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俺は猫×あたしは魔女  作者: 七師
親善試合<後編>
72/130

22

 「ヒヒーーンッ」


 その直後、悲鳴のような鳴き声と共にピッタヴは身体を捩らせた。ペガサスのお腹に俺が貼り付いたのだ。


 マナが放った魔法は飛行魔法の簡易版で俺をピッタヴに向けて弾き飛ばすだけの魔法だ。細かい制御がない分発動が速い上に、俺の身体の質量が小さいから小規模な魔法でも身体にかかる加速は大きくなる。だから、カインリルの攻撃魔法よりも先に発動してピッタヴに貼り付くことができたのだ。


 そして、ピッタヴにはまだ前回の激痛針の記憶が生々しく残っていた。俺が貼り付いた時、反射的にその痛みを思い出して身体を捩らせたのだが、騎乗していたカインリルは不意の揺れに集中力を切らして印が解けてしまった。


 「し、しまっ」

 「<発火(レムス)>、<発火(レムス)>、<発火(レムス)>、<発火(レムス)>ッ!!」


 自由落下を続けるマナは、しかしその隙に飛行魔法を使うことはせず、4連撃を放ってカインリルに追い打ちを掛けた。


 それは前回の惨劇を思い起こさせる一瞬だった。観客も審判も固唾を飲んでその成り行きを地上から見守り、カインリルは自身の反応速度の限界を超えた速度でほとんど無意識に防御魔法を発動しようとしたその瞬間、カインリルの身体が吹っ飛んだ。


 「物理でぶん殴るって確か言ったわよね」


 その直後に主審によって試合終了のコールが入り、落下するカインリルは地上に墜落する直前にスタッフが放った魔法で無事受け止められた。


 あの瞬間、マナは4連撃をフェイクにして発動させず、実際には逆の手で飛行魔法を発動させて急加速でカインリルに接近して、拳でぶん殴ったのだ。しかし、マナが放った魔法はそれだけではなかった。そのことに皆が気づいたのは、マナが地上に降りてきた後のことだった。


 試合に勝ったあたしは、ノルフレドの前に降り立った。


 「ノルフレド先生、その手にあったものについて説明していただけますか?」


 あたしのその言葉に、観客席がざわつき始めた。それもそのはずだ。ノルフレドは木属性の魔法で全身を縛り上げられていたのだ。


 「こんなことをしてなんのつもりだ!」

 「あたしは、その手に持っていたものが何なのかと聞いているんです。それはカインリルの鎧に仕掛けられたものの起爆装置ですね」


 そう言いながら、あたしはノルフレドの手の側に落ちていたものを拾い上げた。それは手のひら大の紙の上に魔法陣が書き込まれたいわゆる呪符や護符などと呼ばれるものだった。


 「何を言ってるんだ。それはカインリルを助けようとしたんだ。こんなことをして、カインリルにもしものことが起こっていたらあなたの責任になっていたんだぞ」

 「ミレイ」


 あたしがミレイの名を呼ぶと、彼女は手にもう一枚の呪符を持ってあたしの側まで出てきた。


 「これは試合前にカインリルの鎧を調べさせてもらった時に見つけたものです。火と土の属性で爆発が起きる魔法が記述されていて、さらに発動後に呪符が燃え尽きるように工夫されています。後に証拠を残さないための工夫でしょう。調べればそちらの呪符がこの呪符の起爆装置になってることはすぐに分かるはずです」

 「っ。そんなことは嘘ばかりだ。僕は何もやってない。大体、その呪符がカインリルの鎧で本当に見つかったものかも怪しいし、それを僕が仕掛けたという証拠もないじゃないか」

 「それが僕の鎧で発見されたことは僕が保証しますよ。僕も一緒に確認しましたから」

 「カッ、カインリル……」


 ミレイの解説の間に起き上がったカインリルが、いつの間にかあたしの隣に立っていてノルフレドを見下ろしていた。


 「それに、これを鎧に仕掛けている一部始終はこの魔晶石にすべて記録されているんですよ。気づきませんでしたか? 後ろの方でビデオカメラが回っていたことに」


 あたしが切り札の魔晶石、ヘータが撮影したビデオカメラの記録メディアをベンチから戻ってきた子猫から受け取って掲げると、ノルフレドはようやく観念したのか、顔を俯けたまま動かなくなってしまった。


 観客たちは最初、何が起きているのか分からず、あっけにとられていたが、徐々に疎らな歓声が上がり始め、またたく間にそれは大きなうねりになって闘技場を飲み込んで行った。


 ハンセタール王国の使節の学生たちは引率の先生が引き起こした予想外の事件にあっけにとられて言葉もなく、ただ戸惑いの表情を浮かべたまま身動きも取らなかった。カインリルはそんな同門の学生たちの元へと詳しい事情を説明しに行った。


 その後、トルン市警の警官が到着してノルフレドの身柄を拘束し、あたしとカインリルとミレイは事情聴取のためにしばらく学園の一室で警官の人と話をすることになった。ようやく全てが終わった時にはもう夜になっていた。

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