07
「水飲みたい」
身体を起こして、ヘータに入れてもらった氷入りの水をコップ1杯飲み干すと、ソファーの脇に置かれた紙袋に目をやった。
結局、最後のほうは暴走気味になっていたミレイとカルネを何とか説得して、布面積の大きめのプレーンな形のものに落ち着いたのだ。
選んだのは、白地に大きく黄色い花が描かれたビキニタイプの水着だ。ピンクでふりふりのいっぱいついたのや、黒くて布面積の少ないのにされそうになった時にはどうしようかと思ったけど、これなら許容範囲だ。ちょっと恥ずかしいけど。
「ふふふ」
「何だ? いきなり笑ったりして気持ち悪いぞ」
「何でもない」
それにしても、こんなふうに魔法以外のことで友達と騒いだのは何年ぶりだろう。
あの事件の後、あたしの人生のすべては魔法のことだけになって、ただひたすら強さを求めてきたけれど、どうしてまた魔法以外のことを楽しんでもいいと思えるようになったのか、実のところよくわからない。
「ヘータのおかげなのかな」
「さっきから、何を脈絡のないことを言ってるんだ」
「独り言くらいいいじゃない」
そう言ってあたしは、いつの間にかあたしの生活の一部として完全に溶け込んでしまった新しい相棒を見た。
「今度、ちょっとくらいなら納豆を食べてみてあげてもいいわよ」
「おい。ほんとどうしたんだ? なんかやばい病気にでも、かかってんじゃないのか? とりあえず、熱でも測るか?」
「あのさ、あたしがせっかく納豆みたいな気持ちの悪いものを食べてあげてもいいって言ってんのよ。感謝の一つくらいしたらどうなの?」
「は? 感謝? 何言ってんの?」
「とにかく、食べてやるって言ってるんだから、黙ってあたしの分も用意すればいいのよ」
その日のあたしの晩御飯は、水着選びで疲れたから簡単にパスタを作って食べることにした。そして、その脇には納豆が1つ置かれたのだった。
結論。やはり納豆は真っ当な人間の食べる物ではなかった。あれは猫だから食べられる、いや、それは罪のない猫に失礼だ。あれは変態猫だから食べられるのだ。
「ドラゴン探しに行くべきだ」
「ドラゴンなんてくだらないです。海に行くべきですわ」
数日後、あたしはサバイバル実習のチームの面子を集めて第1回目の会議を開いた。集まったのは、あたし、ヘータ、ミレイ、カルネ、デミ、バドアスにシシーの6人と1匹だ。
そして、今、合宿先で何をするべきかというところで意見が分かれていた。つまり、山にドラゴンを探しに行くか、海で海水浴をするかだ。
ドラゴン派の急先鋒はバドアス、対する海派の論者はカルネで、ミレイとデミも海派、逆にヘータは絶対ドラゴン派、というか反海派だ。シシーはミレイ寄りだけれどもバドアスのことも無視できないという様子。あたしは心情的にはドラゴン派だけどカルネとミレイから睨まれるし水着も買ったしでひとまず静観している。
「大体、そんな近くにドラゴンなんているわけありません。ガセネタですわよ、ガセネタ」
「そんなことはない。目撃情報だってたくさんあるんだ」
「裏の取れてない目撃情報がどれだけあっても無意味ですわよ。そんなネタじゃ新聞は書けません」
「だから、実習中にその裏を取るんじゃないか」
バドアスとカルネがいがみあっていると、デミがおずおずと手を挙げた。
「あの、ドラゴンって本当にこんな近くに住んでることがあるんですか?」




