マキナのひみつはお風呂にて
マキナは部屋の番号を確認すると扉を開けた。
「奥のドアを抜けた先にあるって!」
マキナは少しはしゃいでいるようだ。
「はしゃがないの。こうして見るとはしゃいでる子供にしか見えないんだけどなぁ。」
「でも結構強いのよね。」
お互い苦笑いをしながらも湯浴み場へ行く準備をはじめる二人。
アリスとミルフィーはマキナに手を引かれて湯浴み場へ入っていった。
「おぉ。久しぶりのお風呂だ!」
「お風呂ぐらいではしゃがないの。」
マキナ達は脱衣所で服を脱いでいた。
しかし、マキナがどういう人物なのか二人には結局話していなかったのが問題だった。
3人が脱ぎ終え入ろうとしたが、2人はマキナの体に違和感を覚えた。
何かがおかしいのだ。
「うん?どうしたの?」
マキナがそう言いながら振り向く。
2人はやっと違和感の原因がわかった。
あるべきものが無いのだ。
そもそもマキナには排出物という機能など付いていない。
その分計器類が入っているのだ。
2人はマキナの言葉に含まれていた違和感にやっと気づけた。
アリスに言った“作られた”と言うフレーズ。
ミルフィーと話していた時に言った “人間には難しい”。
2人はマキナが人間ではない何かであることが理解できた。
「マキナ…。あなた何者?」
「人間じゃない?」
マキナは慌てた様子もなく、2人に答えた。
「元人間。とりあえずお風呂入ろうよ!」
「っ!」
「あっ」
2人の腕を取りお風呂へ入っていくマキナ。
「体とか洗いながらでいいよね?」
「…あなたが私達に危害を加えなければ」
ミルフィーの性格がマキナを警戒しているようだ。
ミルフィーは人間ではないが生き物だ。
生き物。それも人形ならばあるはずのものが無い。
それは人間、エルフなどの括りでは収まらず、生き物ですら無い。
生き物ならば繁殖するためにはオスとメスが必要だ。
そして繁殖するには性器が必要になる。
マキナにはそれがない。
「もー。今までやってきた仲でしょ!」
「いや、合って一日も経ってないわよ…。」
「とりあえず話すね。体とか洗っててもいいよ。」
アリスは戸惑いながらも体を洗い出した。
ミルフィーも洗いだしたが、以前警戒しているようだ。
「私は元人間なの。こことは違う世界のね。」
「違う世界ってどういう事?」
「次元が違うんだよ。たまたまこちらの世界に来ちゃったんだよ。」
マキナがそう言うとマキナもお湯を掬い頭から被った。
髪の毛が濡れ、素肌に纏わり付く。
「私の識別コードはDEM001PT。識別ネームがマキナ。」
「それは何なにかしら?」
「私を認識しやすくするための呼び方。本来の名前は長いからね。」
「本来の名前って、マキナがそうじゃないの?」
「違うよ。本来の名前は デウス エクス マキナ って言うんだよ。」
「確かに長いね。」
ミルフィーとアリスも体を洗い終え、体を拭っている。
マキナは不思議と水がはじかれるようにして落ちていく。
「デウス エクス マキナ。機械仕掛けの神。 私は元人であり人によって作られた最高傑作であり欠陥品。」
「…え? 今神って? 人に作られたって? え?」
アリスは困惑気味だ。
ミルフィーは黙って聞いている。
再びマキナが口を開いた。
「私は人類を救うために科学、魔術の粋を集めて作られた。 でもダメだった。 完成した時に私は起動しなかった。 こちらで言うと目が覚めなかった。」
マキナは2人が体を拭い終わったことを確認した。
「一旦部屋に戻ろう?話の続きはその後で。」
3人は脱衣場に戻り服を着て部屋へ戻っていった。
部屋に戻ったアリス、ミルフィーそしてマキナは再び話し始めた。
「機械仕掛けの神の意味は舞台装置であり、解決に導く仕掛け。私は戦場と言う舞台で人が創りだした神として敵性存在を排除し、人類を救うのが目的だった。」
マキナの顔に影が落ちる。
頭を下に傾けたせいだ。
先程までの元気がより一層無いように見える。
「私は目覚めなかった。目が覚めたのは101年後の未来。その時には既に星からすべての生命が消滅した後だった。」
マキナの発言にさすがに黙っていることはできなくなったのかアリスが口を開いた。
「ちょ、ちょっとまってよ。星からすべての生き物が消えるって、どういう事なの?」
「言葉とおりだよ。すべてが消えた。人も含め、敵性生物もね。」
「でも生き物はたくさんいるんだよ?それを全てなんて…」
マキナは俯いたまま答えた。
「私の世界にはね、核兵器ってものがあったんだ。 それは生き物を殺す放射能…毒だね、それを爆発後にばらまくんだ。 それを世界中で何十発も撃ち込んだ結果、世界中で汚染が発生し生き物がどんどん死んでいったの。」
「で、でも。」
「アリス達にはわからないよね。たとえるならば、この街の中心で爆発したとしようか。そうしたら湖の街は瓦礫一つ残さず吹き飛ぶよ。」
これにはさすがにアリスも絶句し、聞いていたミルフィーも驚いているようだ。
マキナはそれに構わず話しを続けた。
「人類は頼みの札である神が起動せず、最終決断を迎えたんだ。」
マキナはそう言うとベッドの上に座り込む。
「私の核。魔導炉を沢山作りだし、それの出力を最大にして惑星級魔術を発動させたんだ。 その…魔術は…星に生きているすべての生き物を抹消する魔術なんだよ!」
マキナは手を握りしめ壁を叩こうとした。
しかしその手は壁に当たることはなく手を開き壁を触っただけだった。
もしマキナが感情に任せて壁を殴っていたら壁に穴が開いていただろう。
「私は機械。人に似せて作られた人形。神であり、舞台装置。」
マキナは顔を上げアリス達を見据えた。
「それが私。」
2人には今のマキナがどうしようもない悲しみに囚われているように見えた。
泣いてこそ居ないがそういう雰囲気なのだ。
「私は人でもエルフでもない。ただの…」
「違うよ。」
「え?」
マキナが続きを喋ろうとした時にアリスがそれを止めた。
これ以上マキナに言わせては行けないと思ったのだろうか。
マキナは既に自分を否定する事を言い始めていたのだ。
アリスはそれを止めた。
「ただの人形って言いたかったんでしょ? でもそれは違うよ。」
「違わないよ。私はただの…」
「だってあなたには心があるじゃない。」
「…。」
マキナは何も言わなかった。
アリスは続ける。
「人形には心はない。だけどマキナにはあるでしょ?本当の名前を教えて?」
「私はマキナ…」
「違うよ。あなたの本当の名前。あなたの心の名前を。」
「っ!」
「さぁ。教えて?あなたの本当の名前を。」
「…。」
「マキナではなくあなたの本当の名前を教えてくれないかしら? あなたを抑圧している物。それはその体。でも後少しでそれからも開放される。」
「…。私の…名前は…。」
マキナはそこまで言うと黙ってしまった。
しかしアリスもミルフィーも何も言わずマキナの事を見守っていた。
どれくらい経ったであろうか。
1秒。いや、10秒。そう感じられる時間が流れていく。
そしてマキナは口を開いたのだ。
「私の名前は…!私の名前は…!」
「私の名前は 舞…鈴木 舞。これが私の名前…!」
「そっか。おいでマイちゃん。」
そう言うとアリスは手をマキナの方へ広げた。
それを見たマキナは抑えていた感情が溢れでてきてしまった。
人類を救うために作られた体が今まで抑えてきた感情が溢れでてきたのだ。
涙は流せなくともマキナからは嗚咽が漏れる。
「う…ぁぅ…。」
マキナは広げられているアリスの手の中に自然と入っていった。
アリスの手は閉じられ、片手で頭を撫でられる。
そっとアリスが語りかける。
「大丈夫だよ。マイちゃんは人間だよ。大丈夫。大丈夫。」
「アリ…スぅ…うぅぅ…。」
マキナは声を押し殺し、アリスの胸の中で泣いていた。
お色気回と思った?残念、シリアス回です。




