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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<後編>
74/130

24

 「それにしても、マナはいつもその子猫と一緒だね」

 「ん、まあね」

 「僕のライバルはもしかしたらヘータくんなのかな」 

 「な、な、なな、何を、ばば、バカなことを」

 「ははは。冗談だよ」

 「はうっ……!」


 くっ! なんであたしがこんなに動揺しなくちゃいけないんだっ。


 「いっ、いひゃい、いひゃい。ほっへたお、ひっはうら」

 「マナ、どうしたの?」

 「はっ」


 いけない。無意識にヘータのほっぺたを力いっぱいつまみあげてた。


 「何するんだよっ!」

 「うるさい」


 カインリルはそう言って睨み合うあたしとヘータの様子を余裕の表情で見ていて、それに気づいたあたしは思わず顔が赤くなって、慌てて言った。


 「とっ、とにかく、再挑戦は受けるけどそれまでは金輪際馴れ馴れしい口を聞くのは禁止だっ。分かったっ!?」

 「分かったよ。それから、今回のことは本当にありがとう。本当ならアズレント家から正式に何か謝意を示さないといけないところだと思うんだけど、マナは多分そういうのは好きじゃないよね」

 「まあね。どさくさに紛れてハンセタールへご招待とか言われてもごめんだわ」

 「だから、何が欲しいかはあなたに任せる。今決めなくていいから、いつか本当に欲しいものが決まったら言ってくれ。アズレント家次期当主の名に賭けて、必ず約束は守るよ」

 「いいの、そんなこと言って。あたしが何を要求するか分からないわよ」

 「ふふふ。マナのことだからきちんと僕の足元を見てぎりぎりのところを見極めてくると信じてるよ」

 「それ、全然、褒めてない」


 あたしがそう言うと、カインリルは笑って首元から何かを取り外してあたしの手に握らせた。


 「こっ、これって」

 「今の約束の証拠にそれを預けておくよ」


 カインリルに渡されたのは魔力結晶のペンダントだった。魔力結晶というのは非常に高価な宝石で、何よりの特徴は特殊な工程を経ることで結晶の中に魔力を封じることができ、それによって身分証明として用いることができるのだ。


 つまり、カインリルの魔力が封じられた魔力結晶を持っているということは、この結晶を使えばあたしがカインリルになりすますことができるということだ。


 「これはさすがにちょっと。あたしはそんな大したことをしたわけじゃないし……」

 「いや、大したことだよ。あなたとその子猫がいなかったら僕は今頃生きてなかったかもしれない」

 「ヘータが?」

 「うん。その子猫は……、いや、何でもない。じゃあ、また。次会う時まで」

 「……、うん。分かった」


 そう言ってカインリルは去っていった。最後の最後までイケメンのマスクを外すことなく、最終日には見送りにたくさんの学生が校庭を埋め尽くして、それににこやかに手を振っていた。


 市警に拘束されたノルフレドは1週間に渡る取り調べの後、ハンセタール王国の当局の方に身柄が受け渡されることになり、秘密裏に護送されていった。しかしその後、ハンセタール王国当局に身柄が渡されて国境を超えた後に隙を見て自殺したと報道で知った。


 ノルフレドは一貫して黙秘を貫いていて取り調べでは背後関係の確認は全くできなかったが、死亡によってそれが完全に闇に葬られてしまった格好だ。


 カルネの監視でも共犯の存在は確認されてはいなかったのだが、初めての異国の地でこんな大胆な犯行が本当に単独で可能だったのか、疑問が残る。


 そして、せっかくの炊きあがったばかりのご飯になぜバターが入っているのかについても、疑問が残る。


 「マナ、どういうことだ、これは?」

 「どう? いつも味気ないのばかり食べてたから、たまに味を変えると新鮮で美味しいでしょ」

 「ふざけるなっ。お前なんかこうしてやるっ」

 「ちょっと、腐った豆なんか掛けないでよっ。ああっ、もう、信じられない」

 「ハッ。たまには味でも変えて見ればいいんだ」

 「人が親切でやってあげたのに、ひどい」

 「自業自得だろ」

 「何よ!」

 「何だと?」


 それは再び戻ってきたクジョー家の平穏な日常の1コマであった。


 「よっし。分かった。表に出ろ」

 「望むところだわ」


親善試合<後編>【終】

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