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「シシーさんはどんな使い魔を持っているんですか?」
デミがそう訊ねると、皆、クスクスと笑い始めた。
「な、なんですか? あたし、何か変なこと言いました?」
「デミ、シシーの使い魔はずっとシシーと一緒にいるよ」
「え? どこですか?」
マナが見かねてデミに教えてあげるが、デミはまだ気づかない。
「ほら、そこ」
「どこですか?」
「そこ」
「え?」
「ここ」
マナがシシーの胸元を指さすと、それに食い入るようにデミが顔を近づけた。胸元に顔を近づけられたシシーは気まずそうに視線を逸らして、ミレイはそれを微妙な笑顔で見つめていた。
「あっ!!」
突然、デミは驚いたように目を開いて声をあげた。どうやら気づいたらしい。
「これ、なんですか?」
「テュラス・メレオンのクーだよ」
シシーの使い魔はテュラス・メレオンというカメレオンに近い魔法生物で、その能力は擬態だ。カメレオンが身体の色を環境に合わせて擬態するように、テュラス・メレオンは魔法で体表の模様を背景に同化させることで擬態する。さらに、使い魔の場合、マスターも一緒に擬態させることができる。
その模様の再現性は極めて高く、そこにいると分かっていなければ気づくことは不可能と言われている。ただし、全く背景の異なる複数の角度からの視線に同時に擬態することは困難なので、だいたいいつもどの角度から見ても同じ背景に見えるようなところを好むのだ。
そして、シシーの場合は上着の胸の辺りが一番落ち着く場所らしい。
「シシーさんって戦士職志望だと思ってました」
「今でもそうだよ」
「でも、テュラス・メレオンって情報職向けの使い魔じゃないんですか?」
テュラス・メレオンは、攻撃や防御のための特殊能力を持たないので、一般的には戦士職の使い魔とは考えられておらず、その能力特性から情報職に重用されているのだ。
「戦士職にもいろんなタイプがあるからね」
「……あの、もう少し詳しく教えてもらえませんか?」
シシーの返事を聞いて一瞬言葉に詰まったデミだったが、急に真剣な表情になってシシーに問いかけた。シシーはちょっと驚いた様子だったが、すぐにいつもの様子で説明を始めた。
「例えば、バドアスくんとマナさんは同じ戦士職だけどタイプが違うよね。ゼオ・ウィルムのオロンは城門の前に陣取って防御に専念したら、そう簡単に敵を通すようなことはない。バドアスくんは拠点防御の兵力を率いて戦うのに適した戦士なんだ。
マナさんの場合は、1対1の戦いで負けることはない上に、1対多でも十分強い。攻撃も防御もできるオールラウンダーで、それは使い魔のヘータくんはそれを補強してる。でも、戦い方に型がないし、強すぎて他の人と連携した戦いは難しいから、個人技を活かすような戦場が適してるんだよ」
「じゃあ、シシーさんはどうなんですか?」
「俺の場合は、バドアスくんみたいな重厚さもないし、マナさんみたいな華も強さもないから、別なところを狙うんだよ。擬態の能力を使えば人知れず敵陣の奥深くまで侵入することができるから……」
「あ、そうか。特殊部隊」
シシーは、それが正解というようにかぶりを振ってマナの方を振り返った。
「でも、マナさんには俺の使い魔のことは説明した覚えはなかったはずなんだけど」
「だって、そんなのが身体にへばりついているのを見たら、すぐ気がつくでしょ」
「それが普通は気づかないものなんだけどね」




