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キカイジカケの復讐者

視点の切り替わりが激しいです。


マキナside


マキナは観光と言っていたが、露店や店は殆ど閉まっているため観光どころではなかった。


「あー。なんでこんな時に限って閉まってるのかなぁ。」

マキナは残念そうに息を吐いた。

その時レーダーに四方から赤い点が迫ってくるのに気づいた。

「…閉まってくれててよかったかもしれないね…。」


マキナは魔剣を抜いた。

それを合図に四方から黒いローブを着込んでいる者達が剣を取り出し切り込んできた。


マキナは4人の内、1人へ突っ込むと魔剣の背でローブ男を殴りつけた。

あまりの速さに反応できなかったローブ男はその場で崩れ落ちた。


残りの3人は1人がやられたことに何も思わないのかすぐに襲いかかってきた。


近くに居た町の住民や商人は突然のことに逃げ出してしまった。

ローブ男の1人が剣を振り上げた。

マキナはそれを剣で受け止めると魔力を流した。


それにより組み込まれた魔術式が起動し剣から衝撃波が放たれた。


鍔迫り合いをしていたローブ男は向かい側の露店へと突っ込んだ。

その隙に後ろに回っていた男はそのまま斬りかかろうとしたが、マキナの衝撃魔術により壁にたたきつけられた。


残り1人は3人がやられるのを見ると殺気を消し逃げていった。

それによりレーダーから赤い点が消え、人に紛れたことにより追跡が困難になってしまった。


戦闘中だったため、魔力の波長登録をしていなかったのが悔やまれる。


とりあえずマキナは吹き飛び、気絶している男や、下腹部を抑えて悶えている男、壁にたたきつけられて気絶している男をまとめて引きずっていった。


しばらく歩くと巡回中の騎士が目に入った。


「すみませーん!騎士さーん!」

「ん?どうした?」


騎士はこちらに向かってくる少女に目を向けた。

しかし次の瞬間には少女からその手で引きずっているローブの男たちにめが行った。


騎士はマキナの方へ小走りで向かっていった。

「君!こいつらはなんだい?」

「いきなり襲われたのでちょっと痛い目を見てもらいました。」


マキナがそう言うと右手に持っている刀を見せた。


「そ、そうか。そいつらの身柄は私達が与ろう。」

少女が3人を伸ばしたことに若干引いた騎士だったが職務を全うしようとしていた。

「でも騎士さん1人じゃ運べないよね?」

「…済まない。」


マキナは警備の騎士に留置所まで案内してもらうことにしたのだった。


留置所は少し裏に入ったところにあった。

王都の外観に合わないからだろうか。


「じゃ、ここに置いておけばいいですか?」

「あぁ。すまない。騎士たるものこんな少女に頼るなど。」

「いいんですよ~。少女じゃないし!」


「え?ま、まぁ。すまなかった。」

「では、私は待ち合わせがあるので。」


マキナはそう言うとギルドへ戻っていった。




小太りの男side


「なんだと!?暗殺者が全滅だと!?」

「はい。失敗報告に1人が来ました。」

「ふざけやがって!」

小太りの男はワインが入ったグラスを床にたたきつけた。

割れたグラスを靴で何度も何度も踏みつける男。


「みせしめに仲間を使ってやろうか!おい!エルフの女が居たはずだ!そいつを連れてこい!たっぷり可愛がってやる!」

「直ちに。」

「一般人が貴族に逆らった末路を思いしらせてやるわ!!」




ミルフィーside


ミルフィーは店から出た時間はちょうどアリスが悲鳴を上げる前であり、マキナが留置所に男たちを置いてギルドへ戻っている時である。


ミルフィーが外に出ると隣の防具屋から

悲鳴が聞こえてきた。


「ああああああああああぁああああ!いやあああああああああぁああああああぁぁあぁぁあ!」

「っ!?アリス!?」


ミルフィーはすぐにアリスの悲鳴が聞こえた防具屋へ向かおうとしたが、突然体から力が抜け意識が遠くなる。

「な、何…が…」

黒いローブの男に背負われるミルフィー。

そしてローブの男は何処かへと去っていった。


それと入れ違いになるように武器屋の店主が出てきた。

先ほど買い物をした客が連れさらわれるのを見たのだ。


店主は大急ぎで警備騎士の居る広場へ向かった。


マキナside


「あー遅れちゃうかな。」

マキナのディスプレイには15時19分と出ていた。

「よし。てへぺろで済ませよう!」

マキナはお気楽思考でギルドへ向かっていた。

途中騎士に男の人が何かを言っているのが目に入った。

大して興味もなかったマキナはその横を通り過ぎようとした。


「…んです!エルフの女性がさらわれてい…」


マキナは半分通り過ぎた時足を止めた。


「今なんて言ってた?」

マキナはすぐに思い出した。

「エルフの女性がさらわれた?…まさか…」

マキナはこの王都へ来てからもエルフを見ていなかった。

すなわちミルフィーである可能性が高いのだ。


「ねえ!そのエルフの女性って半袖の上着に緑のセミロングで瞳の色が緑じゃなかった!?」

「え?は、はい。そうですけど。」

「君の身内かい?」

「はい。大切な…仲間です!」


マキナは少し2人から離れた。

その時の、マキナは鬼のような表情をしていた。

「広域スキャン開始。」

マキナを中心に直径30km以内すべての生き物反応が表示されたアリスは近くにいるようだが動いていない。そしてミルフィーは上級階級の区画に反応があった。

「見つけた…絶対に許さない。」


マキナの目には怒りが浮かんでいた。


“ATS フォトンウィング”


「今行くよ!ミルフィー!」


マキナは夕暮れ近い王都の空へと飛び立った。



マキナはすぐに目標の屋敷に到着した。

上空からすぐに声を投げかけた。


「この屋敷に居るものに告ぐ。今すぐ私の仲間を開放しろ。さもないと貴様らを許さない。」

マキナの声は拡声器で増幅されたように大きかった。

何事かと周囲の屋敷からも使用人や、当主が出てきた。


それらが見たのは光の翼を生やし、空に浮かんでいる少女の姿。


そして少女がいる屋敷は周囲でも悪名高い貴族の屋敷だった。



ミルフィーside


薄暗いジメジメとした地下牢。

そこにミルフィーは捕らわれていた。


「ん…ん?んん!?ん!ん!」


口に布をまかれ声を出せないようにされ、服は全て脱がされていた。

そして手と足にはロープで動けないように縛られていた。


「(ど、どうなっているのよ!なんで私がこんなことになってるのよ!)」


ミルフィーはなんとか外れないか動いていたが外れる気配もなく、階段から誰かが降りてくる足音が聞こえてきた。


「!(誰かきた!?)」


その足音はミルフィーの牢屋の前で止まった。


ミルフィーは縛られた腕で胸を隠しながらその人物を見た。


「!(こいつはあの時会見の間に居た男!)」

「よう。クズが。よくも私の顔に泥を塗ってくれたな。」

「ん?んんん!んん!」

「何を言っているのかわからんよ。貴様らのせいで私は王の前で恥をかいたわ!」


ミルフィーには男が理不尽な逆切れをしていることがわかった。


「見せしめとしてお前を犯し、壊してから町の広場に貼り付けてやるわ!これでお前の仲間も懲りるだろう?ヒヒヒヒヒヒヒヒ!」

「!?(こ、こいつ!)」

男はそう言うと服のポケットから1つの小瓶を取り出した。

「ヒヒヒヒ!これさえ飲ませれば女など簡単に壊れるわ!」

そう言いながら男が近寄ってくる。

「ん!?んんん!(やばい!あれは何かの薬だわ!に、にげないと!)」

ミルフィーは体をくねらせ壁際へと逃げていく。

やがて壁に背が当たってしまった。


「もう逃げられないぞ!観念して壊れな!」

男がそう言うとミルフィーの口に巻いていた布を乱暴に取り払った。

「ふざけないで!私はお前なんかにやられない!」

そう言うとミルフィーは体をバネの様に使い男に頭突きを食らわせた。

「ぐおおお!?貴族に手を出すとはゆるさん!許さんぞおおおお!」


ミルフィーは男に馬乗りにされ口を無理やり開かされた。


「壊れろ!壊れてしまえ!」


男が便の蓋を開けようとした時だった。


「この屋敷に居るものに告ぐ。今すぐ渡しの仲間を開放しろ。さもないと貴様らを許さない。」


地下室まで響く声が聞こえてきた。


「!?何だ今の声は!」

「(マキナ?助けに来てくれたの?)」


声が聞こえてきてすぐに地下牢に兵士が入ってきた。

「ほ、報告します!屋敷の玄関前上空に光る翼を広げた少女が現れました!」

「何を言っているんだ!そんなわけがないだろう!」

「し、しかし!」


そして再び地下牢まで響く声が聞こえてきた。



マキナside


「最後の警告だ。仲間を返せ。死にたくない奴は屋敷の外へでろ。30秒後に攻撃を開始する。」


マキナはそう言い放った。


“ATS 魔導式AVA”

“駆動プロファイル変更:射撃モード”

“魔導式AVAとリンクを確立”


魔導式AVA。

アメリカ軍A-10サンダーボルトに搭載されているGAU-8 Avenger を再現、改修された魔導式魔銃である。


復讐者だ。


マキナの身長の5倍に匹敵する5mの重魔銃を屋敷に向けた。

残り15秒。

マキナは魔力を送り、砲身を回転させ始めた。


残り10秒を残した時屋敷の中から弓を持った兵や逃げ出している使用人の姿が映った。


「約束の時間だ。そちらがそういう態度なら私は攻撃を開始する。

人間が機械神を舐めるなよ。」


屋敷の兵が弓を放ったと同時に回転していた砲身から魔力弾が撃ち出された。

毎分6000発、70口径もの魔弾が打ち出される。


それに当たった兵士は肉片となり当たりに飛散した。

臓器がすべてバラバラの方向へ投げ出され隣に居た兵士に臓器が付着した。

それは彼だったものの心臓だった。


マキナが砲身の方向を変えると同僚の心臓を持ち放心していた兵士もまた、同じ肉片へと変わったのだった。


そこからは一方的な虐殺だった。

屋敷を貫通し、瓦礫の山へ変えていく魔弾の嵐。

ミルフィーが居ると思われる場所は残し、その他の場所はひたすら破壊していく。

屋敷に残った兵士はすべて何も言わない肉片へと変わり果てた。

屋敷は70口径もの魔弾により何もかも破壊され一部を残してすべてが解体された。


マキナは地上に降りると肉片を踏みながらミルフィーの反応がある場所へと向かった。


そこには鉄で出来たハッチがあったがあったがマキナの腕力の前には意味をなさなかった。

ハッチの留め具ごと地面から引きぬいたのだった。


“ATS 高周波ブレード”


「こんにちは。クズ野郎。私の仲間を拐った罪は重いぞ。」


ミルフィーside


「最後の警告だ。仲間を返せ。死にたくない奴は屋敷の外へでろ。30秒後に攻撃を開始する。」


「と、当主様!」

「うるさいぞ!ただの脅しだ。兵を出し、殺せ。」


兵士は怖じけながらも命令に従った。


「全員武装し、奴を殺すぞ!」


兵士達はそれぞの弓を持ち出し、窓などを含めた空にいるマキナを狙える位置に向かった。


当主と話していた兵士は部下と共に、表口から外に飛び出した。


隣にいた兵士が声を出した。

「な、なぁ。アイツやれると思うか?」

「やらなきゃいけないんだ。それ以外の何でもない。」

話しかけられた兵士は強がっていたが、内心では恐怖していた。


空に浮かぶ謎の人物。

光の翼を広げ、身の丈より大きな杖の様なものを持ち、耳鳴りのような音を発している。


「約束の時間だ。そちらがそういう態度なら私は攻撃を開始する。

人間が機械神を舐めるなよ。」


空からそう声がかけられた。

「矢を放て!」


屋敷から一斉に矢が放たれた。

それは放物線を描き、空にいる正体不明の少女に吸い込まれていく。


しかし、それは見えない壁に阻まれたかのように空中で停止した。


それと同時に轟音が王都に響き渡った。

それは砦が崩れるかの音だった。


音と同時に隣にいた兵士が消え、それと同時に何かが飛んできた。

「え?これは…?」


飛んできた物体を見つめる。

それは暖かく、一定のリズムで鼓動を刻んでいる。


次第に鼓動は弱くなっていく。

ただそれを見つめ、何が起こったか理解できない。


同僚が居た場所の地面は炸裂を繰り返し、それは徐々にこちらに向かってきた。


彼は何が起きたか理解できぬまま、同僚と同じ運命を辿った。


「な、なんだ!何が起きているのだ!」

地下にいる当主には何が起きているのかはわからない。

轟音が鳴り響く音しか聞こえないのだ。



やがて轟音も止まり、静寂が地下牢を支配した。

「な、なんだ?外はどうなったんだ?」


当主が困惑していると、ハッチ付近から足音が聞こえてきた。

「誰だ?」


当主がハッチに意識を向けて居ると、ハッチがもぎ取られた。

そこに降りてくる長髪の黒い服を着こみ、青く光る何かを持っている少女。


「こんにちは。クズ野郎。私の仲間を拐った罪は重いぞ。」



マキナside


マキナが一歩ずつ前に向かって歩き出す。


「な、何だお前は!おい!兵士たちこいつを殺せ!」

「無駄だよ。上に居た兵士は皆死んだから。」

「ば、馬鹿な。何人の兵士が居たと思っている!」

「知らないよ。今まで殺してきた虫の数、数えてると思う?」

「貴様!」


男はそう言うと地下牢の壁に掛けられていた剣を握ると、マキナへ斬りかかった。

その斬撃は動かないマキナの肩へと吸い込まれた。

「無駄。」

斬撃がマキナを捉えた。しかし、剣は服すら斬り裂くこと無く止まった。


「なっ!?」

「言ったとおりでしょ?そんな原始的な剣じゃ私の戦闘服は斬り裂けないし貫けない。」


マキナはそう言うと高周波ブレードを男が持つ剣の根本に軽く動かした。

剣はバターを切るかのように切断され地下牢に金属音が響き渡った。


高周波ブレードは元の世界の隔壁すら斬り裂くのだ。

それもただの鉄の剣など紙に等しいのだ。


「ひぃ!」

男はそう言うと地下牢の奥の扉へと逃げこんでいった。

マキナはそれを見るとミルフィーの方へ歩み寄った。


「ミルフィー大丈夫?」

マキナの表情は先程とは違い、大切な人を思うかの表情だった。

「え、えぇ。ありがとう…。」

「縄切るからちょっと待ってね。」

マキナはそう言うと手に巻かれている縄を両手で持ち引きちぎった。

同様に足に巻かれている縄も引きちぎったのだった。

「マキナは本当に規格外ね。」

「まぁ。この世界の人から見ればねぇ~。」

ミルフィーは牢屋の看守机に自分の武器や服が置かれていることに気づき、それを取りに行った。

「ミルフィー。着替えたら奥に来て。」

そう言うとマキナは奥の部屋へと入っていった。


扉をくぐるとそこは部屋ではなく通路だった。

通路にはマキナが歩く音だけが木霊する。


20秒ほど歩くと鉄で出来た扉があった。

中からは何かを叩くような音が聞こえてくる。


マキナは腕を引き、勢い良く扉を殴りつけた。

扉は“く”の字に曲がり部屋の中へと吹き飛んでいった。


「ヒ、ヒヒヒヒ!ここがお前の死に場所だ!」

男はそう言うと牢屋をすべて開けた。

その中からは大量の魔物が出てきたのだ。


魔物は男には一切見向きをせず、マキナの方だけを見ている。

「カーディの奴と同じ…?」

「行け!アイツを殺せ!」


魔物たちは命令されると同時に動き出した。


「ふむ…。魔剣でも使ってみるかな。」

“高周波ブレード解除”

“ATS ノワール”


マキナの手に一振りの魔剣が現れた。

魔剣の名はノワール。


「さて。性能はどうなのかな?」

“戦闘モードへ移行”

“視覚装置ハイスピードモード”

“駆動プロファイル変更:近接戦闘モード”


マキナはそう言うと魔力を流し、飛びかかってくる魔物を薙ぎ払った。

剣から衝撃魔術が発動し、太刀筋にそって衝撃波が生まれる。


剣から生まれた衝撃波により飛びかかってきた魔物は男がいる奥へと吹き飛ばされた。


「衝撃魔術は完璧っと。」

続けざまに魔物を斬り捨てていく。


魔剣の耐久性、マキナの腕力により高周波ブレードの比ではないが魔物は2つに斬り裂かれて行く。

斬り裂かれると同時に衝撃波が発生し、剣に付着した血肉を吹き飛ばす。

魔物も例外ではない。斬り裂かれ、そこに衝撃波が来ることにより内蔵が外へ押し出され周囲に撒き散らしながら吹き飛ぶ。


狭い場所ゆえに動きづらく、何度か爪で斬り裂かれたり、噛まれたりしたがマキナの戦闘服には傷ひとつ入れなかった。


臓物、血、肉が散らばる部屋の中。そこには傷ひとつ無いマキナと腰が抜けている男の姿があった。

マキナは男へと歩み寄っていく。クチャクチャと言う肉を踏む音を立てながら。


「ひぃ!ク、来るな化物!」

「…。」


マキナは無言で男の頭を鷲掴みにすると壁にたたきつけ、締め付けた。


「アガアアアアアアア!」

「うるさい。」

「や、やめ、ああ頭が割れ、る!」


マキナは無表情で男の頭に力を入れていく。


「あああああ!」


マキナは力を強めるのを止め、その力を維持した。


「お前とカーディはどういう関係だ。」

「お、おしえるか!おお教えたら殺される!」

「ここで殺されるのと、国王に報告して死刑にされるのとどちらがいい?」


マキナは笑顔でそう言い放った。


「ど、どちらも…あ”あ”あ”あ”!」


マキナは笑顔を崩さぬまま、手に力を少しだけ入れた後緩めた。


「もし私に言えば隠居生活を送れるかもしれないよ?」


そう言うと再び力を込め始めた。


「あ”あ”!い、いうがら”や、めてぐれ…」

「良い判断だね。」


マキナはそう言うと力を緩め、最低限の力で押さえつけた。

男は力が緩むのを感じると、しゃべりはじめた。


「わ、私はカーディのスパイだ。今より高い地位を貰えると聞いてやっていた。も、もういいだろ!」

「ふーん。で、魔物の件。」

「そ、それは…言えるわけが…」


マキナは少し力を込めた。

男の表情はたちまち苦痛に染まっていく。


「あ”あ”あ”!」


マキナはまた力を緩めた。


「後3回。魔物の件は?」

「い、言わん!」


マキナはそう言うと力を込めた。

今度はそのまま問いかけた。

「後2回。魔物の件は?」

「い、いったら、ころ、され、る!」

「ふーん。」


マキナは近くに落ちていた魔物の頭をつかんでいない片手で掴み上げると男に見えるように頭を持って来た。


「次はお前の番だ。」


マキナはそう言うと力を込め魔物の頭を砕いた。

目玉が飛び出し頭蓋骨が砕ける音が響き渡り、中にある脳が潰される嫌な音が響き渡る。

そして手から溢れた肉片が床へとビチャビチャと音を立てながら零れ落ちた。


男はその光景に顔を青ざめた。


「後一回。魔物の件。」

「ひぃ!わ、わかったからやめてくれえ!」


男は完全に恐怖に陥っている。

マキナは頭から手を話すと男は尻餅をついた。


男は体を腕で抑え縮こまり、震えている。


「魔物の件。」


マキナの声が頭の上から投げかけられる。


「ああああ、あれはカーディの奴らがかかか開発した洗脳魔法だ。そ、それを使、使って大陸全土を征服すると、いいいいい言っていたんだ。」

「それはいつ?」

「そ、そこまでは知らされていない!信じてくれぇ!」


男は頭を抑え丸まってしまった。

既に男にはプライドなど無く、恐怖しか残っていないのだろう。


男の周辺には黄色い液体が広がり、異臭を漂わせる。

恐怖のあまり失禁してしまったのだろう。


「そう。もう良いよ。 “私から”はね。」

「そ、それはどどど、どういう意味…。」


マキナが男の前から離れるとその先にはミルフィーが弓を持って部屋の扉の前に立っていた。


ミルフィーは無言で機械弓を構えると弓を引き絞った。

「ああ!やめてくれ!死にたくない!死にたくない!」

「…あなたが私にしたことを忘れたのかしら。誘拐、挙げ句の果てには私を犯そうともしたのよ?その身で償え。」

「嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。」


男は壊れたラジオの様に同じ言葉を繰り返し始めた。


「殺しはしないわ。」

ミルフィーは男の足に矢を射る。


機械弓から射られた矢は男の足を貫通し、床へと突き刺さった。


「ガアアアアアア!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!」


そしてもう一方の足にも矢を放った。


「あああああ!」


男はあまりの痛みや精神的ダメージにより泡を吹いて失神してしまった。

しかし、痛みにより一瞬にして意識を取り戻させた。


「う、あああああ!痛い痛い痛い!」


男がわめいている中マキナはミルフィーに囁いた。

「もう行こう。」


ミルフィーは頷くと屋敷の外へと出ていった。

2人が屋敷の外へ出ると当たりの屋敷から出てきた野次馬や、王城の騎士が居た。


屋敷があった場所は地面がひっくり返り、臓器が飛び散り土も赤黒になっている。

屋敷自体も倒壊しており、地下室への入り口を覗いて瓦礫の山になっている。


一人の騎士がこちらに近寄ってきた。

「詳しいことは城でお伺いします。」

「そうだね。なるべく国王様がいる場所で話したいから手配頼めるかな?」

「わかりました。では参りましょう。」


マキナとミルフィーは騎士に付き添われ王城へと向かっていった。


「あ、アリスどうしよう…」


マキナはそう呟いたのだった。



アリスside


「う…あ…。」

アリスは目を覚ました。

当たりを見渡すと一面の黒。

何もないし、何も感じない黒。


「う…何、ここ…。」


アリスは気だるい体を起こし、当たりをもう一度見渡した。

目を凝らして見渡しても何も無い空間。

不思議と自分の体は見えるようだ。


「…そうだ。この服みたいな軽鎧を着た途端変な感じに襲われて…。」

アリスはそこまで思い出すと同時に何も感じなかった空間に気配を感じたのだ。

アリスの真後ろからである。


アリスが勢い良く振り向くと白い犬のようなものが居た。

しかしそれは犬にしては大きく、二階建ての家ほど巨大な犬が居た。

「ひっ!?」


アリスは突然のことに尻餅をついてしまった。

そして、そこから逃げようとしたが体が動かなかった。


「か、からだが…動かない…!」


アリスがどんなに力を入れようが体は1ミリも動かなかった。

しかしあることに気づいた。


生身の部分は動かせるのだ。

「もしかして…この軽鎧のせい…?」


そこまで気づくと巨大な犬がアリスの方へと近寄ってきた。

その犬。いや、フェンリルから発せられる威圧はアリスを押しつぶそうとする。


「う…あ…。」

「人間の娘よ。怯えるではない。」

「へ?しゃべったああああああああ!」

「…言葉を話してはおかしいか?」


フェンリルの目がアリスを捉える。


「ひっ!お、おおお、おかしくありませぇん!」

「人間の娘よ。何故私で出来た鎧を着ているのだ?」

「ぼ、防具屋のおばあちゃんから…」

「防具屋の?…そうか。あの2人の内の1人か。」


フェンリルは昔を思い出すかのように話し始めた。


「我は昔村という村を破壊し、人を殺し回っていた。」

「母親から聞いたことがあります。今から50年前ぐらいの事だと。」

「50年前か。この身になり50年も経過したのか。あの時の我は馬鹿だった。己の快楽の為に村を破壊し、人を殺していた。」


アリスはフェンリルの話を聞き入っている。


「そんなある時2人の人間が現れたのだ。人間など恐るるに足りぬ。そう思っていた。」


フェンリルは目を細めた。


「我には人間の魔法も剣も効かぬと思っていた。しかし、その二人の攻撃は私を傷つけた。」

「もしかして、防具屋のお婆ちゃんと武器屋のお爺さんのことですか?」

「もう一人は武器屋を始めたのか。まぁ、そういうことだ。」


フェンリルはアリスの問に答えた。


「私は人間だからと油断していたのだろうな。激戦の末討ち取られてしまった。しかし、恨みから魂だけが現世に残りこうしてお前の着ている鎧に憑いているのだ。」

「え?」

「感じただろう?その鎧を着た時に我を感じただろう?」

「…はい。」


アリスはこの軽鎧を着た時に感じた威圧感、恐怖感を思い出した。


「誰かが我を着たことに気づいて少し興奮してしまったのだ。だからそなたは今ここに居るのだ。」

「は、はぁ。そういうことですか。」

「我には既に人間への恨みなど無い。ここにいる必要もないのだ。」

「…成仏するので?」

「いや。せっかくだしそなたに憑いて行こうと思っている。」


アリスはフェンリルの魂が何を言ったのか理解するまでしばらく時間がかかった。

理解出来た頭はすぐに答えを出した。


「おおお、お断りします!わわわ、私に着いて来るなんて!(何!すごく怖い!)」

「心配するなただで憑いて行こうとは思っていない。我の力を貸してやろう。」


微妙に言葉の意味が双方で噛み合っていない。


「これは決定事項だ。こんなところにいたらつまらん。」

「…はい…。」


拒否権が無い事を言われるとアリスはすんなりと諦めたのだった。


「ではそなたを現実へ戻そう。」

「…お願いします。」

「また後で会おう。」


アリスは会いたく無いと思いながら意識が薄れていった。




「うぅ?」

アリスがなんとも言えない声を出しながら起きるとベッドの上で寝ていた事がわかった。

「あー。アイツのせいで気絶したんだっけ…。」

【アイツとはなんだ。】

「幻聴も聞こえるし、軽鎧…服…だよね?着たままだなぁ。」


ベッドから降り、フェンリル製の服を体の隅々まで見ていたアリス。

「うーん。ちょっとラインが…。」


体に密着するようになってしまったフェンリルの服はアリスの体のラインをくっきりと浮かび上がらせている。


「…これから大きくなるもん…」


アリスは胸に手を当てながら呟いた。

そこに防具屋の老婆がやってきた。


「おぉ。起きたかのぅ。」

「あ、すみません。」

「いやいや。気にするでない。それよりどうした?」


アリスは自分の身に何が起きたかを話し始めた。


「この服?を着た途端変な気配を感じて、そしたら服が縮まってこんなことに。」

「そうじゃのぅ…ピッチリじゃな。」

老婆が試しに引っ張ってみたりしているが隙間すら出来ない。

「外せないのぅ。どうなってるんじゃ?」

「よくわからないんだけど…。うーん。」


アリスは夢の話はしていなかった。

そんな話をしたら頭のかわいそうな人かと思われそうだったからだ。


「(実はフェンリルの魂が憑いてますとか言えないし、ありえないしなぁ。)」

【む。我は居るぞ。】

「あぁ、お婆さん私幻聴まで聞こえます…。」

「大丈夫かえ?休んでいくとえぇ。」

「あ、いえ。仲間が待っていますので…。」

「そうか。気をつけていくのじゃぞ。」

「はい。それじゃ…あ、お金払ってない。」

「金はいいよ。予期せぬことが起きたからのぅ。」

「そ、そうですか。私もこんなことになるなんて予想してなかったですけど。」


アリスと老婆は入り口まで歩いて行く。


「それじゃありがとうございました。」

「気にするでない。こちらも悪かったのぅ。」

「また今度来ますね。」

「また来ておくれ。」


アリスはそう言うと店の外へ出た。

出て早々にアリスはため息を付いた。

「はぁ…。変な夢も見るし、幻聴も聞こえるし…疲れてるのかなぁ…。」

【おい。我は夢でも幻聴でもないぞ!】


さすがにフェンリルも無視されて機嫌が悪くなったのか少しばかりの威圧と服が縮んだ。

「ひぃ!?」


威圧と服が縮んだ事に圧迫感と驚きを覚えたアリス。


「ゆ、夢とか幻聴じゃなかったの?」

【当たり前だ。ついでに声に出さなくても話せるぞ。】


放たれた威圧と服が元に戻りアリスも落ち着きを取り戻し、憑いているフェンリルと話し始めた。


【あー。あー。聞こえますかー。】

【聞こえるぞ。】

【あの、フェンリルさん?なぜ居るんですか?】

【何をおかしなことを言っている。憑いて行くと行ったではないか。】


アリスに憑いている状態故にフェンリルの言葉をはっきりと認識できた。


【着いて行くではなく、憑いて行くだったのね…。】

【最初から言っているではないか。】


アリスは厄介なものに取り憑かれたと思っていた。

しかし、その考えはフェンリルに筒抜けだった。


【厄介ではないぞ。ただで憑いているわけではない。試しに使ってみるが良い。行くぞ。】

【聞こえてた!?って一体何を…っ!】


アリスは体に突然電流が流れた様な感覚を覚えた。

そして次第に体に違和感を覚えていく。


先程まで聞こえていなかった大通りの声、遠くに朧げにしか見えなかったギルドの看板、民家から漂う夕食の香り、そして自分の体の重さ。


音がよく聞こえるようになり、ギルドの看板の一文字一句どころかその先に居る人の顔まで見えるようになり、民家から漂う香りはミルクシチューの香り。

さらには体の重さを感じなくなったのだ。


【…は?】


アリスは感覚が異常に鋭くなったことに驚いていた。


【それが我の力だ。役に立つと思うぞ。試しにギルドまで走ってみるが良い。】

【は、はぁ。わかりました。】


アリスはいつも通りの力で走るつもりだったが、今までの何倍ものスピードで駆け抜けていく。

【あわわわわわわ!!】


あっという間にギルド前に到着したアリス。


【どうだ?すごいだろう。】

【私人間やめちゃったのかなぁ…。】

【おぬしは人だぞ?】


アリスは心のなかに、ちょっと危ない同居人が住み着いたのであった。


グロ注意です。


13/5/12 誤字修正

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