依頼主と兄とげかしゅじゅちゅ 前半
注意
ここで書いてあることは作者が調べた結果であり、合っているとは言えません。
間違っている可能性が多々あり、そこはご都合主義と解釈してくださると幸いです。
アリスが十分にお肉を堪能した後マキナ達は依頼人が住んでいるという地区へと向かっていた。
「なんというか…。」
「貧困街ね。」
そこは貧困街とも思えるほど活気がなく、着ている服はボロボロだ。
貧困街の一角にその家はあった。
「ここみたいだね。」
「依頼書にはそうなっているわね。」
マキナがドアをノックした。
「すみませーん。依頼を受けた者ですがー。」
マキナがそう言うと中から走ってくるような音が聞こえ女性が顔を出した。
「すみません。おまたせしました。」
「いえいえ。気にしないでください。こちらが依頼の品です。数が書いてなかったので十分だろうと思う量を持って来ました。」
「あ!すみません。ご迷惑を…。」
「大丈夫ですよ。大して苦労してませんし。」
後ろでアリスとミルフィーが苦笑いしている。
「あ、良かったら飲み物でもどうですか?っと言っても満足なものはお出しできないですが。」
女性は少しくらい顔をしながら提案をしてきた。
「良いのですか?ごちそうになります。」
「え!ちょっとマキナ!」
「では中へどうぞ。」
マキナは中へ入っていった。
しょうがなく2人も続いた。
マキナはひとつの考えがあったのだ。
「汚いですがどうぞそこへ腰をおろしになってください。」
「ありがとうございます。」
女性が飲み物の準備を始めている。
そこにマキナが声を掛けた。
「ひとつ聞いてもいいですか?」
「何でしょう?」
「あの病去草はどなたに使われるので?」
「…上の階に病気で伏せてしまった兄が居るのです。」
「それはいつぐらいから?」
「1ヶ月ほど前からです。」
「…後で症状見せてもらっても?」
「構いません。」
女性はそう答えるとお茶を3人分出してきた。
「あれ?あなたの分は?」
「いえ、私はいいのです。」
マキナは見逃していなかった。
これが最後の茶葉だったのを。
茶葉が入った筒をひっくり返していたのだ。
おそらく3人分が精一杯だったのだろう。
「頂きます。」
「どうぞ。」
マキナはお茶を飲みながら身の上話を聞いていた。
親は子を捨て何処かへ。
なんでも兄は冒険者だったらしい。
ランクは低いがそれなりには収入はあったらしい。
周囲の人に食べ物を少しばかり配っていた。
病気で倒れてから貯めていたお金を使って生活していたが限界だと言う。
近く、彼女も冒険者になろうとしているらしい。
「ごちそうさまです。お兄さん見せてもらっても?」
「はい。こちらです。」
「2人は待っててくれるかな?」
「考えがあるのでしょう?待っているわ。」
「うん。分かった。」
そう二人が答えると女性とマキナは上へ上がっていった。
二階に上がり女性がドアを開けた。
そこにはやつれている男性が居た。
“スキャンモード”
女性は病去草を煎じて兄に飲ませている。
マキナは男性の体を調べていた。
スキャンは有機物、無機物を調べられ、人や動物なら体の一部の症状まで調べることが出来る。
ちょうど治癒魔法が効かない物など。
女性が飲ませ終わったところで解析結果が表示された。
男性は癌だ。
場所は胃でステージⅡだ。
転移は見受けられない。
「(部分切除で行けるはず。)」
マキナは登録されている治療法を確認し、手術は可能だと判断した。
女性が部屋から出るそうなのでマキナも一緒に部屋から出て、1階へ向かった。
「私なら兄さんを治せます。直接見てわかりました。兄さんは癌です。」
「え?」
階段の途中での出来事だった。
「何を言っているのですか?それと癌とはなんですか?」
「癌とは細胞。体を構成する物なんだけど、それが異常を起こして悪性なものになっちゃうんです。」
「…それが続くとどうなるんですか?」
「正常な体を蝕んで行き、やがて死にます。病去草ではその場凌ぎにしかなりません。」
「そん…な…。」
「っ!」
女性が階段の途中で気を失ってしまいマキナは慌てて女性を抱き寄せた。
その際音が出てしまい、2人が出てきた。
「マキナ…。今度は何をしたの…?」
「マキナってよく人を気絶させるね。」
「不可抗力だよぅ…。」
マキナは彼女の部屋を探し、そこに彼女を寝かせた。
勝手に物色しているようで悪かったが、そこらで寝かせるのはもっと嫌だった。
彼女の寝室は兄さんの隣の部屋だった。
ベッド以外何もなく、おそらく生活の足しに売り払ったのだろうか。
ベッドも少し黄ばみ、所々破けている。
「よいしょっと。」
マキナはそう言うと彼女をベッドへ寝かせた。
「年寄り臭いわよ。」
「癖なんだもん。しょうがない!」
ドヤ顔しながら胸を張っていたマキナ。
「それ威張って言えることじゃないけど…」
そう言いながら部屋の外へ出ていく。
「とりあえず、私なら兄さんをまだ直せるけど、ミルフィー手伝って?」
「何?私何もわからないわよ?」
「治癒魔法を使って欲しい時があるんだ。」
「それなら出来るわ。」
「冒険者だから慣れてるよね?」
「…もちろん。」
ミルフィーはマキナが言いたいことが何か分かった。
治癒魔法では病去草を使う病気は治せないが、切り傷などの外的要因で出来た傷なら直せる。
このことによりマキナが何をやろうとしているのかは見当がついただろう。
「とりあえず、夕食準備しよう。」
「いいけど、食材無いよ?」
アリスがそう言うと、マキナはポケットから金貨袋を取り出した。
中には銀貨50枚ほど入っていた。
「これ使って食材買えると思うんだ。」
「それって、ダンリックさんからもらったやつだよね?」
「うん。アリスは料理できる?」
「もちろん!美味しい物を食べるために私は料理修行にも励んでいたのだー!」
「あはは…。頼んだよアリス?あ、後布を少し買ってきてくれるかな。」
」
「まかせなさい!」
そう言うとアリスは大通りの方へ走っていった。
「ねぇ?ミルフィー。アリスって食べ物になると人が変わるよね。」
「そうね。珍しくマキナと意見が合うわ。」
それを2人は眺めながら会話をしていた。
2人は客間に戻り、打ち合わせを開始した。
「まず、兄さんなんだけどね。癌と呼ばれる病気なの。」
「がん?聞いたこともない病気だけど。」
「生物は細胞が分裂する事で古くなった細胞を交換しているんだけど、癌って言うのは不具合のある細胞が際限なく分裂を繰り返し、正常な細胞をすべて置き換えてしまう。際限なく分裂をするからその分エネルギーの消費が激しいの。」
「通りで治癒魔法は効かないわけね。」
「体を調べたんだけど、まだ胃以外には転移していないから切開して摘出すれば治せるの。」
「なるほどね。マキナが切開した場所を治癒魔法で回復させればいいのね?」
「そう。ミルフィーに頼みたいことはそれなんだよ。」
「後補助で町医者とか連れてきてくれないかな?どうしても手が足りないんだよ。」
「わかったわ。」
「手術する際の輸血に関してもやらないといけないから3日後かな。」
「ゆけつ?」
「あれ?知らない?」
「知らないわね。」
「輸血って言うのは、血を大量に失った時とかに他人の血をその人に入れるの。」
「ってことは、大量出血の人でも助かるってことね。治癒魔法と組み合わせれば生存率が上がるわ。」
「さっすがミルフィー。飲み込みが早い。でも、血液型が有るからそれに適合してないと入れれないんだ。」
そう言うとマキナは指を立てて説明し始めた。
「1の人には1しか入らず、2の人には2しか入らない。でも3の人は1と2に入れることができるけど3の人は3しか受け取れない。更に言うと、+の人からは+しか受け取れず、-の人は-しか受け取れないの。」
「…なんとなく理解したわ。同じ血液型の人からしか受け取れない、しかしある血液型の人だけは他に与えられるが同じ血液型からしか受け取れない。」
「ミルフィー天才ね!」
「でも、血はどうするのかしら?」
「そこはスラムの人に手伝って貰う予定だよ。」
「…あぁ。先ほどの話にあった食料を配ってた人たちに協力してもらうのね。」
「理解が早くて助かるよ~。とりあえず400あれば足りるかな。」
「そこは任せるわ。私にはわからないから。」
そう言うとアリスがドアを開けて帰ってきた。
「たっだいまー!」
「アリス。少し静かにしなさ…。」
アリスの両腕にはこれでもかと言うほど抱きかかえられた食料があった。
「えっと?アリス?いくら使ったの?」
「大丈夫!半分残ってる!」
「おうふ…。」
こればかりはマキナもミルフィーも呆れ顔だ。
アリスが大量に食材を買ってきて料理をしている頃…。
家の主である女性が食べ物のいい匂いで目を覚ました。
彼女は辺りを見渡し、そこが自分の寝室であることに気づいた。
「あれ?私どうして…。」
そこまで言うとドアの隙間からいい匂いが漂ってきた。
下からは何やら話し声が聞こえる。
女性は一体何事かと思ったが、先程の冒険者の声だと気づきひと安心した。
1階に降りてみると大量の食材と料理している女性。
客間の方からは何やら話し声が聞こえる。
「あの…。」
女性が声を出すとアリスが振り返った。
「あ、起きましたね。もうすぐ出来ますから待っててくださいね!」
「え?…わかりました。」
アリスからキラキラした視線が向けられていた。
アリスは料理のほうに目を戻し、楽しそうに料理を再開した。
客間に入ると、そこには先ほど兄を治せると言った少女とエルフの女性が話していた。
「あ、おはようございます。」
「おはようございますじゃないでしょうに…。もう大丈夫かしら?」
ミルフィーはいつも通りの喋り方だ。
「は、はい。でもこれは一体…。」
「兄さんを治す準備なのですが、ここに泊まろうかと思いまして!」
「マキナ…。すみませんね。宿を取っておらず、泊まるところがなかったの。」
「そういうことでしたか…。別にいいですよ。」
「やった!今アリスが料理作ってるからできたら食べようね!」
「でもさすがにあの量は多いじゃないかしら…。」
アリスは大釜を使って食材の半分を入れて料理している。
一体何人分を作っているのだろうか。
「近所の人も呼んでもいいですか?」
「近所?あぁ、先程のお話の。」
「そうですね。ここは貧しい人が多いので少しでも分け合えたらと…。」
「たくさん作ったから大丈夫よ!」
女性が振り向くと、アリスが立っていた。
「本当ですか!ありがとうございます。」
「そういえばあなたのお名前は?」
マキナ達はここまで居ながら名前すら聞いていなかったのだ。
「私ですか?私はキャロルです。ファミリーネームは捨てました。」
「そっか。私はマキナ。ファミリーネームは無いよ!よろしくね!キャロル!」
「私はミルフィーよ。よろしく。」
「私はアリス。よろしく。キャロル!」
皆自己紹介をしていたがアリスは先程からそわそわしていた。
おそらく料理を食べたいのだろう。
「では、呼んできますので少々お待ちを…。」
キャロルはそう言うと外へ出ていった。
「さーて、お皿用意してみんなで食べよう!」
アリスはパタパタと戻っていった。
アリスが食器に盛り付けていると子供連れの家族が6世帯ほど入ってきた。
合計20人ぐらいだ。客間と厨房までぎっしりだ。
アリスが料理を各自に配っている。
マキナが大釜を覗きこむとまだ半分は残っていた。
「あはは…。作りすぎ…。」
アリスの料理はシチューの様な物だ。
いい香りが漂い、食欲を誘う。
「おかわりはまだあるので食べ終わった人からどうぞ!」
アリスがそう言うと、子どもたちは勢い良く食べ始めた。
「お母さん!これ美味しい!」
「こら!ちゃんと味わって食べなさい!」
何処の家庭でも同じようなことが起きていた。
それにはアリスも苦笑いだ。
マキナはキャロルと一緒に食べていた。
「兄さんを直したらもうパーティを開こうね。」
「そうですね。元気な兄さんの姿をもう一度見たいです。」
「この食事会の後少し手伝ってね?」
「何をするのです?」
「少し、血を貰うんだ。兄さんの輸血用にね。」
「何かよくわかりませんが、分かりました。」
「さ、冷めないうちに食べよっ!」
「はい。」
ご近所も巻き込んだアリスの手料理は大好評を受け終了したのだった。
「すみません。少し時間いいですか?」
キャロルが声を発した。
それに反応するかのように各家庭の親が反応した。
「うん?どうしたんだい?」
「少しお願いが合って…。」
「お願いってなんだい?言ってご覧。簡単な事ならできるけどね。」
皆苦笑いしている。
「みなさんの血を少し分けて欲しいのです。」
「え?」
一同はきょとんとした顔になった。
「それについては私から説明させて頂きます。」
キャロルの後ろに居たマキナが喋り出した。
「皆さんはキャロルさんの兄さんが病で伏せて居るのをご存知ですよね?」
「そりゃあ、このへんの奴ならみんな知ってるさ。」
「知ってるが、何もできないが…」
「そこで、私が兄さんに外科手術を施します。その際に血が必要になる可能性があり、皆さんに分けてもらおうと思っています。」
「げかしゅじゅつ?」
「そうです。簡単に言うと、体を刃物で切り開き病巣などを取り除く作業のことです。その際出血する恐れが有るため、血が必要なのです。」
「よくわからんが任せろ!」
一同はやっと役に立てると盛り上がっていた。
「血液型の診断をするので、提供してくれる方は並んでください。」
マキナは1人1人、指の先を針で指していき血液型を調べていった。
事前に調べた兄さんの血液型はAだ。
この中にA型は4人居た。
4人の内1人は明日来てもらうことにして解散してもらった。
「手術は明日やるよ。」
「じゃ、私は町医者でも呼んでくるわ。」
「アリスはキャロルさんのそばに居てあげて。」
「わかった。」
「マキナさん。兄さんを…よろしくお願いします。」
「任せて!」
マキナは明日の段取りを立てていた。
それと同時に医学に関するデータを引っ張りだし、熟読していた。
3時間ほど理解、確認を行い、マキナも眠った。
13/5/12 誤字、脱字修正




