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「マナさんっ」
「あたしもパスで」
「がーんっ」
と、うしろからつんつんと指でつつく感触がした。
「何?」
「ね、「ジキ」って何?」
それはミレイだった。ミレイは両親が外国出身のせいか、たまにクプーティマ特有の言葉について知らないことがある。
「ジキはハーフエルフのことだよ」
「それって悪いイメージなの?」
ミレイが不思議そうに聞く。そうか、ミレイの出身国はエルフの居住地から遠いからハーフエルフもあまりいないんだ。
「ハーフエルフは流れ者だからあんまりよくは思われてないね。でも、バドアスが言ったのは、ハーフエルフの食べ物の方の話だよ」
「食べ物?」
「うん。彼らは悪食で有名だからね。ま、偏見もあるのかもしれないけど」
俗語辞典によれば、「ジキ」は「悪食」ないし「奇食」が由来であるらしい。人間のように調理された食べ物を食べず、ゲテモノに属するようなものばかり食べるハーフエルフは、流れ者であることと相まってひどい偏見と迫害を受けてきた歴史がある。
今では人間に準ずる種族としてほとんどの国で参政権以外の権利は保証されているが、それ以前は動物と同等の扱いを受けることもあった。また、そのわりに整った容姿をもつため、人身売買の対象として捕獲されることもあったらしい。
「ま、あんまり上品な言葉じゃないことはたしかね」
少なくとも女子が使って眉をひそめられるようなたぐいの言葉ではある。中等部くらいのかっこつけたがりの男子はたまに使うけど。
「「いただきます」」
「うん。まあ、食べられるわね」
「おいしいです」
「やっぱり自分たちで作ると味が違うね」
「やっぱりマヨネーズを混ぜると味が違いますわ」
「うわっ」
「ちょ、バドアス、玉ねぎ、全部つながってるじゃない!」
「おこげ、うまい」
「あのー、ヘータくんって、猫なのに香辛料とか玉ねぎとか大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫。ヘータって何か変だから」
「変じゃねぇっ」
ご飯を食べ終わる頃にはもうすっかり辺りは暗くなってきていて、魔法で明かりをとりながら急いで片付けをして就寝した。食べ物を残しておくと寝ている間に熊とかが出てくるかもしれないから気をつけなければいけない。
熊は臆病なので、食べ物さえ片付けておけば人が集まっているところに寄って来ることは少ないが、一応、何かあるといけないので、カルネがアリアノ蜂に警戒させておく他、デミも使い魔のショコアを外で寝かせておいた。
俺はもちろんテントの中だ。悪いか。




