05
ミレイだけじゃなく、側で話を聞いていたカルネまでがっくりと肩を落としているのを見て、何か間違ったことを言ったかなと考えてみたけれど、何がおかしかったのかよく分からなかった。
「ね、ヘータ。あたし、何か間違えた?」
仕方なく、器用に肩の上に座っている子猫の耳元でぼそっと意見を聞いてみた。
「だからバカなんだよ、マナは。郊外で遊びって言ったら魔獣狩りだろ、魔獣狩り」
「そっか、魔獣狩りか」
「違うよっ」
間髪を入れずに突っ込みを入れたミレイ。あたしはジト目でヘータを睨みつけると、ヘータは素知らぬ顔でよそ見をしやがった。後で覚えてろよ。
「とはいえ、今年はあながちそれも間違いとは言えないかもしれませんわ」
笑いをこらえながら(なぜ?)静かに聞き役に徹していたカルネが、重い口を開いてあたしの擁護に乗り出してきた。
「でしょ、でしょ」
「カルネさん、どういうこと?」
「ドラゴンです」
「「ドラゴン?」」
ドラゴンと言えば、この世で「魔法」が使えるとされている3種族のうちの1つだ。ちなみに、残りの2つは人間とエルフだ。間違っても子猫ではない。……はずだ。
とにかく、ドラゴンとは、ウィルムやワイバーンやサーペントなどの亜竜とは違って、ただの魔法生物の枠を超えた歴とした知的生命体だ。現在でもその存在は確認されているとなっているが、実際にドラゴンを見たことのある人間を知っている人間ですら見聞きしたことがないという超レアな生物なのだ。
「ドラゴンがどうしたのよ」
「いるって噂なんですわ、ドラゴンが。実習先のキリシュ島に」
「本当に!?」
「噂ですわ」
ふむ。無人島でドラゴン探索か。それはそれで面白いかも。
「しかし! わたくしとしては、マナさんにはぜひとも海の遊びを堪能していただきたいですわ」
「海?」
「そう。海です。水着を来て、ビーチを楽しげに駆けまわっていただきたいのです。その写真を一面トップに持ってくれば、歴代最高部数も夢じゃありません」
「ちょ、ちょっと待ってよ。あたし、水着とかありえないから」
何が悲しくて新聞部にあたしのグラビアを進呈しなけりゃいけないんだ。それに、大体、水着とか……
「あ、僕もドラゴンより海のほうがいいな」
「ですわよねっ」
「ミレイまで、海の何がいいのよ。サーペントでもいるの?」
「残念ながらいませんが……」
「マナはちょっと魔獣狩りから離れたほうがいいよ。海なんだよ? きっと綺麗なお魚とかもいっぱいいるんだよ?」
「綺麗なお魚ね」
アウル・ヘッド・マジック・フィッシュとかいるかな。水中でふくろうの目みたいな模様を見てると、特殊能力で幻惑されてだんだん綺麗なお花畑が見えてくるっていう魔法魚。
「海は却下だ。俺は泳げない」
耳元でボソリとつぶやいた子猫の言葉は、なんだか虚しかった。
というわけで、次回、マナの水着を買いに行ってきます。
GWも平日は更新します。次回更新は火曜日です。




