暗殺者と呪いの装備達
マキナは魔剣の呪いによる干渉を遮断しつ続けながらミルフィーの魔法式講座を聴き始めた。
「まず、魔法式は魔道具にも使われる物なの。」
「なるほどね。それで魔法を発動させてるのか。」
「そう。魔法式は開始文字、魔法制御文字、発動文字で構成されているわ。」
「プログラムみたいなものだね~。」
「よくわからないけど、マキナの世界にも同じようなものがあったのね。話を続けるわ。」
ミルフィーはそう言うと話の続きを始めた。
「開始文字は一箇所に書けばいいの。その隣から魔法制御文字を書いていく。魔法制御文字は属性を指定、威力設定、詳細設定で書き込んでいくのよ。」
「ふむふむ。」
マキナが相槌を打つ。
「炎の魔法式ならこうなるわ。 “開始” “炎” “業火” “火球” “滑空” “爆破” “発動”。」
「えっと。開始文字から始まって、属性は炎、威力は業火みたいな感じ、詳細設定は球が飛び爆発する?」
「そう。覚えがやはり早いわね。」
「えへへ。」
マキナは照れ笑いをしていた。
「で、発動中の魔法式は変更が出来ないのよ。書き込もうとする魔力が発動中の魔法に阻害されてしまうのよ。」
「でも、魔力が強ければ無理やり出来るでしょ?」
「出来るにはできるけど、暴走する可能性があるわよ。」
ミルフィーは魔法式の書き込みと暴走の可能性を示唆した。
「魔法式は一文字ずつ魔力を使って書き込むの。だから一個でも変更してしまうとおかしくなってしまう。」
「発動文字消せばいいんじゃ?」
マキナがそう言うとミルフィーは首を横に振った。
「それは出来ないのよ。魔法式の中でも一番魔力が強い場所は発動文字なのよ。そこを発動中に変更しようものなら反発が起きるわ。強い魔力で抑えこもうとしても魔力が詰まり、魔法式が吹き飛ぶわ。その際にその道具自体も壊れる可能性が大きいのよ。」
「あら…。」
ミルフィーの説明に魔法式はめんどくさいものだとマキナは感じていた。
「うーん。とりあえずやってみるね。」
「今言ったことを気をつけなさいよ。」
マキナはそう言うと魔剣へ意識を向けた。
「魔法式抽出開始…」
マキナがそう言うと魔剣に走っていた青いラインが枝分かれし、魔剣を侵食する。
「抽出完了。魔法式“開始” “呪い” “狂” “侵食” “支配” “殺戮” “痛覚遮断” “魔力吸収” “解呪抵抗” “発動”」
「嫌な魔法式ね。作った人はよっぽど恨みでもあったのかしら。」
ミルフィーは嫌な顔をしている。
「痛覚遮断って、斬られても怯まず襲ってくるってことだよね。」
「そうね。死ぬまで襲ってくるわ。」
「嫌な呪いだね。」
アリスも呪いの効果に顔をしかめている。
「うーん。魔法式かぁ。…プログラムみたいなものだよね…。」
マキナはそうつぶやくと魔法式改め魔術式を考え始めた。
魔法は言葉の意味や精神で発動させるが、魔術はプログラムが精神や言葉の代わりに発動させている。
魔法式と魔術式は似ているが魔法式は高度な設定が出来ないのだ。
「うーん。魔力取込はこの魔法式の魔力吸収をそのまま使えば良いかなぁ。」
マキナは1人でブツブツと喋りながら考えていた。
「魔術式構築開始…。
Start
Import Strengthening;
Import Shock ;
Main
stth = Strengthening();
sh = Shock();
stth.set.level(20);
sh.set.output.level(10);
while (1) {
stth.magic_link();
sh. magic_link();
Invocation stth, sh;
}
End
Function magic_link () {
“開始” “魔力吸収” “発動”
}
」
「マキナ?さっきから何1人でブツブツ言ってるのかしら?」
「うん?この魔法式要らないから置き換え用の作ってた。」
「置き換えようって、私の話を聞いていなかったのかしら?」
「ミルフィー。ほら、マキナだしなんとかなるんだよ。」
アリスの一言で何もかも片付いてしまう。
「…そのセリフ何回聞いたのかしら。」
「よーし。やるぞー!リライト開始。」
マキナは魔剣に対し魔力を使ったハッキングを再開した。
魔法式の開始文字に対して魔力リンクを確立した。
魔剣の魔力の波長の逆位相の波長を生成し、リンクを確立した開始文字へ流し込んでいく。
魔力が打ち消し合い、魔法式の発動が弱まったことがわかる。
「マキナ何しているのかしら?魔剣の魔法式が弱まったみたいだけど。」
「逆位相の魔力を流しこんで相殺してあげた。」
「またとんでもない事をさらっとやるのね。」
魔法式が弱まったことにより発動文字に集中していた魔力が薄れていく。
開始文字に流し込んだ魔力をバックドアに利用し、魔法式に対して乗っ取りを開始した。
セキュリティもない構造である魔剣はそれを受け入れ魔法式をマキナに乗っ取られたのであった。
マキナは乗っ取った魔法式から発動文字を消し去った。
それと同時に発動していた呪いが効力を失い、魔剣に纏わりついていたオーラが消えた。
一度魔法式を完全に削除後、マキナは魔法式の代わりに魔術式を書き込みはじめた。
魔術式は強化、衝撃魔術の2つを組み込んでいる。
魔剣には魔力を吸収するハードウェアがもちろんついておらず、魔術式が使えなかった。
しかし、魔剣の魔術式から魔力吸収を参考にすることでハードウェアの肩代わりにさせた。
書き込みが終わると魔剣から青いラインが消え、禍々しい雰囲気を出していた魔剣からは魔力を感じるだけの魔剣に変っていた。
「お前…何をした?」
武器屋の老人は何が起こったのかわからず困惑気味だ。
「また非常識なことを…」
「え?え?」
アリスも老人と同じくわけが分からなかったが、ミルフィーだけはわかっていた。
魔力の流れや魔法式がマキナの魔力に侵食され、書き換えられたことが。
「うーん。バッチリ!魔術は…ここではテストできないなぁ。」
「マキナ説明しなさいよ。2人が困惑しているわ。」
「あ、そうだね。えっと、呪いの魔法式を乗っ取り書き換えました!」
「あぁ。わからんぞ。」
「私もわからない。」
マキナは困った顔でミルフィーを見ていた。
ミルフィーもこちらを見ても困るといった表情でマキナを見返していた。
「あー。お爺さん。これほしいんだけど、いくらかな?」
「…お前にやろう。何をしたか知らんが、呪いを解いたのはお前だ。」
「え!?でも、魔鉱石って…。」
「もともとそれは流れてきたものだ。」
「流れてきた?」
マキナは疑問に思い老人へ経緯を聞いた。
「その剣を作った鍛冶師がある冒険者に渡し、狂い暴れたところを討ち取られ、剣は武器屋へ。しかし、その剣を手にした冒険者が再び暴れだしたことにより剣は厄介者としてたらい回しにされてきた。その結果ここに来たというわけだ。」
「ここまでくるのに相当の血を流しているんだね。」
マキナは魔剣をひっくり返して見たり、掲げてみたりしていた。
「だからそれはお前にやる。」
「うーん。わかりました。ありがとうございます。」
「魔鉱石だからそんじょそこらの物を切っても刃こぼれすらおこさんぞ。」
「おー!」
マキナはキラキラした目で魔剣を見ていた。
そこにアリスが入ってきた。
「お爺さん。剣の刃こぼれ治せますか?」
「ん?どれ。見せてみろ。」
アリスはグラディウスを取り出し、老人へ見せた。
「…手入れがよくされているな。この程度の刃こぼれなら大丈夫だ。明日取りに来ると良い。」
「ありがとうございます!」
アリスは嬉しそうだ。何か思い入れでもあるのだろうか。
「それじゃ、用は済んだかしら。」
「そうだね。欲しい物も買えた?貰ったし。」
「私も用事終わったよー。」
「それじゃ帰りましょうか。」
そう言うとマキナは魔剣を鞘にしまい手に持った。
「それじゃ、また明日来ます!」
「おう。完璧に仕上げてやらあ!」
そう言うと店のドアを閉めた。
王城へ戻る途中、国王に言われた事を話し合っていた。
国指定の冒険者になるか。
「うーん。どうしよっか。」
「私としては賛成だよ!きっと美味しい物が沢山…!」
「「だめだこいつ早く何とかしないと…。」」
マキナとミルフィーが同じ事を言っていた。
「…で、マキナはどう思うのかしら。」
「私としてはいいと思うよ。これからの収入の安定、居住の確保。とかね。」
「そうね…。それは一理あるわ。でも国からということはそれなりの責任があるのよ?」
「大丈夫!なんとかなる!」
アリスが満面の笑みで言っている。
十中八九食べ物のためだろう。
今はちょうどお昼時だ。
「いや、アリスまともに考えて…。」
「大丈夫だ!問題ない!」
「問題しか無いわ…。」
同じような受け答えをしながら王城へ戻っていったマキナ達であった。
部屋に戻りしばらくするとメイドが昼食を運んできた。
客人という扱いもあり、昼食は泊まっていた宿とは大違いだった。
アリスは目にも留まらぬ速さで昼食を完食し、恍惚の表情を浮かべベッドへ歩いて行った。
「おいひぃよぉ…」
「いつも通りだね。」
「そうね。」
マキナとミルフィーはそう言いながら昼食を食べていた。
昼食を食べ終わると数分もしないうちにメイドがやってきた。
メイドは食器をまとめると片付けていった。
「すごいね。呼んでもないのにすごいタイミングで回収していったよ!」
「あれはある意味才能の類に入るのかしら。」
「それじゃ、さっきの話の続きなんだけど、私としてはどっちでもいいよ。」
「国王様に細かい所は相談するしか無いわね。」
「それでいいと思う。
「それじゃ、そういうことにしようか。」
マキナはそう言うと立ち上がった。
「どうしたの?」
「ちょっと試し切りに。」
「はいはい。」
マキナはそう言うと部屋の窓を開け放ち、飛び出した。
後ろからミルフィーの声が聞こえたが既に飛び出した後だった。
「いやっほおおおおおおおお!」
マキナは城壁の外まで跳躍していた。
“身体強化 出力10%”
マキナはそのまま城門外へ着地した。
いきなり上から降ってきたマキナに門番の騎士が驚いていたが、マキナはそのまま走りさってしまった。
「あっ!ギルドカード返してもらってないや。…そのまま行こう!」
マキナは建物の上へと飛び乗ると、屋根伝いに防壁まで進んでいった。
城壁の広場に飛び降りるとそのまま城壁を飛び出していった。
王都へ入るための検査など今のマキナの頭にはなかった。
そのまま走り続けること数分。
マキナは既に森の中に居たのだった。
魔剣を鞘から抜刀し、魔力を流した。
それと同時に魔剣が強化され、魔術による強化の補助も受けた。
マキナが剣を一度振れば太刀筋に衝撃波が発生する。
「うーん。良い感じかな?さて。魔物どこに居るかな?」
マキナはレーダーを見ながら魔物の位置を探していたが、魔物はどこにも居なかった。
「あれ?おっかしいなぁ。」
“広域スキャン開始”
マキナのディスプレイに広域スキャン結果が程なくして現れると魔物はほとんど居なかったのである。
魔物も含め、動物すら居ないのである。
「どういう事…?」
直径30kmのスキャンに王都の人や動物しか映らないのはおかしいことである。
「…一旦ギルドへ行こう。」
マキナはそう言うと王都へ引き返していった。
途中、王都へ入るために検査があるのを思い出したが、そこは城壁を飛び越えることにした。
城壁の壁につかまり左右を確認したマキナはそのまま内側へと飛んでいった。
城壁内側の地面へ着地すると、そのままギルドへ足を運んだ。
ギルドはやはりこの間と雰囲気が同じく、様子がおかしかった。
マキナは受付の職員に話掛けた。
「すみません。聞きたいことがあるんですが。」
「はい。なんでしょうか。」
「魔物が、生き物1匹たりともいないのですが、何かあったんですか?」
「…昨日からです。依頼に出た冒険者から報告がありました。魔物がどこにも居ないと。」
「昨日って、うーむ。」
昨日と言えばマキナ達が100体の魔物を倒した日だ。
「もしかして、この雰囲気もそのせいで?」
「…はい。」
「そうですか。ありがとうございます。」
マキナはそれ以上情報がないと判断し、王城へと戻っていった。
戻るときはきちんと門から入ったのであった。
「ただいまミルフィー。」
「おかえり。どうだった?魔剣の切れ味とやらは。」
「うん。魔物1匹もいなくて確かめられなかったよ~。」
「1匹も?」
「うん。ギルドで聞いてみたら昨日から居なくなったみたいなんだよね~。」
「おかしいわね。魔物が1匹もいなくなるなんて…。」
ミルフィーが考えているとそのまま寝ていたアリスが起きだした。
「うーん。もう夕食?」
「誰も夕食とは言ってないわよ。」
「うー?」
「アリス。国王様の話なんだけど、細かい事は直接相談になったんだけどいいかな?」
「ん~。いいんじゃないかなぁ。」
アリスはあくびをしている。
「なら早いけど、国王様のところに行くかな。」
「そうね。いきましょう。」
「はぁ~い。」
マキナ達は国王の自室へ向かっていった。
階段を上がり国王の部屋の前まで行くと一人の騎士が立っていた。
「すみません。国王様いますか?」
「現在自室にはいらっしゃりません。」
「そうですか。ありがとうございます。」
「自室にいないなら、あのレッドカーペットの先なんじゃないのかな?」
「行ってみるか~」
マキナ達はちょうどレッドカーペットが引かれている前に居る騎士に話しかけた。
「すみません。国王様いらっしゃいますか?」
「この先に居られるぞ。お前たちは先ほどのチームだな。いいぞ行け。」
マキナ達はレッドカーペットを進み、扉を開けた。
そこには国王が座っていた。
隣には宰相が立っており、前には小太りの男が立っていた。
「む。お前たちどうした?」
「先ほどのお話で参りました。」
アリスがそう答えた。
小太りの男が如何にも不機嫌そうな顔でこちらに振り向いた。
「なんなんだお前たちは!!」
「冒険者です。」
「ふざけているのか!!ここは限られたものしか入れない場所だ!貴様ら野蛮な冒険者など入れるわけが…」
「静かにしろ。」
「しかし国王様!」
「聞こえなかったか?」
「…」
国王の警告に小太りの男は黙り込んだ。
「よろしいですか?」
「よい。」
「では、先程のお話ですが。私達チームを強引、権力を使い内政や、外交手段へ使うという事が無いならばお受けします。」
「それはわかっている。」
「それでは成立と言う形でよろしいですか?」
「いいだろう。宰相。あれを持って来てくれ。」
「直ちに。」
宰相は横にある扉に入っていった。
20秒ほど経つと宰相は扉から一枚の羊皮紙と羽ペン、インクを持って出てきた。
「リーダーは前に来てください。」
「はい。」
マキナが前に出る。
「おや?てっきりそちらの女性がリーダーかと思ったのですが、違うのですね。」
「えぇ。私たちのリーダーはマキナですから。」
マキナが小太りの男の隣まで行くと宰相は国王に羊皮紙とインクを浸けた羽ペンを渡していた。
国王はそれにサインをすると宰相へ手渡した。
「こちらにサインをお願いします。」
「はい。」
マキナは契約書に自分の名前とチーム名を記入した。
そして記入したもの宰相へ手渡した。
宰相は国王にそれを渡し、国王はそれをみた。
「うぬ。契約は完了した。これから何かあったら頼むぞ。」
「はい。任せてください。」
「うむ。下がるが良い。カードに関してはギルドに渡してある。」
国王がそう言うとマキナは後ろへ下がっていった。
騎士が扉を開けてくれたので3人とも外へと出た。
「とりあえず部屋に戻ろうか?」
「そうだね。」
「それにしてもアリスも度胸ついたね!」
「そう?」
「そうだよ。最初は噛んでたのに。」
そう話しながら階段を下っていく。
「えっと、あれだよ!女は度胸!」
「愛嬌じゃなかったかしら。」
ミルフィーに突っ込まれながらも部屋までたどり着いたマキナたちだった。
ある館。
そこには先程王の前に居た小太りの男が居た。
「クソ!クソ!なんなんだあの小娘共は!王の前で大恥をかいしまったではないか!」
小太りの男がそう言うとハンドベルを乱雑に鳴らした。
「お呼びでしょうか。」
「あぁ!呼んだよ!王城の客室にいる一番小さい小娘を始末してこい!アイツのせいで恥をかいたわ!!一般人ごときが調子に乗りおって!」
「では、極秘裏に暗殺者を数名雇わせます。」
マキナたちの知らない場所で黒い陰謀が渦巻いていた。
それを知るのはすぐのことだった。
国王と契約を交わした次の日の朝、マキナ達はギルドへ向かっていた。
「やっぱり人が少ないね。」
「魔物が居なくなったことと関係あるのかな?」
「とりあえず、ギルドいってみよ。」
3人はギルドへ入ると昨日より冒険者が減っているように見えた。
3人は不思議に思いながらも受付の職員に話を掛けた。
「すみません。ギルドカードを受け取りたいのですが。」
「はい。お名前をお伺いしてもよろしいですか?」
「マキナ、アリス、ミルフィーです。」
「少々お待ち下さい。」
ギルド職員は近くにある鍵のかかった棚の鍵を開け、中からカードを取り出してきた。
「こちらがカードになります。」
マキナ達はカードを受け取る、アリスとミルフィーはA。マキナはSになっていた。
「今回は国王様の依頼を達成したこと、ランク規定以上の魔物との戦闘、が報告されたため、ランクアップいたしました。マキナ様の対応に関しては、近衛騎士レオン様に勝利したとの報告があったため特例にてSにさせてもらいました。」
「ふむ。」
「チームにSランク所持者が居ることにより、Sランク依頼を受注出来るようになりました。Sランク依頼は受付にてお受けください。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「こちらの物も渡します。」
職員からは小さい板に石がはめ込まれている物を渡された。
「これは?」
「通信魔道具です。一緒に渡すようにと指示がありました。」
「わかりました。」
マキナ達は一旦テーブルの座席に座り、これからの予定を立てていた。
「私はこれから剣取りに行くよ。」
「そうね…私は新しい弓でも買うことにするわ。」
「えっと、市場観光してくる!」
「え、えぇ。それじゃ、午後にここで待ち合わせしましょう。」
3人はそれぞれの用事をこなすために各自行動を始めた。
アリスside
「えっとこの路地を入ったところに…あった!」
アリスは昨日の武器屋に向かっていた。
所々刃こぼれを起こしてしまった愛剣を取りに来たのだ。
アリスは店のドアを開けた。
そこには昨日と同じ場所に座っている老人の姿があった。
老人は片目を開けるとアリスの方を見た。
「お?昨日の娘じゃないか。剣なら直してあるぜ。」
「ありがとうございます!」
「ちょっと待ってろ。」
老人はそう言うと奥へ入っていった。
アリスは店にある武器を眺めていた。
どれも埃を被ってしまっているが傷んでいる箇所など一箇所もなかった。
「もしかしたらあの人すごいのかも?」
「おう。わしはすごいぞ!」
「っ!?」
アリスが声に出した時には老人は戻ってきていたらしく、静かな店の中で足音1つ建てずに戻っていた老人に驚いていた。
「もー。びっくりさせないでくださいよ。」
「すまん。すまん。でこれだな。」
「確かに愛剣ですね。…刃の部分いじりました?」
「お?わかるかい!よくわかったな!刃の部分を欠けにくいように強化してやったわ!」
「本当ですか!」
「おう!。更に切れ味も増しているはずだ!」
「おぉー!」
「お爺さんってもしかして有名な鍛冶師だったりすんですか?」
アリスがそう聞くと、老人は首を横に振った。
「いや。そこらにいるただの鍛冶師だ。」
アリスには老人が何か隠しているように見えた。
「…そうですか。ともかく、ありがとうございました。」
「いいってことよ。珍しいもん見れたしな。」
老人は笑いながらそう答えた。
「料金はいくらですか?」
「いらん。」
「え?で、でも。」
「鍛冶はわしの趣味だ。売るならまだしも、刃こぼれを直すぐらいで金を取ろうなんて馬鹿がすることだ。」
「そうですか。あ、そうだ。いい防具売ってる店とか知りませんか?」
「防具?軽鎧でいいものなら大通りの店がいいぞ。あそこの店主とは知り合いでな、古臭い武器屋から来たと言えば値引きしてくれるかもしれないぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
アリスは苦笑い気味に答えていた。
「また来いよ~。」
アリスは店から出て、大通りの防具屋へ向かった。
歩いた道をもどり大通りに出ると当たりを見渡した。
アリスは武器屋の隣に防具屋があることに気づいた。
「やっぱり武器と防具はセットだよね。」
そう言うとアリスは防具屋へ向かって歩き出した。
アリスが防具屋の扉を開けるとドアベルが鳴った。
それと同時に店の奥から人が歩いてくる音がした。
「はいはい。どなたですか?」
「あ、あの、裏路地の武器屋のお爺さんからの紹介出来たのですが。」
「あ~。はいはい。あの人ね。どうぞ防具見てってくださいな。」
防具屋の店主は60過ぎの女性だ。
店の中は綺麗に片付いており、鎧が心狭しと並べられている。
アリスは一際目を引いた軽鎧を見つけた。
それは白い生地でできている軽鎧だった。
生地自体は薄く、お洒落な洋服のようだ。
「それは以前あの爺さんと獲ってきた獲物から作った軽鎧じゃ。鎧というか微妙だがのぅ。」
店主はそう言うと同じ生地の切れ端をアリスに手渡した。
「これは…?」
「お主の剣でそれを切ってみい。」
アリスは剣を抜くと生地の切れ端に剣を突き立てた。
布はあっさり切り裂かれ展示台に傷が入ると思った。
しかし違った。
剣先を突き立てても貫けず、切ることも出来ない。
アリスは強化してもらったグラディウスでも切れないことに驚いた。
「お婆さん…この生地って一体…?」
「これはWSのフェンリルの生地じゃ。」
「WS!?」
「昔はブイブイ言わせてたんじゃよ…。」
「…ついでにお幾らで?」
「うん?35金貨じゃ」
「…」
「あの人の紹介なら金貨1枚でいいのじゃよ?」
「え?安くしすぎじゃ…。」
マキナが驚いていると老婆はこう答えた。
「だって高すぎて売れないし、スペースの邪魔なんじゃよ」
「…なら買います!」
「ほいほい。来てみるとえぇ。」
アリスはフェンリルの軽鎧?を持つと店の奥の更衣室へと入っていった。
フェンリルの素材で出来た軽鎧は重さがほとんど無く、服を着ているようだった。
「これもう服でいいよね?」
アリスはそう言いながら着ていく。
腕の部分は二の腕まであり、中指のところに指輪が付いている。
アリスは中指に指輪を通すとそのまま二の腕当たりまで引き上げた。
試しに剣で斬ってみたが、衝撃すら吸収、分散するようで振動も余りせず傷すらつかなかった。
腕の関節の動きを邪魔せず、自由に動かせるようだ。
二の腕当たりのフェンリルの生地にはおそらくフェンリルの毛が編み込まれており、ふさふさしている。
両腕にそれを通すと次は上着に袖を通した。襟にはフェンリルの毛が同じように編み込まれている。更に首を守るようにマフラーも付いているようだ
。
マフラーを首に巻き余った部分を後ろへと流す。
「少し大きいような気がする。」
フェンリルの上着は少し大きいようだ。
それを気にしつつ、残りを着始めた。
「…これ完全に服じゃん!」
残りはと言うと、フェンリルの生地と黒い鉄を組み合わせたブーツ、踝から太ももの半分ぐらいまである物、そしてスカートに腰につける短いマントのようなものと、プレートと生地で出来た腰当てだ。
とりあえずアリスはそれらを着ていった。
「とりあえず全部着てみたけど、所々大きい気がす…っ!?」
アリスは自分に大きな気配を感じた。
振り返り確認したが、それと同時に気配も後ろへ移動した。
アリスは再び前を向いたが気配は後ろに。
「何…これ?」
アリスは思った。
まるで素材になったフェンリルが憑いているようだと。
次の瞬間、体から一瞬魔力が抜けるような感覚に陥り膝をついてしまった。
「っ!?」
それと同時に大きかった生地がアリスの体に密着するように縮みだした。
大きかった上着はウエストや胸のラインを強調するかのようにピッチリと体に吸い付き、淡い光を発した。
それ以外にも足や腕、フェンリルの素材で出来た物すべてがアリスの体に合わせて調節された。
服が体に密着することにより、その濃厚な気配がアリスに近寄りアリスを恐怖へ陥れる。
WSのフェンリルの残留思念が威圧となり、アリスにのしかかるのだ。
「あ…あ…」
アリスは体を丸めてしまった。
目は見開き、呼吸は荒くなっている。
「ああ…あああ……あああ!」
そこに老婆が入ってきた。
「おーい。いつまで着替えとるんじゃ…?どうした?」
老婆はアリスの様子がおかしいことに気づくと肩を叩いた。
その瞬間アリスの精神は限界に達してしまった。
「ああああああああああぁああああ!いやあああああああああぁああああああぁぁあぁぁあ!」
「な、何じゃ!?」
アリスはそのままのけぞりながら気を失ってしまったのだった。
ミルフィーside
ミルフィーは大通りの武器屋に来ていた。
この間の戦闘でトロールサイズに矢を打ち込んだ時に動きを止めることすら出来なかったのを思い出していた。
ファイア・エンチャントで燃えたのが良かったがそれでは魔力がいくら合っても足りない。
なにかいい弓が無いか武器屋に来たのだ。
「失礼するわ。何か威力の強い弓はあるかしら?」
「威力の強い弓と申しますとどのくらいな物をご希望で?」
「トロールに致命傷を与えられるぐらいのものね。」
店員はトロールと聞いて少し考えていたようだが心当たりがあったのか答えを返した。
「…少々値が張りますが1つ御座います。」
「それ持って来て。」
「かしこまりました。」
ミルフィーは店員が戻ってくるまで矢筒の中にある、矢の本数を調べていた。
「残り3本って…」
ミルフィーは矢筒を腰に戻し、矢を一本ずつ数えながら商品棚から取っていた。
「27本っと。」
ミルフィーが矢を取り終わりカウンターへ置くと奥から店員が黒い弓を持って帰ってきた。
「…こちらになります。」
「なにこれ?」
「機械弓と呼ばれる物になります。」
「機械弓?」
ミルフィーの目の前には弦が日本クロスして付けられている弓があった。
弓自体が異色であり、上下丸いリングの様なものが付けられていた。
その先には軟鉄で作られた二股があり、それに弦が貼られていた。
「この弓はとある奇人が魔法を使わなくとも威力が出せると言って作ったものでございます。」
「ふーん。試しに射ってもいいかしら?」
「はい。裏庭へどうぞ。」
ミルフィーは裏へ誘導された。
そこには的が1つあり、その後ろには壁が立ててある。
「どうぞ。」
店員はミルフィーに機械弓を手渡した。
「ちょっと重いわね。」
「そうですね。材料に鉄が使われているためでしょう。」
ミルフィーは聞きながら矢を手にとった。
そして弓を構え弦を引き絞る。
見た目とは裏腹に余り力を入れずとも引くことができたのだ。
「…!」
ミルフィーは矢を放った。
鉄が柔らかい物に当たった様な鈍い音が聞こえたと思った瞬間、矢は的を貫通し、壁に突き刺さった。
「…威力強いですわね。」
「…そうですね。私も射る事はなかったのでこれには驚きました。」
「これいくら?」
「在庫処分に困っていたものですので銀貨350枚です。」
「意外と安いわね。この威力でもっと金を取るのかと思ったわ。」
ミルフィーがそう言うと店主は苦笑いをしていた。
「お客様一番ですので、そのような下衆な考えは持ちあわせていませんね。」
ミルフィーと店員は店の中へ戻っていった。
「それじゃ、この矢27本とこの機会弓買うわ。」
「はい。銀貨350枚と銅貨510枚になります。」
「1金貨でよろしく。」
「はい。100銀貨6枚、10銀貨4枚、1銀貨9枚を先にお返しします。」
ミルフィーは銀貨を金貨袋へ入れている。
「次に100銅貨銅貨4枚、10銅貨1枚をお渡しです。」
残りの銅貨も金貨袋に入れると新しい弓を背負い、矢筒に矢を入れた。
「この古い弓処分しておいてくれるかしら?」
「わかりました。ありがとうございました。」
ミルフィーは今まで使っていた弓の処分を頼むと外に出たのだった。
ストーリー中に出てきたプログラム的な何かはjavaやらCやらphpやらを混ぜて作ったご都合主義プログラムです。
13/05/12 誤字修正




