幸せと不幸と希望と。
朝日が登る数刻前。
マキナは中庭へと移動していた。
国王に許可をもらった事を実行に移すためだ。
マキナのディスプレイには5時40分と表示されていた。
「たぶんこの世界でもこのぐらいの時間かな?よし!」
“ATS フォトンウィング”
光の翼が背中に構成され、マキナは空へと舞い上がった。
マキナは王城の最上階まで上昇すると、ある部屋のテラスへ降り立った。
“フォトンウィング解除”
マキナは部屋の大窓を何度かノックした。
コンコン。コンコン。
その音に気づいたのか豪華なベッドから体を起こし寝ぼけ眼でこちらを見るネザリア。
少し見つめ合った後目が覚めてきたのか、何故そのような場所にマキナが居るのか驚いたようだ。
ネザリアはパタパタと大窓の側にある扉をあけてテラスへと出てきた。
「マキナさん!どうしてこんなところに?」
「ふふ。どっきりっていうやつだよ。」
「どっきり?」
「そう。ネザリアは空を飛んでみたいって言ってたよね。」
「はい。確かに言いましたけど…。」
「じゃ、いこっか。」
マキナはそう言うとネザリアをお姫様抱っこで抱えると外を向いた。
「え?えええ!?」
ネザリアは突然のことに驚き、戸惑っていた。
「ま、マキナさん!お、下ろしてください。」
顔を赤らめ、答えるネザリア。
「ネザリア。これからもっと綺麗なものが見えるよ。」
「それはどういう意味ですか?」
「こういういみだよっ!」
“ATS フォトンウィング”
お姫様抱っこをされていたネザリアはマキナの背中に光る翼が広がっていくのを目撃した。
「それじゃ、遊覧飛行でもしますか。」
マキナはゆっくりと空へと上がっていく。
「え?浮いてる?嘘?」
ネザリアは何が起こっているのか理解が追いついていないようだ。
魔法では空をとぶことは出来ない。これは常識であるのだ。
マキナのフォトンウィング並に魔力を形状化出来ず、魔力の供給も追いつかない。
これを真似ようとしても到底不可能だ。
マキナは王城より高く上がるとゆっくりと飛行を始めた。
「どうかな?空は。」
「すごいです…まるで夢みたい。」
ネザリアの目は不思議なものを見るかのようだ。
目をあちらこちらに向けている。
マキナはゆっくりと旋回をしながら王都を回り始めた。
真下には王都に立ち並ぶ家々の姿や松明を持った警備兵の姿。
ネザリアはそれらをまるで子供みたいに見ていた。
「いつもと見ている世界とは大違いです。狭いお城の中からとても、とても広い世界に飛び出したようです。」
「ネザリア。飛び出したんだよ。」
「そうですね。こんな体験普通ではできないです。いつか私も自力で空を飛びたいです!」
「あはは。魔法だけにこだわらず、科学を発展させれば飛べるよ。」
「かがく?」
ネザリアが聞いたこともない言葉を聞き返した。
「うん。魔法を一切使わずに火を起こしたり、水を凍らせたり、電気…雷を起こしたりするんだ。」
「えぇ!?燃料ランプみたいなものですか?」
「そうだね。後は機械…えっと…からくりを電気で動かして人の代わりに作業させたり、空を飛んだりするんだよ。」
「魔法を使わなくてもそんなことが出来るんですね!」
「うん。ある程度の科学技術の進化は数百年でできるけど、基本的な理論を含めるともっと掛かりそうだね。」
「私の世代では無理ですね…。」
「そうだね。でも未来の子どもたちが空を見れるようになるかもよ?」
「そうですね!今後に期待しましょう!」
「あ、そうだ。」
マキナは旋回を止め自分の周囲にシールドを展開させた。
「これぐらいのシールドなら20分は大丈夫かな?」
「あの、どうするのですか?」
「これからもっと上まで上がるよ。」
マキナはそう言うと空へ空へと登っていく。
雲を抜け成層圏に到達した。
「す、すごい!雲の上まで来るなんて!」
ネザリアが感動しているとマキナが声を掛けた。
「前を見て。」
「え?…綺麗…」
それは日の出だった。
成層圏から見る日の出は地上で見る日の出とは違い、青い星にオレンジ色の光が掛かる。
そこから大きな太陽が姿を表した。
マキナはシールドの不透明度を少し上げていく。
直接太陽を見ると目を痛めてしまうからだ。
「ちょっと見にくいけど我慢してね。目を痛めちゃうから。」
「はい!すごいです…すごく綺麗。」
異世界でこんなにも高く、星の姿や太陽を見た人間はネザリアが始めてだろう。
その神秘的な光景に目を奪われているネザリア。
マキナのディスプレイには酸素残量が残り少ないことを知らせる警告が出ていた。
“警告 シールド内酸素低下。”
「あぁ、ネザリア。もう降りるよ。」
「え…。」
ネザリアは少し残念そうだ。
「もうシールド内の酸素がないんだ。」
「酸素って空気の事ですよね?それではシールドを解けばいいのでは?」
「あぁ。知らないよね。今いる場所は空気が無いんだ。それに宇宙…空より上の場所から降り注ぐ物が有害でもあるんだ。」
「そ、そうなのですか?」
「だからシールドを展開しないとここまで来れないんだ。」
マキナはそう言いながら高度を下げていく。
「でも、見られただけでも私は楽しかったです!」
「そう言ってもらえると嬉しいな。」
高度を下げ、雲を抜け、地上が近くなるとシールドを解除した。
その後ゆっくりと王都の空を飛び、ネザリアの部屋へと戻るのであった。
マキナにはネザリアのテラスに国王が居ることがわかった。
ネザリアはまだそれに気づいていないようだ。
興奮気味にマキナと話しながらテラスに降り立った2人。
ネザリアは目の前に父親が居ることに固まってしまった。
「ち、父上様…これには深いわけが…。」
ネザリアは必死に言い訳をしているようだ。
「ネザリア。」
「は、はい。」
「空の旅は楽しかったか?」
「え?…はい!楽しかったです!」
ネザリアは突然の言葉に驚いたが、自分の感想を嘘偽りなく述べた。
その目は子供のようにキラキラしていた。
「そうか。私は何もしてやれない父親だ。許してくれ。」
「そ、そんなことはありません!」
マキナは二人のやり取りを見て、そっとテラスから飛び降りた。
「感動したー!!」
ここまでの雰囲気が台無しである。
マキナは中庭へ着地すると客室へ戻っていった。
現在時刻は6時42分。
寝るには遅いし起きるには早い時間だ。
仕方なく、客室に戻らず訓練場に移動した。
そこには朝から汗を流すレオンの姿が合った。
「レオン。おはよう。」
「…早いな。」
マキナが剣を振るっているレオンに近づいた。
レオンは剣を一旦地面に突き刺した。
「すこし付き合ってもらおうか。」
「…付き合ってもらうなんて…そんなっ!?」
「お前な…。」
「冗談。で、なにかな?」
レオンはそれだけ聞くと脇においてあったもう一本の剣をマキナに投げた。
マキナはそれを難なく受け取ると、レオンに文句を言い始めた。
「あっぶないな~!」
「マキナなら大丈夫だろうと思っていた。」
「それは…そうだけど…。」
言い返せないマキナである。
「で、やればいいのね?」
「あぁ。頼む。強い奴を相手にして自分を叩き上げるんだ。」
「熱血だね。」
マキナとレオンは訓練場の真ん中へと移動した。
お互いが剣を構えると今までのおちゃらけた雰囲気が一瞬にして吹き飛んだ。
お互いが剣を構えてどれだけの時間が経ったのだろうか。
訓練場にやってきたエミリーが訓練場の土を踏んだ音を合図にお互いに踏み出した。
“駆動プロファイル変更:近接戦闘モード”
剣と剣がぶつかり合い、火花が散り金属音が鳴り響く。
レオンとマキナは鍔迫り合いに入っていた。
体格の大きいレオンはマキナを押し潰さんと体重を込めてくるがマキナはそれを押し返していく。
徐々にレオンが押され返されていく中、マキナは左手で衝撃魔術をレオンに放った。
しかし、レオンは前の試合で見せた加速を利用しマキナの横へ回り込んだ。
「っ!」
「せい!」
レオンがその直後に剣を突き出した。
その件はマキナの胸元に迫るが体を海老反りに反らせ回避した。
そのまま脚力を活かしてレオンの剣を下から蹴りあげたと同時に後方へ距離を取った。
レオンは剣を蹴られ、腕が跳ね上がったが問題は無いようだった。
「おー。レオン腕が上がってる!」
「人間は成長するもんだからな!」
そう言うとレオンは加速しマキナへ斬り込んだ。
マキナはそれを剣で受け流すとレオンはそのまま駆け抜けていった。
おそらく剣が受け流されると読んでいたのだろう。
駆け抜けたレオンは方向転換を行いマキナへ飛び込んだ。
先程より速いスピードだ。
マキナはそれを剣の腹を向け両手で構えた。
そこにレオンの剣が振り下ろされた。
再び剣の交わる音が鳴り響いた。
「なかなかやらせてくれないんだな。」
「好んでやられると思う?」
「思わんな!」
レオンはその状態から蹴りをマキナに放った。
それを回避するとレオンが読んでいたかのごとく剣を突き出してきた。
「もらった!!!」
「甘いよ!」
マキナはありえない速度で足を動かすとレオンに向かって飛び上がった。
レオンの肩を踏み、飛び越えていく。
体を捻り空中にシールドを発生させるとシールドを壁にし、ミサイルのように飛び込んだ。
レオンは以前の試合でも行った直感を頼りに体を無理やり加速させマキナの一撃を辛うじて避けた。
マキナは攻撃の際に生じた慣性により、砂埃を立てながら訓練場の壁に激突した。
「いった~い!」
「お前は馬鹿か?」
「天然じゃないよ!」
「そうか。天然か。」
レオンは最初から瞬間的に魔力を体の中で爆発させ、加速していたがそれもそろそろ限界らしい。
息が上がっていることがマキナからでもよく見える。
「うーん。レオンは魔力を増やしたほうがいいと思うよ。」
「この加速はあくまで補助だ。マキナみたいな奴がゴロゴロいてたまるか!」
「それはそうだよね。」
マキナが壁際から戻るとレオンは先程とは違う雰囲気を醸し出していた。
短期決戦にするのだろう。マキナはそれを察すると出力を少しだけ上げた。
「いくぞっ」
レオンは加速を連続で行い、フェンリル化したアリス並の速度で斬り込んできた。
アリスより太刀筋も良く、隙がないその動きは加速により常人には捉えられない物になっている。
だが、マキナの計器にはそれは“ただ早くなっただけの仕様上の範囲内”と捉えられている。
マキナは振るわれる剣を弾いていく。
弾いていくうちに金属音に変化が生じた。
「む。ヒビが。」
マキナの剣にヒビが入ってしまったのだ。
剣の達人であるレオンと現代で教えられた白兵戦での剣術では違いがある。
レオンのほうが一枚上手なのだ。
ヒビが入り脆くなった剣でレオンの剣を弾いていく。
「剣が持たない…!」
剣のヒビは弾くに連れて大きくなっていく。
そして幾度かの剣撃を弾いたマキナの剣は中程から折れてしまった。
「終わりだ!」
「まだ。」
マキナは残った剣の根本でレオンの攻撃を受け止めた。
それと同時にヒビが広がり、一瞬止めただけで砕けてしまった。
マキナはその一瞬で後ろに下がり衝撃魔術を牽制として前へ放った。
結果的にはレオンはこちらにこなかった。
「だー!あれを防ぐとかないわ!」
レオンはそう言うと座り込んでしまった。
どうやら魔力が切れ、体力的にもうだめなのだろう。
「お疲れ様~。」
「せっかく勝てるかと思ったんだけどなぁ。」
「ふふ。甘い甘い。剣を砕かれたのは焦ったけど。」
「その割には焦ってないように見えたが…。」
2人が話していると訓練場の端で見ていたエミリーが近寄ってきた。
「す、すごいです!隊長!あの動き!」
「お?早いなエミリー。」
「今日はなんか体の調子が良くて!」
「私の罰ゲームのおかげだね!毎日やっとく?」
マキナがそう言うとエミリーが顔をひきつらせた。
「い、いえ。エンリョウシテオキマス…。」
「そういえば、エミリーって実力どのくらいなの?近衛騎士には居るみたいだけど。」
「わ、わたしですか?…あの…その…。」
エミリーは言いにくそうにしている。
そこにレオンがその理由を答えた。
「エミリーは模擬戦や実践になると人が変わるんだ。」
「あわわ!隊長余計なことをいわないでください!」
「へ~。もしかして、戦闘狂?」
「ち、ちがいますよ!」
マキナに戦闘狂の疑いを掛けられたエミリーは咄嗟に否定したのだった。
場所は移り、国境の砦。
朝日が昇り当たりが明るくなる頃、国境を警備する騎士がいた。
毎日毎日同じ風景を眺め、商人の行き来をみるだけの作業に飽き飽きしていた。
しかし、最近はカーディ国へ行った商人がすぐに引き返してくる。
何かと聞けば、カーディ内で魔物を大量に見ただの、カーディの騎士に追い返されただの、そんな話だった。
「最近変だよな。」
「あぁ。カーディがどうもおかしい。」
以前からちょっかいを出してきていたカーディがある日突然何もしてこなくなったのだ。
それと同時に商人が追い返され始めた。
「それと同時期だっけか?魔物を余り見なくなったのは。」
「そうだな。この2~3日じゃ全く見てないぞ。」
騎士は最近の出来事について話していた。
警備している騎士は王都に居る騎士より異変にいち早く気づいていたのだ。
「もしかしてカーディの軍隊が侵略してくるとか!」
「おいおい。そんな事言うなよ。」
「だよな。そんなことあるはず無いよな…?」
騎士の2人が休憩室で不吉な話をしていると砦の上部でカーディ領地の茂みを監視していた騎士が声を上げた。
「何か茂みに居るぞ。ちょっと見てくれ。」
休憩室に居た2人は“まさかな”っと思いながら上へ上がっていった。
「来たか。あそこに何か居るだろ?」
「どれどれ。あー。確かに居るな。」
「ん?お前どっち見てるんだあそこのじゃないのか?」
下から来た2人は別々の場所を見ていた。
そして上に居た騎士も違う場所を見ている。
「…なぁ。もしかしてあの茂みの中に大量に居るとか…無いよな?」
「…見れば見るほど怪しい影が見えてくるのだが…」
3人は沈黙した。
そしてお互いの顔を見合わせ、茂みを見た。
「「「敵襲!!」」」
3人が声を張り上げると砦の中が慌ただしくなった。
仮眠をしていた騎士たちが起きだし、鎧を着始め剣を携えた。
騎士が砦の外へ出ると同時にそれを待っていたかのように茂みから魔物が飛び出した。
それは目の前の茂みを覆い尽くす量だった。
「ひぃ!?」
「王都へ連絡をしろ!」
砦を任されている指揮官が声を張り上げた。
「弓兵は矢を絶やさずすべて放て!」
弓兵はそれを合図に矢を放ち始めた。
「投石機も使え!あるものは全て使うんだ!」
騎士たちが大急ぎで投石機を用意し、準備が出来た組みから発射していた。
「前衛騎士は囲まれないように気をつけながら戦闘を行え!」
前衛騎士たちはなるべく孤立しないようにしながら魔物へ立ち向かっていった。
「非戦闘員は馬車ですぐさま脱出しろ!急げ!護衛を2、3人つけるんだ!」
指揮官は全てに命令を飛ばすと愛剣を持ち、外へ向かった。
そこには一面を埋め尽くす魔物の集団。
「(これは…ダメだな。死ぬならば国のためになるべく数を減らすのみ!)」
指揮官と騎士たちは斬りこんで行った。
王城の総合警備室。
そこは国から通信魔道具で報告される情報を統括する。
そこに一本の連絡が入った。
「こちらカーディ方面国境砦!緊急事態だ!」
「こちら王城綜合警備室。何があった?」
「カーディ方面から辺りを埋め尽くす魔物が接近中!至急援軍を!…」
砦からの通信は非常に緊迫した声が聞こえてきていた。
通信兵の声の裏では、幾つもの声が飛び交っていた。
「数が多すぎる!」
「矢が残り僅か!」
「投石機用の岩が無くなったぞ!」
「けが人を運び込め!」
王城の綜合警備室にも緊迫とした空気が流れている。
「そちらの状況は!」
「矢が今切れ、投石機使用不可、けが人多数!これ以上は…うわああああああああ!」
「どうした!?応答しろ!」
通信を行なっていた騎士の悲鳴を最後に通信魔道具からは悲鳴しか聞こえなくなっていた。
悲鳴に混じって鳥類魔物の鳴き声が聞こえてきた。
それに伴い何かを潰す音や引き裂く音。
5分もしないうちに完全に沈黙してしまった。
「どうした!応答をしろ!」
声を投げかけるが帰ってくるのは何もない。
魔石は色を失い待機状態へ戻ってしまった。
「緊急事態だ!国王様に知らせろ!」
「はっ!」
騎士が勢い良く部屋から出ていく。
廊下を走り、階段を登り、国王の部屋まで走り抜ける。
国王の部屋の前まで走りきった騎士は焦りながらもノックをした。
「国王様!緊急事態です!」
「入れ!何があった!」
「はっ!カーディ国境付近の砦がカーディ方面から現れた大群の魔物に落とされました!」
「…恐れていたことが始まってしまったか。」
王は眉間を抑えている。
そして王は羊皮紙に文字を書くと騎士に手渡した。
「国民をクォーツィに避難させろ。これはクォーツィの王へ渡せ!」
「はっ!国王様はどうされるのですか!」
「私はここに残る。」
「な、何を!」
「いいから行け!聞こえなかったのか!」
「は、はっ!」
騎士は警備室へ大急ぎで戻っていった。
「アゼリア。そろそろそっちに行くぞ…。」
訓練場に居たマキナ達は城が騒がしいことに気がついた。
エミリーは走り回っている騎士の1人を捕まえ、話を聞いた。
エミリーは驚いた顔をし、急いでマキナたちの方へと戻ってきた。
「た、大変です!カーディから魔物の軍隊が!」
その言葉にいち早く反応し、想定していた最悪のシナリオを思い浮かべたのはレオンだった。
「何!マキナ。俺は国王様のところへ戻る。お前らは後で来い。エミリーは近衛騎士団を国王様の元へ集結させろ!」
レオンはそう言うと国王の元へ駈け出し、それぞれが自分の向かうべき場所へ向かいはじめた。
マキナは客室まで大急ぎで戻り扉を開けた。
騒ぎのせいか、ミルフィーとアリスは既に起きていた。
「マキナ。何があったの?」
「例の件!兎に角国王のところに行くよ!」
マキナはすぐに国王の部屋へと向かった。
アリスとミルフィーは何が起きているのかを一瞬で理解した。
例の件とは依頼のことであり、魔物を連れていた事だ。
王城が騒がしくなるとしたら、居なくなった魔物がすべてせめて来ているのだろうと予測を立てることが出来る。
マキナ達は国王が居る階へ上がると騎士に声をかけられた。
「国王様は会見の間です!お急ぎを!」
マキナ達は会見の間へ駆け込んだ。
そこには国王、王女、宰相、近衛騎士団と騎士が揃っていた。
「来たか。これから魔物が攻めてくる。お前たちは避難民と同時に逃げろ。」
「なんですか!?」
アリスが答えた。
「これは国の問題だ。お前たちは逃げろ。」
「でも1人でも多いほうが良いに決まってます!」
「だからこそ国民を守ってくれ!クォーツィに向かわせる国民を守ってくれ。」
「…しかし。」
「守ってくれ。」
「…分かりました。」
「ネザリア。お前も付いて行きなさい。」
「お父様!?」
国王がレオンに目配せをするとレオンが王女へと近寄った。
レオンは王女の耳元で謝罪をすると首元に手刀を入れ、気絶させた。
崩れ落ちる王女をレオンが支えると、マキナを呼び寄せた。
「マキナ。王女様を頼んだぞ。」
「レオンも負けるなよ!」
マキナは王女を受け取ると、背中に背負った。
「早く逃げろ!西側の門から逃げれる。」
「わかりました。お元気で。」
マキナ達は会見の間を後にした。
王女を背に抱え、避難民が逃げ出している西門へ急ぐ。
使用人たちも王城から逃げ出しているようだ。
王城から出ると、王都に居た国民がすべて西門付近に集結していた。
準備の出来たものから出発しているようだ。
その中には冒険者やギルド職員も混ざっていた。
冒険者は魔物の大群と聞いて喜んで狩りに行こうとしたが、その規模を聞いて逃げることにしたのかもしれない。
順調に避難が進む中、東門には騎士が綺麗に整列をしているのがマキナには見えた。
先頭では何やら演説をしているようだがここからではいくらなんでも聞き取れない。
騎士たちが補給の馬車を引き連れ門を出た頃、避難民はすべて王都からクォーツィに向かう道へ出ていた。
マキナ達は避難民の中に紛れていた。
周りからは王女を背負っている冒険者が居ると噂になり、マキナ達の周りは開けていた。
「なんだか落ち着かないね。」
「そりゃぁ…王女様がいるし。」
「視線が鬱陶しいわ。」
護衛の騎士たちはマキナ達を一応知っているので王女の護衛はせず、国民の護衛をしていた。
手の開いている冒険者に金を握らせ臨時の護衛任務にもつかせていた。
1時間ほど歩いていた時だった。避難民の1人が後ろを振り向くと、王都の向こう側に煙が上がっているのを見つけた。
どうやら戦闘が始まったらしい。
同僚の騎士達は悲しげな表情でそれを見ていた。
しばらくするとネザリアが気を取り戻した。
「う…ここは…?」
「起きた?ここはクォーツィへの道だよ。」
「っ!お父様!」
「わわ!暴れちゃだめだよ!」
マキナの背中で暴れだすネザリア。
暴れた拍子に落とさないように気をつけているマキナがいた。
「下ろして!お父様が!レオンが!皆が死んじゃう!」
「だめだよ!何のために逃したかわかってるの?」
「そんなことはいいの!早く下ろして!」
騒ぎ喚く王女に人々の視線が集まる。
王女は既に半泣き状態である。
「ネザリア。」
マキナはネザリアを下ろすと頬に平手打ちをした。
王女は突然のことに騒ぐのを止め頬を押さえた。
周りに居た避難民も驚きの表情をし、見ていた騎士も驚いていた。
そしてアリスとミルフィーさえも驚いていた。
「ネザリア!あなたが死んだら誰がアインスを立て直すの!それにまだ国王達は死んだとは限らない!」
「で、でも…」
「でもじゃない!あなたは生きなくちゃダメなの!あなたが死んだらここにいる国民はどうなるの?家族も大切だけど、国民も大切な家族でしょ!」
「っ!」
ネザリアは俯いた。
「いい?国王もレオンも死なない。これは絶対。」
ネザリアは俯いたまま喋り出した。
「なんで?絶対なんてありえないよ…。」
「大丈夫。私が守る。この体、この名前、作られた意味に誓って。」
「マキナ…。」
マキナはネザリアの顔を手で優しく上げさせ、ネザリアの目を見ながらマキナは意思を伝えた。
「Deus・Ex・Machina。機械仕掛けの神。これが私のフルネーム。」
「デウス・エクス・マキナ…。」
「そう。私はこの名前に誓って皆を守る。だからネザリアはこのまま国民をクォーツィまで導いて。」
「…分かりました。もう我儘は言いません。だから…」
ネザリアは言葉を溜め込み、吐き出した。
「たから!皆を守ってください!」
「当たり前だよ。一応神様だよ!守ってみせる!」
“ATS フォトンウィング”
魔力で構成された光の翼が広がる。
それを見た国民はマキナとネザリアから距離を離した。
「行ってくるから。」
マキナはゆっくりと上昇を始めた。
「いってらっしゃい。頼みました。」
「任せなさい!」
マキナは戦場へ向け飛び立った。
「私が作られた意味。元の世界では果たせなかったけど、今度こそ守ってみせる!」
“コードDEMプロテクト1が解除されました。”
ネザリアside
飛び立っていくマキナを見送るネザリア。
王女とマキナの騒動で歩みが止まっていた避難民達は飛び去ったマキナと王女を見ていた。
「行きましょう。国は彼女が救ってくれます。」
ネザリアがそう言うと国民たちはクォーツィへ向け歩みを進みだした。
ネザリアはたまに後ろを振り返っている。
そこにアリスが話しかけてきた。
「大丈夫。マキナの言ってたことは嘘じゃないから安心して。」
「すみません…。」
その様子を見てミルフィーも声を掛けた。
「マキナの言っていた意味理解出来てた?」
「えっと…。」
「まず、マキナは本当のことしか言ってないよ。」
ネザリアが考えている時、アリスがそう答えた。
「じゃあ、神様っていうのは…。」
「人に作られた神なんだって。」
「人が…神を…?」
ネザリアはとても信じられないと言う顔をしている。
「なんでも、人の叡智の結晶を集めて神として作られたらしいわ。」
「よくわかりません。」
「まぁ。私達も良くはわからないんだけどね。」
アリスが苦笑いしている。
「でも、マキナは約束は破らないと思うわ。」
ミルフィーはマキナが飛び去った空を見ていた。
「そうですか…。マキナさんが信じてくれるように私もきちんと信じます!」
「その意気だよ!」
アリスとミルフィーに励まされ、後ろを振り返らなくなったネザリアは前を向いて歩き出した。
13/05/12 誤字修正




