み過ぎ食べ過ぎ二日酔い。
「これから国王様のところに行くのよ?しっかりしなさい。」
「あ”―りょうがいでありまず…」
「だーめだこりゃ。」
アリスの調子が戻るまで部屋で看病をしていること数十分…。
「それじゃ、行きましょうか。」
「ごー。」
「お、おー。」
本調子ではないアリスを連れ一行は国王の居る部屋へと向かっていった。
大きな扉は開け放たれており、忙しく騎士が出たり入ったりしている。
そこにマキナ達が入り込むと、それに気づいた近衛騎士団リンネがレオンに声を掛けた。
「あの女また…隊長!英雄がきましたよ。」
リンネは最初、小声で言葉を発したがガシャガシャ言う鎧の音でかき消されていた。
聞こえたのはレオンを呼んだ声だけだ。
「ん?…国王様。救世主様が来ました。」
レオンはリンネに声をかけられ、入り口に目を向けた。
そこに居たマキナ達を見つけ、国王に知らせたのであった。
国王は玉座に座りながらもテーブルを引っ張ってきたのか、そこで書類などにサインをしている。
次から次へと舞い込んでくる書類に国王は悪戦苦闘をしていた。
そこにマキナ達が現れたことにより、暫しの休憩が取れることとなった。
「おぉ。よく来た。何のようだ?」
国王は凝り固まった体をほぐしながら立ち上がった。
「はい。依頼を受けながらクォーツィまで旅をしようかと。」
「ほぅ。もう行ってしまうのか。」
代理で話しているマキナと国王。
そして机にドンドンと溜まっていく書類の数。
「この間のような大規模侵攻は当分無いでしょう。…あの衝撃の中生き残った兵力なんて居ないでしょうし…。」
「そ、それもそうだな。」
騎士がもう一つのテーブルを玉座の脇に設置し、書類を置き始めている。
国王はその光景を思い出していた。
地面が抉れ、鎧を着た騎士がひしゃげ空高く舞い上がり、後方に居た弓兵、魔法使い共々四肢をあらぬ方向に曲げ空に舞い上がっていったのだ。
そして遠くで降っていたのは魔物と人間の血肉の雨。
今でも地面にたたきつけられる鎧の音が鮮明に思い出せる。
「ネザリアによろしく言っておいてください。」
「む。どうしてだ?」
「ネザリアは外に憧れています。私達が今会ったら決意が歪むかもしれないからです。」
「…何があったか知らないがわかった。」
「ありがとうございます。では失礼します。」
「あぁ。達者でな。」
アインスの国王は国民思いのフランクな国王であった。
「よし。外に出た。ばれないうちに。」
侍女がマキナ達を追いかけはじめたのはマキナ達が城壁を出た後だった。
「さて。仕事に戻るとするか。」
国王が後ろを振り向くとテーブルに置ききれなくなった書類の山を持っている騎士と2つのテーブルにつまれた書類の山。
「…あぁ…休みたい。」
国王は憂鬱な思いで書類へ立ち向かっていった矢先に宰相が飛び込んできた。
「国王様あああああああああああああ!!!」
宰相の大声により一同は驚き、騎士は書類を落としてしまった。
「な、何事だ!?」
「ネザリア王女様がいなくなりました!」
宰相は国王に駆け寄ると一枚の羊皮紙を差し出した。
そこにはこんな文字が書いてあった。
“お父様へ
私はマキナさんたちに着いて行くことにしました。
探さないでください。
ネザリア”
「」
「国王様?」
「」
国王は石化したかのように口を開け、固まっていた。
宰相に揺さぶられながらやっと正気に戻った国王は、ネザリアのことについて考えを巡らせた。
「…あの子を城に閉じ込めて何年になるか。あの子は外に出たがっていたな。」
ネザリアは国王に外へ出たいと言っていたのだ。
城の中での活動は限られており、空が見える中庭か訓練場で騎士の訓練を見ていることが多かった。
「国王様。連れ戻しますか?」
「…いや。あいつらなら心配要らないだろう。守ってくれるさ。」
国王のこの言葉に復興の手伝いをしていた貴族は、
恩を売っておけばよかった。
騎士は、
もしかして近衛騎士団よりすごい?
レオンは、
マキナだしな。
それぞれ違う思いを抱いていた。
SideOut
???Side
「ちっ。カーディはダメだったみたいだ。」
「お兄さま。元々人間なんて当てにしてないじゃないの♪」
女は男に擦り寄っている。
「まぁ。そうだな。人間には期待していなかった。しかしあの数を防がれるとは人間も少しはやるようだ。」
「そうね。ちょっと調べてみるわ。」
そう言うと男にくっついていた女は離れ扉から出ようとした。
「あ、そうそう。カーディの皇帝に掛けた洗脳どうするの?」
「ほうっておけ。下手に手を出すと足がつく。」
「はーい♪おにぃさまぁ!」
女はそう言うと部屋から出ていった。
SideOut
マキナ達は王城から出た後活気を取り戻した市場へ来ていた。
何故かマキナは食べ物、服、金、などなどを差し出されていた。
「救世主さま!どうぞお受取りください!」
「キャーステキ~!」
「私女だけど…濡れるっ!」
マキナはそれを苦笑いしながら避けて行く。
旅路に必要になる食料を買いに来たのだ。
以前冷凍保存した肉もあるが、簡易食料も欲しいのだ。
食料はいつも通りの干し肉と水だ。
店主は金の受け取りを拒み、渡そうとするマキナと意見がわかれた。
結局マキナは店の台に金を置くと去ってしまった。
「あー。疲れる~。」
「しょうがないわ。戦いを勝利に導いた挙句あなた何したかわかってるわよね?」
「ん~?」
「…空を飛び、戻る避難民すべてを1人で転移させた。わかったかしら?」
「…はい…。」
マキナはさすがにあれはやりすぎたと、今回ばかりは反省していた。
「話は変わるんだけど、ミルフィー以外のエルフって居ないね?」
マキナがミルフィーにそう言った。
「…そうね。……エルフはあまり人とは干渉しないから。」
「うん?」
何ミルフィーには裏がありそうだとマキナは直感で分かった。
「よし!次はエルフの里に行こう!」
「え!?」
アリスはどこに行こうがどうでもよさそうだった。
ミルフィーは少し戸惑っているようだ。
表情に焦りが伺える。
「べ、べつに今じゃなくてもいいじゃない。クォーツィの後にでも…。」
そこまで言うと後ろから声が掛けられた。
「待ってくださーい!」
「うん?私達?」
そこに居たのは侍女の服を着込み、顔を隠した如何にも怪しい人物だった。
マキナにはその声が誰の声か一瞬でわかった。
「マキナ知り合い?」
「うん。王女様。」
「はぃ?」
侍女に扮したネザリアがマキナたちの元へとたどり着くと顔を隠していた布を取り外した。
「ネザリアどうしたの?」
「あれ?バレていましたか?」
「うん。声でわかったよ。」
「まぁ!私の変装もまだまだですね。」
「…違うと思うわ…。」
ミルフィーが二人の話に突っ込んだ。
「で、ネザリアはどうしたの?」
「実は…王城抜け出してきました!」
「ええええええええ!?」
「そして、マキナさん達の旅に同行させてください!」
「「ほげええええええええええ!」」
マキナとミルフィーの変な叫び声が響き渡った。
「こ、国王様はいいの?」
「無論無許可です!」
「拒否権は?」
「無いです!」
「それじゃ行こうかー。」
「あれ?案外普通ですね。」
マキナはお気楽思考に入っているためこのような考えに至っている。
ミルフィーはマキナの自由奔放すぎる性格に鍛えられ、慣れ始めている。
アリスは気分が悪そうだ。
「ギルド行こ!チーム登録だよ!」
「はい!楽しみです!」
ネザリアは初めてマキナが騒いだ時のように、騒いでいたのだった。
少し戻った通りにあるギルドへ入るとそこでもマキナたちに目線が突き刺さった。
一部の冒険者は見たことがある顔が居ることに気づいた。
「おい。あそこに居るの王女じゃねえの?」
「まさか…他人の空似だろう…多分。」
マキナとネザリアは受付まで行くとネザリアの冒険者登録を申請していた。
職員は驚いていたが、すんなりと登録はすんだようだ。
ネザリアの戦闘スタイルは魔法使いのようだ。
前衛と後衛が2:2になり、バランスも取れてきたチーム。
「それじゃエルフの里へしゅっぱーつ!」
「おー!」
「…」
「お、おー。」
ミルフィーは終始無言だった。
ギルドを出るとミルフィーにエルフの里の場所を聞いた。
ミルフィーは罰が悪そうにアインスの北西の森の中と答えた。
妙に引っかかりのある言い方のミルフィー。
それが気になるマキナであるが、そこまで馬鹿ではない。
一同は王都から北西にあるエルフの里へ向かって歩き始めた。
王都から出ると一面の緑が広がっている。
ネザリアは近くで見る自然や風を感じていた。
「わー。すごい…。」
「うんうん。自然はすごいんだよ!」
マキナとネザリアはわいわいと騒ぎながら進んでいた。
アリスはそれが頭に響くようで、耳を抑えている。
「うー…。」
ミルフィーは暗い顔をしている。
「…里…か。」
2時間ほど歩くとミルフィーが足を止めた。
他のメンバーも足を止めた。
「ここから森に入るとエルフの里の入り口があるわ。…ただ気をつけなさい。」
「どういう意味?」
「行けばわかるわ。」
4人は森の中へと入っていく。
マキナのレーダーには小動物が多数映し出されていた。
敵対生物の反応は無いようだ。
「微かに何かが歩いた後があるね。」
マキナはそう言うと足元をみた。
そこには踏み倒された草などがある。
この道を少し前に誰かが通ったようだ。
「多分エルフじゃないかしら…。」
「だよね。こんなところ人間が通るわけないし。」
しばらく歩いているとマキナのレーダーの端に青い点が映った。
「お?誰か居るみたい。」
「エルフさんですか?」
ネザリアは先程から初めての森の中で少し興奮していた。
次の瞬間青い点が赤く変わった。
“警告 飛翔物体有り”
「っ!」
“視覚装置ハイスピードモード”
マキナの瞳にはレーダーの方向が示す方向から飛んでくる矢を視認できた。
シミュレーションの結果、その矢はネザリアの胸へ刺さることが確定している。
マキナは飛んでくる矢をギリギリまで引き寄せ、拳で弾き飛ばした。
その際に矢じりがマキナの手を引っ掻いた。
“警告 人工皮膚に毒素を検知”
“視覚装置通常モード”
先ほどの射手はおそらく里に逃げたのだろう。レーダーから消失していた。
ネザリアは何が起こったか理解できておらず、ミルフィーは大急ぎでマキナの手を取り傷口を見ていた。
傷口は紫色に変色を起こしていた。
「これは腐敗毒…殺す気だったの?」
「え?え?」
「大丈夫このぐらいあっという間に~ポン。」
先程まで紫色に変色していた皮膚は肌色に戻り、傷口も無くなった。
落ち着きを取り戻したネザリアは今の状況を整理していた。
「すみません。マキナさん。私、狙われていたのですね。」
「気にしないで。私が守れる範囲にいれば絶対守るよ!」
「ありがとうございます。マキナさん。」
2人がそう話していると、弾かれた矢をミルフィーが拾っていた。
折れてしまっているがそれを見ている。
「確かにこの矢はエルフの…。」
その時ミルフィーを呼ぶ声が聞こえた。
「おーい!行くよ~!」
「あ、ま、待ちなさい!本当に行くつもりなの?」
「あったりまえ!さっきの理由聞いてないし!…狙ったことを後悔させて…」
マキナは黒い笑顔を浮かべながら森を進んでいった。
「ミルフィーさん。マキナさんはいつもあのような感じなのですか?」
「…そうね。仲間思いの優しい子。」
「さすがマキナさんです…。まってくださーい!」
アリスとネザリアはマキナを追いかけはじめた。
「それに比べて私は仲間を…里の皆を…」
ミルフィーはそう言い終わるとマキナ達を重い足取りで追いかけはじめた。
しばらく森を歩くとレーダーに青い点が続々と映りだした。
どうやら前方に村があるようだ。
「お?この先エルフの里だね。」
「…。」
マキナのつぶやきにミルフィーは答えなかった。
森はエルフの里を中心に少し伐採されており、ツリーハウスや高床式の家が立っていた。
木々の間の橋を渡るエルフ達や、街の広場で遊ぶ子どもたち。
マキナがエルフの里に入ろうとすると警告と共に何かに激突した。
“警告 大容量の魔力を検知。”
ゴン
っという音と共にマキナは額をぶつけた。
「あだ!」
それに気づいたエルフ達は一斉に家の中へ入っていってしまった。
それからしばらくすると軽鎧を着たエルフたちが出てきた。
ミルフィーは顔を俯かせていた。
「むー。これシールド?ぶつかるまで魔力反応なかったのに~。」
「貴様ら!何者だ!」
1人軽鎧の種類が違う男のエルフが叫んだ。
「私だ!」
「ふざけるな!弓兵攻撃準備!」
マキナが咄嗟に答えてしまった事に腹を立てたのか、攻撃命令を出している。
「あ、ちょっとまって!今の嘘!」
「放て!」
30人ほどの矢が放たれた。
しかし、弓は複数の矢が撃てるように改造されており二倍ほどの矢が飛んできたのだ。
「あ”ー。結界あるならとどかないんじゃないの?」
気分が悪いアリスはそう言っている。
「そういえばそうですよね。」
ネザリアが答えていたがその答えは違かった。
放たれた矢は結界を貫通し、マキナ達へと降り注ごうとしている。
「反則ゥゥ!」
“シールド展開”
マキナ達を囲むように丸いシールドが形成された。
マキナのシールドに矢がカツカツと当たる音が響く。
「あの~。お話でも…。」
「魔法を放て!」
「<風よ!彼の者を撃ちぬけ!ウィンド・バレット!>」
マキナのシールドに魔法が直撃するが豆腐が当たったかのように何事も無く魔法が消えていく。
「あのぅ…お話を…。」
「諦めるな!魔法陣を敷け!」
まだまだ話し合いには至らなさそうだ。
13/05/12 誤字修正