目覚め、疑問
人類の最終手段から100年後。
科学者のミスにより起動スクリプトが無限ループを起こしていた神は何千何万という人格起動エラーを起こしていた。
施設は老朽化し崩れた天井一部からは大量の光が降り注ぎ、部屋真ん中にあるカプセルがくっきりと見え始める。
静寂が支配する空間で一つの電子音が鳴り響き、途切れ途切れの音声ガイダンスが流れ始めた。
それはノイズ混じりの起動成功音声。
“全…テムオ…イ…デウ…クス・マキナ 起…”
音声が再生し終わると同時にカプセルのカバーが動き出した。
しかしそれは途中までしかスライドせず止まってしまった。
その中で少女、いや神は目を開けた。
その瞳に映るは崩壊気味な施設、スライド途中で止まったカバー、そしてシステムウインド。
「…どういう事? なぜこんなに施設がボロボロに…」
少女は戸惑いながらもカバーに手を掛けたつもりだった。
カバーは金属音を立てながらもげてしまったのだ。
「あ…やっちゃった」
神は内心”てへぺろ☆”など思いながらもカプセルから外へ踏み出した。
そこでひとつの事実神は気づいたのだ。
「あれ? 私が移植されたのは2780年のはず…なのになぜ2881年なの?」
少女は疑問を解決するためにシステム診断を実行したが何も異常はなく、まだ辛うじて生きていた人工衛星からのシステムデータから日付は正確であることが確認された。
「もしかして私100年も寝てた? それじゃ人は? 人類は?…広域スキャン開始。」
神が持つ機能の一つの広域スキャン。
これは敵や味方の位置を識別するためのものであり、生命体に反応する物だ。
敵は赤、味方、人間は青、それ以外は白。
味方は予めデータベースに魔力の波長が登録されているため青で表示される。
スキャン範囲は直径30kmであり、範囲により魔力を消費する。
しかし魔導炉の出力から比べれば微々たるものであり何も影響はなかった。
「…何も映らないのだけど、これ故障…じゃないわよね。」
そう“何も”映るはずがなかった。しかしそれを知るのはもう少し後だ。
「…とりあえず情報整理から始めよう。」
システムは自身の情報と各基地の情報を取得し始めた。
“識別ネーム:マキナ”
“識別コード:DEM001PT”
“システム状況:問題なし”
“拡張モジュール:空きスロット2、1スロット使用中”
“モジュール名:空間跳躍モジュール”
“通信:通信不能”
「…これはまたありきたりな名前ね。それに通信不能と言う事は施設のシステムがダウンしている事…後これは…」
神、いやマキナと呼ぶのが最適か。
マキナはひとつ気になったことがあった。
それは空間跳躍モジュール。
空間跳躍とは空間同士をつなげ瞬時に移動することだ。
しかし空間をつなげる以前に穴を開ける時点で膨大なエネルギーを消費してしまい使えない理論だった。
それがなぜマキナに搭載されているのか、それがわからなかった。
「うーん。どういう事だろうこれは…使ってみれば良いかな?」
“空間跳躍システム起動”
“空間跳躍先の指定がありません”
マキナの瞳に以上のような文章が表示された。
空間跳躍は空間と空間を結ぶことで初めて移動できる技術であり、移動先を指定しなければ移動できないのだ。
したがって一度見たことある場所やマップ上に表示されている場所しか移動できない。
「ダメかぁ…ロマンが無いなぁ。」
そう言うとマキナは隔壁へと歩いていった。
もちろん施設はダウンし電源すら来ていないため隔壁が開くはずもない。
そんなことはマキナにでもわかりきったことである。
「どうせ開かないなら壊してしまえばいいのよね!うん!」
仁王立ちしながらドヤ顔で騒ぎ出すマキナ。
少し天然のようだ。
「ATS –高周波ブレード-」
そうマキナが呟いた時体の周囲に一瞬青色のサークルが現れた。
その次の瞬間にはマキナの手の中には一振りの剣が握られていた。
剣は刀と言ったほうが正しいのか片刃だ。
刃の部分が青く光りだす。
刀を持った手を振り払った時近くにあった施設の天井と思われる瓦礫に刀が当たった。
しかしそれは弾かれるどころかバターを切るかのごとく綺麗に切断されたのだ。
そのまま腕を振り上げ刀の先が太陽をさした時勢い良く振り下ろした。
隔壁に一筋の線が入り更にその横にも刀を入れた。
隔壁はやはりバターを切るかのごとく縦に二本の先が入れられ向こう側が見えている。
更に線の上下を切り裂き隔壁には長方形の形の穴が開いた。
そこからは満面の笑みを浮かべ隔壁を切り裂いた刀を持って出てくるマキナの姿があった。
「さっっっっすが高周波ブレードだね!切れ味バツグン!いいわ…いいわ…この刀」
今にも刀に頬ずりしそうなほどうっとりとした表情を浮かべるマキナ。
もし生きている人間がいたら絶対に近寄りたくない部類の人間に入るだろう。
ニヤケ顔で高周波ブレードを戻した後マキナは施設内を探索し始めた。
少し歩くと文字が掠れて読みにくいが所長室と書いてある部屋があった。
そこには報告書らしき断片が散らばっていた。
どれも風化し文字がかすれ今にも破けてしまいそうだ。
マキナは瞳の感度を上昇させ資料を読み始めた。
わかったことが3つ。
私が完成したが起動できなかったこと。
核攻撃による被害が惑星規模に広がり人類とUnknownしか居なくなったこと。
そして人類は地球に生きるすべての生き物、Unknown、人間を抹消する惑星級魔術を発動し、Unknownと相打ちになったこと。
その資料を読んだ直後マキナは狼狽した。
「私が起動しなかったせいで人類は滅亡した? 今この星にいるのは私だけ? なぜ私は起動しなかったの? なぜ!なぜなのよ!」
マキナはこのどうしようもない無念さを感じていた。
それと同時になぜ私が今になって起動したのかと言う疑問に気づいた。
“ログを表示します”
マキナは自分のイベントログを見始めた。
最新のはATSのログだ。次に起動後のログが永遠と書き込まれていた。
あるときからエラーが見つかり、これが私の起動しなかった原因だとマキナが気づいた。
「人格起動エラー? プログラムなら同じ動作しかしないのになぜ今目覚めたの? なぜもっと早く目覚めなかったの!!……冷静になれ私。」
マキナは意味があるかわからない深呼吸を始めた。
人格自体は人間からの移植のため精神的には効果はあるのだろう。
マキナの体は人間の時と差が生まれないように無意識でする行動はひと通り出来るようになっている。
ログを見なおしてみると起動寸前に外部からの魔力的な干渉があったことを示す警告が示されていた。
もちろん人などこの世には既に居ない。
「どういう事?その何かからの魔力的干渉により人格が起動したということ? でも人は既に皆…」
マキナがそう言っていた時警告が発生した。
“外部からの魔力的干渉有り、遮断します”
マキナは突然のことで驚いていた。
起動寸前にあった干渉がまたこうして起きているのだ。
驚きと好奇心、期待感がマキナの心を支配していく。
何としてもこの干渉を突き止めたい。
あわよくば生存者がいてくれるかもしれないっと。
「とにかくこの魔力干渉を追ってみて何があるか確かめるしかなさそうね。」
そう言うとマキナは干渉してきた魔力の方角へと歩き出した。
13/5/12 誤字修正