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ところで、このサバイバル実習での使い魔の扱いは、連れてきてもこなくてもいいということになっている。一応、連れて行く時は事前登録が必要で、大型の場合は汽車と船の追加料金を払わなければいけない。
俺のチームの場合、バドアス以外は全員使い魔を連れて来るようだ。バドアスは、ゼオ・ウィルムが客車に乗らない上に食料の調達が大変なので始めから連れてくるつもりはなかったようだ。
「オロンは拠点防衛向きの戦力だからな。こういう遠征にいちいち連れて行くようなものではないのだ」
使い魔には向き不向きがある。マスターならそういう特性を考慮して使いどころを考えなければならないし、そもそも自分の志望と適性を考慮して使い魔を選ぶのが理想だ。
バドアスはその出自からも本人の志望からしても、近衛隊に入って宮殿および首都の防衛に当たる可能性が高い。オロンは、それを見越しての使い魔の選択なのだ。
しかし、そんな無粋な話とは関係なく、使い魔が長旅の退屈を和らげてくれる愛すべきマスコットであって欲しいと思うことは別に変なことではない。誰かがそういう役割を果たすことも大事なことだろう。問題は誰がやるかということなのだが。
俺はさっきから虎視眈々と狙うファンの女どもの魔の手から逃れるため、定位置のマナの胸元に収まっている。代わりにチームの中の人気を一心に集めていたのは、デミの使い魔のショコアだ。
ショコアはフルムー犬という犬系の中型の魔法生物だ。愛らしい容姿と、それに似合わぬ力強さ、スタミナ、賢さが買われて使い魔にしたい魔法生物人気No.1に輝いているほどポピュラーな魔法生物だ。学園内には愛好会も存在して、人数だけなら学内最大級の派閥の1つなのだ。
ま、俺から言わせれば、こういう周りの人間に媚を売って尻尾を振りまくるようなやつは、ちょっとプライドの欠けた低能な生き物だから、マスコット扱いがちょうどいいのだ。
朝早くに集合した俺たちは、昼ごろには実習先のキリシュ島に到着した。そこで俺たちは適当な場所を見つけてテントを張って、その後は夕方まで自由行動ということになった。
設営したテントは2つ。1つは大型のテントで女4人とその使い魔のためのもの。もう1つは小型のテントで男2人のためのものだ。大型の方が本部ということになっている。バドアスが若干不満そうだが、マナはあっさりと無視していた。
「みなさんは使い魔はどうなさったんですか?」
デミが思い出したように尋ねた。それを俺を含む全員がきょとんとした顔で迎える。あまりに不思議な顔をされたせいで、デミは居心地を悪くしたのか、顔を赤くして俯いてしまった。
「デミさん、もしかして、他の人の使い魔が何かわかってない?」
ミレイが聞くと、デミはさらに顔を赤くしたので、図星のようだ。
「マナさんの使い魔は知ってます。後、カルネさんがアリアノ蜂を使っているというのは聞いてました」
「僕のくらいは知ってるだろ?」
「もちろん、バドアスさんのオロンさんのことも知ってます」
「じゃ、僕の使い魔を見せてあげるよ」
そう言って、ミレイは持ってきた鞄の中から大きめのハードケースを選んで開いた。中にはクッションが詰め物として詰められていて、その中央には一抱え位の太い木の枝が入っていた。
「起きて、メイ。着いたよ」
そう呼びかけると、木の枝から伸びる小枝が急にうねうねと動いたかと思うと、木の枝がむくりと起き上がった。
「ひゃっ」
「ブナラ・クリッターのメイだよ。歩こうと思えば歩けるんだけど、移動時間が長いから鞄の中で寝ててもらったんだ」
「クリッターって、自立したゴーレムですか!?」
「そうだよ」
「それって、育てるのすごく大変だって聞きますよ」
「ま、手間は掛かるかもね」
クリッターというのは、本来魔法生物ではないものが魔力を持つことで魔法生物として振る舞うようになったものの総称で、ゴーレムに非常に近いものだが、魔法によって生み出されるゴーレムとは違って、クリッターは自然発生し自立していてゴーレムよりも寿命が長い。
ただし、寿命が長いといってもそれは安定したクリッターのついてのみで、生まれたばかりのクリッターは不安定ですぐに死んでしまうことが多い。また、安定した後も普通の生物よりはやはり弱くて、事故や病気などで急に状態が悪化して死ぬことも少なくない。
そんなわけで好き好んで使い魔にするのはよほどの変わり者なのだが、ミレイは、まあ、その変わり者なのだ。




