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報告と挑発

レッドカーペットが敷かれ、国の紋章が刺繍されている垂れ幕が壁から垂れ下げてあり槍を天高く突き刺すように持っている騎士たち。

そしてレッドカーペットの先には玉座に座っている男。

その後ろには他の騎士とは違う甲冑を着ている騎士がいた。


「ふむ…。あの依頼を受けた冒険者が居たか。」

「はい。職員の話によると3人組の女チームだそうです。」

「女チームか。大丈夫なのか?」

「情報によりますと、例の件を凌いだ冒険者がチームを組んだとのことです。」

「あれか…。」

「はい。不確定要素が1つありますが、聞きますか?」

「話せ。」

「例の件の時、乱入した者が居るらしいのです。」

「その者がどうした。」

「はい。乱入した直後魔物をすべて一掃したそうです。」

「…雑魚とは言えど、あの数すべてか?」

「はい。多少なりは冒険者に始末されましたが半数以上は残っていたかと。」

「それとこれはどういう関係があるのだね?」

玉座に座っている男が横にいる男に疑問を投げかけた。

「例の女チームにその者が入っているのです。」

「…ほぅ。」

玉座に座る男が目を細めた。

横に立つ男に1人の男が近寄った。

「…分かった。下がっていいぞ。」

「了解」

男は柱の影へと戻っていった。

「…例の冒険者達が出発したようです。」

「そうか。…宰相は今回のことをどう思うか?」

「はい。やはりカーディ絡みかと。」

「やはりそうか。」

座っている男は目を閉じ、何かを考えているようだ。

「国王様…。」

「国民の避難をいつでも出来るように準備しておけ。」

「わかりました。失礼します。」


宰相は頭を下げ、脇にある通路から出ていった。


「もはや避けられぬ運命なのか。」

王はそう呟いた。

「国王様。我々近衛騎士がお守りします。」

後ろに立っていた騎士が呟きに答えた。

「頼もしいものだ。」




場面は代わりマキナ達。

「うーん?依頼書にはどこって書いてあったっけ?」

「ここで目撃証言があったらしいよ。」

「マキナなら探せるでしょ?」

「できるけどいいの?」

「そのほうが早いと思うわ。」

「それじゃやるね。」


“広域スキャン開始”


マキナのディスプレイにスキャン結果が表示されていく。

マキナを中心に青や白が次々に現れていく。その中に白い点が重なり合っている場所を見つけた。


「ん。見つけた。」

「どこに居るかわかったのね?」

「うん。でも数がすごく多いよ。」

「どのくらいかわかるかな?」

マキナはレーダーに映った点を数えたが重なり合っていてよくわからなかった。点の濃さと数を大体数えた結果がでた。

「多分…100ぐらい。」

「100…?」

「う、うそ…。」


普通魔物は一部を覗いて群れを作らない。

おそらく王都からの依頼はこれが異常だから出されたものなのだろう。


「兎に角行くしか無いわね。」

「そうだね。」

「いざとなったら逃げよう!」

「…マキナいるしね。」


マキナを先頭に反応があった付近へと移動を開始した。

移動するに連れて草が踏み倒されているのが目に入ってきた。


「これってやっぱり移動後だよね?」

「そうね…この大きさや足跡みて。」

「うん?…大きいのから小さいのまであるね。」

「本当だ。ってことは多数の魔物が群れを作って進んでるってことだね。」

アリスが疑問を抱いた後、ミルフィーが足跡を見つけた。

それは一種類の魔物ではなく複数の魔物の足跡だった。

「…警戒を怠らないこと。いいわね?」

「警戒ならまかせろー!」

「まかせたー!」


索敵が一番できるマキナに警戒を任せ、アリスとミルフィーは他に痕跡が無いか探していった。

枝に付いた毛、足跡の大きさ。

色々なものを調査していた。

マキナが突然腕を横に出すと立ち止まった。

「マキナ?」

「どうしたのかしら?」

「目標に近いよ。気をつけて。」


マキナがそう言うとミルフィーは弓矢を構え、アリスは剣を抜いた。

茂みに隠れながら進むと少し開けた場所が茂みの中から見えてきた。

そこには多数の魔物が群れをなしていた。


「見て。」

マキナが2人に促すと2人も茂みから様子を見始めた。

「な、何よこれ…。あのゴブリンの時よりおかしいじゃない。」

「たしかに。あのゴブリンもおかしかったけど、これはちょっと。」

「よくわからないけど、見てあれ。」

マキナが小さく指差す方向には黒い甲冑を着た何者かが魔物の群れの中にいた。

その男は何かを実験しているように見える。


男の目線の先には多数の魔物に押さえつけられたオオガルフの姿があった。

男が手をかざし、何か魔法を発動させた直後オオガルフの動きが止まった。

魔物たちがオオガルフから手を離した。

オオガルフは男の前に座りだした。


「な!?魔物を操ったというの!?」

「そ、そんな!?」

「え?何?大変なことなの?」

「いい。マキナ。魔物は絶対に人には懐かないし、命令も聞かないものなの。」

「じゃあ、なんで言うこと聞いたんだろう。」

「わからないわ。何か特別な魔法でも…。」

ミルフィーがそこまで言った時だった。

謎の魔法で手懐けられたオオガルフの耳が動いた。

顔を左右に振り鼻を効かせているようだ。


オオガルフはやがてマキナ達が隠れている茂みに向かって唸り声を上げ始めた。

それを合図に甲冑の人物が魔物たちを一斉に茂みに向けて警戒を始めさせた。


「まずい!位置がバレたわ!」

ミルフィーが少し焦り気味で言い放った。

「そうだね!数が多いけど行ける?」

アリスは剣を再び握り直しそれに答えた。

「マキナがいればいけるわ。任せたわよ。」

ミルフィーはマキナの方を向いて期待した目で答えた。

「任せて!」

マキナはそう言うと茂みから飛び出した。

それに続きアリスとミルフィーも飛び出していった。


「魔物ども!あいつらを殺せ!絶対に逃がすな!」

黒い人物が魔物に指示を飛ばした。

魔物はその声に従うように向かっていった。


「マキナ!援護行くわ!」

ミルフィーはそう言うと矢筒の蓋を全開にし、空へ投げた。

「私のオリジナル見せてあげるわ。<風よ!ウィンド!>」

ミルフィーが魔法を発動させると空に散らばった矢の一本一本がその場に固定された。

その矢は魔物の方へ向き、風の力で矢自体が回転を始めた。

「いくわよ!<風よ!吹き荒れろ!ウィンド・ストーム!>」

ミルフィーが魔法を発動させると空で留まり回転していた矢が風の暴風により吹き荒れた。

矢は回転により貫通力を増し、魔物の体へ突き刺さっていった。

矢は体内で止まることを知らず、魔物の体をその回転で抉りながら突き進む。

大型の魔物では貫通には至らなかったが、小型の魔物は矢が貫通したことにより血を吹き出した。


矢筒に入っていた合計30本の矢が一斉に発射されたのだ。

現代で言うならそれはショットガンに匹敵するだろう。

「マキナ矢筒頂戴!」

「了解!」

マキナは4次元から矢筒を取り出すとミルフィーに放り投げた。

ミルフィーはそれをキャッチし腰に付け直した。

「<炎よ!我に力を与えよ!ファイア・エンチャント!><土よ!その身を槍と化せ!アース・ニードル!>」

弓に炎のエンチャントを付加したミルフィーは矢を構えながら詠唱していた。

その魔法は相手の地面を変化させ、多数の魔物を串刺しにしていった。

放たれた矢は燃え盛り、敵を射抜いた途端敵が燃え出した。


ミルフィーの援護により魔物は浮き足立っていた。

一瞬で同胞が死んだことにより混乱していたのだ。

「魔物ども!うろたえるな!奴らを殺すことだけ考えろ!」

男の罵声にも似た指示で魔物は再び動き出し、前衛のマキナとアリスへ向かっていった。


「来るわよ!<風よ!彼の者に加護を!ウィンド・ブレス!>」

ミルフィーがそう言うとアリスの体に一陣の風が纏わり付いた。

「ありがと!行くわよ!」

「よーし。いくぞー!」

“ATS 高周波ブレード”


アリスはミルフィーからの支援魔法により俊敏性が強化され、相手のある程度の攻撃は風が受け流してくれるようになった。

マキナは高周波ブレードを呼び出し敵に斬りかかった。

アリスもそれと同時に斬りかかった。


マキナはもともと速い動きだったが、アリスもマキナほどとは言えないがいつもより速い速度で動き、敵を斬り込んでいる。


ミルフィーの矢が次々に刺さり魔物が燃え出し、マキナに斬られた魔物は2つに分断されていく。

ミルフィーに向かっていた魔物はカバーに回ったアリスに切り捨てられていく。


「何をしている!早く殺せ!」

黒い男が叫んでいる。

しかしその叫びは震えていた。


100近くも居た魔物が一瞬にして30近く消失し前衛の2人で魔物はどんどん数を減らされていく。


マキナは後ろへ回り込んだ魔物の顔に肘打ちを食らわせた。

手加減されていない肘打ちだったため、頭蓋骨が陥没し、脳に致命的なダメージを追わせていた。

その結果、魔物の顔は完全に潰れてしまっていた。


「次行くよ!」

マキナは斬りこみながら跳躍し、左手で大型の魔物の頭の上に乗った。

そのまま飛び越え際に手加減なしの衝撃魔術が大型の魔物に行使され、魔物の頭は跡形もなく炸裂してしまった。

辺りの魔物に脳汁や肉片などが散らばり、頭があった場所からは血が吹き出す。

魔物が密集していた地面に着地したマキナはそのまま刃を横に向けて体を一周させた。

驚くべき切れ味を持つ高周波ブレードでマキナの周りに居た魔物はすべて2つに切断された。

血の雨が降り注ぐマキナは立っていた。


「ひぃ!な、なんなんだ!あの小娘!」

黒い男は完全に怯えていた。

最初は3人など魔物の軍勢で殺してしまえばいいと思っていた。

しかし、始まってみると完全にこちらが押されており相手には傷ひとつ付けられていないではないか。


「ま、魔物ども!ここに残って足止めをしろ!」

そう言うとその男は鉄のこすれる音をたてながら逃げ出した。


「待ちなさい!」

アリスが進もうとすると魔物が道を阻んだ。

「そこを退けええぇぇ!」

アリスが目の前の魔物に斬り込んだ。

目の前の魔物は斜めに斬られ地面に倒れ伏したが、横に居た魔物が反撃に出た。

魔物のナイフはアリスが纏う風の鎧で軌道を逸らされ、空を斬った。

そこにミルフィーの矢が射られ魔物は炎に包まれた。


アリスが魔物の壁を突破し甲冑の男に追いついた時だった。

その男は振り返りと同時に剣を振るってきたのだ。

アリスは剣でそれを受け流した。


「へ、へへ。こ、殺されるならお前を道連れにしてやる!」

黒い男はそう言うと剣を構え、奇声を上げながらアリスへと斬りかかった。


アリスはそれを冷静に剣で弾き、甲冑の隙間を狙って剣を振るった。

男が弾かれた拍子に体がずれてしまったためにアリスの剣は甲冑の表面をなぞり、音を立てながら流された。


黒い男は体制を立て直し再び特攻を仕掛けてくる。

「馬鹿の一つ覚えかな?」

アリスは突撃してくる男の剣を弾くのではなく、体をそらし剣で受け流した。

男は前のめりになり体制が崩れ、そこにアリスの蹴りが入った。

それにより男は地面に倒れてしまった。


男は必死に起きようとするが、アリスの剣が甲冑の隙間に入り込み首を切りつけた。

「ガッ!」

首にある頸動脈を斬られた男は首から血を吹き出しながらもがいていた。

「あ“あ”あ“あ”」

もがけばもがくほど出血がひどくなり次第に男の顔は真っ青になって行く。

「あ…ガ…」

男はもがいていたが、しばらくすると出血多量でショック死してしまった。

アリスはそれを見届けるとマキナ達の方へと向かっていった。



「はぁ…はぁ…ちょっとつかれたわ。」

「大丈夫?あんなに魔法使ってたし魔力もうないんじゃないの?」

「大丈夫よ。こんなの休憩すればすぐに治るわ。」

「おーい。大丈夫だった~?」


マキナとミルフィーが話しているとアリスがやってきた。

アリスはまだまだ体力が残っていそうだがミルフィーは魔力の使いすぎで疲労気味だ。


「アリス。ミルフィーに肩かしてあげて。」

「ちょ、大丈夫よ!」

「無理しないの~。」


3人はアリスが倒した男の下へと近づいた。

男は完全に死んでおり甲冑からは血が溢れ出している。


「なにか持ってないか探してみるね。」

「任せたわ。」


マキナが甲冑を脱がそうとすると、マキナの手が止まった。

「…これどうやって脱がすんだろう…。」

「あはは…。」


アリスは苦笑いしている。

マキナは1つの案を思いついていた。

それは…

「そおおい!」


甲冑のプレートが紙のように裂けていく。

マキナは外せないなら壊してしまえと言う考えに至っていた。

さすがにこの行動はアリスにもミルフィーにも想像できなかったらしくぽかんっとしている。


「うーん。何か命令書らしきものは見当たらないなぁ。」

「ま、マキナ。もう少し常識を持ったほうがいいわ。」


息を整えたミルフィーが近寄ってきた。

「ミルフィーもう大丈夫?」

「えぇ。大丈夫よ。」

「その男ひっくり返してみてくれる?」

アリスがそう言うとマキナは男をひっくり返した。

「見て見て。あの胸の紋章。カーディの物だよ。」

「あ、本当だ。地図で見たとおりだね。」

「でもなぜこんな場所で…」


アリスとマキナが考え始めたがミルフィーがそれを止めさせた。


「私達の依頼は調査と殲滅よ。深入りしすぎると危ないわ。」

「…そうだね。」

「さんせー。」

「とりあえず、この男は此処に放置して後は騎士に任せましょう。」


マキナ達は依頼の達成報告をするため王都へ戻っていった。



途中なんどかミルフィーのために休憩をしながら歩いていたため現在は15時39分だ。

昼食時は既に過ぎている。アリスは既にダウン寸前だ。


「ギルド行く前に昼食にする?」

「賛成」

「アリス…相変わらずよね。」

マキナがそう話を切り出した途端にアリスが即答していた。

「それじゃ、そこらの食堂にでも…」

マキナがそう言っていたが、既にアリスは走り出していた。

「あー…。」

「気にしてはダメよ。」


マキナとミルフィーが呆れているとアリスが一件の建物の前で止まると腕を振っていた。

どうやらそこの食堂がいいようだ。


マキナとミルフィーはアリスが入った食堂へと足を踏み入れた。


アリスは既に注文が終わっているのか席に座っていた。

「アリス?もう注文したの?」

「うん。お腹すいてたからね!」


マキナとミルフィーも席についた。


「で、何を頼んだわけ?」

「スタミナを使ったらやはりお肉!」

「いつも通りだね。」


アリスのいつも通りの注文を聞いた2人は6分ほど待っていた。

店の人がよく焼けたいい香りのするお肉を持って来のだ。

アリスは今にも飛びかかりそうな目つきだ。


店の人が全員分並べ終わるとアリスはナイフとフォークを手に取り食べ始めた。


「アリス。もっとゆっくり食べたらどうなの?」

「だって!…お腹が…減ってるんだもん!」


アリスは食べながら答えていた。

今日もアリスはいつも通りです。



3人がギルドに入り、アリスが持っている依頼書を受付の人へ手渡した。

「お疲れ様です。後日国の方から呼び出しがあると思いますのでそれまでお待ちください。」

「呼び出しかぁ。」

「はい。国からの依頼ですのでここで依頼内容を話されても困るので。」

「じゃ、明日またギルドに来ます。」

「わかりました。お疲れ様でした。」


アリスが一通り話を終わらすと宿へ戻ろうと提案していた。

「そうね。疲れたわ。」

「賛成~」

「夕食~♪」


3人はギルドを出て反対側の道にある宿屋に向かうことにした。

現在時刻は16時49分だ。

アリスは少し楽しそうだ。

「アリス?さっき食べたばかりなのにまた食べるの?」

「何言ってるのよマキナッ!別腹よ!」

「あなたの場合は常に別腹じゃないのかしら…。」


疲れているミルフィーは既に投げやりだ。

ギルドからでて話しながら歩いて行くと朝も通った広場に着いた。

その道を3人はまっすぐ進み宿屋を目指した。

「ミルフィー。そういえば、あの時の矢の雨はすごかったよ!」

「ん。あれは結構矢と魔力使うけど一度にたくさん攻撃できるのよ。」

「へー。ショットガンみたいなものかー。」

「そのしょっとがんと言うものはなんなの?」

「私の出した武器あったでしょ?」

「武器というと…あの身長より大きな物のことよね?」

「そうそう。それのもっと小さいやつなんだけど、魔弾を一気になん十発も前方にばらまくの。」

「私のと同じようなものね。」

「そうだね。やってることは同じだね~。」


そんな話をしていると宿の近くまで付いていた。

アリスは走って宿に向かっていった。


「…相変わらず元気ね。」

「アリスだからね。」


ミルフィーとマキナはゆっくり歩きながら宿へと入っていった。


「あーお腹へった!夕食食べてくるね!」

アリスはそう言うと食堂へ入っていった。


「わたしたちは部屋に戻りましょう。」

「そうだね。」


ミルフィーとマキナはアリスを食堂に残し、部屋に戻って行った。


部屋の鍵を開け、中に入るとミルフィーはベッドに寝転んだ。

「疲れたわ…。」

「魔法って結構精神的に疲れるみたいだね。」

マキナもそう言うとベッドの上に座った。

「そうね。特にアリスに使ったウィンド・ブレスは維持するのに結構持っていかれるのよ。」

「そっかー。でも訓練していけば持つようになるよ!」

「そうね。まだまだね。」

ミルフィーはそう言うと目をつぶった。

マキナはそれを察して照明を落としたのだった。


その頃アリスは…。


「うーん!今日は魚料理ね!」

アリスの目の前には焼き魚と白米があった。

「魚もだけど、料理は出来立てのうちに食べるのが一番美味しいのよね!」

アリスは魚を綺麗に開き、骨と身を分けて食べ始めた。

「ん~!おいしい!この味、そしてこの油!」

アリスは口に頬張りながら食べ進んでいく。

「しあわせぇ…。」


その後アリスが戻ったのはマキナ達が寝てから1時間後のことだった。


月が沈み、太陽が昇る頃、マキナ達は起きだした。

ディスプレイには7時29分と映し出されていた。


「朝かぁ。」

マキナはアリスの方へ向くと、小声で魔法の言葉を呟いてみた。

「アリス。ご飯食べちゃうぞっ」

マキナがそう呟いた途端、アリスの目が見開き飛び起きた。

「何!どこ!」

マキナはそれを眺めながら顔をニヤけさせていた。

「アリス…ふ、ふふふ、あはははは!」

「え?あ、あれ?」


マキナが馬鹿笑いしながらアリスがベッドの上で立ちながら混乱していると、よほどうるさかったのかミルフィーが起きだした。


「…うるさいわ。何よ…。」

「あはははは!」

「だ、騙された!」


大騒ぎしていたマキナ達は食堂へ向かっていた。

「いやー。まさか寝てる時まで反応するとは思わなかったよ…ふふ。」

「マキナのいじわる~。」

「ご、ごめ・・・ぷふ!」

「むー!」

「朝から何やってるのかしらねぇ…。」


マキナは笑いを堪え、アリスは頬を膨れ、ミルフィーは呆れている。

食堂に入るとアリスはその評定のまま受付に向かっていった。


いつものようにミルフィーとマキナは席に座り、配膳されるのを待っていた。

そこへアリスが戻ってくるとその評定は先程とは打って変わって満面の笑みになっていた。


「アリス。どうしたのかしら?」

「うーん?朝食たくさん頼んじゃった!」


アリスがニコニコしていると配膳係が2人やってきた。

各自の朝食が置かれたが2人だけおかしかった。


「…あのー。アリスさん?この量は何でしょうか。」

マキナは自分の朝食とアリスの朝食、そしてミルフィーの朝食を見比べた。

ミルフィーは通常のセットだが、アリスは二人分もの量がある。

そしてマキナはパン一切。


「マキナ。食べ物の恨みは恐ろしいのよ!」

「とほほ…。」


マキナはパン一切を口の中に入れた。




「よーし。朝食も食べたし、ギルドいこっか。」

「…おー」

「マキナ?元気ないよ?」

アリスはニコニコしながら問いかけてきた。

「いや、ナンデモナイ。」


アリスはいつもよりたくさん食べたため朝からテンションが高めだ。

気分良く鼻歌を歌いながら歩いて行くといつもの広場に出た。


「あれ?いつもは露店が出始める頃なのに誰も出してないよ?」

「おかしいわね…。何かあったのかしら。」


マキナとミルフィーは疑問に思いながらもギルドに向かって歩いて行っているアリスの後を追いかけた。


ギルドの中に入ると雰囲気がいつもと違うように感じた。

いつもと違って空気がピリピリしている感じがするのだ。


そんな空気を感じながらアリスは受付の人へ声を掛けた。

「この依頼の報告できました。」

「はい。…少々お待ち下さい。」

職員は上の階へ上がっていた。

他の職員も冒険者と同じような雰囲気になっている。


「何かあったのかな?」

「さあ?」


すぐにギルドの職員が戻ってきた。


「これから王城まで案内させてもらいます。」

「王城まで行くの!?」

「はい。国王様直々の招集なので気をつけてください。」

「うぅ…胃が痛くなる…」

アリスと受付の女性がマキナとミルフィーの元へ戻ってきた。

「おかえり。えっと、どうしたの?」

「これから王城だって。」

「は?アリス。何かしたのかしら?」

「報告を直々に聞きたいんだって。」

「またおかしな話ね。…この雰囲気と関係あるのかしら。」

「御三方、準備はできましたか?」

「皆大丈夫よ。」

「では、行きましょう。」


受付の女性に導かれ、王城への道を進んでいく。

城壁前、高台には、それぞれ2人の騎士が建っている。


「止まれ。此処から先は王城だ。許可無き者は立ち入ることは出来ない。」

「ギルド職員の者です。例の冒険者チームを連れて参りました。」

「暫し待たれよ。」


そう言うと片方の騎士は手の甲に付けられている魔石に向かって話し始めた。

どうやら通信系の魔道具のようだ。


「ミルフィー。あの石みたいなのって何?」

「あれは魔石よ。魔力が篭っている石で、好きな魔法を組み込むことで魔法が下手な人でも高等な魔法を発動できるようになるの。」

「へ~。魔術みたいだね。」


「…分かりました。入場許可が出ている。入っていいぞ。」

「扉を開けろー!」

通信していた騎士が通行許可を出すともう一人の騎士が声を張り上げて開門の指示を出していた。


扉がゆっくりと開いていく。

「さぁ。行きましょう。」

受付の女性、ギルド職員が歩き出し、それに続いてマキナ達も続いて歩き出した。

後ろでは城門が閉まる音が聞こえてきた。

「人力かぁ。大変だね。」

「人力以外の何で開けるのよ。」

「えっと…魔道具とか?」

「無理よ。あんな重たいものを開ける魔道具なんてないわ。」

「あれ?無いんだ。」

「そうよ。もしあったとしてもどれだけ魔力を消費するかわかったものじゃないわ。」

「あー。そっか。物理学なんて無いんだっけ。」

「よくわからないから人力が一番よ!」


アリスがそう突っ込んだ。


王城の入り口には身分の高そうな服を着ている男性の姿があった。

「チームの方を連れてきました。」

「お待ちしておりました。中へどうぞ。」

「では、私はこれで。」

そう言うとギルド職員はギルドへ戻っていった。


王城の中は高そうな壺や装飾などは無く、質素な作りだった。

「うーん?もっとこう…王城っていうと派手な考えがあったんだけど…。」

「マキナ!」

ミルフィーは咄嗟にマキナに注意をした。

そうでないと不敬罪になりかねないのだ。

「いえいえ、よろしいのですよ。国王様は城に税金を使うより民の生活や兵への養いに使っておられます。」

「ほほーう。いい国王様ですね。」

「そう言っていただけると仕えております身にも嬉しいですね。」

マキナ達は国王が待つ部屋へと向かっていた。

国王の部屋は城の上の方にあるらしく、階段を登っている。


「今回は個人的な会見の為に国王様の自室にて報告をしてもらいます。」

「個人的?」

ミルフィーが聞き返した。

「はい。居合わせるのは近衛騎士隊長と私、そして国王様です。他の物には知られたくない物で。」

「…だからギルドに依頼したのね?」

「…そうです。巻き込んでしまって申し訳ないのですが、念には念を入れさせていただきました。」

「そう…。」


階段を登りきりレッドカーペットがある道の手前を曲がると、他の扉とは異なる扉があった。

男はその扉にノックをした。

「国王様。お連れしました。」

「入れ。」


男が扉と開けると、そこには他の騎士とは違う甲冑を着込んでいる人物と赤いマントをつけている男の姿があった。

「お待たせ致しました。」


マキナ達が中へ入ると男はドアを閉めた。


「さて。今回依頼を受けてくれた冒険者だな?」

「ひゃ、ひゃい!」


アリスは緊張のあまり噛んでしまっている。

先程から話していなかったのは緊張のためだったのだ。


「よい。気を楽にせい。」

「は、はい…。」

「では報告を聞きたいのだが、よろしいか?」

「ま、任せてください!」


「ま、まず、依頼書にあった通り森へ入りました。目撃情報の位置には何もおらず、何かが居たような痕跡だけが見つかりました。」


アリスはまだ肩に力が入っているようだった。


「ほう。それで?」

「そ、その後辺りを索敵した所、近くに100ほどの魔物の群れが居ることが判明しました。」

「…レオン。魔物が100も群れると思うかね?」

「いえ。国王様。魔物は100も群れません。多くとも10前後かと。」


近衛騎士隊長はレオンと言う名前らしい。

レオンは王に問を求められ答えた。


「やはり何かあるのだな。続きを頼む。」

「えぇ…その魔物たちは一種類ではなく、多種類の魔物が集まり出来た群れでした。私達も最初は驚きました。」


アリスの言葉に近衛騎士隊長が反応をした。


「まて。多種類のだと?」

「はい。トロールからゴブリンまでの多彩な魔物で構成されていました。」


アリスは徐々に肩の力が抜けてきたのかいつもと同じようになってきている。

レオンはアリスの言葉を聞いて考え込んでいた。


「レオンはどう思うかね?」

「ありえないことだと思います。本来魔物は同じ種でしか群れを形成しません。」

「これが一番重要なのですが、魔物の群れの中に人間が居ました。」


アリスの言葉で3人は驚いた顔になった。


「そ、それは本当なのですか!?国王様!」

「ありえん。魔物が人間になつくなど。」

「そうです。魔物は人間には何があろうと懐きませんし、従いません。」


3人の意見はありえないで一致していた。

そこでミルフィーが声を掛けた。


「なら見てくるといいことです。街の北東にある森の中よ。」

「宰相。」

「はっ。直ちに。」


国王が宰相に声をかけるとすぐさま部屋を出ていった。


「…続きを聞こう。」

「その人間は魔物を操り、オオガルフを捕獲していました。その人間は手をかざし、何かをしたと思ったらオオガルフは抵抗を止めて人間に従うようになりました。」


アリスの話を聞いて徐々に顔が険しくなっていく国王。

それに同調するかのようにレオンの顔も険しくなっていく。


「オオガルフの耳と鼻のせいで私達の居場所がバレてしまい、調査は一旦終了し殲滅に切り替えました。」

「…貴女達は3人で100の魔物を倒したというのですか?」

レオンがアリスに疑いの目を向けた。

「はい。魔法と剣で殲滅しました。」


レオンは3人の容姿を見ていた。

確かにアリスは剣を携え、後ろのミルフィーはエルフで魔法が長けている。

しかしマキナは何もつけておらず、心ばかりの装甲を付けている服を着ているだけだ。


「私には信じることができません。国王様はどう思われますか?」

「…確かに魔法と剣があれば殲滅は出来るだろう。しかし、信じることはできん。」

「…話を進めます。操っていた人間は私が討ち取りました。その人間の胸にはカーディ国の紋章が刻まれていました。」


その言葉に国王とレオンは反応した。


「国王様。まさかカーディの国が魔物を操る術を開発したのでは…。」

「その可能性は捨てきれぬ。だが、その話の信用性は宰相が帰ってきてからにしよう。」


国王がそう言うと椅子に座った。

レオンは先程からチラチラと、特にマキナの方へ視線を流していた。


「…(あの娘、何も武器を持っていないどころか隙だらけではないか。本当にこのチームが殲滅したのか…?)」


レオンが目を細めて考え見ていると、さすがにそれに気づいたのかマキナが声を掛けた。


「あの、レオンさん…でいいのかな?なにか私に用があるのですか?」

「レオンで構わない。私は本当の所貴女達の報告を疑っているのだ。ましては貴女みたいな年端もいかない娘が…。」

「なら勝負してみますか?」


マキナがレオンを挑発した。


「ちょっと、マキナ何言っているのよ!」

「いいじゃん。あっちは疑ってるんだから手っ取り早く解決するには力を示したほうが早いよ。」


ミルフィーがマキナに自制を促しているがマキナはやめる気はないようだ。


「宰相が帰ってきてもきっとレオンは信用しないと思うよ?」


マキナがそう言うと視線をレオンに向けた。

レオンは視線を外さず、マキナを見ていた。


「どうしてこうなった…」


珍しくアリスが悩んでいた。


「…練習場の使用を許可する。」

「ありがとうございます。国王様。」


国王がそう一言だけ呟いた。

それは近衛騎士隊長レオンとマキナの勝負が決まった瞬間であった。


「レオン。実力見せてあげるよ。」

「望むところだ。」


「あぁ。めんどくさいことに。」

「どうしてこうなった…どうしてこうなった…」


アリスとミルフィーは挑発するマキナを遠い目でみていた。

誤字修正。

13/5/12 誤字修正

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