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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
サバイバル実習<前編>
78/130

01

 トルン市の気候は極めて穏やかだ。1年を通して気温の変化は月平均気温10℃程度しかなく、夏は涼しく冬は暖かい。雨も少なく、冬の気温が下がった時にしか降らない。降水量だけで見ると砂漠に近いが、実際には夏場は、海からの霧が流れ込んでくるため、雨の少ない季節でも植物はそれを頼りに生育している。


 また、クプア河が生活用水と灌漑用水を提供しているため、日常生活において水に困るという印象はそれほどない。もっとも、風呂は若干贅沢品の範疇に入ってしまうが。


 ただ、そうは言っても雨の少ない夏場、乾燥するにつれて植物たちも若干元気がなくなってくる。主要な道路の植樹や高級住宅街の庭は定期的に散水しているので青々としているが、少し脇道に逸れるとじっと我慢している様子の木々が立ち並んでいる。


 「夏になってきたわねー」

 「そうだな」


 月平均気温の差が10℃程度で夏が涼しいからといって、暑い日が全くないというわけではない。やっぱり暑い日は暑いのだ。そして、今日はどうやら今年の最高気温を更新しそうな暑さだった。


 「うーん。暑いとスカートの中が蒸れるわ」

 「バサバサするなよ、みっともない」


 ヘータのやつは未だに胸の瘤とか言うくせに、こういう所は面倒くさいやつだ。あたしがだらけているとすぐに突っ込んでくる。


 「いいのよ、誰も見てないんだから」


 学園橋に差し掛かったところで、あたしはいつものようにヘータを胸のところに乗っけた。夏といってもこういう暑い日は霧が出にくくなる。案の定、今日は橋には霧がかかっていなかった。


 下駄箱まで来て上履きを取ろうとした時、あたしは指先にいつもと違う感触を感じた。


 手紙?


 上履きと一緒に取り出したそれは、可愛らしくデコレーションされた封筒だった。


 「何これ……?」



 「ははは。とうとうマナに女の子からラブレターが届くようになったんだ」

 「笑い事じゃないよ。それに、大体、まだこれがラブレターだって決まったわけじゃないんだよ」


 人気のないところでこっそり開けようと思っていたのに、思いの外動揺していたらしくすぐにミレイに見つかってしまった。その結果がこれだ。


 「放課後に礼拝堂で待ってます、なんて完璧に典型的なラブレターじゃない。しかもこの封筒とか便箋とか、絶対女の子からだもん。マナってお姉さまっぽいところ、あるからねー」

 「だから笑い事じゃないのよ」


 はあ、困った。こういうの本当に苦手なんだよな。どんな顔して会ったらいいんだろ。


 相手が男ならバッサリ切って捨てればいいだけだけど、女じゃそうもいかないよね。ミレイやカルネみたいにサバサバしてる娘なら楽なんだけど、泣かれちゃったらどうしよう。


 結局あたしは、朝見つけたラブレター(?)のために放課後まで悶々とするはめになり、何も手につかないので授業が終わったらそそくさと礼拝堂へと向かった。


 礼拝堂にはまだ誰もいなかった。そんなに急いだつもりはなかったけど、思った以上に急いで来てしまったようだ。これだとなんか、あたしのほうが意識し過ぎてるみたいでちょっと恥ずかしい。


 「とりあえず、ちょっと落ち着け」

 「落ち着いてるわよっ」


 全くこれだから空気の読めない子猫は……。

投稿再開しました。毎平日昼12時過ぎに投稿していきます。本章は全21話の予定です。

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