02
カインリルの時は何を言われても全否定だったからこんな緊張しなかったけど、今回は誰に何を言われるか分からないから緊張する。いやいや、どうせ相手が誰でも断るだけなんだけど。
ギィーーー
来たっ。
弱々しくゆっくりと礼拝堂のドアが開いて入ってきたのは、意外にも見知った顔だった。
「デミ?」
「あっ。ごめんなさい、マナさん。こんな早く来てるなんて思ってなくて」
デミは本名をデミ=プラー=ミューネンと言って、ミドルネームから分かる通りプラー寮の寮生だ。マナとは同級生で、マナと比較的仲の良いグループの一員でもある。
ただ、どちらかというと内気なデミは初等部の頃から聞き手に回ることが多く、マナが社交的でなくなってからは直接話をすることはほとんどなくなってしまった。最後にまともに話したのはいつだったか。
「なんだ。デミだったの。あんな手紙だから誰かと思っちゃった。こんな面倒なことをしなくても、普通に話しかけてくれればよかったのに」
「はい。あ、あの、ごめんなさい」
さっきまでとは違って、だいぶ心の余裕を取り戻したあたしは、デミの様子を観察しはじめた。何かさっきからもじもじとして、話したいことがありそうなんだけれど、なかなか切り出せなくて逡巡しているようだ。
そもそも、もともとデミはあたしに苦手意識があるみたいだった。いつも他の人とは楽しそうに話していても、あたしが近づくと急に口数が少なくなるのだ。自発的に1人で何かを始めるというタイプでもないのに、今日は一体どういう風の吹き回しなんだろう。
「それで、あたしに何の用なの?」
「は、はい。あの、サバイバル実習って知ってますよね」
「そりゃあね」
サバイバル実習というのは、夏休みの1週目に希望者だけで郊外にキャンプに行くという学園のイベントだ。任意参加なのに参加率が例年9割を超えるという人気のイベントで、キャンプ地がどこになるかというのが春学期前半の最大の関心事だったりする。
サバイバルという名前はついているものの、別に命の危険があるようなことが起きたり、特別に劣悪な食べ物や劣悪な宿泊地に耐えたり、長距離の行軍があったりするわけではない。
生徒が何人かでグループを作って、そのグループでテントを張ったりご飯を作ったり、合同で訓練をしたり探検をしたりする中で、魔法使いとしての心身を鍛えようというイベントなのだ。
「えっと、あの、じ、実は、あたし、その」
「…………」
ああっ。デミがもじもじしているのを見ていたらちょっといらいらしてきた。言いたいことがあるならすぱっと言っちゃえばいいのに。
「あの、サバイバル実習なんですけど」
「うん」
おっと、今の「うん」、ちょっと不機嫌な感じに響いちゃったかも。顔だけでもにこにこしておいたほうがいいかな。
「その、お、おな」
「うん」
「同じグループになってくれませんか?」
「へ?」




