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魔法が使えるのがドラゴンと人間とエルフのみだという話は初等部の授業で習うほどの常識なのだけれど、そのわりにドラゴンについてその具体的な生態は知られていない。なので、一般的にはドラゴンは人が立ち入ることが難しいような秘境に住んでいるのだと思われているのだ。
「可能性はあるわ」
あたしはそう言うと、さらに言葉を続けた。
「ドラゴンの生態は謎に包まれているけれど、考古魔法学の分野で面白い学説があるの」
太古の昔、今のような人間という種は存在せず、代わりに古人間と呼ばれる種とドワーフと呼ばれる種が別々に存在していて、現在の人間はその古人間とドワーフの混血として生まれたという説は、今や考古学の常識と言ってもいい。
同様に、エルフが古人間とドラゴンの混血だという説も、それなりに説得力のある仮説として受け入れられている。ただし、この説はドラゴンの生態の多くが謎に包まれているため、依然仮説のままだ。
そんな中、ドラゴンが純粋魔力生命体であるという学説が注目を浴びている。魔法生物のように魔力を持っているものの身体は通常の物質でできている生き物とは違い、身体自体が魔力で構成されているということだ。
未だかつて純粋魔力生命体というものは発見されたことがないが、もしそうならば物理的な生活痕を残すことがないため、通常の調査ではドラゴンの存在を確認することはできないことになる。
「だから、もしかしたら意外に身近にドラゴンが住んでいる可能性も否定できないのよ」
「そうなんですか」
デミはさっきからあたしの説明に感心しきりだった。それに気をよくしたバドアスが、
「だから、ドラゴン探しは大切なんだよ。学術的な大発見に繋がるかもしれないんだぞ」
といったので、
「ただし、もし純粋魔力生命体という仮説が正しかったら、何も生活痕がないんだから、偶然ばったりドラゴンに直接出会う以外にドラゴンを見つける方法はないってことだけどね」
と、返す刀でドラゴン探しの成功率の低さを指摘すると、バドアスは一転してむむむと黙ってしまった。
「マナさんはどっちの味方なんですか?」
そんなどっちつかずな煮え切らない態度にカルネがしびれを切らして切り込んできた。
「正直ドラゴンに興味がないこともないんだけど、水着も買っちゃったしね。海にするわ。ただし、遊んでばっかりじゃなくて、水中戦の訓練もたくさんやるからね」
「よしっ。(これで新聞の一面はマナさんの水着姿で決まりっ。くふふ)」
「後、バドアス」
「なんだ?」
「もし、1人ででもドラゴン探しをしたいって思ってるなら、ヘータを連れてってあげて。ヘータは全く泳げないから、海に行っても仕方ないのよね」
「分かった。それなら僕は他のチームからもドラゴンに興味のある連中を集めて、合同チームでドラゴン探しをすることにするよ」
「よし。じゃあ、決まりね」
結局、その日の会議はあたしの仕切りでみんな納得してくれて解散することになった。
バドアスとヘータだけが別行動をすることになったが、これは結果的にはいい判断だったようだ。というのは、他のチームでもドラゴンに興味のある人はいたものの、何ができるか分からないという理由で二の足を踏んでいたところが結構あったからだ。
バドアスはそういうニーズをうまく束ねて合同チームを作っていった。あれはあんなだけれども、意外にカリスマ性があるのだということを改めて感じた一件だった。




