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「<発火>」
ボールは少し離れた岩の後ろ側まで飛んでいったらしく、走って迂回するのが面倒だったので途中から飛行していくことにした。街中じゃ規制が厳しいけど、郊外ならちょっとくらいなら飛んでも大丈夫。スピードを出しすぎると捕まるかもしれないけど。
それにしても、飛行魔法だけこんなふうに規制が厳しいところにお役所仕事の不合理性というものをひしひしと感じる。絶対に警察が小遣い稼ぎしたいだけに違いないんだ、と不意に社会派的な発言をしてみる。
「よっと」
岩を超えたところにボールを見つけて拾い上げたところで、もう少し向こうに何かあるのに気づいた。
人!?
倒れているので分かり辛いが、シルエットは頭と肩のあたりの形状のようにみえる。ボールを持ったまま近づくと、はたして学園の学生が砂浜に仰向けに寝ていた。
「ちょっと、しっかりして」
「……んんっ、こ、ここは?」
「海岸よ。あなた、ドラゴン探索に行った人じゃなかったかしら?」
ドラゴン探索のメンバーを全員覚えているわけではないが、少なくとも海岸の辺りでは見ていなかったはずだ。
「あ、そうだ。俺、崖から足を踏み外して……。なんで、海岸にいるんだろ?」
「にんじんと玉ねぎは一口大に切って、切り終わったら鍋で炒めて。魚は後から。じゃがいもは別で焼くから切ったら避けといて。バドアス、一口大ってのはウィルムが基準じゃないのよ」
「わかってるよ」
今日の晩御飯はべたにカレーライスだ。強めの味付けで煮込んでおけば大抵のものは食べられるという極めて安直なサバイバル食だが、これですら失敗するやつがいるとか聞くと、とても信じられない。
包丁仕事をバドアスとカルネ、米をシシー、火の管理をデミが担当している。あたしとミレイは監督だ。ただし、魚を捌くのは難しいのであたしがやっている。
野菜は持ってきたものだが、魚は昼間獲ったものだ。例の水魔法で空に巻き上げた例のアレだ。
「火属性の魔法を燃焼の勢いをコントロールするために使うんだ。火を弱めるのも火属性の魔法を使うんだよ」
「や、やってるつもりなんだけど」
火の番をデミに任せたのは、彼女が一番魔法のコントロールが苦手そうだったからだ。魔法の制御に火の管理はいい練習になる。
「弱くするときは、火の中にある魔力を少し引き抜く感じで操作するんだよ」
「魔力を引き抜く……」
「ああ、ダメダメ。それじゃ逆に足してるよ」
「ううーー」
「火の中の魔力を使って手元に別の火を起こすようなイメージかな」
「こ、こんな感じ?」
「そうそう。でも、ちょっと、抜き過ぎ」
「ええっ」




