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「わたくしがマナさんに近づきたいと思ったのは、事故の後、療養を終えてマナさんが戻ってきた時でした。あの時のマナさんはそれまでの社交的な雰囲気とは一変して他人を近づけないオーラを出していて、初日は誰とも口を聞きませんでした。
それまで遠くから見て、言ってみれば、憧れていただけだったわたくしには、一体どうしてそんなことになったのか見当もつきませんでした。それで、知りたいと思ったんです」
手に持った草の葉に視線を落としたまま話すカルネの横顔を見つめて、デミは真剣に彼女の告白を聞いていた。
「もともと情報職志望だったわたくしは、当時、イルヤ・ホッグというネズミ系の魔法生物を使い魔に選んだばかりだったのですが、それでマナさんの部屋に侵入してみようと思ったんですの。
でも、あっさりバレてしまって、イルヤ・ホッグはつまみ出されてしまいましたわ。その後も何度も挑戦してみたんですが、尽くダメでした。時間帯を変えても、寝静まった時を狙っても、使い魔を変えてもダメ。
そんな挑戦が1年弱続いて、ようやく出会ったのがアリアノ蜂でしたの。この蜂は、他の魔法生物よりずっと小さくて静かですが、1匹が収集できる情報量が全然少ないのです。でも、これしかマナさんに近づける方法がなかったので、必死で練習しましたわ。
おかげで今ではマナさん通の新聞部員として少しは知られるようになりましたが、それも本当にここ最近のことですのよ」
デミはカルネの言葉を反芻するように少し考えた後、口を開いた。
「つまり、まだ諦めるには早いってこと?」
「そういうことです。一時のマナさんに比べれば、今のマナさんは信じられないくらい社交的ですから、こんなくらいでへこたれていてはこの先やっていけませんわ」
「……はい。ありがとうございます」
「いえいえ。マナさんはああ見えて内心はすごく寂しがりなので、デミさんが声を掛けたこと、喜んでいると思いますよ」
「そんなことはないですよ」
「いいえ。世界一のマナさん通のわたくしが言うんですから間違いありません」
「……はい」
どうやら話は終わったらしい。デミの顔は最初とは打って変わってすっきりした顔つきになっていた。
ひょこっと頭を下げてテントに戻るデミを見送ったカルネは、手に持った草の葉をほいっと捨てて、俺の方へと歩いてきた。
「ヘータさん」
「にゃっ」
驚いた。暗闇でしゃがんで静かにしていて気づかれることはまずないと思って油断していた。そういえば、カルネはアリアノ蜂の使い手だった。
何を話しかけられたのかは分からないが、見つかったのは間違いないので、諦めて立ち上がってカルネの側に寄って行くと、カルネはしゃがんで頭を撫でてくれた。
「わたくしの知っているマナさんは自分より劣っている人は誰も頼らない孤高の方でした。長い間、使い魔を持たなかったのも同じ理由だと思いますの。それがある時突然、あなたを使い魔として連れてきた時は本当に驚きました」
ああっ、あごの下とか気持ちよすぎて困るんですけどっ。
「どんなすごい使い魔なんだろうって、それはもうとことん調べましたわ。でも、結局分かりませんでした。普通の猫じゃないことは間違いないですが、普通の使い魔と比べて優れているようには見えませんの。でも、あのマナさんが普通の使い魔を持つなんてありえません。ええ、絶対にありえません」
おおっ、そこ、その耳のところ、引っ掻いてっ。いいっ、いいねっ。
「ヘータさん、これは全くの想像なんですけどね、本当はマナさんより強いのに、そのことを隠したりしてないですか?」
いやー、カルネ、意外に良いやつだなっ。ちょっと、ついでにお腹の方も触ってくれないかな?
「ふふ、隠しててもいいんですよ。ただ、もしそうならマナさんのことよろしくお願いしますね。最近のマナさんは幸せそうで、わたくしも見ていて安心しますから」
カルネは俺を撫でる手を止めると、立ち上がってテントの方へと戻っていった。名残惜しい気もしたが、いつまでもやっているわけにもいかないので仕方ない。俺もそろそろまた寝よう。
サバイバル実習<前編>【終】




